我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

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遭遇と開戦

チェスの兵隊殲滅を決意した俺たちは、俺たちのいるヒルド大陸に向かっていたアランたちと合流し、そこでこの物語の鍵となる少年、ギンタとであった。知ってはいたが、やはり実在の人物として正面から話しをするのとは違う。いまどき珍しい、この竹を割ったような少年は、話していてとても好感がもてた。

 

 ことの事情を説明し、チェスの所業を知ったギンタは激しい怒りを覚え、快く俺たちの協力を受けてくれた。

 

その時、生き残ったルベリアの構成員が動きのあるチェスを発見、場所は以前まで俺とナナシが探っていたヴェストリだった。ナナシの持つ転移系ディメンジョンARM“アンダータ”の範囲内だったこともあり、メルのメンバーと、『龍の紡ぐ絆』からは俺、ヴァーリ、イッセー、夕麻、イリナ、朱乃ちゃん、そして皆の反対を推してアーシアが向かうことになった。

 

「ほな行くで!ディメンジョンARM“アンダータ”発動!このメンバーをヴェストリへ!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

向かった先ヴェストリは、以前来た時は水と自然に溢れる素晴らしい村だった。それが今は、家々はメチャクチャに壊され、所々に煙が上がり、悲惨な光景が広がっていた。

 

アーシア、スノウ姫、付き人の犬エドが怪我人の手当て、イッセー、ジャックが壊された街の復興のため残り、俺たちはチェス討伐のために地底湖へと向かった。

 

地底湖で遭遇したチェスの兵隊の『ビショップ』、筋肉達磨のバカっぽいオルコとかいうやつはナナシが、額に目がある鬼のようなギロムとかいうチビはギンタがバッボバージョン③『ガーゴイル』によって文字どおりぶっ飛ばされた。そして俺たちはと言うと………

 

「よぉ、お前さんがファントムかい?」

 

地底湖の奥部、帆船の残骸が鎮座する海へと続く洞窟の入り江で、包帯で被われた左腕を持つ男と対峙していた。

 

「………さぁ、なんの事かな?」

 

「惚けるなよ。てめぇのその包帯まみれの腕から胸糞悪い魔力をビンビン感じるんだよ。この世界でそれほどの邪悪な魔力を持ってるやつとくりゃ、大体想像はつくわな。」

 

「………………ほぅ」

 

その瞬間、俺は鏡のようなものに閉じ込められた。俺は神器を展開し、魔力を爆発させ鏡を突き破る。

 

「へぇ、やるね。あと二秒遅かったら死んでたよ」

 

「。この程度で俺が殺れると思ったか?

 

グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

俺はグルメ細胞の力を開放し龍の咆哮を上げる。やつは今俺のグルメ細胞の悪魔を見ていることだろう。

 

俺の咆哮によって地底湖は大きく揺れ、周囲には亀裂が入り、天井はがらがらと崩れ出す。やつの頬を一筋の汗が流れたのを俺は見逃さなかった。

 

「別にこの場で始末してやることもできるが、てめぇは()()()()()()で始末してやる。やるんだろ?ウォーゲームとやらを」

 

「……………………」

 

奴は何も言わずにこちらを見据えている。その顔は先程の余裕綽々のニヤケ顔ではなく、何処までも冷淡で無機質な、能面のような顔だった。

 

「お前らは俺の仲間に手を出した。お前らは踏んじまったのさ、()()()をな。お前らには俺たちの用意しえる最高の恐怖を、苦痛を、屈辱を、絶望を、敗北を味会わせてやるよ。クククク……」

 

崩れ行く地底湖の中、俺は転移魔方陣を展開しやつと対峙したまま脱出を図る。いやはや、怒りすぎると逆に笑けてくるのって本当なのな

 

「………君は、一体何者だい?」

 

「『龍の紡ぐ絆(ドラゴン・トライブ)』総司令官、雷門竜也。人は俺を『魔源覇王』と呼ぶ。良く覚えておきな。てめぇらを葬る男の名だ。クハハハハハ……クァーーーハハハハハハハハハハハハーーハーーハーーーー!!!」

 

俺は怒りの余り込み上げた笑い声を上げ、魔方陣の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……兄さん、あの時のノリ、完全に悪役のそれだったぞ。」

 

「うふふ、そんなあなたも素敵でしたわ♥」

 

「……言うな。俺も変なテンションだったんだよ。」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ヴェストリの村に戻った俺たちは、チェスの兵隊討伐と家の復興で希望を取り戻したヴェストリの人々に便乗し、俺たちも飲めや歌えやの大騒ぎである。

 

「ほら!野菜のテンプラが揚がったぞ!野菜スープにサラダ、野菜グリルに特製スイーツもまだまだあるぞ!みんな好きなだけ食べろ!」

 

『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』』』

 

