銀魂 真選組の新隊員 作:残月
刹那に叱られ庭で戦う事になった土方と北大路。
二人は木刀を構えて対峙する。
「並外れた身体能力、反射神経。数多の死線をくぐり抜け培った勘と度胸。見事な者だがそんな戦いが通じるのは三流までだ。達人同士の戦いにおいては通用せん」
「テメーが達人だって?ホラ吹きだな」
土方と北大路は互いに木刀を振るいながら会話をする。激しい剣戟の中で会話をする辺り十分に達人とも言えるが。
しかし互角と思われた戦いも土方が劣勢になり始める。
「いかんな……あの男、トシの癖を見抜いている」
「土方さんの……癖?」
戦いを見ていた近藤が土方の劣勢を解説し始めて新八がそれに驚く。
「トシは実戦で鍛えられた直感力。謂わば危機察知能力で相手の気配を察知し、敵の攻めを制す。昔から最前戦で戦ってきたトシは誰よりもそれに長けている」
近藤は言葉を句切ると北大路に視線を移す。
「対して奴は敵を斬るよりも敵の意表を突き、1本取る術に長けたもの。道場剣術は攻防自在に転じている、攻めると見せて引き、引いたと見せて攻める……紛うことなき達人だ」
近藤の概説に新八は聞き入り、刹那は土方の戦いを終始無言で見詰めていた。
「確かにそうかも知れない」
「刹那ちゃん!?……刹那ちゃんは土方さんが負けると……?」
刹那の言葉に驚愕した新八は刹那に詰め寄る。
「違う。北大路は強いのは確かだけど、それはあくまで道場剣術での話」
「ふ、言ってくれるな小娘が」
刹那の会話が聞こえていたのか北大路がドヤ顔をする。
「そう言えば貴様も真選組だったな……喧嘩だ実戦だと声高に叫び道場剣術を軽んずる輩を沢山見てきた。嘆かわしいことだな貴様も柳生の道場に来ていればかなりの剣士になっただろうに」
「そんな事はない。それに私達が道場剣術を軽んじてるならアナタは実戦剣術を軽んじてる」
「何?……がはっ!?」
刹那に話し掛ける北大路だが刹那の会話に気を取られた北大路は土方に殴り飛ばされる。
「へっ……真選組から刹那を引き抜こうなんざ趣味が見えるぞ、この野郎。そんな事してみろ真選組隊士が挙って柳生道場潰しに来るぜ」
「くっ……貴様、水中から飛び出してくるとは」
土方は剣筋を読めない水中から木刀を振り抜き、北大路を庭の池に叩き落とした。
「俺が実戦剣術を軽んじてるか……そうかもな。喧嘩だ実戦だ。試合では負けたが我が流派は実戦向きだ。真剣勝負な我が流派は負けません。全てただの言い訳だ」
北大路は水の中から出ると眼鏡を外して語り出す。
「そんな戯れ言は聞き飽きた。そんな物は稽古をしない根性無しの言い草だ。どれだけ才能があり、どれだけ実戦を踏もうが努力した者には勝てない。俺はそう思っている。古い考え方と笑う者がいるがな」
「……言いてぇ事はそれだけか?」
そんな事を語る北大路に土方は先程よりも鋭い一撃を北大路に浴びせた。
「なっ……貴様……なんだ力が急に増して……」
「口だけは達者だな……道場剣術!」
困惑する北大路は土方の激しい斬戟を捌ききれずに北大路は少しずつ傷を増やしていた。
「………決まったな」
「…………うん。でも私は大丈夫」
その戦い振りを見ていた近藤は刹那の肩を抱き寄せた。刹那の肩は震えていた。
土方が激怒したのは北大路が語った事だ。北大路は実戦の生きるか死ぬかの世界を軽んじて笑ったがソレは刹那の生き様全てを否定した言葉だった。
勿論、北大路はその事を知らないが刹那を悲しませ、土方を激怒させるには十分すぎる理由だった。
「実戦を知らないボンボンが……語ってるんじゃね-!!」
「グフォアっ!?」
土方の強力な一撃は北大路を吹き飛ばした。それは北大路の皿を破壊し、北大路の意識を刈り取るには十分な一撃だった。
「っち……つまらない喧嘩しちまったな」
「……土方」
土方は舌打ちをすると刹那を一瞥した。
「つまらなくなんてない。土方が怒ってくれて嬉しかった。私はやっぱり真選組に拾われて良かった」
「そうかい」
刹那の言葉に土方は口端を上げると刹那の頭を一撫でした。