シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

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 修学旅行3日目、導入部ですよー。


37時間目 : 修学旅行3日目:朝 ~作戦名『ガンガン行こうぜ』~

「えっと、おっす明日菜」

 

「え、あ……お、おはよっ、世界」

 

 明日菜との仮契約という、まるで予想していなかった事件が起きた夜が明け、翌朝。

 朝食の為にと俺達麻帆良学園生の為に用意されている座敷がある階に赴くと、ちょうど男子と女子の座敷に向かう為の境目にある廊下にて、明日菜とばったり鉢合わせてしまった。

 その明日菜だが、顔を合わせるにしてももう少し後だとでも考えていたのか、いくらか心構えを固めてきた俺と比べ、明らかに態度が硬い。俺のことを認識した瞬間に一瞬でその顔を首まで真っ赤にし、目を合わせることすら厳しいのか、顔の向きは俺の顔がある方そのままなのに視線は完全に下に向けてしまっている。

 

「……」

 

「……あー、そのだな…」

 

 明日菜がそのような調子であるものだから、冷静に冷静にと考えるようにしていた俺の方まで調子が狂い、妙な間ができる。そうしてしばし、無言のままになる俺達。

 明日菜お前、昨日のだってそういうのとは関係ないって言ってたじゃん。やめろよ、お前そんなキャラじゃないだろ。

 

「……そ、それじゃあ私こっちだから。ま、また後でね、世界っ」

 

「……おう」

 

 結局そのままお互いに何か口を開くこともできないまま、その空気に居た堪れなくなったのだろう明日菜が女子たちが集まっている座敷へと去って行ってしまった。

 

「……ホント調子狂うなアイツ。早いとこ元に戻らないとこれから困る…。

 ――ん?」

 

 明日菜がいなくなった以上俺もこの場に留まる意味は無いと男子の座敷に向かおうとしたところ、この場に妙な気配が漂い始めている上に、俺に向かって視線が集中しているような気がして、辺りを見回してみる。

 

『……』

 

「(……うわぁ、何この空気。いや間違いなくさっきの俺たちが原因だろうけど)」

 

 そうして周囲を窺ってみると、廊下、そして座敷の入り口から、他の麻帆良生たちから俺へと視線が集中させていることに気付いた。男子たちからは、大多数からは嫉妬、少数からは好奇の視線。女子たちからはほぼ全て、少数の男子と同じ視線である。

 そしてその中に覚えのある気配が複数ある気がして、コッソリ気づかれないようにそちらの様子を窺ってみる。

 

『……?』

 

『……え…?』

 

『うわー、うわー……』

 

 すると、案の定女子中等部3-Aの連中のものであった。ある一部は疑惑の視線。またある一部からは困惑の視線。そして大多数の者からは好奇心でギラつきすら感じる視線を向けてくる顔を座敷から覗かせているのである。

 ついでに言っておくと、この興味の対象の片割れである明日菜には既に尋問が開始されているらしく、女子が使っている座敷から、何やら俺がいる廊下にまで響く大声での必死な弁明が聞こえてきている。

 

『アスナさん、今のあの世界さんとのやり取りはいったい何事ですの!?』

 

『ちょ、いいんちょ近い近い! べ、別になんでもないったら!』

 

『2人揃ってあんな風に顔を突き合わせておいて、なんでもないなんてことがあるものですか!』

 

『昨日まではなんともない感じだったのに今日の朝になってアレってことは……。

 ――昨日の夜に何かあった?』

 

『えっ、昨日の夜って。あ、あ、その……昨日のは別にそんなんじゃ…』

 

『……あのアスナが、ただのしおらしくカワイイ女の子になっている、だと…!?』

 

 やめろバカ、そんな風にしてると俺にまで追及の手が伸びるだろうが。もっと適当に流して躱せよお願いします……!!

