コッコドールや六腕が襲撃を受けている間に八本指の隠れ家が次々と襲撃されていた。自分の身の危険を感じた各部門の代表達は一か所に集まって守りを固めていた。
「……敵はどうなった?」
「ただ今入り口にて迎撃中です。ただ、相手の方が圧倒的に強く、兵達が次々とやられています」
「……そうか」
今いる隠れ家には警備部門の六腕程とは言わないが、それなりに強い連中を集めてある。その精鋭よりも強いとなると、戦っても勝つことは不可能だろう。ここで各代表達は何故今この場に六腕のリーダーのゼロがいないのかと後悔していた。自分達の命も狙われていると分かっていればヒルマの警護と言うよりも各部門の代表の警護依頼をしていただろう。
だが、今こうやって後悔をしていたところで何も状況は変わらない。敵は刻一刻と迫ってきているのだ。
「致し方ないが、我々は脱出するとしようではないか」
「そうしよう」
「我々さえ生きていれば何度でもやり直しは出来る」
床のタイルを外すと、人が入れる程の穴がある。この穴はこういった時の為に作った物だ。代表の一人がその穴に入ろうとするが、何かに弾かれて穴の中に入れない。
「な、何故だ!?」
「こ、これは一体……」
代表達は頭を抱えた。逃げ道があるのに逃げられない。敵はもうすぐそこまで来ている。これ程絶望的な状況は無いだろう。
だが、そんな絶望的な場所にある男がやって来た。
「はぁ……はぁ……ど、どうやらまだ皆さんは生きてるみたいですね」
「サキュロント!?何があったのだ!?」
穴から現れたのは六腕の一人、”幻魔”のサキュロントだった。だが、会議の時に聞いた話ではサキュロントは奴隷部門の代表のコッコドールの警護をしていた筈だ。
「も、申し訳ない……何者かに襲撃され、コッコドールさんが攫われました」
「何だと!?」
「攫って行った連中の正体は分かっているのか!?」
「あの動きは王国の兵士ではなかったので、まず王国の兵ではないと断言できます」
「……つまりは、敵の正体は分からないということか」
更に最悪な事を知ってしまった。奴隷部門の代表であるコッコドールの誘拐。敵の狙いが何なのか全く分からない。この場に集まっている代表達の命を狙っているというのに、奴隷部門の代表であるコッコドールは誘拐した。全くもって相手の狙いが分からない。代表達が疑問を感じていると、ドアが吹き飛んだ。
「クロム様、どうやらこの部屋で最後みたいですよ」
「そうか。よくやったぞヘッケラン」
クロムと呼ばれた
「どーも、始めましてだな。八本指の各代表さん。俺は死神のクロムだ」
「し、死神?」
「そっ、死神。どういう存在かは知っているだろ?で、俺がここに来た理由なんだけど……身に覚えあるよな?」
「な、なんのこと「しらばっくれるんじゃねーよ」ッ!」
窃盗部門の代表のセリフを遮る。
「あのな、言っておくがこっちはお前達のやって来たことは全て知ってるんだよ。麻薬、窃盗、奴隷売買、暗殺……その他もろもろ」
「……どこで知った?」
「はぁ?誰が教えるかっての。まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。別に生きる為に、金の為にやってることだから何も言わない。だがな、子供まで巻き込むな」
「子供だと?」
「そう、子供。奴隷の中に子供がいるのは既に確認済みだし、麻薬中毒になってる子供も確認した」
「だが、その子供が我々と何の関係がある」
「大有りじゃねーか。奴隷部門にとっては商品、麻薬部門にとっては子供って言っても麻薬を買いに来れば客だ。大人は自分の責任だがな、子供は難しいことは分からない。一回ぐらいなら大丈夫とか、そう思ってるだろうな。その結果が麻薬中毒だよ」
クロムの話を黙って聞く代表達。
「未来ある子供を奴隷にしたり、麻薬中毒にしたお前らには慈悲を与えるつもりはないから。ていうか、お前らぶっ殺す」
そう言ってクロムは何処からか鎌を取り出した。クロムが鎌を取り出したのを見て代表達はサキュロントに助けを求める。
