学校が終わると、「今日も一日終わったー!」って気分になることってのは、あんまり珍しくないんだよね。実際はまだ四時とかそこらなわけなんだけどさ。
そんな気分で更に夜、家族でどっかに行ったりすると時間の感覚が少し曖昧になる気がする時があったりするんだけど、そういうのって私だけなのかな、結構それって不思議な感じがするもんだよ。
でも今日は......特に用事はないかな。
帰りのチャイムがなると、直ぐに何人かの友達が集まってきた。集まると、ニコニコしながら二人の子がそろって言う。
「「帰ろー?」」
その二人は、ハモったねー、とか言いながら顔を見合わせている。
私は笑顔で返す。
「そうだね、帰ろー!」
私がそう返すとすぐにその二人の後ろにいた担任が丁度思い出した様に言った。
「あ、そこの二人とも今日追試だから」
私は一応、合格したテストだったから良かったね。でも、その二人は落ちたみたいで、少し残ることになるらしい。
ここでふたつの選択肢ができちゃって、そこらへんの対応が難しかったりするんだよね。
その一、二人を待って一緒に帰る。
その二、一人で早く帰る。
一瞬、待とうかなと思ったけど、今日はそんな気分でもないし、お兄ちゃんだったらどうするかなぁ、と思ってしまったのもあって悩みどころ。
二人を待つのは、私にとっては本当に何気ないいつものことなんだけど、待ちたくもないのに待つのは、お兄ちゃんならきっと「そんなの欺瞞だ」だのなんだの言うだろうと思って、私は思いきって言った。
「あー......ごめん。今日ちょっと早く帰るね、じゃあね!」
二人も仕方ないねー、って感じだったのでそのまま塾に向かう。
......あれ、私ってもしかしてぼっち?
まあ、気にしないっと。
***
「......小町さん?」
......ああ、来た。
といっても、別に嫌いじゃないんだよ? 特別好きでもないけどさ。ただ、仲が良くなっただけ。そう、大志君のご登場です。
「あ~、大志君。今日も疲れたね~」
「そうだねー。ちょっといい?」
何だろ。まあ、暇だしいっか、塾も終わったし。大志君は少し急いで私の前の席に座る。
「前に話した姉ちゃんのことなんだけど......」
......これ、長くなるかなぁ。前もちょっとって言って結局、十五分くらい話した気がするし......よし、ファミレス行こう。丁度なにかちょっとしたもの食べたかったし。
「それならファミレスでも行って話さない?」
そう言うと、大志君は急に明るい様子で答える。
「そうだね、小町さんがそれでいいなら!」
大志君、声が大きいよ。ノリノリだね......その点お兄ちゃんはそういうのに気を遣わなくていいんだよね。
まあ、たまに声が小さすぎて何言ってんのかよく分かんないこともあるけど。
***
「......ってことがあって、姉ちゃんが大丈夫かなって思ったんだけど」
大志君はいかにも心配ですって感じで話してくる。
ていうか大志君、話下手だなぁ。「お姉さんが働いてるところから電話がきた」って話するだけで三十分くらいかかったよ......聞いてて疲れちゃった。
「そっかー、大変だねぇ」
「姉ちゃん大丈夫かな......」
「私も結構気になるなー、それ」
「だよね、ありがとう......」
うん、別に褒めてないよ?
「でも、今日は終わりにしてさ、また今度話そう? お兄ちゃんにも訊いてみるからさ?」
「そうだね、うん」
大志君はのろのろと立つ。私も立ってから、席に忘れ物がないか調べていると気がついたことがあった。
お兄ちゃんが......女の子と......一緒に......しゃべってる......しかも二人......。
数秒間あっけにとられてたけど、直ぐに頭を働かせる。
ヤバイ! 見つかったらお兄ちゃんに色々とされる! その他にも色々と問題はあるけど、一番はそれだね。
でも一応......楽しそうで良かったかな? あんなに楽しそうに同級生としゃべってるお兄ちゃん、見たことなかったなぁ。まあ、きっと良いことなんだと思うよ。
一人は明るめの茶髪で、もう一人は普通の黒髪か......悪い人達じゃなさそうで良かった。お兄ちゃんに自分から関わってくれる人って、ほとんど悪い人はいないんだけどね。
「小町さん?」
振り替えると、大志君がレジで心配そうな顔をしていた。
「あ、ごめん!」
謝りながら急いでレジに向かって自分の会計を済ませると、また謝った。
「ごめんねー?」
そう言うと、大志君は笑って答えた。
「いや、俺の妹とかもよくそういうのあるから慣れてるよ」
「あ、そうなんだ!? ちなみに何歳?」
「まだ俺達の年齢の半分もいってないよ」
「あちゃー、私の頭まずいね......」
そんな会話をしながら、私も自然と笑顔になってお店を出ていこうとすると、後ろの方で聞いたことのある声がした。
「あ」
ちらっと後ろを見ると、茶髪の人がこっちを見ていた。......知り合いだったっけ? そして一番恐れるべきは、その隣からこっちに向かって走ってきたお兄ちゃん。いや、やめて。怖い、お兄ちゃん怖いよ。
こんな状況で落ち着いてはいられないので、急いでお店を出ると、直ぐに大志君と別れる。
「じゃあねっ!」
「あ、うん」
大志君は、あれーって感じの声をしながらも見送ってくれた。
......見つかっちゃたかー。でも、茶髪の人、知ってるような知らないような......
***
「なあ小町?」
お兄ちゃんは、帰って来ると同時に話しかけてきた。......こりゃあ、今日のこと訊かれちゃうかな。
「ん、どしたの~?」
あくまでいつもどうりに、普通に振る舞う。
「いや、なんでもない......」
「そっか、おっけ~」
よし、回避! こっからは小町のターン!
「奉仕部どう?」
「あ? まあ、良いんじゃないか? 人付き合いなんてしばらくしてないもんだからよく分からんけど、まあ、悪くはないってとこか」
「へぇー、良かった良かった。」
思わずニヤニヤしちゃうな。
「何で笑ってんだよ、怖ぇよ。お前あれか、ペッパー君みたいにいっつも笑ってんのか?」
「ドクターペッパーって笑ってるっけ?」
「ドクターペッパーじゃねぇよ......アホか、お前」
ペッパーってドクター以外に何かあったっけ?
あっ、前にお父さんが貸してくれたCDにそんなのがあったような......。
「サージェントペッパーって笑ってたっけ?」
「笑ってねぇよ。むしろ何でそんなの知ってんだよ。前世の記憶とかあんのかよ」
んー、なに言ってんだろ? 難しくて分かんないや。
まあ、とにかく、奉仕部の人も良い人達みたいで良かった。お兄ちゃんが幸せなら、小町的にはそれで十分だよ。今の小町的にポイント高い!
さて、小町も幸せになるためにがんばろうっと!
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更新が遅くなりましたが、これからもよろしくお願いします。
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