アインズとクロムがアンデッドの作成を始めてから既に一週間が経っていた。アンデッドの数はとてつもない量になっていた。
「さて、アインズ。頼んでおいたことはしておいてくれたか?」
「ああ、数日前にしておいた」
クロムがアインズに頼んだことと言うのは、リザードマンの集落に使いを送ることだった。降伏か戦争か選ばせるために遅らせたが、十中八九戦いを選ぶだろうとクロムは予想していた。周りには他のリザードマンの集落もあるようだったので、協力して戦えば勝てると判断したのだろう。ただ一言だけ言えるのは、戦う相手が悪すぎるということだ。
こちらはアンデッドの軍勢。死に対する恐怖も、躊躇もない。なんのためらいもなく相手を殺すことが出来る。それに比べてあちらは理性もある、感情もあるときた。アンデッド相手なら躊躇はしないだろうが、死への恐怖はある。戦意喪失も考えられる。相手の戦意が喪失してしまえば、後は圧倒的な虐殺の始まりだ。
「これ相手になるのかね?」
「さあ?それはわからないが、一方的な戦いになろうが私的には構わない。コキュートスがどのような指揮をとるのか気になる」
「それは俺も気になるけど……一方的な戦いじゃ物量で押して終わりってことになるかもしれないぞ?」
「……否定できないな。こちらはアンデッドの軍団だからな」
二人はため息をついた。ちょっと選択間違えたかな……と思いながら。
そして、コキュートスとその配下、そしてアンデッド軍団がリザードマンの集落近くに建設したキャンプへと向かってもらった。シャルティアとアインズの
「デハ、行って参リマス。アインズ様、クロム様」
「おう、戦果を期待しているぜ」
「コキュートス、期待しているぞ」
コキュートス達は
「……さて、俺も行くとするか」
「?どこに行く気だ?」
「そりゃコキュートスの後を追うのさ。俺はこの眼で見てみたいのさ」
「別に
「でもそれ鏡越しジャン?俺は間近で見たい!」
「……わかった。ただし、護衛はつけて行ってもらうぞ?」
「大丈夫大丈夫。今回はジャック、オー、ランタンの三人連れてくから」
「ちょっと待て!その三人は連れて行ったら不味いだろ……」
「えー?だって暇そうじゃん」
「確かにこの世界の人間がナザリックに入ってくることはないが、いざという時に強い者がいないと……」
「……わかった。じゃあジャックだけ連れてく。裏階層守護者二人いれば十分だろ?」
「すまないが、ジャック達は三人だからこそ強い。だから一人でも欠けるとその分他の二人が……」
「……何でそんなにジャック達の事詳しいんだ?俺説明したっけ?」
「言っていたさ、ジャック達を創った日に。それはもう皆うんざりするほど長々しい説明を強制的に聞かされたからな……ログアウトして逃げた組はもっとげっそりしてたけど」
「マジか」
「マジだ。……という訳で、連れて行くなら転生した連中にしてくれ。今の彼らには何も仕事を与えていないからな。鍛錬をしているか、暇を持て余していることだろう」
「あー……まあ、戦わせるだけじゃなくて自分で考えて戦えるようにもなって欲しいからな。わかった。三人程連れて行くわ」
「コキュートスの邪魔だけはさせるなよ?」
「わかってるって」
そう言ってクロムは転生組が集まっている第八階層の死者の館へと向かった。指輪を使ったので移動には時間はかからなかった。
外には鍛錬している者もいた。元ワーカー組のメンバーが今の身体に慣れようと身体を動かしているようだった。ブレインはシャルティアの元で仕事があるみたいだから誘うのはやめておいた。
「よお、お前ら。新しい体には慣れたか?」
「あ、クロム様。まあまあですね」
「ワシは若返っているからの。そこまで困難でもない」
「俺は機械仕掛けの身体になったからな……慣れづらい」
「あんまり気にしても仕方ないんじゃないの?」
「―――イミーナの意見に同意」
「そうですね。私なんてスライムですからね、気を抜くと擬態が解けそうです」
「そっかそっか。お前らはお前らで頑張ってるんだな。で、ニグンとクレマンティーヌは?」
「二人とも館の中にいますよ。ニグンさんは魔法の勉強だろうと思いますけど、クレマンティーヌは……」
