シリアルに生きたい   作:ゴーイングマイペース

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 書いてて超楽しかった(小並感)


36時間目 : 修学旅行2日目:夜その2 ~今こそ原作メインヒロインの貫禄を見せつける時~

 それはもう深夜と呼べる頃に差し掛かりかけている時間、既に人の気配も無い旅館のロビーでのことであった。

 

「世界ッ! 私と、その、キ、キ、キ、キチュしなさいッ!!」

 

「……えっ」

 

 カモの奴から連絡を受け、和美についての説明でもしてくれるのかと出向いてみたと思ったら、今までそういった気配を微塵も見せることなどなかったその幼馴染から「キスしなさい」と言われました。な、何を言っているか(ry

 そうだ、ついでに言っておくと先の「……えっ」には2つの意味があって、1つは唐突にキスを求められたこと。もう1つはその台詞で噛んだことであってああもう理解が追いつかねえ!

 

「~~~~~っ!」

 

 ちなみに色々な意味で衝撃の台詞をぶつけてきた当の本人はというと、かなりの覚悟を乗せての発言だったのからか、それともよりによってその発言で噛んでしまったからか。普段の勝気な表情はすっかり消え去り、その表情を額から首まで真っ赤にさせて俯き、そしてわずかに見える口元を噛み締め震えていた。

 

「(おい、どういうことだカモ。お前明日菜に何を吹き込んだ)」

 

「(へっへっへ。なに、親友を守れる力が欲しいと仰る健気な姐さんにちょいとアドバイスをしただけですよ)」

 

 とにかくこのままではどうしたらいいのかわからないので、明日菜の足元でグフグフと気持ち悪く笑っていたエロ小動物が犯人だろうと当たりをつけ問い詰める。

 すると何やらすっとぼけた回答を返してくるが、コイツが関わっていてしかも「キス」という単語が飛び出てきている以上、十中八九明日菜が俺に求めているキスとは『仮契約(パクティオー)』のことだろう。

 

「…ちょっと、黙ってないで何か言ってよ。バカせかい……」

 

「うぇっ? あ、その、えーっと」

 

 などとカモと短い会話を交わしたところで、明日菜がこれまた普段の俺への態度からは考えられないようなしおらしい声を、顔を俯かせた姿勢はそのままに発してきた。

 ……まあ、とにもかくにもとりあえず、だ。

 

 ――誰か、俺を助けてください。

 

 

 

 ○ △ □ ☆

 

 

 

「(言っちゃった、言っちゃった、言っちゃった。いくらこのかの為だって言っても、あの世界に私が、「キスしてほしい」だなんて……!)」

 

 明日菜は自分の顔が真っ赤になっていっているだろうことを顔の熱さからイヤという程よく理解し、今すぐこの場から逃げ出したいほどの羞恥に駆られていた。

 そして、今自分の目の前にいる幼馴染も、口を開いてすぐに顔を伏せてしまったためその表情を見やることはできないが、きっと唖然としたものをその顔に浮かべていることだろう。

 

 ここまで考え、自分は何故よりにもよって、この今よりずっと昔からよく知っている幼馴染相手にこんなことを言っているのだろう、と自分の足元でニヤニヤとその一見愛らしい見た目にそぐわないような親父臭い笑みを浮かべる小動物の口車にまんまと乗せられてしまったことに、今更ながらに強い後悔が湧いてきていた。

 

 それはほんの少し前、カモの呼び出しに応じすっかり周囲から人気の無くなったこのロビーにやって来た時のこと。

 

『カモー、来たわよー』

 

『おう、来たな姐さん』

 

『うん。……あれ? ネギは何処にいるの?』

 

 昼の相談から時間を貰い、そうなんでもかんでも都合よくいくはずもないのだと覚悟を決めてやって来た自分。

 そして、きっとロビーでは自分との『仮契約(パクティオー)』の準備を万端済ませたネギとカモが待っているのだろうと考えていたのだが、その想像と違いその場にいたのはカモ1匹であり、その飼い主であるネギの姿はロビーのどこを見てもいなかった。

 

『それなんだがな、姐さん。俺もあれから姐さんがああまで拒否した乙女心を鑑み、色々と考え直したんだが……どうだ姐さん、ここはネギの兄貴とじゃなくて、世界の旦那と『仮契約(パクティオー)』するってのはよ』

 

 これはいったいどういうことだと、疑問を浮かべた顔をそのままカモに向けると、その途端カモは何やら意地の悪い表情を浮かべ、今自分が激しく羞恥に悶える原因となっているアイデアを提案してみせたのだ。

 

『え、世界って……。

 ――ハ、ハァッ!? 何ソレ、アンタ、ネギとの『仮契約(パクティオー)』だって言ってたじゃない! それがどうして世界とすることになってるのよ!?』

 

