奴隷部門を担当するコッコドールの護衛とは別に、サキュロント以外の六腕全員が麻薬部門を担当するヒルマの屋敷に集まっていた。王国に特に狙われているのは八本指の中でも麻薬部門と奴隷部門だ。どちらも王国からは目をつけられていたから警戒はしていたが、最近は特にひどかった。ヒルマの管理する麻薬を育てていた集落は燃やされるは、娼婦館は検挙でかなりの損害が出ている。
そこでヒルマは自分を守るように護衛部門に訴えてきたのだ。その後でコッコドールも依頼してきたのだが、組織としては麻薬の方が金を儲けやすいわけでコッコドールよりもヒルマの方を優先しろと言ってきた。なのでコッコドールの方にはサキュロントを送ることにした。
「それにしても……でけぇ屋敷だな」
「そうかしら?」
そう言ってヒルマは自分の寝室に向かう。
「いい?大抵の事なら揉み消せるけど、大事になりそうなら私を起こしにきなさい。この屋敷には隠し通路があるからそこから脱出するわ」
「はっ!脱出するよりも相手を倒す方が早いんじゃねーのか?」
「あんたにとってはそうでも、こっちにはいい迷惑なのよ。わかった?とにかく、私はこれで寝るからしっかり守りなさいよ」
「誰に言ってるんだ?」
「……それもそうね。じゃあ、おやすみ」
そう言ってヒルマは寝室へと入って行った。ゼロは一階のホールに向かう。そこにはサキュロント以外の六腕がいる。
「で、結局朝まで護衛ですか?」
「朝までならまだいい方だな。下手すりゃ王国の動きが解るまで護衛することになるかもしれんな」
「……めんどくさいわねー」
「そう言うなエドストレーム。これも仕事だぞ」
「わかってるわよ。それにしても本当にサキュロント一人で大丈夫なの?」
「そうだよな、アイツは俺達の中じゃ最弱だぞ?コッコドールさんをちゃんと一人で守り切れるのか?」
「大丈夫だろ。相手が王国の腑抜け兵士ならアイツは負けねぇよ」
「ゼロの言う通りだ。あやつは普通の剣士とは違う」
「まあ、それもそうだなー」
と喋っていると、扉がノックされる音が聞こえる。全員が警戒していつでも戦闘をできる体制になる。ゼロがゆっくりと扉に近づく。
「すいませーん。どなたかおられますかー?」
声を聴く限り、扉の向こうにいるのは女のようだった。王国の手の者かもしれないのであえて扉は開けようとはしなかったのだが……それが裏目に出た。
「……めんどくさいな。ドゥルガー。斬って」
「……貴方に命令されなくてもやりますよ」
男の声が聞こえた瞬間、扉が真っ二つに斬られた。そして扉の向こうには三人立っていた。一人はメイド服、もう一人は執事服で、最後の一人だけは普通の服を着ていた。
「……何者だお前ら。王国の兵か?」
「王国?いやいや、関係ないし」
「そうですね。王国とは一切関係はありませんよ。ですが、王国の目的とは一つだけ一致していることがありますね」
「何だと……?」
「「八本指の殲滅」」
「それが私達、いえ、私達の主の目的」
「そう、貴方達は過ちを犯しました。それは我が主の逆鱗に触れたことです」
そう言って男はフードを外した。その顔は人のモノではなかった。俗に言う鳥人だった。
「モンスター……まさかモンスターを使役するような奴がいるのか」
「モンスター?……ふ、ふふ。いい度胸ですね。シュルツ、あの男は私の獲物です」
「別にいいよ。私は私で暴れるだけだから。ブレイン、アンタもちゃんと働きなよ」
「言われなくてもちゃんと働きますよ」
「ブレイン?ブレインってあのブレイン・アングラウスか?」
「へぇ?俺の名前を知ってるのか」
ブレインは笑いながら刀を抜く。ゼロを始め他の六腕達は様々な魔法道具などで強化されているが、目の前の相手に勝てる気がしない。凄まじい殺気を出す鳥人を見ていると正直逃げ出したくなる。だが、護衛部門が依頼人を守らないわけにもいかず、真正面から対峙する。
「相手は三人。だが、三人とも接近戦がメインのようならワシの出番だな」
そう言って六腕の一人”不死王”デイバーノックが立ち上がる。
「ワシの二つ名は”不死王”。
デイバーノックの言葉はシュルツの拳によって遮られる。スケルトンにとって打撃は弱点の一つ。シュルツの攻撃を喰らったことにより、デイバーノックの身体を構成する骨が何本か折れた。
「おい、そこの
「シュルツ、ちゃんとブレインの相手を残してくださいよ。彼には今以上に強くなって貰わないと困りますからね」
