我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

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銀の少年と緑の少年そして惨劇

ヴァーリside

「へぇー、じゃあヴァーリさんも違う世界から来たのかー。」

 

「そう言うことだ。ま、俺たちは異世界と言っても()()の連中だがな」

 

「ちょっとー君たちー、おしゃべりはいいから早く来なさいよー」

 

現在俺は、散策中偶然出会った俺たちと同様に異世界から来た少年ギンタと、黒い服にとんがり帽子といかにも『魔女』という格好をした桃色の髪の女、ドロシーと共に、伝説のARM『バッボ』が眠るという洞窟を進んでいる。

ドロシーはこのバッボを手に入れるためにやって来たそうで、それを聞いたギンタがすごくワクワクした目でついて行きたいと言い出し、放っておくのも忍びないので俺も着いてきたのだ。

 

「おっと、ストップだ二人とも」

 

「え?」

 

「どーしたの?」

 

呼び止められキョトンとする二人

 

「トラップだ。体重に反応して作動するタイプだな」

 

「すっげぇ!そんなことわかるんだ!」

 

「へぇ、やるじゃないアンタ。じゃ、ここは私が……」

 

「いや、それには及ばん。見てな」

 

ドロシーの言葉を遮り前に出た俺は大きく深呼吸し、そして吐き出した。

 

「『ツンドラブレス』」

 

吐き出した息は超低温の吹雪となり、床一面を凍結する。

 

「うおぉぉぉすっげぇ!!!」

 

「なっ!?(魔力の量も質も段違い。コイツ、一体……)」

 

「これで罠も作動しないだろ。ほれ、行くぞ。足元気をつけろよ」

 

「へへっ、ダイジョブダイジョブってわぁ!」

 

「ああっこら!」

 

言ってるそばからギンタがスッ転ぶ。俺は床を滑るように移動しギンタを支える。こんなこともあろうかと靴裏にスパイクを内蔵しているのだ。

「全く、言わんこっちゃない」

 

「なはは~悪ぃ」

 

やれやれ、引率も楽じゃないな

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

イッセーside

 

「いやぁー!美味い!」

 

「ほんと!なにこれすっごい美味しい!」

 

「こんなに美味しい野菜始めてかも……」

 

現在俺たちは偶然立ち寄った農家の親子の家で取れたての野菜をご馳走になってる。パッと見ウリのような見た目だが、そのまま食べられて生野菜特有の青臭さも感じさせず、カリッとした食感とみずみずしさがまた食欲をそそり……まぁ、何が言いたいか具体的に言わして貰うとすんげぇ美味い!

「当然っす!オイラと母ちゃんが丹精込めて作った野菜っすから。」

 

そう言うのは眉が太くて何となくサルっぽい顔をした俺たちで言うところの中学生ぐらいの少年、ジャックだ。

 

「ハハハッ、いい食べっプリだねぇ。ほら、たんとお食べ」

 

そう言ってジャックの母親であるおばちゃんは野菜を盛り付けた皿をテーブルに乗せる。

 

「あっご馳走でーす!」

 

「あ、もうイリナったら」

 

「悪いなおばちゃん、こんなにご馳走になっちまって」

 

「いいんだよ、腰を痛めて動けなくなってたところを助けてもらったんだから。これくらい当然さ」

そう言っておばちゃんはニカッと笑う。なんとも気持ちのいいオカンだ。

 

アォォオォォオオン

 

 

「!!!」

 

狼の遠吠えが聞こえたかと思うと、ジャックは目のいろを変えてドアを開けた。そこには鋭い爪の着いた獣の手形が入った紙が釘で打ち付けられていた。

 

「ジャック?」

 

「まただ……予告状っス………っ!」

 

聞けば、一年ほど前から「ルーガルーブラザーズ」を名乗る人狼の盗賊兄弟がジャックの家の野菜に味をしめて、度々野菜を食い荒らしているのだとか。

ジャックの父親は既に他界しており、その形見だというARMをバカにされ、自身も意気地無しだと笑われて、目の前で丹精込めて作った野菜を食い荒らされる様を見せつけられて来たと言うジャックの顔は、悲痛なものだった。

 

「………なあ、ジャック。お前、悔しいか?」

 

