銀魂 真選組の新隊員   作:残月

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一度取った皿は戻さないが、そもそも手が出ない

 

 

 

真選組の動乱事件から数週間。隊士達の見直しや再訓練等の揉め事があったが屯所はある程度の落ち着きを見せていた。

そんな中で変化があったとすれば刹那への対応だろう。刹那は幼いながらにも真選組を守る為に奔走し、戦い続けた。その事を不甲斐なく思った近藤以下隊士達は刹那に対して更に過保護になったといえよう。

 

更に変化と言えば柳生家……と言うよりは刹那と九兵衛との仲だろう。

 

 

 

「ほら、刹那ちゃん。これが柳生家に伝わる伝統の……」

「ふむふむ……」

 

 

九兵衛は刹那に柳生家の歴史や剣術を教えに真選組の屯所に出向いたり、刹那を柳生家に招く事が多くなったのだ。当初は「あんな事件に巻き込まれたんだ。メンタルケアをキミ達だけで出来るのか?」と九兵衛が申し出たのだ。当然ながら隊士達は反発したのだが、意外にも近藤が許可を出した。

 

その事は九兵衛自身も驚いたが近藤は刹那が同年代の同性の友達がいない事を危惧していた。万事屋の神楽とも仲は良いが真選組と万事屋は衝突が多い。主に土方と銀時、沖田と神楽で。

それ故に遊ぶ機会も少ないとなれば同年代・同性・侍と条件の揃った九兵衛の申し出を有難いと近藤は頷いたのだ。そして九兵衛も同性の友としてはお妙くらいだと言う事も知っていた。

 

そんな近藤の予想通り九兵衛は刹那を友でありながら妹の様に可愛がっている。侍としても女性としても二人の成長を喜ぶ様は正に父親の目線だったりする。

対する九兵衛も近藤に対する認識が変わりつつあった。出会いもさる事ながらお妙を巡る恋敵として敵視していたが、動乱の際の戦いや思い。そして刹那に対する献身等を見ている内に敵視する様な思いが自然と氷解していた。無論、触れたりすれば反射的に手を出してしまうだろうがそれ以外では特に衝突する様な事もなく普通に会話が成り立つ程度に親しくなっていた。

 

 

「そろそろ夕食の時間だが……九兵衛君と東城さんも一緒にどうだい?隊士達の話じゃ美味い回転寿司があるそうなんだ」

「え、寿司って回るのかい?」

「近藤殿。若は寿司と言えば職人が柳生家に来て握ぎるのが当然と思っています。庶民が食する様な回転寿司なんて知らんのですよ。それに女体に刺身を乗せて食べるなぞ言語道断、許しませんぞ!」

「前半は兎も角、後半は明らかに違うだろ」

「土方、聞こえない」

 

 

近藤が刹那に会いに来ていた九兵衛と付き添いの東城を夕食に回転寿司でも食べに行かないか?と誘うが九兵衛は回転寿司にピンと来ていないし、東城に至っては寿司ではなく女体盛りの話をしていた。土方は刹那の耳を両手で塞ぎながら東城にツッコミを入れた。

東城への教育的指導を済ませた後、近藤、土方、刹那、九兵衛、東城は隊士達の間でも話題となっている回転寿司の店へと赴いた。

 

話題の回転寿司に来たは良いものの店内は不思議な状態になっていた。回転寿司なのに何故か回っているのはかっぱ巻きとドロドロに溶けたパフェだけで他の寿司が回ってこない。しかも店員が接客もせずにタバコを吸うなど態度が悪かった。

 

 

「お登勢?」

「アレは万事屋の一階のスナックのママさんじゃないか?なんで寿司屋に?バイトでもしてるのか?」

「回転寿司とはカッパ巻きしか回さないのか?」

「んな訳あるか。つうかなんでパフェをレーンに乗せてんだよ。溶けてんじゃねーか。冷蔵庫に入れとけや」

 

 

