銀魂 真選組の新隊員 作:残月
「背信行為を平然とやってのける者を仲間にするほど、拙者達は寛容にござらん。また、信義に背く者の下に人は集まらぬ事も拙者達は知っている」
「おい、まさか!?」
銀時と対峙する万斉は列車に向けていた視線を外さず告げた。
銀時は嫌な予感がして、瞬間的に振り返る。その瞬間、列車が向かった先で爆発が起こった。
「哀れな男でござる。己の器量を知った時にはもう遅い。それを悟るのは全てくだけ散った時だけだ」
呆然と振り返っていた銀時に事もなげに続ける万斉。
「晋助は伊東を看破していたでござる。自尊心だけ人一倍強い、己の器も知らぬ自己顕示欲の塊。それを刺激し、利用するのは容易なことでござる。思惑通り、真選組同士争い、戦力を削ってくれたわ」
「テメー等……ハナから真選組潰すつもりで伊東を利用してたってのか」
会話の最中、崩壊し、橋から落ちそうになっている列車に視線を移しながら銀時は万斉に問う。更にトドメを刺そうと何処からか飛んできたヘリコプターが列車に対して機関銃を撃ち始める。
「伊東の反乱を手引きし、協力をする体を装い、仲間割れで消耗した真選組を壊滅するつもりだってのか?」
「あの男らしい死に様でござろう。裏切り者は裏切りによって……死ぬ」
銀時の問いに万斉は伊東の処刑方法を告げるが、銀時はいつものイヤらしい笑みを浮かべていた。
「お前等の企み……いい線、行ってたけどよ……アイツへの見通しが甘かったな」
「なんだと……なっ!?」
銀時の言葉と同時にヘリコプターは突如爆発し、万斉の方へと落下し始めたのだ。
◆◇◆◇
時間を少し巻き戻し、列車が崩壊した直後。
「こ、此処は……」
気を失っていた伊東は目を覚ました直後、状況確認の為に周囲を見渡す。崩壊した列車の中で伊東は血塗れになった何者かの左腕を見付けた。
「そ、そうか……やった!僕は遂に土方に勝ったんだ!ハハハッ……は?」
土方に勝った事を確信し、伊東は高笑いを上げるがそこで自身の異常に気付く。左腕に燃えるように熱い痛みが走ったのだ。咄嗟に視線を自身の左腕に移して……絶望する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
伊東の左腕は二の腕から先が失われていた。血塗れになった左腕は伊東自身の物であった。自覚した事で左腕だけではなく全身の痛みが伊東を襲う。
痛みに悶絶していた伊東は痛みと混乱でのたうち回る事しか出来なかった。その姿は先程や講釈垂れていた時の物とは違い、哀れな姿であった。
そんな伊東に更なる悲劇が襲う。万斉が手配した攘夷志士のヘリコプターが舞い降り、伊東を機関銃で狙い撃ちし始めたのだ。
「や、止めろ!やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
身を捩り、機関銃の弾から逃げようとする伊東だが、その程度では機関銃から逃れる事は叶わない。遂に列車から落ち、その体は谷へと落下していく。
伊東は心の中で叫び続けた。
やだ……やめてくれ!
僕はこんな所で死ぬ男じゃない!
僕はまだ出来るんだ!
もっと……もっと……
なんで、誰も僕を見てくれない……こんなに頑張っているのに……僕は何も悪くないのに……
僕を一人にしないでくれ……隣にいてくれ……
この手を……握ってくれ……
そう願い、伸ばした伊東の手を小さく柔らかな手が握り返す。
「なっ!?」
「捕まえた……近藤!」
「任せろ!」
振り返った伊東は手を握ってくれた人物を見て更に驚いた。
刹那が伊東の手を握り、刹那の手を近藤が握り、更にその後ろでは沖田、新八、神楽が近藤を掴んで支えていた。
刹那は伊東の右手を引き上げ、近藤に託すと自身は跳躍し、止水を構えてヘリコプターへと迫る。
「………天使?」
「ああ……刹那は天使みたいに可愛いんだよ、伊東先生」
伊東は刹那の背中を見送った。刹那の銀髪が風に揺られ、まるで刹那の背中に天使の羽が生えているかの様だった。
刹那から伊東を託された近藤はニッと笑みを浮かべて、伊東の手を力強く握りしめた。