「………悔しいっス、悔しいに決まってるじゃないっスか!!!」

 

声を荒げ、ジャックは立ち上がる。

「ふーん、ならなんで今まで立ち向かおうとしなかったんだ?」

 

「何度も戦おうとしたっス!けど…けど!!!オイラ、弱いから……怖くて、足がすくんで動けなかったっス………」

 

顔を伏せ、奥歯を食い縛り、ジャックは漏らす。

「じゃあどうする?ずっと意気地無しって笑われて続けるのか?そのルーガルーブラザーズとやらに」

 

「ちょっ、イッセー君!いくらなんでも言いす「ちょっと黙っててねイリナ」ムグゥ!?」

 

止めに入ろうとしたイリナを夕麻ちゃんが野菜を口に突っ込んで黙らせる。

 

「……嫌だ、嫌っスよそんなの!!!オイラ……オイラ、立ち向かいたい……意気地無しを捨てたいっス!!!」

ジャックは涙を流して恐らくは心からであろう叫びを上げる。

 

「………にひっ。よっしゃ、合格だ」

 

「へ?」

 

ジャックは不意をつかれてそんなまの抜けた声を出す。

 

「なあ、ジャック。俺らの故郷に一宿一飯の恩義っつう言葉があってな。えー、一晩泊めてもらったとか、飯を食わせてもらったとか、そんな小さなことでもきっちり恩は返すとか…まぁ、そんな感じの意味……だったけか?」

 

「いや、オイラに聞いてどうするんスか」

 

なんだろう。何となくジャックの声はツッコミがしっくりくる気がする。

 

「ま、とにかくだ……」

 

俺は椅子から立ち上がり、ジャックの肩を叩く。

 

「俺が力をかしてやる。お前に勇気を着けてやるよ、ジャック。」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『と、まぁそんなわけでバッボはギンタが所持することになり、ドロシーは興味を失ったのか去って行った。』

 

『で、俺が一夜漬けで鍛えてやっていざジャックが飛び出したところ、そのギンタだったってわけだ。人狼どもは多少危なっかしくはあったがギンタとジャックが倒したんだが、その時連中妙なやつと話してたんだ。捕まえようと思ったが、言うだけ言って消えちまった。』

 

「で、今はアランが合流して修業中と」

 

『おう、凍り付けの城でスノウ姫を救出した後な』

 

俺は現在、ナナシととある港の宿屋で定期通信を受けていた。いや……なんなんだろうかこの巡り合わせは。何か見えない力でも働いてるんじゃないか?

 

「しっかし向こうさんもえらい込み入ったことになっとんのー」

 

通信機を覗き込みナナシが割り込む。

 

「だな、それなりに時間もたったし、そろそろルベリアに招集しようか。」

 

「せやな」

 

『陛下!陛下っ!!』

すると突然、ルベリアに待機させていたゼノヴィアから緊急の通信が入った。

 

「ん?どうした一体」

 

『ル、ルベリアが…ルベリアが……』

 

「ルベリア?……ッッ!!!?」

 

その時、俺はすっかり忘れていた

 

「何で……何で……俺はいつも……ッ!」

 

「なっなんや!?どないしてん竜やん!ルベリアがどうした!?」

 

「……チェスどもだ。やつら俺達がいない間にルベリアをッッ!!」

 

「なっ!?」

 

チェスの駒による、ルベリアの虐殺

 

 

 

◆◆◆◆◆◆□◆◆

 

sideイッセー

 

「な…んだよ……これ……」

 

アニキからの緊急招集を受け、ルベリアに戻った俺たちだったが、目の前に広がるのは凄惨な光景だった。血濡れになって事切れているルベリアの人たち。その亡骸を抱き締め咽び泣く生き残った人々。それはまさに地獄絵図だった。

 

「……チェスの兵隊の襲撃だ」

 

アニキの言葉にみんなの視線が集まる。アニキの見据える先には、ドクロと十字架の組合わさったマークの書かれたカードが、柱に短剣で突き立てられていた。

 

「へ、へい…か……」

「っ!?お前らっ!」

 

声のした方を見ると、ルベリアに残り、留守を任されていたゼノヴィアが、ぼろぼろの身体を引きずりながらやって来た。翼はズタズタになり、身体の至るところから流血している。その様を見たアニキが駆け寄る。