刹那と近藤がカウンターから顔を出すと知り合いである、お登勢がカウンターの中でタバコを吸っていた。何故、ここに居るのだろうと首を傾げる刹那と近藤。その隣では回転寿司が珍しくキョロキョロしている九兵衛に土方がツッコミを入れた。

しかし、カッパ巻きしか食べないわけにもいかず各々が注文して寿司を待つ事に。

 

 

「おい、なんかカレーが回ってきたぞ」

「俺が頼んだのはカレイの縁側だ。縁側のカレーじゃねーよ」

 

 

回ってきたカレーに近藤が気付いて土方がツッコミを入れ

 

 

「海老蔵が回ってる」

「なんで歌舞伎役者がレーンに乗ってくるんだ。俺はエビを頼んだんだぞ」

 

 

刹那の言葉に近藤が違うと告げ

 

 

「若、何やら巨人の星のコミックスが来ましたが」

「僕が頼んだのはサーモンだ。間違っても左門豊作なんて頼んでいない」

 

 

東城の発言に九兵衛が否定をして

 

 

「刹那ちゃん、ダークマターが回ってきたんだが……」

「私が頼んだのはタマゴのお寿司。あれは焼けて炭となった可哀想なタマゴの成れの果て」

 

 

九兵衛の言葉を刹那が拒んだ。

 

 

「おい、なんなんだよ。この寿司屋……」

「なんか気持ち悪いな。もう帰ろうか」

「………あれ」

「どうしたんだい刹那ちゃん、あ」

「銀時殿達ですね。店の制服を着ているようですが逃げていきますな」

 

 

土方と近藤がもう帰ろうかと提案した直後、刹那は窓から店の外を見て、逃げて行く複数の人物を捉え、九兵衛と東城も同様に銀時達を見つけた。

 

 

「もしかして……」

「おおいっ!なんなんだよ、この惨状は!?ちょっと銀さん!店番頼んだよね!?」

 

 

刹那がカウンター奥の調理場に入ると食材を適当に切って捨ててあり、生ゴミの巣窟と化していた。しかも気が付けばカウンターに居た筈のお登勢達の姿も無い。

慌てた様子で食材を抱えたサングラスの男がバタバタと入ってきたが銀時の不在に驚いている様だ。

 

 

「あ、お嬢ちゃん。銀さん見なかった!?俺が食材の調達に行ってる間に店番お願いしてたんだけど!」

「さっき仕事放棄して逃げてた。回ってきたお寿司も……お寿司とは呼べない代物」

「なんだ、また万事屋絡みか?」

「アイツ等……本当にその内、しょっぴいてやろうか……」

「まったく……刹那ちゃんの教育にも悪い事を……」

「若やお妙殿のご友人という事で多めに見ていた部分はありますが……もう庇いきれなくなってきましたな」

 

 

サングラスの男、長谷川から話を聞くと銀時達に手伝ってもらった回転寿司は確かに好評だったのだが寿司ネタが尽きた為に長谷川が食材の調達に外出をして銀時達に店番を頼んだ。しかし、途切れる事の無い客の行列に銀時達は接客は愚か、出した寿司も全てが適当かつ悪意の籠った品を出し続けていたとの事だ。

そして先程、逃げる姿が見えたのは責任は取らんとばかりに脱走したのが容易に想像できた。

 

 

「取り敢えず、記帳しとく」

「そうだな。先日の一件には感謝してるが、それとこれは別の問題だ」

「ったく、こち亀の両さんか」

 

 

刹那は万事屋が過去にしてきた事も含めて閻魔帳に事細かに罪を残している。今回の件も万事屋の罪と借金が加算された事だろう。

 

因みに長谷川は店がめちゃくちゃになった事と評判を落とした事で店長からクビを言い渡された。

近藤や刹那は長谷川に真選組の仕事を紹介しようかと思ったのだが、長谷川は土方の顔を見るなり逃げていき、刹那は首を傾げるのだった。

 


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