オーバーロード ~死を司る者~   作:かみか宮

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31.四騎士VS阻むもの

現在バハルス帝国では、あるワーカーチームが命からがら逃げだしてきた墳墓への侵攻準備をしているところだった。

話を聞けば、その墳墓攻略に参加したワーカーチームは帝国ではかなり有名なチームばかりで、彼らはやられてしまったらしい。

 

「……我が国が誇るワーカー達がやられるとはな……予想外だ」

 

そう呟くジルクニフ。帝国のワーカーは他の国のワーカーとは違い、その実力はオリハルコン級の冒険者に匹敵すると言われている。だからこそ全滅する程の墳墓があることもジルクニフにとっては予想外だった。

 

「我が国の兵だけで墳墓の攻略は可能だと思うか爺」

 

「私や帝国四騎士ならば可能かと。他の者では話にならないと思われます」

 

「そうか……では、あの男も連れていけ」

 

「あの男と申しますと……」

 

「そうだ、元冒険者でその恐ろしい墳墓から命からがら逃げだしてきたというクロームをな」

 

「陛下、失礼ですが、あのような者は必要ありません」

 

「そうは言うがな、あの墳墓の構造を知っているのはあの男だけだ。別に案内なしで墳墓の攻略をしてもいいが、その場合我が国の兵力はどれだけの損害を受けることになると思う?」

 

「……」

 

フールーダは何も言い返せなかった。確かに、帝国の兵はエ・ランテルのような寄せ集めの兵隊ではないとはいえ、それでもモンスターとの戦いに慣れているわけではない。そんな兵達がいきなりモンスター達と戦えと言われても上手くは戦えないだろう。

だからこそ道案内が必要になる。いくら大きい墳墓とはいえ、その墳墓を支配するモンスターを倒してしまえば、モンスター達は統率力を失うことになる。そうなると後は少しずつ倒していくだけの作業になる。つまり、墳墓の支配者を倒すために戦力は温存しておきたいのだ。

 

「わかったな爺。あの男は必ず連れていけ。そして、墳墓の攻略。頼むぞ」

 

「……わかりました」

 

そう言ってフールーダは部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから帝国軍は二日かけて報告にあった墳墓まであともう少しというところで六人組が立ちふさがった。

 

「悪いが、ここから先は通行止めだ」

 

「何だと?」

 

「我々はこの先に行こうとするモノを止めろと言われている。どうしてもこの先へ行きたければ我々を倒すんだな」

 

「……ならばそうさせてもらうぞ」

 

そう言って出てきたのは帝国四騎士の一人、『不動』ナザミ・エネック。両手に盾を持つというとても珍しい戦闘スタイルだ。ただし、防御戦では四騎士最強の男だ。

 

「最硬の騎士、ナザミ・エネック。参る!」

 

両手の盾を構えながら突撃していくナザミ。向こうは小柄な男が前に出てきて、ナザミの盾を正面から受け止めた。

 

「なっ!?」

 

「……はぁ、この程度か。所詮帝国の騎士もこの程度だったといことか」

 

「何だと!?」

 

「まあ、今の俺の前には勝てないよな」

 

「貴様……」

 

ナザミは一旦距離をとろうとするが、目の前の男が盾から手を放さない。力を込めて引っ張るが、ビクともしない。

 

「どうした?やはりその程度の実力しかないのか?」

 

「くっ!」

 

「頭を下げろ!」

 

ナザミは後方から聞こえた声の指示通りに頭を下げると、四騎士の一人、『激風』ニンブル・アーク・ディル・アノックが攻撃を繰り出していた。が、ニンブルの攻撃は通用していなかった。

 

「な、何だ今の感触は!」

 

「はぁ……皮膚が剥がれたじゃねーか」

 

そう言って小柄な男は剥がれた皮膚をはがしていくと……本来なら皮膚の下には肉がある筈なのに、肉は無く、別の何かが皮膚の下にあった。

 

「俺は元ワーカーのグリンガム」

 

「グリンガム……確か、死んだ筈では?」

 