「わかってるって。ブレイン、私はこの骨の相手してるから他の奴らの相手をしてな。もし私達の戦闘を邪魔したら……どうなるかわかってるよな?」
「わ、わかってますよ。さっ、かかって来いよ。俺が三人まとめて相手してやるよ」
ブレインが残った三人を挑発する。
「こ、こいつ……ふざけた真似を!」
「ペシュリアン!合わせて!」
「了解!」
”踊る三日月刀”エドストレームと”空間斬”ペシュリアンが行動を始めた。エドストレームが使う
これは
そして”空間斬”ペシュリアン。本当に空間を斬っているわけではなく、柔らかい鉄で出来た「ウルミ」という鞭と剣を合わせたような特殊な武器を使っている。1m程の鞘から放たれる攻撃は3m近く離れた敵を両断できる。そのことから”空間斬”という二つ名をつけられた。
サキュロントにもトリックのようなものがサキュロントの場合はそのトリックがバレると弱くなるというデメリットがあるのに対し、ペシュリアンはトリックがバレたとしても圧倒的なリーチと視認することすら不可能な攻撃速度は一切変わらないので、仮に攻撃方法に気づいたところで対処の手段は無いのだ。そんな二人が協力してブレインを倒そうとする。五本の剣がブレインに向かって飛んでいく。そしてそんな剣の隙間を縫ってペシュリアンの剣が飛んでくる。
そんなほぼ回避不可能な攻撃に対しブレインがとった行動は……
「《領域》」
自分だけのオリジナル武技、《領域》を発動して剣を全てほぼ同時に弾く。
「どうした。三人でかかって来いよ」
「この男……本当にガゼフ・ストロノーフよりも弱いのか?」
「……俺の攻撃を初見で見破るとは」
「相手の言う通り三人で相手をしたいところだが、俺だと二人の邪魔にしかならないだろうからな……どうする?」
”千殺”マルムヴィスト。彼はエドストレームやペシュリアンとは違い、接近することで実力を発揮する男だ。そもそも警備部門に所属しているのだが、彼の使う武器はどちらかというと暗殺に特化している武器だ。マルムヴィストの持つレイピアには魔法付与+毒によって強化されている。掠っただけでもOUTだ。
だが、エドストレームとペシュリアンは距離をとって戦うスタイルだ。そんな二人と協力して戦うとなるとマルムヴィストが邪魔になる。だからこそ三人で戦いづらいのだ。
「……ったく、そっちから来ないならこっちから行くまでだ」
ブレインがそう言って三人に急接近する。二人は急接近するブレインに驚いていたが、マルムヴィストだけはそのブレインの行動に反応できていた。こちらに向かってくるブレインに対し、レイピアを突き出す。ブレインは刀でレイピアを受け流し、そのままマルムヴィストを両断した。そしてそのままの勢いで残った二人も両断する。
「ふぅ……シュルツさん終わりましたよ。そっちは……って聞くまでもないか」
ブレインは刀に付いた血を拭ってから鞘に入れる。そしてシュルツの方に視線を向けて見ると、そこには四肢を粉砕されたデイバーノックがいた。
「ちょっと遅くない?それでもドゥルガーの弟子なの?」
「うっ……め、面目ないです」
「ブレイン、落ち込むことはありません。貴方は少しずつですが成長はしています。いきなり私達のような領域に踏み込むことは不可能ですから」
そう言いながらゼロの相手をするドゥルガーは余裕そうだった。それに対してゼロは体の至る所に切り傷がついている。しかも息切れを起こしていた。
「まっ、ドゥルガーの言う通りか。じゃあ、ブレインの方も終わったようだしこっちも終わらせるか」
シュルツは拳を振り上げる。デイバーノックは何とかしてシュルツの拳を避けようとするが、四肢が無い時点で避けることは不可能だ。シュルツの振り上げた拳はデイバーノックの顔に命中した。デイバーノックの顔は粉々になった。
「これで”不死王”かよ。不死王なら生き返ってみろってんだよ」
「いい加減にしなさいシュルツ。貴方はクロム様のご命令通りにこの館にいる最重要人物を回収してきなさい。私の方ももう終わります」
「はぁ……はぁ……」
ゼロは血を流しすぎたせいかフラフラしている。立っているのも精一杯のようだった。結局は出血多量でゼロは倒れた。そんなゼロをゴミを見るかのような目で見つめるドゥルガー。
「精々苦しみながら死になさい」
そう言ってドゥルガーは刀を鞘に納めた。そしてブレインを連れて目標の確保に向かうのだった。
ふぅ……これでコッコドールとヒルマの確保は完了だ!
……ただ、困ったことがある。八本指の他の部門の代表たちをどうしようか……まあ、後で考えればいいでしょう