クロムがカルネ村に戻ると、アインズが騎士と話をしていた。
「あの騎士……どうやら先程すれ違った騎士のようです」
「だろうな。さて……どうするべきか」
クロムがアインズに話したいことがあったのだが、今はムリそうだ。ならばと、クロムは腰のポーチに入っている物を取り出した。それは青白い焔だった。
「おお……それが魂ですか。綺麗なものですね」
「ドゥルガーの意見に同意だ!」
「まあ、俺も綺麗だとは思ってるぞ」
クロムの手の上にある焔は、先程の連中の魂の一つだった。死神にしか使えないスキル、《魂狩り》。その名の通り、対象の魂を狩る技だ。狩るというよりも抜き取るという表現の方が正しいのかもしれないが、このスキルはレベルの差によって成功するか失敗するかが決まる。正確なレベルは分からないが、ユグドラシルでは50レベル以上は50%の確率で成功していた。
この魂狩り、ユグドラシル時代ではまさに鬼畜だった。魂狩りによって魂を抜き取られたアバターは使用不可能になり、強制的にログアウトさせられる。魂を取り射返さない限りアバターを使用することが出来ないので、ナザリックに攻めてきた連合軍はクロムが出た瞬間、距離を取り始めるということがあった。更にこのスキルによって抜き取った魂はクロムにとっては回復アイテムと同じ存在だった。レベルによって回復量が変動するが、食べられた魂は消滅し、あるべき場所へと帰る。魂を食べられたプレイヤーはレベルが減少している。つまり、魂狩りを喰らうということは、アバターを凍結され、魂が帰って来たとしてもレベルが減少するという最悪のコンボなのだ。
「ですがクロム様はその魂を一体どうするおつもりなのですか!?」
「落ち着きなさい。クロム様の御前で暑苦しい。ですが、私も気になります」
「まあ、隠すことでもないからな、実はある実験を行おうとしてるんだ」
「「実験?」」
「ああ」
クロムが行おうとしているのは、人間種を別の種族へと転生させようとしていたのだ。ユグドラシル時代ではできなかったことだ。別の世界なら成功するかもしれないと期待したのだ。
「それにこれが成功すればナザリックの戦力を確保できるからな。あ、別にお前らが頼りないって言ってるわけじゃないぞ?お前らは強い、強いが、今こうしてナザリックから離れているわけだ。そこで、お前らには劣るが戦力は多いに越したことはないと言いたいだけだ」
「いえ、私たちなどモモンガ様とクロム様の足元にも及びません」
(……そんな事もないと思うんだがなー)
この世界では一般的にレベルが低いと断言していい。先程仕留めた男も20前後だったのだ。この世界ではユグドラシルのプレイヤーと同等に戦える相手は存在しないとクロムは思った。
他にどんな相手がいるかは分からないが、最高で50いくかいかないかと言ったところだろう。
『クロムさん。そちらはもう片付きましたか?』
アインズから
「とっくのとうに終了しているさ。一度ナザリックに帰還するか?」
『そうですね。一度ナザリックに帰りましょう。ここでは目立つので村から離れたところで合流しましょう』
「了解だ」
そう言って
ナザリックに戻り、アインズは第10階層に全てのNPCとPOPモンスターたちを集めた。アインズは玉座に座り、クロムはその後ろに立っている。
「皆の者、良く集まってくれたな」
「滅相もございません」
アルベドが言う。
「私達はお二方の所有物同然。お二方の為ならばこの命、捨てる覚悟は皆あります」
当然だと言わんばかりに全員がうなずく。
「……そうか、それではまず一つ。伝えることがある。その前に《
モモンガが掲げられている自身の旗を燃やす。
「私は名前を変えた。これより私の名はアインズ・ウール・ゴウンだ。私の事を呼ぶときはアインズと呼べ。何か異論ある者は立って示せ」
アインズは守護者達にそう言った。しかし異論ある者は一人もいなかった。