「あー、何か予想できるわ。とりあえず呼んでくるか」
クロムは館の扉を開ける。そこで目にしたのは……
「ちょっとー、飲み物無くなったけどおかわりまだなのー?」
人の配下を完全にこき使うクレマンティーヌだった。
「……レレイ、ゴート」
「く、クロム様ー!」
「助けてくださいクロム様!」
二人の配下が泣きついてきた。
「待て待て。何があったんだ?大体お前らはニグンの配下にしただろ?」
「それが……ニグン様が魔法の勉強をするから館の管理を頼むと言われたので管理をしていたのですが……」
「そこへクレマンティーヌ様がいらして、『暇ならアタシの言うことを聞いてよ』とおっしゃられて……」
「それでこき使われていたと?」
「はい……しかも、仲間達も巻き込まれる始末です」
「……クレマンティーヌ、どこに行く気だ?」
「ギクッ」
クレマンティーヌはクロムが館に入ってからすぐに顔色が悪くなっていた。そしてこっそりと逃げようとしていた。
「クレマンティーヌ……こいつらはニグンの配下だ。そしてニグンはこの館では四番目に偉いわけだが、その次に偉いのはお前じゃない。こいつらだ」
「で、でも実力的にはアタシの方が上じゃん!」
「実力ではな。こいつらには実力を求めているわけじゃないんだよ」
「「クロム様ッ!?」」
「あー、もうお前らも落ち着け。人の話は最後まで聞けっての。レレイとゴートに求めてるのは統率力だ。正直言って、この館にいるモンスター達は俺がいないと勝手に館の外に出ようとするからな……だからこそ管理する奴が欲しかった訳だ。
その点、この二人はとても優秀なんだよ。俺がいない間でもちゃんとまとめてくれてるし、館の管理もしてくれるからな。そういう理由もあって今はお前よりも偉い」
「「く、クロム様……!!」」
「ぶぅ~!アタシだって言われればちゃんと管理するよ!」
「どうやって?」
「もちろん力で!」
「却下。という訳だ、レレイもゴートもクレマンティーヌの言うことを聞かなくていいからな」
「「承知しました」」
「で、クレマンティーヌには罰を与える。本当はこれからコキュートスの戦を見に行く予定だったが、お前は留守番だ」
「そ、そんな!」
「反省しろ」
クレマンティーヌにそう言って、クロムは館の外に出た。ニグンを連れていこうかと思っていたが、魔法について勉強をしているというのなら邪魔をしない方がいいだろうtお思い、ニグンはやめた。
「さて、お前達。俺はこれからコキュートスの指揮する戦を見物しに行くわけだが、三人だけ連れて行ってやる。ちなみに、前回の作戦に参加したヘッケランとロバーテイグはダメだぞ?」
「あちゃー、階層守護者の手腕を見てみたかったんだがなー」
「まあ、仕方ありませんよ」
「ということで、イミーナ、アルシェ、グリンガム、パルパトラ。お前らで決めろ」
「「「………」」」
イミーナ達が最初は話し合いで決めようとしていたが、結局は話し合いで決まることはなかった。全員が話し合いを止め、戦いで決着をつけたのだった。
「じゃあ、今回はイミーナとアルシェの二人でいいな。というか……パルパトラはダウンしちゃったし、勝ったグリンガムの四肢がな……」
そう、グリンガムは戦いには勝ったのだが、パルパトラの最後の一撃で四肢をもがれてしまったのだ。四肢は吹き飛んでしまい、修理は不可能だった。こうなったら予備の四肢を使うしかないわけだが、こんなに早く壊れるとは思っていなかったので予備はまだ用意できていない。
「くそ……勝ったというのにこのざまか」
「仕方ないんじゃないか?老公は元々強いんだし」
「そうですよ。しかも若返って尚且つ人外の力まで身につけて相手に勝てたんですから。もっと胸を張るべきですよ」
「人外の力を身につけたのは俺も一緒なんだがな……」
「とりあえず、ヘッケラン。館で待機していてくれ。あと、クレマンティーヌが勝手な行動をしないように見張りも頼む」
「承知しました」
「じゃあ行くぞ二人とも」
「ハーイ」
「―――うん」
むぅ……また時間がかかってしまった。
さて、次はリザードマンとアンデッドの戦じゃ!!