銀魂 真選組の新隊員 作:残月
鞘から村麻紗の刀身が抜かれ、その姿が露わになる。それは即ち、土方が妖刀の呪いをねじ伏せたことを意味した。同じ様に止水を引き抜いた刹那。
銀時も口元に笑みを浮かべ、近藤を見る。
「ワリーなゴリラ、そういうこった。残念ながら、テメーの依頼は受けられねェ。なんぼ金積まれてもな。あっちが先客だ」
近藤は呆れた様に溜め息を吐いた。
「万事屋、仕事はここまでじゃなかったのか」
「なぁに、延滞料金はしっかり頂くぜ。刹那のお守りも含めてな」
銀時がパトカーのボンネットに片足を乗せ、近藤の手を引き寄せる。
ずっと後方から走ってきたバイクがパトカーに迫る。そのバイクに乗っているのは裏切り者の伊東と攘夷浪士の河上万斉である。
「奴の魂の曲調が変わった。幼稚なアニソンから骨太のロックンロールに……お主もか伊東。格調高きクラシックから……狂暴なメタルでござる」
妖刀をねじ伏せた土方を見た万斉は土方が魂を取り戻した事を感じる。同様に、それを見た伊東が魂を昂らせているのを感じた。
「ふむ……どちらも良い曲だ。思う存分奏でるが良い!美しい協奏曲を!」
「伊東ォォォォォッ!」
「土方ァァァァァッ!」
万斉の叫びに呼応する様に土方と伊東の刀が激突する。
土方の斬撃は伊東の肩を斬ったものの、伊東の斬撃はパトカーのタイヤを一つ切り落とした。バランスを崩したパトカーはコントロールを失い、更に後方から追い付いた列車にぶつかりかける。
咄嗟に土方が扉に足を、トランクに手をついて、衝突を防いだ。
「何してんだァァァッ!早くなんとかしやがれェェッ!」
「ちっ!神楽、手伝ってやれ!新八は車両を安定させろ!」
「ハ、ハンドルが動かない!」
しかもこのタイミングで、敵の車がやってくる。土方は今、全く身動きの取れない無防備な状態だ。銀時が神楽と新八に指示を飛ばす。
「トッシー、後は私に任せるネ。何も心配いらないネ!刹那も手伝うアル!」
「わかった」
「おかしいィィ何かおかしィィッ!刹那もそこで脚を広げるな!」
神楽が助太刀に入る。何故か土方の腹の上に乗り、刹那は土方の胸の上に乗って脚を開いていた。
神楽に向かって、浪士が斬りかかる。しかしその瞬間、列車の扉が片方吹っ飛ばされ、車ごと浪士を巻き込んで転がっていった。
「近藤さん、さっさとこっちへ移ってくだせェ。ちぃと働き過ぎちまった。残業代出ますよね、コレ」
「総悟!」
車輌の中は、沖田が粛清した隊士達があちらこちらに転がり、血が所々に飛び散っていた。沖田自身も頭から血が流れ、腕を怪我している。
「俺が、是が非でも勘定方にかけ合ってやる」
「そいつぁいいや。ついでに伊東のやつの始末も頼みまさァ。俺ァちょいと疲れちまったもんで。土方さん、少しでも遅れをとったら俺がアンタを殺しますぜ。今度弱み見せたらァ、次こそ副長の座ァ俺が頂きますよ」
何やらカッコイイ雰囲気を醸し出しているが、彼はその土方の上に乗ってそのセリフを言っていた。
「いや、土方ここォォォォォッ!」
今でも落ちるか否かのヤバい状況なのに、刹那が再度、土方の胸の上に乗る。
「そもそも沖田が伊東に手を貸したから面倒くさい事になった」
「おいおい、俺は伊東が尻尾出しやすい様に動いただけだぜェ」
「つーかテメーら何で当たり前のように人を橋のように扱ってんだ!?そんでスカートのまま上に乗るなって言ってんだろうが!」
土方の腹の上で言い争う刹那と沖田にツッコミを入れる土方。
「待ってくれ、トシや刹那を置いて俺だけ逃げろというのか!?」
「そこで揉めんなァァァァァッ!」
追い討ちとばかりに近藤までもが土方の腹の上に乗る。
「おいおい、さっさとしろ……どわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「銀さぁぁぁぁぁん!?」
「離れてた先頭車輌が!」
茶番を演じる土方達を銀時が急かそうと声を掛けると、後方から先程のバイクが迫ってきて銀時を轢いた。その光景に新八は悲鳴を上げ、神楽は離れていた先頭車輌に追い付いてしまった為に先頭車輌と後方車輌に挟まれそうになるパトカーに焦り始める。
「ぬがぁぁぁぁ!潰されるぅぅぅ!」
二つの車輌に挟まれたパトカーと土方はミシミシと悲鳴を上げながら潰されていく。その最中、伊東のつまらなそうな表情が見えた。
「土方君、キミは僕の唯一の理解者だった。惜しむらくは僕の器を知り、恐れて敵に回ってしまった事か。キミがもし局長だったなら僕は反乱など企みはしなかったかもしれないよ。ふふ、あくまで仮説だがね。たがキミも一つだけ僕を勘違いしている。キミが僕の器を知るように、僕もまたキミの器を知ると言うことを」
伊東はそう言いながら伊東は腰の刀に手を掛けた。
「土方十四郎、来い!最後の決着の時だ!」
崩壊したパトカーから飛び出した土方が刀を振るい、伊東に迫る。土方と伊東の因縁の戦いの火蓋が切られた。
「面白い……実に面白い。面白い音が奏でられている」
その光景を見ていた万斉は楽しそうに喉を鳴らした。
「出鱈目に無作法。気ままでとらえどこらのない音はジャズに通ずるか……しかし、それにしては品がない。喩えるなら酔っ払いの鼻歌でござる」
万斉は目の前で対峙する銀時を見据えながら呟くが、すぐに視線を列車の方に向けた。
「あの娘も面白い音を奏でる。以前は何もない……音すら奏でない存在であったが……今は海のさざ波の様な癒しの音を奏でておる」