銀魂 真選組の新隊員   作:残月

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鈍色から銀色へ

 

 

 

 

走る列車から土方の姿を見た近藤は涙を流していた。

 

 

「馬鹿野郎……なんで、なんで此処に居るんだよ……」

 

 

自らが謹慎を命じ、隊から追い出した筈の土方の姿に近藤は涙が止まらなかった。

 

 

「俺からあんな仕打ちを受けた、お前が……なんで俺の為にこんな処に来てやがるんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!トシィィィィィィィィッ!!」

 

 

涙のみならず鼻水まで流しながら近藤は叫んだ。それと同時に迫るバズーカの弾。

直後、近藤の乗っていた車両は一部が破壊され、中が露になっていた。

 

 

「近藤さん無事ですかぁ!?」

「ダメネ、いないアル。ゴリラの死体が一体転がってるだけネ」

「銀時、迂闊に撃たないで」

「落ち着こう刹那ちゃん。俺が悪かったからウォーズマンのエルボースタンプの態勢を解こう?な?」

 

 

新八が近藤の身を案じるが神楽は近藤が倒れていると遠回しに伝える。それは銀時が放ったバズーカの弾に巻き込まれたのを知っていた刹那は、銀時の首に後ろからスルリと足を絡めると四の字に極め、エルボーを頭に叩き込む態勢になっていた。洒落にならんと思った銀時は、先程同様に少々卑屈になりつつ刹那を落ち着かせようと話しかける。 

その中で倒れていた近藤が起き上がり、銀時達に抗議する。

 

 

「何すんだァァァ!てめーらァァァァ!」

「あっ、いた。無事かオイ、なんかお前暗殺されそうになってるらしいな、一丁前に」

 

 

抗議した近藤に対して舐めた返答を返す銀時は、刹那の脚を外そうと刹那の脚に手を触れていた。

 

 

「されそうになったよ、たった今!それと万事屋、刹那の脚に挟まれて幸せそうにしてんじゃねーよ!」

「おい、もういっそ暗殺されてしまえクソゴリラ」

 

 

こんな状況でも親バカを炸裂させる近藤に九兵衛の冷たい視線とツッコミが入る。

 

 

「お前等まさか、トシをここまで……ありえなくね!?刹那は兎も角、お前等が俺達の肩を……」

「遺言でな、コイツの」

「遺言!?」

 

 

近藤は刹那ならまだしも、万事屋メンバーや九兵衛が加勢に来た事を信じられなかった。しかし、銀時の一言でその表情は驚愕に染まる。

 

 

「妖刀に魂食われちっまった。今のコイツはただのヘタレたオタク。さっきからビクつきながらも、その視線は刹那のスカートに注がれている若干ロリコンの入った見事なオタクだ。コイツの魂が戻ってくる事はもうねーだろうよ」

「妖刀だと!?そんな……だが最近トシの様子がおかしかったのも全て妖刀の仕業だとすれば………」

 

 

 

愕然とする近藤。しかし銀時の言う通り、ここ最近の土方の様子や不可解な行動を思い出した。アレ等が全てが妖刀のせいだとするならば……。

 

 

「そ、そんな状態で……トシがお前らに何を頼んだってんだ……」

「真選組護ってくれってよ。」

 

 

答えた銀時が、肩を竦めて続ける。その様子に刹那も瞳を閉じて辛そうにしていた。土方の元の性格を考えればそんな事を銀時達に頼むのは苦渋の選択だっただろう。

 

 

「面倒だからてめーでやれって、ここまで連れてきた次第さ。俺達の仕事はここまでだ。ギャラはテメーに振り込んでもらうぜ」

「……振り込むさ、俺の貯金全部」

 

 

銀時の話を聞き終えた近藤は俯いた顔を上げ、銀時にギャラの話をし始める。

 

 

「だが万事屋……俺もお前達に依頼がある。これも遺言だと思ってくれていい。トシと刹那を連れてこのまま逃げてくれ。こんな事になったのは俺の責任だ。戦いを拒む今のトシを……そして大人の責任に刹那を巻き込みたくねェ」

 

 

近藤は、後部座席に座る土方を見つめる。その声音からも、表情からも彼が自責の念に駆られていることは、ハッキリと感じとれた。

 

 

 

「以前から、伊東に注意しろとトシに言われていた。しかしそれを拒み、挙句には失態を犯したトシを、伊東の言うがままに処断した。トシが、妖刀に蝕まれているとは知らずに。そんな身体で必死に真選組を護ろうとしていたことも、そのためにプライドを捨てて、お前達に真選組を託したことも知らずに。すまなかった、トシ。すまなかった、みんな……俺ぁ…俺ぁ…大馬鹿野郎だ。全車両に告げてくれ。今すぐ戦線を離脱しろと。近藤勲は戦死した。これ以上仲間同士で殺り合うのはたくさんだ」

