シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

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 UQホルダーをとりあえず4巻まで買いました。


43時間目 : 修学旅行3日目:夜その2 ~クライマックス・スタート~

「長、お客様方は皆我が総本山自慢の湯を楽しんでいらっしゃるようです」

 

「そうですか、あのようなハプニングがあった後ですからもしやご婦人方が健やかに楽しめないのではと思っていましたが、それは重畳。ご苦労様です。貴女も今日はもう下がって休みなさい」

 

「はい。それでは長、失礼いたします」

 

 すっかりと日も落ち夜も更けた関西呪術協会総本山の一室。1人、昼間得た情報について思考していた関西呪術協会の長である近衛詠春は娘とその友人達、そして自らの盟友であるナギ・スプリングフィールドの息子であるネギ達の様子を報告に来てくれた部下である巫女に労いの言葉をかけると再びその心を思考の海へと沈めていった。

 

「(アーウェンルクス……明日菜君(アスナ姫)をその目にしても世界君のことばかりに強く注意を払い、警戒していた様子だったということから姫御子のことに気付いて旧世界(こちら側)に、というわけではないようだが……。いや、なんにしても大事になる前に撃退することができてよかったということにしておこう。世界君には改めて何か礼をしなければな)」

 

 逃走時に見せたという技法からしてもほぼ間違いなく、自らもその一員であった『紅き翼(アラルブラ)』の仇敵、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の幹部たる人形であるアーウェルンクスシリーズに間違いはないであろう。そう考えた詠春はまずこの京都で大事が起きずに済んだことに安堵し、次いでこの脅威から娘とその友人たちを守ってくれた少年に感謝した。

 

「しかし、今になってアーウェルンクスとは。……イヤ、むしろ今だからこそ、なのか? なにせ今、この京都にはかの組織が狙いを定めるに足る理由が少なくとも3つはあるわけだしな」

 

 黄昏の姫御子、魔法界の英雄の息子、そして魔法世界にてかの人形を相手に大立ち回りを繰り広げたという麻帆良の新星。よくよく考えてみなくても、よくもこれだけ集まったものだと苦笑いが浮かんでくるラインナップである。

 詠春は、今回の修学旅行で東との無用な衝突を避け、親書を無事に受け取るという東西友好の為のパフォーマンスの為に、西の主だった手練たちを西日本中に散らばらせた自身の判断があわや裏目に出るところだったと改めて肝を冷やす思いだった。

 

「まあ、もう無事解決した事態に対してここまで心を乱すのもバカらしいか。さて、明日はネギ君をあのバカの別荘にまで連れて行かなければいかんし、私も早いところ休息を取ろう。……皆さん、そろそろ――」

 

 結局、今自分が考えたところで意味の無いことだと結論付けた詠春は明日の為に休息を取るべく自身の護衛である巫女達全員にそのことを伝えようとした。が

 

「……どうしたんだ。静かすぎる……皆、ネギ君達の所に行っているのか?」

 

 そう、いつのまにか、自身の部屋の周囲から人の気配が一切しなくなっていたのである。

 そのことに気付いた詠春は、これはいったいどうしたことだと疑問を感じ、まさか未だに宴会を続けているのではと一瞬考えたが、それこそまさかだと首を振った。いくら今宵は無礼講であったとはいえ、いくらなんでも長である自分を1人で放り出して大騒ぎはしないだろう、と。

 

 ではいったい何が――そこまで考えたところで、詠春の耳にある声が聞こえてきた。

 

 

「――『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』」

 

 

 しかし、それは詠春が聞き慣れ、今望んでいたいずれの声ともかけ離れたものであった。

 

 

「――なッ!?」

 

 突如、自身を襲う一筋の閃光。その自分が想定していたいずれともあまりに違う事態に、詠春は一瞬硬直してしまう。そしてその一瞬は、この異常事態を打開するならば絶対に生んではならない一瞬であった。

 

「随分と鈍ったようだね、サムライマスター。いや、別に貶しているわけではない。何せ僕も同じ目にあったからね」 

 

 そして姿を現す、自身に襲い掛かった曲者の姿。あまりの急な事態の推移に反応が遅れるもようやく我を取り戻す詠春であったが、時すでに遅く。その隙に、自身に突如石化呪文を放った曲者は、既に完全に石化してしまった自身の足では到底捉えられないだろう距離にまでその身を置いてしまっていた。

 

「安心していいよ。外の者達も全員君と同じように石になってもらっただけだ。それにこの呪文も、この関西呪術協会の手練なら容易に解くことができるだろう。……もっとも、君たちが石から元に戻る頃には、全て終わっているだろうけどね」