『だから言ったろ、姐さんの乙女心を慮ったんだって。どうせ『仮契約(パクティオー)』するんなら、イヤイヤながら兄貴の従者になるよりも、そんなイヤだなんて思いもしないような相手とする方が姐さんも気持ちよくこのか姉さんの為に頑張れるってもんじゃねぇか』

 

 どうせならイヤじゃない相手と。なるほど、それは確かに一理あるだろう。自分もどうせならイヤイヤなどではなく、好ましい相手とのキスの方が望ましい。なにしろ自分はまだキスどころか、男性と付き合うといった経験すら皆無なのだ。

 

『(それに、ま、まあ世界も幼馴染補正アリならカッコいいところが無いって言えなくもない所もあるし? そうよね、キスするのも別に、アイツ相手なら別にイヤってわけじゃ……)――って違う違ーう! 問題はそこじゃないのよーッ!

 私が好きなのは高畑先生なんだって前にもアンタに言ったでしょーッ!!? それがどうしてネギがイヤだったら世界とキスすることになるのよーッ!!!』

 

『まあまあ、落ち着けって姐さん。ちゃーんと説明はするからよ。

 まずは確認なんだが、俺ぁ昼間に言ったよな姐さん。姐さんの言う「今すぐ」を本当に今すぐするなら、俺っちにはこれしか方法は用意できないって。

 それにだ、姐さんも、こうして俺っちの呼び出しに応じてくれたってことは、()()()()()()()()ここに来たってことだろ? ン?』

 

 拒否するも、図星を突かれてぐうの音も出なくなってしまった。そうなのである、カモの言った通りなのだ。このままじゃ本当にこのかの為にたいしたことはできなくなる。それならもう、背に腹は代えられない、と。つまり、自分はわかっていてこの場にやって来た。そう、それは確かだ。

 かと言って、それも相手がネギだと考えての覚悟であった。それがなんで、いつの間にかあの幼馴染相手にキスをすることになっているのだ。

 

『まあ俺も兄貴の使い魔としちゃあぜひ姐さんには兄貴の従者になってもらいたかったトコなんだがな。

 だけど、そこで俺はしかし、と考えた。そもそもこの件は姐さんの願いだし、姐さんの意見をまず第一に尊重するべきじゃねえか、とな。それなら、ああも嫌がっていたネギの兄貴よりかは、姐さんがよく知っている幼馴染で兄貴と同じ魔法使いの世界の旦那の方がいいと思ってよ』

 

『け、けどだからって、世界となんて、そんな、私……』

 

 何やら自分のことを思ってというかのような趣旨の発言が聞こえてくるが、違う、自分が反応しているのはそういったことではないのだ。

 とりあえずと、明日菜はカモに提案された件の幼馴染を脳裏に描いてみた。

 まず容姿。日本人の男によくあるようなそこまで長くない黒髪に黒目に、同年代の男子たちの平均と比べれば十分に高いだろう身長。そしてそうカッコいい部類というわけではないが、キリッとしていればカッコよく見えてこなくもない顔。まあ自分が幼馴染というのもあってフィルターがかかっているところもあるかもしれない評価だが、そう目立って長じたところがある容姿では無いだろう。

 次に内面。普段から自身のことを野生児扱いするなど腹立たしいところもあるが、それもお互いわかっていてやっていることである。そして、そういった関係を長年幼馴染として続けてこれた以上、強く信頼の置けるものであるとわかっている。

 ここまで考えて、そして自分はあの幼馴染とキスできるのかと考えてみた。少なくとも忌避感は無い。むしろあの10歳の我が担任とキスすると考えるよりかは遥かに好ましいと……

 

『~~~~~ッ!!!?』

 

『な、イヤじゃないんだろ? なら決まりだ。それに、実はもう旦那をここに呼び出してもいるんだ。じきに来るだろうから、姐さんは旦那への口説き文句でも考えておいてくれよ』

 

『ちょっ、そんな、待って――』

 

 結局、こうして碌に考える時間も与えられないままにカモの良く回る口とその勢いに押されての、先の「キスしなさい」宣言なのであった。

 

「……その、だな。ネギからお前が今日したっていう相談の内容を聞いた。だから、お前が何を考えてこんなことをしてるのか、わかってはいるつもりだ。

 でもだ、他に好きな人がいる身でわざわざ『仮契約(パクティオー)』なんかしなくても……」

 

 そうして、自身にとっては数時間かと思われるような時間が過ぎ去ったあと、頭上から自身に向かっていかにも躊躇いがちな言葉が降ってきた。

 わかっていたことである。なにせ、自分は普段からこの幼馴染に憧れの男性についての話をしているのだ。それを思えば、この反応は至極当然、非常に真っ当な気遣いだと言えよう。

