銀魂 真選組の新隊員   作:残月

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本当は一話完結にするつもりでしたが長くなったので前後編にしました。


便器を磨く時は心も磨くべし 前編

 

 

 

 

真選組屯所内である意味重大な発表が行われていた。本来なら些末的な話であり、社会人であるならば一度は経験するであろう当然の業務。

 

 

「えー、それでは……今週の掃除当番を決める。三番隊、道場。二番隊、台所。五番隊、パトカー。一番隊、厠」

 

 

土方から告げられた掃除当番。交代制で行われる掃除当番にラッキーと思う者も居れば、厠担当で露骨に嫌な顔をする者に分かれた。

 

何故、公務員たる真選組屯所内で隊士達が掃除を交代制でしているかと言われれば屯所を管理したり、掃除する為の作業員が集まらなかったからである。普段から素行が悪く、チンピラ警察と呼ばれる彼等は検挙率は高いものの市井の評価は著しく低い。アイドルの寺門通にイメージアップを頼んだのもこれに起因するのだが今は置いておこう。

食堂で料理をする料理人や補佐のおばちゃん方はなんとか確保してはいたが彼等の本業は料理であり、掃除や屯所の管理は含まれない。

 

故に真選組隊士達は自ら屯所を掃除しなければならないのだ。要は自業自得である。

 

 

「おえ、最悪だぜ。一週間、便器と顔を会わせなきゃならないのかよ」

「適当に切り上げて、パトロールにでも行こうぜ」

「刹那にでも任せたらどうだ?あの子、掃除好きだろ?」

「馬鹿、局長と副長に殺されるぞ。それにただでさえ俺達はあの子に頼り切りなんだ。これ以上、頼み事をしてどうする」

 

 

トイレ掃除をしながら愚痴る隊士達。隊士の一人が掃除好きな刹那に任せたいと愚痴を溢すが他の隊士が待ったを掛けた。

実は刹那は屯所内の清掃を割としてくれている。本人が女の子で綺麗好きなのもあるが、刹那は腕利とは言えど隊士では一番歳下で歴も浅い。

その事から刹那は率先して雑務をしているのだが、それに隊士達が頼り切りなのもマズいだろと近藤や土方が止めた。

 

 

「馬鹿者!自身で汚した厠を年下の少女に洗わせるとは何事だ!刹那には専用の個室厠を用意させる予定だが、この厠はお前達で清掃しろ!刹那に下の世話を頼むな!」

「その専用の個室厠の件は初耳だが、近藤さんの言う通りだ。自分で汚したなら自分で綺麗にしろ。それと近藤さん、言い方を間違えれば刹那が恥を描くからな」

 

 

若干興奮気味の近藤を土方が諌めながらツッコミを入れた。そんな事もあり、屯所内の清掃は隊士達が自ら執り行う事が本格的に可決された。

お手伝いさんは早めに見繕うと近藤や松平から話はあったが、それまでは隊士達の仕事なのだ。だが、当然ながら嫌なものは嫌なものである。

 

 

「清掃を如何に心得てお思いですか?……こんな話を聞いた事がありますか?治安の悪い犯罪都市でラクガキで汚れた地下鉄を綺麗に清掃した所、以降はラクガキをする者は居なくなり犯罪も減少したのです。わかりますか?不浄な空間は人の魂までも汚すのです。健全な魂は健全なる空間において生まれるのです。身の回りを清潔に保つ、これも真選組の仕事なのですぞ」

「誰だ、アイツ?」

「隈無清蔵さんだよ。この間の隊の再編成で一番隊に入った人だ。えらく綺麗好きで有名なんだぞ」

「いいですか、皆さん。便器を綺麗にする事で心が洗われていくのを実感してください。清掃とは己の心を磨く行為と心得てください」

 

 

厠を清掃する隊士達に指示を出しながら隈無清蔵は周囲を見渡しながら頷いていた。

 

 

「おー、本当だ。心が洗われていくようだぜ。掃除ってのも面白いな清蔵さん」

「隊長、何処を掃除してるんですか?」

 

 

沖田も面白そうに掃除をしているが手に持つブラシは隈無清蔵の額を掃除していた。

 

 

「いや、ハナクソが付いてたから。ほら、取れたぜ」

「それ、ホクロですよ!なに、速攻で厠に流してるんですか!?私のホクロォォォォォォッ!」

 

 

隈無清蔵の額のホクロをブラシでもぎ取った沖田は流れるような作業で隈無清蔵のホクロを水に流してしまった。隈無清蔵が流されていくホクロを何とか回収しようとしたが時すでに遅し。

 

 