「ご尊名伺いました。いと尊きお方に、絶対の忠誠を。アインズ・ウール・ゴウン様万歳」
「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!!」」」
「至高のお方々のまとめ役であられるアインズ・ウール・ゴウン様、そして至高のお方々の信頼をもっとも得ていたクロム様に私どもの全てを奉げます!」
「恐るべき力の王アインズ・ウール・ゴウン様、クロム様、全ての者が御身の偉大さを知ることでしょう!」
守護者が、NPCが、シモベたちが唱和し、万歳の連呼が玉座の間に広がる。アインズが手を挙げる。
「はいはい、お前ら落ち着きなさーい。アインズの話はまだ終わってないぞ」
クロムがそう言うと、全員が沈黙する。
「すまないなクロムさん。これよりナザリック地下大墳墓はこの世界についての調査を開始する。その為に…セバス」
「はっ」
アインズに名前を呼ばれたセバスは顔を下げながら返事をする。
「お前にはこれよりこの世界の調査に向かってもらう。ソリュシャンを連れ、どこかのご令嬢とその執事という設定で調査に行ってもらう」
「「承知しました」」
セバスとソリュシャンは何も文句を言わない。寧ろアインズとクロムの役に立つためなら何だってするだろう。
「さて、私からは以上だが……クロムさんは何か言うことはあるか?」
「俺か?まあ、一つだけ言っておくが……俺はしばらくナザリックに戻れないと思う」
クロムがそう言うと、玉座の間が騒がしくなる。
「ク、クロム様?それはどういうことでしょうか?」
「俺が訪ねた村で聞いた話なんだがな……どうやらこの世界では冒険者は職業みたいな存在らしくてな?冒険者という立場からの情報収集をしようかと考えてたんだ。アインズはセバス達を調査に出すって言ったが、それはあくまでその国についてなどの情報しか集まらない。だが、冒険者ならば?もし、仮にもナザリックが発見され、探索に来るという情報を知っていたとしたら便利とは思わないか?」
「……なるほど、クロムさんの言うことも一理あるな」
「まあ、ナザリックの警備を突破できる相手なんていないと思うが、ここは元いた世界じゃない。なら少しでも出費のかかる罠の使用とかは避けたいところなんだよね」
全員が納得する。確かに普通に情報収集したとしても得られる情報は少ない。だが、冒険者と言う肩書があれば様々な情報を入手することが出来る。それに金銭面での問題も多少はカバーできる筈だ。
「流石です!アインズ様に劣らないその知力、感服いたします」
デミウルゴスがそう言うが、クロムはただ息苦しいところで働くよりも自由に働く方が気楽でいいのだ。
「という訳だ。何か異論があったら立ってくれ~」
クロムの提案にも異論がある者はいなかった。
「では、それぞれナザリックの為に働いてくれ」
「「「はっ!」」」
全NPCがいなくなった玉座の間でアインズとクロムは話をしていた。
「クロムさん……一人だけ冒険者として動こうとするなんて卑怯ですよ」
「いやいや、それならモモン…っと、今はアインズだったな。アインズも冒険者すればいいんじゃね?」
「……ですが」
「ナザリックの事ならアルベドっていう優秀な部下が何とかしてくれるだろう。あと、そのアルベドに聞いたことなんだが……恐怖公に命令して独自の情報ネットワークを形成中だそうだ」
「恐怖公……ですか」
「ああ、そこで俺からの提案なんだが……ジャックを使おうと思う」
「ッ!?アレをですか!?」
「ああ、ジャックは俺の命令なら聞くからな」
「……わかりました。今は分からないことだらけなので、許可します」
「よし、んじゃ会いに行くとするか。もちろんアインズも一緒にな」
「え?」
アインズは抵抗する暇もなく、クロムと第八階層にある死者の館へと転移するのだった。
遅くなりました!!
マジですいません!!