 しかし、それでは困るのだ。自分は、親友の、このかの為ならば多少のリスクも已む無し、と割り切ってカモの誘いに乗りこの場に来た。そして、そのカモが世界と『仮契約(パクティオー)』を結べと言っている。

 なら、絶対にこの男に首を縦に振らせねばならない。そう考えた明日菜は、未だに火照りを残す自分の顔を自覚しつつも顔を上げ、キッと目の前の幼馴染の目を真っ直ぐ見つめ、口を開いた。

 

「ま、まあ確かに? 私が好きなのはアンタが言うとおり高畑先生だけど! それでも、その、……そう! このかを守るためにね! だからこれはあくまで仕方なくなのよ、仕方なく!」

 

「イヤお前、分かってるのか? このエロ小動物、その為に俺達にキスしろって言ってるんだぞ。お前だって今言ったじゃんか。高畑先生が好きだって。

 それにだ、そもそもお前がそこまでする必要なんてねーよ。確かに、昨日の夜に敵の式神2体を纏めて返してみせたお前の力はなかなか凄いものだったけど、それでもお前が、たとえ木乃香の為だって理由があったとしても身を削ることなんてことまでしなくていいだろ。だから……」

 

 とにかくまずは、自分は木乃香の為なら多少のリスクは厭わない覚悟でここまで来たのだと伝えようとするものの、返ってくるのは当然のように芳しくないモノ。

 もちろん、世界が何故こうまで気遣ってくれるかわからない明日菜ではない。

 そう、いくら今危険に晒されている木乃香が明日菜の親友とはいえ、それは決して明日菜がほんの僅かでも魔法の世界に足を踏み入れることとイコールでは結びつかない、結びつける必要などないのだと言っているのだ。確かにそうだろう、世界の言うことは何も間違ってはいない。

 しかし、自分も昼から悩みに悩んでこの場に来た。そうして抱いた覚悟は、決して生半可なものではない。

 だからこそ、絶対に了承させなければ。木乃香の為だという自分の覚悟を、決して嘘にしない為にも。

 

「お、男のくせにゴチャゴチャうるさいわねっ。いいのよ、私がいいって言ってるんだからっ! それにこれは()()()()意味でのキスなんかじゃないんだから、ノーカンでいいの、ノーカン!!」

 

 そうだ。だからこれは、あくまでこのかを守る為、自分の覚悟に嘘など無いと示すための行動であって、決して邪な感情からの行動などではない。故に、最早この『仮契約(パクティオー)』に含むものなど一切ないのだ。

 

 そう、自分が普段何度も目の前の男に話している通り、自分の想い人とはタカミチ・T・高畑その人なのだから。

 

「で、どーするの!? するの!? それともしないの!?」

 

「……わかった、するよ。でも、本当にいいんだな?」

 

「だ、だから何度もいいって言ってるでしょ! ほら、カモ!」

 

「うへへ、待ってましたっ。

 そんじゃあいきますぜぇっ! 『仮契約(パクティオー)』ッ!」

 

 そうして強く言葉を重ねること数回。決して納得した様子は見せないものの、自分が何を言っても決して考えを曲げはしないだろうと観念したのだろう。やっと自身の考えを受け入れた幼馴染と共に、自身にこの計画を薦めてきた妖精の作った魔法陣へと入っていった明日菜であった。

 

 

 

 こうして麻帆良中学校修学旅行2日目の夜、ある1組の魔法使いのパートナーが誕生することになった。

 




・噛んだ
 カワイイ。


・いやぁ、立派な理由ですねぇアスナさん
 なお、なぜああも脳内で必死に理由を作っていたのかは(ry


・主人公、結局頷いちゃいましたね。
 ネギがやってきた際の出来事についての負い目と、こうなったらいっそ自分の目の届く範囲に居て欲しいという打算が混ぜこぜになり、主人公は明日菜にこの件で強く言えなかった、という裏話。
 何気に前話のカモの推理は、少なくとも1部は的を射ているところがあったわけですねー。


・1クラス丸ごとに先生まで巻き込んだ騒動なんて無かった
 (何の問題も発生しなかったとは言ってない)



 というわけで36話でした。前書きでも触れましたが、正直今回の話は書いてて物凄く楽しくて、筆がもうスイスイと進みました。やっぱりどんな展開よりも、こういう展開が執筆していて一番充実した時間を過ごせます。

 そう、つまるところ魔法バトルだろうが世界滅亡の危機だろうが、そういう周囲の環境など所詮は全てラブコメに彩りを添える為のおまけに過ぎんのだよ!(極論)



 では今回はここまで。感想、評価もどんどん送ってきてください。お待ちしています。



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