銀魂 真選組の新隊員   作:残月

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刹那の悲しい顔

 

 

それから起こった事を説明しよう。

 

結果的に言えば人質になっていた者達は無事に救出された。

真選組が異菩寺に突入した訳でもない。

誠ちゃんが人質をこっそり助けた訳でもない。

人質達が異菩寺から出て来たのだ。人質にされていた者達は一様に脅えており何があったのか何も語らなかった。

 

これを不振に思った真選組は異菩寺に突入した。

攘夷志士達は殲滅されていた。

 

刹那一人の手によって。

 

刹那を縛っていた縄は切られ、手錠は力任せに引き千切った様に鎖が垂れ下がっていた。

地面は血の海になっていた。攘夷志士達は死んではいない様だが半殺し状態。

手足が折られたり、肋を砕かれたりと蹲っていた。

 

 

刹那は虚ろな瞳で攘夷志士達を殲滅していたのだ。

今も片手で攘夷志士の首を絞めながら壁に押しつけている。

 

 

「が……ご……」

「…………………」

 

 

体格差をものともさせず首を締め付ける様はまるで悪魔を連想させた。

 

 

「おい、刹那!」

「………………」

 

 

土方が慌てた様子で刹那の肩を掴むが刹那は振り返っただけで首を絞めるのを止めていない。

 

 

「刹那!もういい、気絶してるぞ!」

「…………?」

 

 

近藤も刹那の腕を掴み、攘夷志士を離させるが刹那は何が起きたか判らない様子だ。

 

 

「刹那、何があったんだ?急に静かになったと思えばこんな有様だから……刹那?」

 

 

近藤が腕を放すと刹那はトテトテと歩き離れてしまう。

その先には脅えた様子のお通が居た。

 

 

「ひっ!?」

「……………ごめんなさい。恐い思いをさせた」

 

 

脅えるお通にペコリと頭を下げると刹那はそのまま異菩寺の窓から外へ飛び降りる。

 

 

「お、おい!?刹那!」

「待つんだ!」

 

 

土方や近藤が刹那を呼び止めるが刹那は華麗に地面に着地するとそのまま止まらずに走り去ってしまう。

 

 

「なんだってんだ……」

「様子がおかしい……何があったんだ……」

 

 

そのまま呆然とする土方と近藤。

 

 

「どうにも刹那が攘夷志士を半殺しにしちまったみたいですぜ。比較的に無事だった奴の話じゃ急に豹変したかの様に暴れ出したとの事でさぁ」

 

 

簡易的な事情聴取をしていた沖田が近藤達に報告する。

 

 

「なるほどな一日局長が脅えてるのはそれが理由か」

「一日局長さん、大丈夫ですかい?」

「え、あ、はい。私は……大丈夫……です」

 

 

土方と沖田が脅えたままのお通に話し掛けるがお通はまだ脅えたままだった。

 

 

「何があったか……まだ話せないか」

「話します!でも先に刹那ちゃんを追って下さい!」

 

 

何にしても事情を聞かねばならないがまだ、お通に聞くのは酷かと思う近藤。

しかし意外な事にお通は刹那を追えと言い出す。

 

 

「おい、無茶すんな。刹那なら心配しなくても他の隊士が追って……」

「駄目です!近藤さん達が追わないと……刹那ちゃん、きっと泣いてますから!」

 

 

土方がお通を落ち着かせようとしたが、お通は止まらない。

 

 

「早く行ってあげて下さい!それに近藤さんも刹那ちゃんを追い掛けたいんでしょ!一日局長命令です!」

「………了解しました、局長!」

 

 

捲したてるお通に近藤は敬礼をすると刹那の後を追い行ってしまう。

 

 

「おい、近藤さん!」

「大丈夫です。それよりも刹那ちゃんが心配だったから」

 

 

現場放棄をして行ってしまう近藤を土方は呼び止めようとしたが近藤はそのまま行ってしまう。

お通は脅えながらにもフラフラと立ち上がる。

 

 

「無茶はしない方がいいですよ。あんな光景を目の前で起こされちゃ堪らんでしょう」

「山崎、居たのか?」

 

 

するといつの間にか現れた山崎が会話に加わる。何故か、女装姿で。

 

 

「婦女誘拐事件を担当してたの俺ですよ。人質の中に居て、隙を伺ってたんです」

「んで隙を伺ってたら刹那が全部片付けちまった訳だ」

 

 

山崎は誇らしげに語るが沖田がツッコミを入れる。

 

 

「うぐっ、否定できない。兎に角、俺が説明しますよ」

 

 

痛いところを突かれた山崎。そして山崎は一部始終を語り始める。

 

 

攘夷志士達は言いなりになる真選組に、調子に乗ったのか『近藤を斬れ』と指示を出そうとしたらしい。

それを聞いた刹那がキレた。

突如、俯いたかと思えば急に髪がザワザワと揺れ始める。

そして……

 

 

「スゥ……ハァァァァァァァァァ……」

 

 

刹那は一度、息を吸うと気合いを入れて手錠を引き千切った。いとも簡単に。

その事態に「近藤を斬れ」と命令しようと興奮気味だった攘夷志士達は気付いていない。

そして刹那はおもむろに落ちていた木片を拾い上げると無慈悲に攘夷志士の一人に振り下ろす。

それが皮切りだった。

 

刹那が自由になった事に気付いた攘夷志士達だったが時既に遅し、刹那は攘夷志士から槍を取り上げると巧みに槍を振るい次々に攘夷志士達を倒していく。

その戦い振りは冷酷に相手の急所を貫き、腕を折り、足を折る。

その光景に人質になっていた女性達は恐怖を覚える。

 

 

「な、何をしている!人質を使え!」

「お、おう!」

 

 

攘夷志士の一人がそう叫ぶと他の攘夷志士はお通に槍を突き刺そうとする。

 

迫る槍にお通は思わず目を閉じた。しかし痛みは来ず、顔に生暖かい液体が掛かった。

反射的に目を開けたお通の視界に飛び込んで来たのは槍を素手で掴む刹那の姿。

しかも槍先を掴んでいるので刹那の手は血塗れ。先ほど、お通の顔に掛かったのも刹那の手から流れた血だったのだ。

そして事態は冒頭のシーンへと戻る事になる。

 

 

「そんな事になってたとはな」

「私……助けて貰ったのに……刹那ちゃんに……あんな態度……」

 

 

土方は事態の全容が解り、納得した様だがお通は自己嫌悪に陥っていた様だ。

 

 

「なんで一日局長は刹那が泣いてるって思ったんですかい?」

「…………さっき刹那ちゃんが私に謝った時に……あの子泣きそうになってたんです。苦しくて……ツラい……そんな顔をしてましたから」

 

 

先程の刹那を思い出したのか、お通は悲痛な表情になる。

そう言えば近藤さんは刹那に追い着いたかなぁと思う山崎だった。


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