 

「しっかりしろ!何があった!?」

 

アニキがゼノヴィアの身体を抱き抱え訪ねる。

 

「突然チェスの駒のペタと名乗る男がやって来て……「お前たちはもう用済みだ」と、ルベリアの人々を……我々も、応戦するも歯が立たず……申し訳……ありませ……」

 

そこまで言い、ゼノヴィアは意識を失った。それを見てイリナの顔色が青くなる。

 

「ゼノヴィア!そんなっ!?」

 

「大丈夫、気を失っただけだ。今アーシアが全力で治療している。手の空いているやつは全員救護に当たれ!まだ息のあるやつを一人でも多く助けるんだ!!!」

 

アニキの言葉に俺たちは全員動き出した。

 

 

畜生っ何だってこんなことにッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

竜也side

 

結果として、助かったのは全体の4割、他はもう手遅れだった。俺たちの目の前には、散ったルベリアの人々の墓が広がっていた。

 

「なぜだ……なぜだチェスの兵隊ぁ!?この子が一体何をしたぁ!!」

ベットの上で目を閉じたまま動かないピルンの手を握り、彼女を妹のように可愛がっていたゼノヴィアが、包帯に血が滲むのも構わずに叫び声を上げる。アーシアの神器である程度は回復したがそれでも重症だ。

 

戦う力のないピルンは、チェスの駒の襲撃でゼノヴィアに守られていたが、彼女一人で全体を守りながら戦うのは至難の事で、それでも敵が去るまて気力で耐え続けたが、最後の最後で打ち捨てられ、その際彼女も敵によって致命傷を受けてしまったのだ。

 

なんとか一命をとりとめたが、眠ったまま目を覚まさないでいた。治療に当たったヴァーリ曰く、目を覚ますかは五分とのことだ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……わたしにもっと力があれば……!」

 

隣のベットでは、アーシアが涙を流し救えなかった人々への謝罪を繰り返している。アーシアは一人でも多く救うために力を使い果たし、ついに倒れてしまったのだ。彼女はそれが何より許せないのだろう。優しい彼女だからこそ……

 

「アーシアは悪くない。現に、アーシアのおかげで多くの人の命が救われた。」

 

「せや、アーシアちゃんはワイらの恩人や。悪いのは全部ーーーーチェスの駒のクソや。」

 

 

そう言ってナナシはチェスの紋章のカードを握り潰す。バンダナから覗くその瞳は怒りに燃えていた。

 

「この落とし前はきっちりつけたんで、チェスの駒のペタさんとやらよぉ。絶対に見つけ出して殺ったるわ」

 

「…………なぁ、ナナシよぉ。口挟んじまって悪いがよ。俺ぁ大事な仲間を傷つけられた。仲良くしてた女の子もこの様だ………俺は奴等を絶対にせねぇ」

 

それにこれは俺の責任でもある。俺は知っていた。この展開を知っていたんだ……なのに忘れてた。そのせいで多くの命が失われた。救えたかも知れない命を……

 

 ああそうさ、こんなもんはただの自己満足で、幼稚な善意と罪悪感からなる偽善にすぎない。俺も俺達も本来この世界には存在しない。俺達がこの世界に介入してどうなるか。予定調和とやらが働いて、なにも変わらないか、ひょっとしたらより悪いほうに傾いてしまうかもしれない。だが、それでも俺は

 

「……悪いみんな、帰るのはちぃと先になりそうだ」

 

「構わないさ……俺たちもみんな同じ気持ちだ」

 

俺の声に答えるヴァーリ、そしてみんなの顔は同じだった。ほんっと、俺ってやつはどうしようもなく恵まれてる。

 

 ああそうとも、何が正しいだ間違いだの下らん問答をする気はない。俺は俺を支えてくれる大切なもののためにこの力を振るう。

 

「ふっ、そうかい……

 

『龍の紡ぐ絆』が司令官、雷門竜也が宣言する!『チェスの駒』は我々の“敵”だ!還付なきまでに撲滅せよぉ!!!」

 

『『『おおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!』』』

 覚悟しやがれチェスの兵隊、そして世界の悪意とやらよ。てめえらは龍の尾っぽを踏んだ

 


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