「さ、サキュロント!我々を助けるのだ!」
「……」
サキュロントは何も答えない。
「ど、どうしたのだ!早く奴と……「すいませんね」え?」
サキュロントは金融部門代表に剣を突き刺していた。しかも心臓の部分を深く突き刺しているので即死だった。
「さ、サキュロント!?き、貴様何をしている!」
「何って……敵の排除ですが?」
「敵だと!?敵は向こうのモンスターだろう!」
「違います。クロム様は私の主です」
「……な、何を言っている?」
「ご苦労だったな、ロバーテイグ。なかなかの演技だったぞ」
「お褒めに頂き光栄です」
サキュロントの姿をした男がモンスターに頭を下げた。その光景を見て代表達は理解した。目の前のサキュロントは本物ではないと。
「さて、お前達には逃げ場はない。大人しくすれば楽に死なせてやるという訳でもない。抵抗をしても俺相手じゃ何の意味もない。さっ、どうする?」
クロムが一歩、また一歩とゆっくりと近づいてくる。代表達は恐怖で顔を歪める。
「た、助け」
「黙れ」
窃盗部門の代表の首が斬り落とされた。その光景に更に恐怖を感じた。切り落とされた首はこちらを向いていて、まだ口が動いている。クロムの速さに神経が追いついていないようだった。
「さて、次は誰が死ぬ?」
表情は分からない筈なのに、笑っているように見える。腰を抜かしてしまい、完全に動けなくなった代表達は必死に許しを請う。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「うるさい」
クロムはまた鎌を振って首を斬り落とす。今度は密輸の代表だった。残ったのは二人、暗殺と賭博だった。
「そこのお前。お前は暗殺部門の代表だろ?戦えないって訳じゃないんだからちょっとは抵抗して見せろよ」
「あ……ああ……あああああああああ!!こ、こんなの勝てるわけがない!」
そう言って首を振りながら涙を流す暗殺部門の代表。それを見て更に顔を青くする賭博部門の代表。
「そ、そうだ!わ、私を見逃してくれれば私が管理しているお金を全て貴方様に差し上げます!だ、だから!どうか、どうかお許しを!!」
懇願する賭博部門代表の頭をクロムは鷲掴みにして持ち上げる。
「あのさ……金で命が買えると思ってるわけ?」
「そ、そんなことは」
「でもさ、お前今自分が助かる為に金を俺に渡そうとしただろ?つまり、お前の命はそれだけの価値があるってことになるじゃないか」
「そ、その通りです!私には沢山の金があります!」
「……だから何だって話なんだけどね♪」
「へ?」
クロムが頭を掴む力を強める。賭博部門代表の頭がゆっくりと形を変えていこうとしている。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!な、何故ですか!!」
「だから言っただろ。金を全て渡す。いやいや、俺はお前達を殺した後に全ての金を回収するから関係ないんだよ。DO YOU UNDERSTAND?」
そして賭博部門代表の頭が果実のように握りつぶされた。辺りに血や頭の中身が飛び散る。クロムはモロに血や頭の中身が服についている。
「あちゃー、これ落ちるかな」
「多分大丈夫じゃないでしょうか?後で俺達が洗っておきましょうか?」
「うーん……まあ、いいや。お前達には早く強くなってほしいからな」
「クロム様……!」
「さて、最後はお前だ」
そう言って残った暗殺部門代表を殺そうとしたクロムだったが、既に暗殺部門代表は自決していた。
「ありゃ、自分で死んじまったよ。折角玩具にしてから殺そうと思ってたのに……」
「どうしますクロム様?」
「んー……とりあえず、死体は全部回収。金品とかも全部回収。あ、でも代表達の死体は残しておけ。仲間割れで死んだってことにするから」
「「承知しました」」
こうして今日、リ・エスティーゼ王国に巣食う八本指は壊滅した。
ふぅ……これで八本指は無くなったゾ!
さて、次はリザードマンをいじめよう