四騎士の一人の『重爆』レイナース・ロックブルズが問う。すると、グリンガムと名乗った小柄な男だけではなく、後ろにいる者達まで笑い声をあげる。

 

「何がおかしいんだ?」

 

「いや、すまんすまん。確かに俺達はあの墳墓で死んだ。人間としてはだが」

 

「……どういう意味だ?」

 

「…!フールーダ。アンタはまだ出てくるべきじゃない」

 

「そうも言っておれん。帝国四騎士がここまで苦戦する相手、ワシが手を貸さねば一生ここで足止めを喰らうことになる。ここは一気に片付けるぞ。と、言いたいところじゃが、そこの男には聞きたいことがある」

 

「何だ?」

 

「人間として死んだと言ったが、つまりお前は別の何かになったとでも言いたいのか?」

 

フールーダが尋ねる。この世界ではまず、復活の魔法を行うだけでも大がかりな儀式が必要だ。だが、それ以外の方法で生き返る、もしくは別の命を与えるという方法は未だ見つかっていない。例えそれができたとしても、その魔法はまず確実に人間が使える魔法ではない。だからこそフールーダは気になった。

 

「そうだ。俺だけじゃない。あの日、あの墳墓に侵入した俺、グリーンリーフのパルパトラ、フォーサイトのヘッケラン達が生まれ変わったのさ」

 

「面白いことを言うが、具台的には何に生まれ変わったのかの?」

 

「……いいだろう。教えてやる。俺は自動人形(オートマトン)に改造させられた」

 

「ワシは人狼じゃな。しかも肉体が若返っておる」

 

「俺は首無し騎士(デュラハン)。首が外れないようにチョーカーをしている」

 

「私は不定形の粘液(ショゴス)です。この身体って便利なんですよね」

 

「私は元はハーフエルフだったけど、今は吸血鬼よ」

 

「―――私も同じく吸血鬼」

 

「………嘘だろ?」

 

「嘘じゃないぜ?」

 

後ろから声が聞こえたので後ろを振り返ってみると、帝国の兵士達が死んではいないが、全員気絶している。そしてクロームがケタケタと笑いながら近づいてきた。

 

「どういうことだ?」

 

「お前達はな、こいつらの新しい体の練習台になってもらいたかったんだよ」

 

「何を言ってるんだコイツ……お前はあの墳墓から命からがら逃げだしてきたんじゃないのか?」

 

「はぁ?そんなの嘘に決まってるだろ?お前達をおびき出すためにわざとやったんだよ」

 

「つまりは……すべてがお前の掌の上という訳か……」

 

「当ったりー♪。まんまと俺の書いたシナリオ通りに動いてくれてありがとね」

 

「待て、貴様は魔法詠唱者(マジック・キャスター)ではない筈だ。なのになぜ魔法が使える?貴様からは魔法の力は一切感じない」

 

「そりゃそうだろ。魔法じゃないんだからな」

 

「魔法じゃない……だと!?」

 

「ああ。魔法なんて使わなくてもこんなことが出来るんだぜフールーダさんよ。別に魔法が全てって訳でもないからな」

 

「そ、そんな……そんなことがあり得るのか!?」

 

フールーダはあまりのことに我を失い、軽くパニック状態になっていた。

 

「落ち着けフールーダ!奴の言っていることが本当かもわからないんだぞ!」

 

「とにかく今は力を合わせて「『竜牙突き』」……え?」

 

ナザミの身体をパルパトラの槍が貫く。

 

「ふふふ……この身体能力。ワシの若い頃以上じゃ」

 

「があぁぁぁぁぁ!!」

 

ナザミが盾でパルパトラを潰そうとするが、その盾をグリンガムが拳だけで吹き飛ばす。

 

「ふっ、今の俺の身体は人間以上の力を出せる。つまり、お前達は相手にならない」

 

そう言ってグリンガムは回し蹴りでナザミを蹴り飛ばした。他の三人の騎士はフールーダが早く正気に戻ることを願いながら彼を守る。が、

 

「―――イミーナ、準備は?」

 

「OKよ。ただ、ちゃんと扱えるかだけが心配ね」

 

