銀魂 真選組の新隊員 作:残月
あの騒動から数日。
真選組屯所では松平の飼っていた犬と山崎の葬式が行われていた。我が子の様に思っていた飼い犬のプー助の死に涙する松平と物のついでレベルで開かれている山崎の葬式に当の本人は怒りに震えていた。
『オィィィィィッ!なんで俺の葬式が犬の葬式とセットなんだよ!セットというか、俺の葬式の方がオマケ扱いじゃないかぁぁぁぁぁっ!?』
死んだと思われていた山崎は実は生きていた。河上万斉の手にかかり殺されたかと思われたが、万斉が山崎の決意を目にした事で彼の生き様の行末を知りたいと思い、トドメを躊躇った為に生かされたのだ。そして本来なら早々に連絡を取って無事である事を告げるべきだったのだが怪我をして入院していた為に連絡が取れず今日に至り、自身の葬式が執り行われている事に憤りを感じていた。声を出せば自身の所在が知れてしまう為に心の中で大声でツッコミを入れていた。
「あ、もしもし?ああ、松平のとっつぁんの犬の葬式」
「あー、足痺れてきた」
「……ズズッ」
『俺の葬式と言えや!ジャンプを読むな!なんで俺の遺影にミロが供えられてるんだよ!ミロ好きじゃないから別に!ちゅーか坊主、それ俺のミロだろ!飲むな!』
隊士達は山崎の葬式など興味がない様に電話したり、ジャンプを読んだりしていた。更に坊主に至ってはお経を読みながらお供えのミロをチビチビと飲んでいた。あんまりな状況に山崎のツッコミは止まらない。
「………ぐすっ」
「刹那ちゃん……悲しいのはわかるよ。ちゃんと弔ってあげようね」
『なんで刹那は未亡人風な衣装なんだよ!?あれ用意したの局長か!?それとも松平のとっつぁんか!?明らかに趣味丸出しじゃねーか!それに九兵衛が居るって事は柳生家にも知られてる!?幕府のお抱え一家が葬式に参列してるってヤバいだろ!』
刹那は隊服ではなく未亡人風の喪服を身に纏っていた。髪も纏めて本当に若い未亡人にも見えてしまう。しかも刹那は涙を浮かべているので雰囲気が凄まじい。付き添う様に近藤と九兵衛も居る事で柳生家から花輪が届いているのも見えた。本格的にこのまま出て行くと袋叩きにされた上で切腹を命じられてしまうのは確実だろう。
『あー、ヤベェ。どうしよう?俺の葬式を軽んじてる奴等に天誅を下したいけど、マジな雰囲気を出してる刹那を泣かせたくないし……ああ、どうしたら……』
山崎はおざなりな葬式をしている真選組の隊士達に恨みを晴らしたいという気持ちと刹那を悲しませてる罪悪感に板挟みになっていた。
そんな山崎の心中を無視するかの様に背後からバズーカが放たれた。その爆風で山崎は葬式会場へ放り出される羽目になり、隊士達は「山崎の亡霊だァァァァァァァァッ!?」と騒ぎ始める。
「局中法度……局内でマガジン以外の雑誌を読む事なかれ。重要な会議並びに式典の最中は携帯を切るべし。死して尚、化けて出る事なかれ。刹那を悲しませる事なかれ……テメー等全員、士道不覚悟で切腹だァァァァァァァァッ!」
「「「ふ、副長ォォォォォォォォォォォォッ!」」」
「……土方っ!」
バズーカを持って現れた土方に隊士達は浮き足立ち、刹那は土方に抱き付いた。
「テメー等、切腹だっつてんだろーが!刹那も嫁入り前の娘が男に抱きつくな!」
「ああ、いくらでも腹掻っ捌いてやるよ!」
「お帰りなさい、副長!」
「土方が帰ってくるなら嫁には行かない」
「そうだ!刹那は嫁に出さん!」
「どうかな?刹那ちゃんは僕の親類になるかも知れないぞ?」
抱き付いた刹那を引っぺがそうとする土方に隊士達は土方が復帰するなら、いくらでも切腹すると告げる。近藤も刹那を嫁に出す気はないと叫ぶが九兵衛は意味深な事を口にする。
「土方のタバコの匂い……落ち着く」
「副流煙は本当は体に悪いんだが……だが今日だけは許してやる」
「けしからんぞトシっ!」
「刹那ちゃん、タバコの臭いが移るのは看過出来ないぞ!離れるんだ!」
ぎゅーっと土方を抱きしめる刹那。そんな刹那を近藤や九兵衛は嫉妬からか引き剥がそうとする。二人に引き剥がされそうになっている刹那は山崎と目が合う。刹那は土方と再会できた時と同様に嬉しそうに笑みを浮かべた。
有耶無耶となっていた山崎生存に山崎自身は不満を露わにしていたが、刹那一人だけでも自分の生存を喜んでくれるなら、それで良いと苦笑いを浮かべるのだった。