「すげぇ!なんだこりゃ!?メチャクチャうめぇ!」

 

「こんなに美味い野菜料理は初めてだ!」

 

俺はジャックの作った作物を使った料理を人々に振る舞っていた。ジャックの耕した畑……畑っつうかもはやあれは森になっていた。ジャックの修行を担当したイッセー曰く、

 

「いやー、なんかあいつ見てると俺にも弟分ができたみたいに思えてさ。つい振り切っちまったぜ♪」

 

とのことだ。

 

「はーい、皆さーん。ちゃんと全員分ありますから、並んでくださーい」

 

『『『はーーーーい!!』』』

 

「ふふっ、はいどうぞ。」

 

「わぁー!ありがとう聖女さまー!」

 

「ふふふ、どういたしまして」

 

アーシアには料理の配膳をして貰っている。その癒しの力で献身的な治療を行ったアーシアは、ヴェストリの人々から聖女様と崇められていた。

 

「このジュースもっとほちぃ!」

 

「姫に酒を飲ましたのはだれじゃあーーーっ!!?」

「ぅおらぁ!竜也ぁ!もっと酒注がんかい!」

 

「朱乃ちゃんに酒を飲ましたのはだれじゃあーーーっ!!?」

 

そんなこんなで、宴会も大いに盛り上がっていたその時、

「っ!?竜やん!ギンタ!月を見てみい!!」

 

ナナシに言われて空を見上げると、月の表面が鏡のように変化していた。そしてその中に、三角の帽子を被った道化師のような男が姿を表した。

 

「……キレ目の三角帽子…ゼノヴィアの証言と一致する。やつがペタだ……!」

 

「………ほぅ、あいつか」

 

ナナシの目が獲物を狙う野獣のものに変わる。

 

『メルヘヴン全土に存在する……

我等チェスの兵隊に敵意を抱く全ての者達に告ぐ……!!

再びウォーゲームを始めようではないか!!』

 

その日の夜、メルヘヴン全土に、ウォーゲームの開戦が宣言された。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

2日後、俺たちは開戦の場に宣言されたレギンレイヴ城に集結していた。

 

「ようガイラ、久しぶりだな」

 

「アラン!!生きていたのか!?」

 

アランが声を掛けたのは、白いヒゲを蓄え、しかしその身からは未だ衰えない生命力の溢れる老人と、細身ながら前者に負けないかそれ以上の力を感じさせられる、傍らに妖精の女の子を連れた黒髪の青年だった。

 

「色々あってな、今はこいつのとこで世話になってる」

「『龍の紡ぐ絆』総司令官、雷門竜也だ。あんたらがクロスガードのガイラとアルヴィスだな?アランから話は聞いている。ウォーゲームには俺たち『龍の紡ぐ絆』も参加させてもらう。宜しくたのむ」

 

「ああ、ともに戦う仲間は多いに越したことはない」

 

「俺もアランさんから話は聞いている。アランさんはお前たちを高く評価していた。十分に期待できるだろう」

 

俺たちは握手を交わす。すると、レギンレイヴ城から正午の鐘が鳴り、城の窓から囚われのレギンレイヴ姫が現れた。

 

「お集まり頂いた皆様、ようこそレギンレイヴへ。心より歓迎いたします。」

 

「今より、ウォーゲームを開催致します。

その前に………このゲームをするのに相応しき者かテストを行います。参加希望者はその台座に置かれている、マジックストーンを手にしてください。」

 

俺たちはそれぞれ、台座に置かれたマジックストーンを手に取る。

 

「あ、あのぉ……わ、私は取れなくてもよろしいですよね?」

 

スノウ姫の付き人(犬)のエドがおそるおそる聞いてくる。

 

「いいんじゃねぇの?ぶっちゃけ戦力外だし。100パー死ぬよ?」

 

「あ、はい。じゃ、じゃあ私は見てます。」

 

エドはそう言ってあっという間にリング外へと下がって行った。早っ

 

「テスト、開始」

 

 

□□□□□□□□□□◆

 

 

 

レギンレイヴ姫が開始を宣言すると同時に、マジックストーンが光り、俺は真っ暗な空間に飛ばされた。

テスト開始の宣言とともに世界が暗転した。どうやらあのマジックストーンはディメンジョンARMだったようだ。その中で現れたのは、両手に巨大な鍵爪を着けた仮面の男。恐らくこいつがチェスの兵隊の【ポーン】だろう。

 

「死ねッ!!」

 

「やだね」

 

向かって来たポーン兵に蹴りを叩き込み沈める。

 

これがテストだと言うなら嘗められたものだ。魔法やARMを使うまでもなかった。するともとの場所に転移したのでマジであれがテストだったのだろう。

 