そう言ってイミーナは長い筒状のモノをフールーダに向ける。アダマンタイトの鎧を着たニンブルがその間に割り込む。バァンという大きい音と共にニンブルの身体に穴が開いた。イミーナが持っていた長い筒状のモノというのは、銃だった。しかも大口径ライフルの上、弾丸は魔法の《電撃(ライトニング)》を使っている。威力といい、貫通性といい文句なしだった。

 

「ニンブル!くっ!」

 

仲間の心配をするバジウッドとは裏腹に、レイナースはこの場からどうやって逃げるか考えていた。人間をはるかに超越したモノが六人。相手にしてもこちらが勝てる確率は低い。しかも、四騎士の二人が倒されてしまっている時点でこちらの勝率は無くなったにいとしい。

 

「このッ!」

 

レイナースは自分の持つ武器を振るう。が、攻撃が通用しない。

 

「スライムって厄介だって思ってましたけど、なってみると便利な体ですね」

 

「いいから早く倒せよ。今のお前なら余裕だろ?」

 

「……慈悲をあげてもよろしいでしょうか?」

 

「ダメ☆」

 

「…はぁ、仕方ありませんね。申し訳ありませんが、飲み込ませていただきます」

 

そう言ってロバーテイグはレイナースに覆いかぶさり、男性が女性を襲うような形になっていたが、ロバーテイグが擬人化を解除してスライムになり、レイナースを体内に取り込んだ。

 

「これも我が主の命。すみませんが亡くなってもらいます」

 

こうして帝国の四騎士はバジウッド以外の騎士が死んだ。

 

「冗談だろ……こんなのありかよ!!」

 

「ありなんだよ。それがナザリックに仕える者だからさ」

 

「て、テメェ……」

 

「ふふふ……お前達ってなかなか強いけど、今のアイツらには敵わないみたいだな。これでアイツらはOKだな。さて、ここまで生き残ったからこそ聞くが、ナザリックに、俺に仕える気はあるか?」

 

「ないね。俺の仕えるべき御方は一人だけだ」

 

「……うんうん。そうかそうか。ならそこの老人。お前はどうだ?」

 

「わ、ワシは貴方様に仕えますとも!貴方様の元で魔法だけではなく、他の事も教えていただきたい!」

 

「……そっか。よし、じゃあ死ね」

 

クロームは何処から取り出したかは解らなかったが、いつの間にか刀を持っていて、それをフールーダに振り下ろした。フールーダは真っ二つになった。

 

「な、何故殺したんだ?」

 

「だって自分の主君を裏切る奴が信用できるか?できるわけねーだろ。だからこそ殺したの。その点、お前はちゃんと忠誠心がある様だから見逃す。まあ、他の三人も生き返らせてやるからちょっと待ってな」

 

「な!?け、結局お前は何がしたかったんだ!!」

 

「だから言っただろ?お前達はアイツらの練習台だって。それ以上でもそれ以下でもないよ」

 

そう言って一本の杖を取り出し、死んだ三人にかざすと、まるで傷が無かったかのように塞がり、ゆっくりと目を開ける。

 

「お、俺は死んだ筈じゃ……」

 

「あ、穴が無くなっている……鎧は穴が開いているのに身体の穴が治っている」

 

「……信じ難いことですが、私達は生き返ったようですね」

 

「ああ、その通りだ。お前達は生き返った。俺の用事は終わったからさ、さっさと国に帰れよ。今回は見逃してやるからさ」

 

「………撤退する」

 

バジウッドが生き返った三人に指示を出し、気絶した兵達を馬車に乗せて帝国へと戻って行った。

 




はい、転生したワーカーチーム対四騎士でした。
ヘッケランとロバーテイグを何に転生させようかなーって思ってたんで、アンケートとって正解でしたw
案としては、ムッシーさんのデュラハンを採用させていただきました。その理由はちゃんとありますよ~。転生させている連中は、基本的には人間の姿を保ったままでいて欲しいんですよ。ニグンはエルダーリッチですけどw
そういう訳でデュラハンにしました。いやー、でもコキュートスみたいにして武器をめっちゃ持たせたかった!

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