新しく仲間になったクレマンティーヌをどうするか考えるクロム。人数が多いに越したことはないが……クレマンティーヌは相当な人格破綻者だ。帝国に連れて行くのはちょっとどころかかなりのリスクがある。かと言って、一度ナザリックに帰還するのは時間の無駄とも言える。まあ、先程まで迷子になっていた者の言うことではないが、結局クレマンティーヌを連れていくことにした。
「クレマンティーヌ、お前は冒険者の時の名はエクレだ。分かったな?」
「はい、アナタ!」
「アナタじゃありません、お前の主です」
「え~?だってぇ、私達ぃ、あんなことやこんなことまでしちゃったじゃないですかぁ」
「誤解を生むようなことを言わない」
「またまた~。嬉しいくせに」
と、脇を肘でつついてくるクレマンティーヌ。クロムは怒らないが、シュルツはクレマンティーヌの態度に怒りを覚えていた。
「クレマンティーヌ!主に向かってなんですかその態度は!」
「あー、ほんっとシュルっちゃんはお硬いよねー。もっと気楽に行こうよー」
「変な呼び方をするんじゃない!」
「お硬い上に短気。困るよね~」
「殺すぞビッチが!」
「やってみろよ!英雄の領域に達していたこのクレマンティーヌ様が相手してやるからさぁぁぁぁぁ!!」
「はい、そこまで」
クロムが両者の頭にチョップする。そこまで強く叩いていないが、二人は涙目でクロムの事を見た。
「あのな~、喧嘩するんだったらお前ら二人とも待機させるぞ?」
「「私達仲良しです!」」
「よし。それじゃあ帝国に行くとするか」
「あ、ちょっと待ってクロム様。帝国に向かう前に渡しておきたいものが……これなんですけど」
クレマンティーヌが取り出したのは何かのアイテムだった。ただし、ユグドラシルでは見たことが無いアイテムだった。
「コレは?」
「叡者の額冠。アタシの所属していたスレイン法国の最秘宝のアイテム。実はアタシ、このアイテムをある男に届ける為に盗み出したんだよね~。まあ、それでスレイン法国の連中が追手として風花聖典の連中を送り出したのには驚いたけどね。てっきり、ニグンの陽光聖典が来ると思ってたんだもん。まっ、そのニグンは既にクロム様の配下になっていたってのは驚いたよ」
「このアイテムの効果は?」
「叡者の額冠の効果は、着用者を「2階位上まで」という条件を無視した《
「リスク……ね」
「使用者はただアイテムを吐き出すだけの道具になると言っても過言ではないし、外せば使用者は発狂する。しかも適合者は100万人に1人」
「リスクデカすぎだろ。そんな危険なアイテム……実験に使わせてもらおうじゃないか!」
クロムは叡者の額冠の説明を聞いている時、その眼はまるで初めて見たおもちゃを触るような子供のような無邪気な目をしていた。
「まあ、こいつは貰っておく。さっ、行くぞ!」
「はい!参りましょう!」
「さ~て、どんな旅になるのかなー」
三人は帝国を目指し、道を歩くのだった。
その頃、モモンことアインズはナーベラルとともにエ・ランテルに到着していた。エ・ランテルに到着して初めにしたことは冒険者としての登録。これはあまり時間がかからなかった。モモンとナーベラル二人の冒険者の証を受け取り、宿へと向かったのだが……そこの客はモモン達と同じプレートの冒険者が集まる宿で、言わば駆け出しのための宿と言ってもいい。
「二人部屋を頼む」
「……相部屋じゃなくていいのか?」
「ああ、二人部屋でいい」
「お前さん、まだ駆け出しの冒険者だろ?冒険者組合の奴にここを紹介されたんだろうが……どうしてか分かるか?」
「どうでもいいことだ」
「……ああ、そうかい。一日7銅貨だ。当然、前払いだからな?」
モモンは宿主に銅貨を渡し、部屋を向かおうとしたのだが、酒を飲んでいた連中の一人がワザと足を出してきた。モモンはやれやれと思いつつもそのまま素通りしようとすると、足がぶつかった。足を出してきた男は、