『龍の紡ぐ絆』はもちろん、メルのメンバーも楽勝だった。しかし、クロスガードはアルヴィスを除き全滅。生き残ったガイラは、運悪く一人だけ混ざっていた【ナイト】にやられたらしい。アーシアが急いで向かったが、既に全員事切れていた。アーシアは涙を流していたが、言っちゃ悪いが【ポーン】に敗ける強さで挑もうとする方が悪い。せめて敵は取ってやろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

翌日、ついにウォーゲームが開始された。チームのキャプテンだが、多数決で俺になった。最初の相手はロキドンファミリー。対するこちらからは、実力を見ておきたいということで、アルヴィス、ジャック、ギンタが出た。

結果はアルヴィスとギンタが勝利。ジャックは……うん、不幸な事故だった。あの後、男性陣が少しジャックに優しくなった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ウォーゲーム2NDステージ。砂漠フィールドの戦いとなった。この日、ギンタとジャックは昨日の反省点を踏まえ修行のため不参加。

 

一戦目、スノウ姫VS【ルーク】のフーギ。スノウ姫が辛くも勝利を納めた。

 

二戦目、ナナシVS【ルーク】ロコ。実力ではナナシが勝っていたが、油断してレディーファーストなんぞ宣ったせいで相手のダークネスARMに引っ掛かり、何とか相手のARMを破壊するも敗北となった。

 

三戦目、ドロシーVS【ビショップ】マイラ。マイラは包み込んだものを破壊するスライムのガーディアン『バキュラ』を繰り出しドロシーのガーディアン『リングアーマー』を破壊する。しかし、ドロシーの繰り出したガーディアン、『ルインドック』のトトによってバキュラは破壊。マイラは降伏しようとするが、トトによって食い殺された。

 

姫さんは殺すまでもなかったのにと非難したが、これが遊びではなく戦争なのだということをナナシに言われ押し黙った。

 

「つ、つかれたぁ~~っ」

 

「お、鬼だよっ。あのオヤジとヴァーリさん……」

 

するとそこに、ちょうど修行を終えたギンタとジャックが戻って来た。

 

「どうよ二人とも、あいつらは?」

 

俺は修行の監督役をしたガイラとヴァーリに訪ねる。

 

「うむ、なかなか育てるのが面白いぞ、あやつら。見よ」

 

そう言ってガイラはギンタとジャックに向けて石を投げつける。するとギンタは顔を反らして避け、ジャックは裏拳で破壊しもんどり打っていた。………アホだ

 

「兄さんの言う通り、あやつらはなかなか見所がある。天才ってやつだ。もし俺たちと同い年なら、スペックはイッセー並かそれ以上だろう。」

 

「げっ、マジかよ……」

 

幼なじみのギンタに対する評価に軽くショックを受けるイッセー。まあ俺もこいつも元は凡才の類だからな。

 

「シハハハハッ、まぁそう気を落とすヌボァッ!!?」

 

突然ヴァーリが吹っ飛ぶ。見るとドロシーがヴァーリに抱きついていた。

 

「やっぱりヴァーリーーンっ♥」

 

『『『ヴァーリン!!!?』』』

 

ドロシーのヴァーリの呼び方に驚愕する一同。てか何すかその変わり身

 

「そ、その呼び方は止めてくれと言っただろドロシー………」

 

「いいじゃないのー。それよりヴァーリーン♥私達勝ったよ!スゴいでしょ?」

 

「ブェッフォ!…別に驚きはしないさ。君の実力を考えれば当然のことだ。」

 

「きゃっ♥信じられちゃった♥」

 

ヴァーリからの評価に両手を頬に当て体をくねくね動かすドロシーに言葉を失う一同。つーかお前いつの間にフラグ立てたん?

 

「……………さっきまでの人間とは考えられへん」

 

「女はこえーな……」

 

ナナシとイッセーの呟きに激しく同意する男子一同。するとそこへ………

 

「……ドロシーさん。ヴァーリさんは修行を終えて疲れているんです。余り引っ付かないで下さい。」

 

不機嫌オーラ全開の白音ちゃん登場である。

 

「あらあら、なぁにおチビちゃん?男の人に取ってはこういうコトも癒しになるのよ?お子ちゃまにはわからないでしょうけど」

 

ビキッ

 

「無駄に年喰ってると言うことが違いますね、オバサン」

 

ブチッ

 

「んふふふ~~♪」

 

「フシャァァァァァァ!!」

 

バチバチバチバチバチバチッッ!!

 

『『ヒィィィィィィッッ!!』』

 

今まさに、女の火花が散っていた。

 

「ギンタ、ジャック、よ~く見とけよ。あれが修羅場だ」

 

「こ、こぇ~……」

 

「マジで恐いっす!」

 

イッセーがギンタとジャックになんか教えていた。そして二人の間に挟まれているヴァーリの顔は青かった。あとで労ってやろう。

 

 

 

 

 


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