 

 “いったい何を――”そう口に出そうとする詠春であるが、既にその声を出すことすら不可能なほどに進行する石化。そのことを認識した詠春にできることはもう、後のことを頼むと祈るのみであった。

 

「(本当にすまない、木乃香を、皆を頼みます、世界君――)」

 

 それが、完全に石化する寸前に詠春がその心に浮かべた最後の思いだった。

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

「……あ、あの…さあ、このか……」

 

「何? アスナ」

 

「……あ、ううん。何でもない」

 

「? 変なアスナやなー」

 

 木乃香と二人で自分たちが宿泊させてもらっている建屋の縁側を歩いていたアスナは、夜桜を楽しみつつも親友が実は凄まじい『魔法使い』の素質を持っていたということに驚きつつも、このことについては自身ではなく刹那が木乃香の父に『話してあげてくれ』と頼まれたのだから、と口をつぐんだ。

 そんなアスナの様子にニッコリ、とおかしそうな笑みを浮かべる木乃香。そして、そのまま特に気にした様子も無く「せっちゃん何の話やろねー」と刹那がしたいという話について疑問の声を上げる木乃香に、その内容を既に知ってはいるもののなんと答えたものかわからない明日菜は「う、うん、何だろね……」と返すしかない。

 

「(まあ、悪い事にはならないわよね。むしろこれを機に2人の仲が昔みたいに元通りになるかもしれないし……ううん、違う。これはチャンスなんだから、ここは2人の友達の私がこのかと刹那さんの仲をバーンと取り持ってあげなきゃ!)」

 

 そう心の中で密かに気焔を上げる明日菜。正直、どう見てもお互いに仲良くしたいと思っているのにそうできない2人をこの修学旅行で散々見せられて、いい加減モヤモヤとしていたのである。というより、この幼馴染だという2人を見て「素直に仲良くすればいいのに」と考えるのは、何も自分が直情径行な性格をしているのを差し引いてもおかしくはないはずである。

 まあ、刹那は何やら言うに言えない事情を抱えている節をチラホラと見せるが、その辺にもアテがないではない。

 

「(それに、いざとなったら世界(あのバカ)にも手伝わせてやればいいんだし。ううん、いざとなんてことにならなくても手伝わせてやるんだから。今日いいんちょにビビって1人で逃げたペナルティよ、ペナルティ)」

 

 そう、どうやら木乃香と刹那が仲良くする上でネックとなっているらしい事情とやらを世界が知っているようだということを、2人がかなり親しげにしているその様子から明日菜はその鋭い勘で見抜いていたのである。

 ならば是非も無い。今日約束をわかっていただろうにすっぽかしたことでも引き合いに出して、意地でも手伝わせてやろうと、明日菜は今からどうあの幼馴染とやり合ってやろうかとその顔に笑みを浮かべてその想像の翼をはためかせていた。

 

「(なんや、アスナ楽しそうやなー。こっちまで嬉しくなってきてまうえ)」

 

 そして、そんな笑顔の明日菜を見て更にニコニコと笑う木乃香。昼間は何やら怖い人たちが襲い掛かっては来たものの、それも世界が助けに来てくれたことで無事に乗り越えることができた。夜になったら刹那から自分を呼んで「話をしたい」と言って来てくれた上、もう1人の親友も自分の横を歩きつつ何やら楽しげに笑い始めた。

 木乃香は何か自分の周りの全てが上手くいき始めているようで、とてもとても嬉しく更にその顔へとニコニコと満開の笑みを浮かべた。

 

 

『キャァアアアアアア! 長!?』

 

 

 ――が、そんな平和な時間は、突如として轟いた悲鳴に破られることとなってしまった。

 

 

「な、何!? 今の声!? 悲鳴!?」

 

「い、今、“長”って……?」

 

 

 

 

 

 

 彼女達の波乱の修学旅行、その最後の幕が、開く。

 

 

 

 

 

 

 




・姫様が帰ってくるというのに京都の戦力がやたら手薄だった理由
 オリ考察にてできるだけおかし過ぎる矛盾を失くしてみる(無駄な)試み


・フェイト君、さりげない仕返し(ただし相手が違う)
 詠春さんとばっちり


・明日菜ニヤニヤ、木乃香ニコニコ
 その情景を想像しながら文章に起こすことのなんと幸せなことよ……



 京都編、クライマックスの幕が開く!
 次回投稿はまた来週末頃にでも。

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