「おう、兄ちゃん。痛ぇじゃねぇか」
と、喰いかかってきた。
「………」
モモンは何事もなかったかのように通り抜けようとしたが、男がモモンの肩を掴む。
「おいコラ。無視してんじゃ…ッ!?」
次の瞬間、男の視界は反転していた。男はモモンによって投げられたのだ。男は他の客が座るテーブルに投げ飛ばされた。その男の仲間たちはモモンに対して武器を抜こうとするが、それよりも先にモモンが先手を打つ。
「お前達はガゼフ・ストロノーフよりも強いか?」
「は?」
ガゼフ・ストロノーフ、その男はリ・エスティーゼ王国の王国戦士長を務める者だ。アインズがカルネ村にいたときに尋ねてきたのがガゼフだった。ガゼフの強さは推定だが、クロムから聞いている。一般人では敵わない。上級冒険者でも勝てるとまで断言はできないレベルらしい。それに比べて、今モモンに絡んできた男は鉄プレートを首にかけていた。
冒険者のランクは一番下が銅、次が鉄、そして銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトとランク付けされている。要するに、ガゼフと戦えるのはオリハルコンレベルの冒険者ではないといけない。だが、男たちのプレートは鉄。話にならない。
「正直に言って、私はあの王国戦士長レベルの強さだと自負している。それでも戦うというのなら……手加減はしない」
「い、いや、遠慮しておく」
「そ、そうだな。俺達は関係ないしな」
「そうか、それでは……「うっぎゃああぁぁぁぁぁ!!」……何事だ?」
絶叫のした方に視線を向けてみると、モモンに投げ飛ばされた位置のテーブルに座っていた女がこちらを睨んでいた。女は一切の迷いもなくモモンの前に来ると、
「ちょっとアンタ!何てことしてくれるのよ!」
「は?」
「アタシが食事を抜いて節約に節約を重ね、必死になって溜めた金で今日……今日!買ったばかりのポーションをアンタが壊したのよ!」
「私が?いやいや、全てあの男の自業自得だろ。あの男が掴みかかってきたのが悪い。請求するならあの男にするべきだ」
「……昼から飲んだくれてる連中にそんな金あると思うの?ポーション一つ金貨一枚と銀貨十枚よ?大体ね、アンタそんないい身なりしてるならポーションの一つでも持っていてもおかしくないのよね」
「……まあ、治癒のポーションを持ってはいるが……これを渡せと?」
「アタシがどれだけ……」
「わ、分かった。分かったから少し待て。……ほら、これで問題はないな?」
「……まあ、一応はね」
「では失礼する」
今にも剣を抜きそうなナーベラルを連れ、二人部屋へと向かう。二人部屋に入ってすぐにしたことは、魔法による盗聴はされていないかどうかだ。いくら二人部屋だと言っても魔法などで話を聞くことが出来る。
「モモンさ――――――ん、盗聴などの魔法は使用されておりません」
「そうか。それでは今後について話をしよう。まず、当面の目的は私達の名をエ・ランテルに広めることだ」
「モモンさ――――んならすぐにできます」
「それは分からないぞ?この世界では未知のモンスターが生息している可能性もある。それに……アダマンタイト級の冒険者になるには国が壊滅するような危機を解決せぬ限り不可能だ。普通に依頼をこなしていてもオリハルコン止まりだろう」
「と、いうことは……大惨事が起きればいいということですね」
「うむ、その為にはクロムさんの力が必要になるかもしれん」
「クロム様のお力……ですか?」
「ああ、あの人にしか使えないアイテムがある。それを使用してもらえば……アダマンタイトなどあっという間だ」
「そのようなアイテムを所持されておられるのですか……流石は至高の御方」
「今日はこのまま宿で待機するとしよう。本格的に行動するのは明日からだ」
「承知しました」
こうして、二人のプレイヤーが本格的に動き出したのだった。
というわけで、叡者の額冠ゲットしました~!