「近藤……それは違う」

 

 

近藤の懺悔の様な謝罪を否定した刹那。パトカーの屋根に乗り、長い銀髪を揺らした刹那は真っ直ぐに近藤を見据えていた。

 

 

 

「私は真選組が好きだから此処にきた。近藤を犠牲にして成り立つ真選組に私は居たくない。原田達もそうだと思う。みんな近藤が好きだから集まってる」

「……刹那」

 

 

その時、後部座席から手が伸びてきてマイクを取った。

 

 

「あーあー、ヤマトの諸君。我等が局長、近藤勲は無事救出した。勝機は我等の手にあり。局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不逞の輩。敢えて言おう、カスであると!今こそ奴らを、月に代わってお仕置きするのだ!」

『オイ、誰だ!気の抜けた演説してる奴は!?』

 

 

マイクを取った土方は締まらない演説をし始め無線からは妙な演説をした土方を叱責する声が上がる。

 

 

「誰だと?真選組副長、土方十四郎ナリ!」

 

 

 

ガシャンと乱暴にマイクを戻し、土方は列車の近藤を見つめた。

 

 

 

「近藤氏、僕らは君に命を預ける。その代わりに、君に課せられた義務がある。それは死なねー事だ。何が何でも生き残る。どんなに恥辱に塗れようが、目の前でどれだけ隊士が死んでいこうが、君は生きにゃならねェ。君がいる限り、真選組は終わらないからだ。僕達はアンタに惚れて、真選組に入ったからだ。バカのくせに難しい事考えてんじゃねーよ。テメーはテメーらしく生きてりゃいいんだ」

 

 

土方は胸ポケットからタバコを取り出すと火を点す。その瞳は先程までのヘタレたオタクの物ではなかった。

 

 

「俺達は、何者からもソイツを護るだけだ。近藤さん、あんたは真選組の魂だ。俺達はそれを護る剣なんだよ。それに……アンタが刹那の保護者を止めれるとは到底思えないんでな」

「……!」

 

 

近藤を護る剣と刹那の兄貴分としての顔を取り戻した土方。その光景に刹那の頬が緩みそうになったと同時に、後方からバイクに乗って車両とパトカーを追いかけてくる二人の男が。一人は伊東。もう一人は、サングラスとヘッドホンをした男だった。

 

 

 

「一度折れたキミに、何が護れるというのだ。土方君、君とはどうあっても決着をつけねばならぬらしい。刹那ちゃんも残念だよ。キミは良い手駒になりそうだったのに」

「剣ならここにあるぜ。よく斬れる奴がな」

「私は……駒なんかじゃない」

 

 

伊東の挑発に土方は村麻紗を手に取り、刹那は止水に手を掛けた。

しかし土方の方は剣を抜こうとしても、呪いのせいか全く抜けない。

 

 

「何モタクサしてやがる。さっさと抜きやがれ」

「黙りやがれ。俺はやる、俺は抜く、為せば成る。燃えろォォ俺のコス……イカンイカンイカンイカン!」

 

 

歯を食い縛って刀相手に悪戦苦闘するが、呪いの影響が少なからず出ていた。気合いが別の方向に向きそうになった土方だったがパトカーの後方のガラスを割り、そこからトランクの上に立つ。

 

 

「万事屋ァァァァァァ!」

「何だ?」

 

 

土方は剣を抜こうとするが一向に抜ける気配はない。だが剣と鞘からはミシミシと何かが軋む音が聞こえていた。

 

 

「聞こえたぜ、テメーの腐れ説教!偉そうにベラベラ喋りやがって!テメーに一言、言っておく!」

「銀時、私も」

 

 

剣を抜こうとする土方の隣に立つ刹那。土方と違い刹那は止水を鞘からは解き放ち始める。

 

 

「ありがとよォォォォ!!」

「ありがとう」

 

 

土方の絶叫の感謝と刹那の感謝を背中で聞き、銀時はありえないとばかりに返した。

 

 

 

「オイオイ、刹那は兎も角、副長はまた妖刀に呑まれちまったらしい。トッシーか、トッシーなのか」

「俺は、真選組副長、土方十四郎だァァァァァ!!」

 

 

土方の村麻紗と刹那の止水が解き放たれ、白刃が露になる。淡い鈍色が日差しを浴びて見事な銀色へと変わっていった。


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