 

「――火星(ひのほし)君?」

 

「うぉっ!? ……って、那波か。それに村上も」

 

「う、うん。おはよう、火星君」

 

 などと、明日菜の様子を窺っていたのが不味かったのか。その僅かな時間の合間に近づいて来ていたのだろう、那波が俺の後方から声をかけてきた。

 振り向くと、やはりと言うまでも無く那波と、更にその隣に村上の2人の姿。

 そうして2人の表情を見ると、那波は俺に向かって興味津々と言った顔を、村上も那波ほど露骨では無いものの、隠すつもりも無いのだろう好奇心をアリアリと浮かべた顔をしていた。どう考えても、周りの生徒たちと同じく俺と明日菜のやり取りの様子を目撃したのだろう。

 

「おう、おはよう。……で、もう聞くまでも無く何が知りたいのかわかるから先に言うが、俺も明日菜と同じだぞ」

 

「うふふ、おはようございます。って、そんなにつれない態度をとらなくてもいいじゃないの。ねぇ、夏美ちゃん?」

 

「えっ、私!? ……えーと、その、あのね…」

 

 那波が自分へと振るとは考えていなかったのか、途端にしどろもどろになる村上。俺に聞きたいことはあるものの、どう聞くかはまるで考えていなかったらしい。

 

「……もしかして、昨日からアスナと付き合い始め「断言する。違う」そ、そっかー…」

 

「本当かしら? 火星君はともかく、アスナさんの様子を見ているとそういう類の“何か”が貴方とあったとしか思えないんだけどなぁ……?」

 

「だから違うんだって。俺が明日菜と付き合いだしたとかカレシカノジョになっただとか、そういうことは本当にないんだよ」

 

 とにかくこの場を凌がねばと2人の追及を躱し続けることに。

 そうしてまず村上は俺が「違う」と言ったことでとりあえず納得したのか、理解の言葉と共に息を強く吐き出す。が、その隣のもう1人、那波はそうはいかないらしく、さっきの明日菜の様子を引き合いにだし更に追究してくる。

 とはいえ、そう言われたところで、建前どころか事実、俺は明日菜と()()()()ことをした気は何もなかったと言うしかないので、こちらとしてはやはり同じ返答を返すしかない。

 

「……まぁいいですわ。朝食の時間までそうないことですし、ここは誤魔化されておいてあげます。でも朝食の後にきっと皆お話を聞きに来ると思うから、覚悟はしておいた方がいいわよ? じゃあね、()()君」

 

「えっ、ちづ姉今……う、じゃ、じゃあね。せ、せか……世界くん!」

 

 結局俺が求めた反応は得られないまま、朝食の時間に助けられる形で、何やら意味深な呼び方をして那波と村上は去って行った。

 周りを見ると、那波と同じことを考えたのか廊下には既にほとんど生徒の姿は無くなっていた。座敷の入り口の方も見てみるも、同じく既に顔を覗かせて俺を見てきていた面子も引っ込んでいる。

 

「……俺もメシ食おう」

 

 ……とりあえず、()()からほぼ負の感情を感じなかったことに安心することにし、俺も那波と村上と同じように男子の座敷に足を向けた。

 

 

 

 ○ △ □ ☆

 

 

 

「で、今日は関西呪術協会総本山に親書を届けに行くってことでいいんだな。ネギ」

 

「はい。すみませんが道中よろしくお願いします、世界さん」

 

 次に明日菜と会っても気を動かさないよう、意識して心を落ち着かせながら朝食を済ませてから速攻で部屋に戻り、私服に着替えてから少し。あまり人目に付かない旅館の奥の方にある休憩スペースで、俺はネギと今日の目的である、関西呪術協会へ親書を届けるということについて話していた。

 何故こうして俺が親書のことについてネギと話しているかと言えば、ネギが学園長(じっちゃん)に親書を託された時点で、ネギに総本山までの同行を頼まれていたからである。麻帆良に来てから修練を積み実力が上がった自負もあるらしいネギだが、念には念を入れたいということらしく、俺もそういうことなら、と2つ返事で引き受けたというのが事の次第である。

 

「気にしなくていいぞ。ちゃんと班の奴等からも了解はとったしな」

 

 ちなみに言っておくと、このことを班の連中に伝えた途端、「わかった、何も言うな」だの「後は任せろ」だのと言った後に全員が俺の肩に手を置き、何やら理解したと言う様子でウンウン頷いてきた。腹の立つニヤケ顔をしたコイツらがどういったことを考えているかは言われるまでも無くわかってしまったのだが、どう誤解を解こうとしても同じ反応しか返してこないうえに、ネギとの約束の時間が迫っていたので放置して出てきてしまった。畜生アイツ等、終始ニヤニヤしやがって。

