銀魂 真選組の新隊員 作:残月
「おぃテメェ等、仕事だぞぅ」
朝早くから真選組屯所に柄の悪い男が着ていた。
男の名は『松平片栗虎』見た目はヤクザ風だが役職は幕府直轄の警察庁長官である。
「とっつぁん、朝からアンタが来るなんて何事なんだ?」
朝食を食べながら問う近藤。
まだ日が上がったばかりで朝食の時間に乱入してきた松平に隊士達は疑問を感じていた。
「………?」
「ああ、あの人は松平片栗虎。真選組の上司に当たる人で偉いんだよ」
並んで朝食を食べていた刹那と山崎。
刹那が松平を見ながら小首を傾げていたのを見て山崎が説明をする。
「とっつぁん、少し待っててくれ。直ぐに食べるから」
「とっととしやがれ。後3秒待ってやる」
朝食を早く食べようとした近藤に松平は時間を指定した。
しかも銃をコメカミに突きつけて。
「はぁーい、1」
「2と3はぁぁぁぁぁっ!?」
松平はカウント1の段階で発砲した。
近藤は素早く身を躱しながらツッコミを入れる。
「知らねーな。男は1さえ覚えときゃ生きていけるんだよ」
「単に面倒臭いだけだろアンタ!」
松平の破綻した理屈に再度ツッコミを入れる近藤。
「…………」
「うん、言いたいことは分かるけどアレで幕府の重鎮だから」
刹那は無言で山崎を見ながら松平を指さす。
刹那の言いたいことを察した山崎は松平がテロリストではなく幕府の重鎮だと再度、説明をした。
◇◆◇◆
場所を食堂から会議室へと移した隊士達は松平が持ってきた仕事の説明を受けていた。
「かぶと狩りだ」
「とっつぁん、なんで俺達がカブトムシを捕まえなきゃならねえんだ?」
松平の言葉に全員が固まる。
松平の無茶振りを常日頃味わってる近藤は即座に松平に聞き返した。
「将軍様のペットのカブトムシ『瑠璃丸』が森で居なくなっちまったんだよ。だから捜してこい」
「だからなんでカブトムシ如きで警察動かしてんだよ!ペットショップにでも行って別のカブトムシでも渡せ!」
ふてぶてしい態度の松平に土方がキレた。
「そうも行かねーだよコレが。将軍のペットの瑠璃丸は日の当たる所で見れば黄金色に輝く言わば生きた宝石みたいな珍種なんだよ。価値にすれば国宝級の値が付く」
「じゃあなんですかい。その瑠璃丸って奴の価値に気付く奴が居れば……」
「幕府相手に金を請求する輩も現れるだろうよ、なにより将軍が瑠璃丸を気に入ってるからよ。サッサと捜しに行ってこいや」
松平による瑠璃丸の価値の説明がされた後にこれは実は重大任務だと思い知らされた隊士達は気を引き締めて会議室を後にしていく。
刹那も隊士達と瑠璃丸捜しに行こうとしたが松平に呼び止められた。
「お嬢ちゃんが近藤が引き取ったって言う娘か」
「………ん」
松平の問いに頷く刹那。
「まったく……ガキにゃ真選組みてーな荒事任せな場所にゃ置いときたくないんだか……お前は此処に居たいのか?」
「ん……近藤や土方達と居たい」
「そうかい。んじゃ、おじさんは他に言える事はねーわ。頑張ってくれよ」
松平の問いに頷きながら答えた刹那。
松平は溜息交じりに納得したと言うとタバコに火を付けた後に刹那の頭を一撫でしてから会議室を後にした。
「松平のとっつぁんも気にしてたみてーだな」
「同じ年頃の娘が居るんだから当然かもな」
それを物影から隠れてみていた近藤と土方。
今日の突然の松平の来訪は刹那を見に来たのでは?と思い始めていた。
松平が帰った後に真選組は瑠璃丸捕獲作戦を実行する事となる。
松平からの情報で将軍と瑠璃丸は山の中の別荘で生き別れたとの話を聞いていたので真選組総出で山へと来ていた。
「えー、では瑠璃丸探索を開始する。先ずは片っ端からこの山のカブトムシを捕獲するんだ。採る方法は各自に任せる」
「ん、おい刹那。総悟はどうした?」
近藤の号令で隊士達は各自でカブトムシを捕まえる事になった。
そこで沖田が居ないことに気付いた土方は沖田の行方を刹那に聞く。
「街に行ってカブト相撲してくるって言ってた」
「カブト相撲……ああ、そうやって勝ったカブトムシを奪う気か」
刹那の返答に近藤が納得する。
「ったく、半分はサボりだろうが」
土方は舌打ちをしながらもカブトムシを捕獲する準備を進めていた。
何故か、大量のマヨネーズを抱えながら。
「よし、刹那。俺達もカブト狩りをするぞ!」
「………おー」
気合いの入った近藤に刹那は片手を上げる。
刹那は近藤の後に付いていきカブトムシを採る準備を始めた。
隊士達も各自でカブトムシ捕獲に動いていた。
網で捕まえたり、罠を仕掛けたり、木に登ったりと様々である。
そんな中、土方は
「副長……流石にマヨネーズじゃカブトムシは寄ってこないと思うんですが」
「バカヤロー、マヨネーズは万能だ」
木にマヨネーズを塗っていた。
山崎からのツッコミにも土方はブレずにマヨネーズを塗り続けていた。
「トシ、マヨネーズでカブトムシは取れんぞ」
「うわあ、局長!?なんで褌一丁なんですか!?」
そこに褌姿の近藤が現れ、土方に指摘するが山崎はドン引きだ。
「聞いて驚くな。これぞ、カブトムシ捕獲の丸秘テクニック、蜂蜜だ」
「いや、蜂蜜はまだ納得できるんですが、褌の方は納得できませんよ」
近藤はバァーンと効果音と共に出したのは蜂蜜。
カブトムシ捕獲に蜂蜜はまだわかるが褌の方は未だに謎である。
「ああ、それなんだがな」
「近藤、準備できた」
近藤の言葉を遮る様に刹那が姿を現した。
スク水で
周囲に居た隊士達が「オオーッ!」と声を上げる。
因みに刹那の着ているスク水の名前の部分には平仮名で『せつな』と書かれていた。
「局長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?刹那になんて恰好させてんですか」
「フッフッフッ……蜂蜜にスク水の刹那。コレでハニートラップの完成だ!」
山崎の叫びに近藤はドヤ顔になる。
スク水姿の刹那見るとグッと拳を握り、作戦が上手く行くと確信した近藤は満足顔だ。
「いや、ハニートラップの意味が微妙に違ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁっ!」
森の中に山崎のツッコミが響き渡った。