銀魂 真選組の新隊員 作:残月
ミツバの死から幾日かが経ち、屯所内はいつもの静けさが戻っていた。
そんな中、刹那は食堂のおばちゃん達に混ざって料理を作っていた。髪を後ろで一つに纏めて縛り、新撰組の制服の上着だけを脱いで腕捲りをしつつエプロンを着る姿に、食堂のおばちゃんのみならず、それを目撃した隊士達も頬を緩ませていた。
因みに刹那がおばちゃん達に習っていたのはペペロンチーノだった。普段は食堂のランチにパスタなんて出ないのだが、普段食べないものなら近藤達も喜ぶと聞いて刹那はやる気を出していた。
しかし、作ってみたは良いものの、味見しても刹那は首を傾げるばかり。
それもその筈。刹那はペペロンチーノの味を知らないのだ。本来なら作り方を教えた食堂のおばちゃんが味見をするべきなのだが、彼女達も別の仕事をしなければならなかった為に、刹那は習った調理順で一先ずペペロンチーノを作り上げた。だが、ペペロンチーノの味を知らないので、作ったものが正解なのか解らなのだ。
刹那がどうしようかと悩んでいた時だった。刹那の背後からスッと男の腕が延び、その手に握られた菜箸が刹那の作ったペペロンチーノに伸ばされる。そして菜箸でペペロンチーノを小皿に取り分けると男は一口食す。
刹那は色々な意味で驚かされた。まずは背後に立たれた事。勘の鋭い刹那は背後を取られる事は滅多に無い。にも関わらず、見知らぬ男は刹那の背後を取ったのだ。
そして次に、食べる許可すら出していないのに、男が刹那の作った料理を勝手に食べてしまった事だ。
最後に、刹那は目の前の男を知らないと言う事である。なんやかんやで様々な所に交流がある刹那だが、少なくとも屯所内でこの男を見た事がない。つまりは部外者の筈だが、男は悠々と屯所に居るのだから驚きもする。
「ふむ……味を整えた方が良いな。鷹の爪はあるかい?」
男はペペロンチーノを食べ終えると小皿をテーブルに置き、刹那の作った料理にアドバイスを始めた。それを聞いた刹那は少し悩む素振りを見せた。
「………フリッツ・フォン・エリックは真選組には居ない」
「それは鷹の爪じゃなくてそれは鉄の爪だね」
見知らぬ男の問いに刹那は小首を傾げながら答えた。それを聞いた男は一瞬呆けたがコホンと咳払いを一つ。
「まったく……噂には聞いていたけど面白い娘だね」
「……私はアナタを知らない」
少し笑みを浮かべながら刹那を眺める男に、刹那は疑いの視線を送っていた。それを聞いた男は苦笑いを浮かべた後に口を開いた。
「自己紹介がまだだったね、僕の名は伊東鴨太郎。キミの事は近藤局長から聞いているよ」
自己紹介を済ませると伊東はニコリと笑みを浮かべながら刹那に手を差し出した。
「近藤局長の言い付けで屯所を離れていたけど、仕事が終わってね、戻ってきたんだ。これからヨロシク、刹那ちゃん」
「…………ヨロシク」
差し出された伊東の手を握る刹那。握った手に刹那は何故か冷たさを感じた。