「今だ、逃げようぜ!」

「サボりだ、サボり!」

「あ、まだ掃除は終わってませんよ!戻ってください!」

「あーあ。皆、逃げちまったな。どうする清蔵さん?俺達も引き上げるかい?」

 

 

逃げ出した一番隊士達を引き留めようとした隈無清蔵だが全員が逃げてしまい残されたのは沖田と隈無清蔵だけになってしまった。

 

 

「隊長……この厠だけでも見て分かるように真選組屯所内の汚れは酷すぎます。刹那さんが担当して清掃している箇所は見事なまでに綺麗ですが、それ以外の場所は汚れの吹き溜まりと化しています。汚れの吹き溜まりたる厠。その底辺を変えねば真選組屯所は汚れの巣窟のままです。これを打破するにはそう……厠革命です」

 

 

 

◆◇

 

 

 

「ああ?厠の設備を一新して欲しいだぁ?」

「へい。一番隊の隈無清蔵からの提言でして。せめて厠の蛇口をセンサー式にして欲しいとの事でして」

 

 

自室で刀の手入れをしていた土方の所へ赴いた沖田と隈無清蔵は厠の設備の更新を嘆願していた。

 

 

「厠なんぞに予算回すくらいなら新しい武器の導入進めるっての。掃除してーんなら市中の攘夷志士を掃除してこいや」

 

 

くだらないとバッサリと提言を切り捨てる土方。だが隈無清蔵も黙ってはいなかった。

 

 

「そんな考え方では更に刹那さんに嫌われますよ副長!ただでさえ重度のマヨラーで避けられ気味なのに不潔で更に避けられたいんですか!」

「マヨラーとヤニと不潔でトリプルコンボでさぁ。こりゃ土方さんが嫌われんのも無理ねぇや」

「うるせぇ!つーか、なんで刹那に嫌われる事が確定してんだよ!」

 

 

散々な言われようである。この後、隈無清蔵から男性の股間から生まれる菌『タマ菌』が屯所の各所に蔓延している事や捻り式蛇口や扉に付着しているタマ菌の排除の為にもセンサー式の蛇口の導入を進めるべきだと隈無清蔵は叫んだ。

 

 

「大袈裟なんだよ。菌なんざ気にしてたら生活なんか出来るかよ。ったく……くだらね……」

「あ、副長。向こうで焼き芋やとうもろこしを焼いてるんですよ。一緒にどうですか」

 

 

土方がくだらないと吐き捨てながら部屋を出ると焼き芋を片手に山崎が土方の肩に手を置いた。土方の肩に置かれた山崎の手には悍ましい菌の塊が目に映る。

 

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おぼしっ!?」

 

 

あまりの光景にゾワっと背筋に寒気が走りながら土方は山崎を蹴り飛ばす。

 

 

「な、なんだありゃ……」

「副長にも見えましたか……タマ菌が」

 

 

冷や汗を流しながら動揺をしていると隈無清蔵は悟ったかのように呟いた。

 

 

「タマ菌、アレが!?って……おい、屯所の至る所にタマ菌が……なっ!?」

「おーい、トシ。なにやってんだ?早く一緒に食おうぜ。刹那がとうもろこしを色んな味付けで焼いてくれてんだぜ。お、総悟に清蔵さんもどうだい?」

 

 

辺りを見回して屯所内各所に蔓延しているタマ菌に言葉を失い欠けて……本当に言葉を失った。声を掛けられて振り返った先に近藤が居たのだが近藤の全身はタマ菌まみれになっていたのだから。

 

 

「オイィィィィィィィィィィィィッ!?こ、近藤さんのタマ菌の量が半端ねーぞ!?」

「メチャクチャ、ナニを触っていたからでしょう。卵が孵化してタマ菌の感染源となっています。あれはもう近藤さんじゃありません。ただのタマ菌です」

「土方、沖田、隈無。追加のとうもろこし焼けた」

 

 

土方達が近藤のタマ菌の量が桁違いである事に驚いていると近藤の後ろから焼いたとうもろこしを皿に乗せて持ってきたエプロン姿の刹那が歩いてくる。近藤と違いタマ菌が一切付着していない刹那の体からは神々しい光が立ち込めていた。

 

 

「逆に刹那の眩さはなんだ!?なんで後光が差してんだよ!?」

「清潔にしているからでしょう。刹那さんの心の清らかさが外にも出ています。神の如き清らかな波動と神殿並みの高潔さが溢れていますね」

 

 

土方と隈無清蔵の発言にコテンと小首を傾げる刹那。あまりにも対照的な刹那と近藤の姿を見た土方は改めてタマ菌対策をせねばと決意を新たにするのだった。

 


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