 

「あの、世界」

 

「お、来たか明日菜。それに刹那に……和美もか」

 

「ちょっとー。も、ってのはないんじゃないの。も、ってのは。まあ、わかってはいたけどさ」

 

 そうしてネギと親書についての話を簡単に終えると、廊下の向こうから明日菜、刹那、そして和美がやって来た。

 とりあえずと明日菜の様子を見てみるも、俺と同じく気を静めるよう努めたのか、さっき顔を合わせた時ほどの動揺は見られなかった。

 その隣にいる刹那は他の生徒たちと同様俺と明日菜のことを知っているからだろう。何やら知りたげに俺と明日菜を交互に見比べているも、特に何も読み取ることができなかったのか黙ったままである。

 そして最後の余計なおまけだが、こちらについては特に何も言うことはない。というかわかってたって言うなら来るなよ。

 

「でさでさ世界。アンタ昨日、そこのバカレッドといったい何を」

 

「黙れ。誰がよりにもよってお前にその話をするっていうんだ」

 

「ちぇーっ、2人揃ってつまんないのー」

 

 こいつに何かこのことで一言でも発したら最後、それだけであることないこと付け加えられ、次の日には麻帆良の住民ほぼ全てがそのふざけた内容を知ることになる確率100%である。麻帆良パパラッチの名は伊達では無いのだ。ホント迷惑千万だなコイツ。

 

「とりあえずだ。和美、お前のことについては昨日聞いたから何を聞きたいかはわかってる。でも正直、今はお前に構ってる時間はないんだよ、マジで」

 

「えー、そんなこと言わないでさ。ちょーっとでいいから話を聞かせてほしいなー、なんて」

 

「だから無理だって言ってんだろうが」

 

 正直言って今だけじゃなく、できればずっと御免蒙りたい。頼んで聞いてくれないヤツではないので秘密にしろと言ったらそうするだろうし、その情報収集能力が役立つ時もあるかもしれないが、それでもコイツの普段の行動を考えると気が進まないとしか言えないからだ。

 

 ……よし、ネギを巻き込もう。そんでできるだけ押し付けよう。というか元々、不可抗力だったとはいえこいつの不始末だし。担任のクラスの生徒の面倒を見るのが教師の役目だよね! 

 え? 聞きに来ているのはお前? ネギは10歳? 知らんなぁ(すっとぼけ)。

 

「うーん……じゃあ、京都にいる間は話を聞くのは我慢するからさ。麻帆良に帰ったら、ね?」

 

「わかってるわかってる。しっかり(ネギ先生が)話してやるって」

 

 なんてことを考えながらネギをチラッと見ると、悪寒でも感じたのか身体をブルッと震わせていた。勘のいいことである。今から立派に担任教師としての役目を果たせるようにとお祈りでもしておくことにしよう。

 

「じゃあ、そろそろ今日のそれぞれの動きを確認するか。まず俺がネギと一緒に。それで、木乃香の方には刹那と明日菜が――」

 

 和美との話がまとまったので、改めて今日のそれぞれの行動の確認をし、そしてそれぞれの無事を祈ってその場は解散となった。

 ここまで来れば最早修学旅行、そして木乃香を巡る騒動も佳境である。俺も、しっかりと成すべきと自身に誓ったことを成せるよう努力しなければならないだろう。

 

 

 

 ――修学旅行、激動の3日目が、始まる。

 




・乙女の勘、もといオンナのカンを発揮しガンガンくる3-A
 まあそんなもの無くても何かしらあったのはバレバレだろっていうね。


・女子2人、攻める攻める。
 名字呼びから名前呼びに変わっただけとはいえ、その内心は推して知るべし。


・ネギ、震える
 まあ実際仕方なかったとはいえ、バレた原因そのものだしね。しかたないね(すっとぼけ)。



 はい3日目の始まりですよー、ということでまずはさらっと。
 さあ、タイトル通りここからが長いぞー……(震え声)

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