オーバーロード ~死を司る者~   作:かみか宮

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02.調査

クロムは三人から簡単な説明を受けた後、《伝言(メッセージ)》の魔法を使って入手した情報をモモンガに伝える。

 

「今教えたことがこの世界についての簡単な説明だ。分かったな?」

 

『はい、クロムさんのおかげで思ったよりも早く情報が手に入ったのはいいですけど……責任を一人に押し付けるのはやめてくださいよ……』

 

「だって俺人の上に立つような人間じゃないし」

 

『それ言ったら僕同じですからね?僕平社員でしたからね?』

 

「あれ?魔法の調子がおかしいなー。という訳で後は任せる」

 

『あ!ちょ、クロ』

 

モモンガが何かを言う前に魔法を止めた。そして、クロムはさらなる情報の為に三人に近づく。

 

「三人はこれからどうするつもりで?」

 

「実は今回は里帰りをするだけだったんだよ」

 

「本当は明日の朝に向かう予定でしたんですけど……クラフトがどうしても今日中に帰りたいなんて言うからしょうがなく夜に出発したんですが……」

 

「そこでモンスターに襲われたと?」

 

「はい。おっしゃる通りです」

 

ダダンが答える。話を聞くと、彼らは同じ村で生まれたらしい。そして、村から出て冒険者になって親を養おうを考えていたのだが、どうしても銅のプレートから鉄のプレートになるのが難しくて苦戦していたところだった。

そして親にお金を渡しに行こうという話になって、村に向かってる途中だったらしい。

 

「親孝行なんですね、皆さん」

 

「いやー、それほどでも」

 

「僕とダダンは農民でもよかったんですけどね。どうしてもクラフトがついてきてくれって言うから仕方なくなったんですよ。おかげでこの有様です」

 

やれやれと言わんばかりに首を振るエルード。そんな彼らを見ていると、ユグドラシルを始めたばかりの自分とモモンガの事を思い出す。二人は同じ異形種であり同じアンデットであったことから一緒にパーティーを組んでいたのだった。

 

(懐かしいな……俺もモモンガとこんな風に言い合いしたっけ)

 

と思い出に浸っていると、新たなモンスターがこちらに近づいてくるのが分かった。今の彼らだと、倒すことは不可能だろう。そう判断して三人に話しかける。

 

「いつまでもここにいるのは得策ではありませんから、歩きながら話でもしましょう」

 

「あ、そうですね。さっきの戦いで実は武器とかがもう不味い状態なんですよ」

 

「矢がないからもうナイフで戦うしかないからな。ちょっと急ぐか。あ、クロームさん。助けて頂いたお礼をしたいので一緒についてきてもらえませんか?」

 

「わかりました」

 

クロムは三人と一緒に村を目指した。道中でモンスターと出くわすことがあったが、クロムの手によって瞬殺され、それ程の脅威はなかった。

 

そしてしばらく歩くと……村が見えてきた。

 

「あれが俺達の村、カルネ村さ!」

 

その村は大きくもなく、小さくもない村だった。

 

「今日はもう遅いですから、どうせならうちの村で一晩過ごすのはどうでしょうか?夜だと昼間とは違い、先程のようにアンデット系のモンスターが出ますからね」

 

「……それもそうですね。それではお言葉に甘えさせてもらいます」

 

こうしてクロムはカルネ村で朝まで過ごすことになったが、アンデットには食事も睡眠も必要ないので、みんなが眠っている頃に村の探索をすることにした。村は畑が沢山あり、この村に住む者全員を賄えるほどあるのがわかる。

危険がないことを確認したクロムはモモンガに連絡をとる。

 

「モモンガ、俺は今ある村に厄介になってる」

 

『……クロムさん、少し自由にしすぎじゃないですか?』

 

「いいじゃん。俺、ギルドリーダーじゃないし」

 

『……はぁ、もういいです。それで、その村は何処にあるんですか?』

 

「ナザリックからは1km以上離れてるけど、そこまで遠いって訳でもないな。まあ、俺基準だけど」

 

クロムの場合、身体能力的にもナザリックでは一二を争うほどだった。そんなクロムからすればこの村からナザリックまで走って帰ろうと思えば可能だ。

 

「この世界についてはまだまだ分からないことだらけだが、少しでも情報を入手できるように努力するさ」

 

『……わかりました……が、お目付け役としてクロムさんのNPC二人をお供につけますからね?あ、言っておきますけどギルドリーダー命令です』

 

「あー、あの二人なら別にいいよー」

 

『では明日そちらへ二人を送りに行きます』

 

「あれ?モモンガも来るの?」

 

『ええ。クロムさんの友人ということで村との友好関係を築いておこうと思いまして……この世界ではユグドラシルでの常識が通用しない可能性が高いですからね』

 

「OK。じゃあ明日村長に伝えておくよ」

 

『よろしくお願いしますよ』

 

クロムは《伝言(メッセージ)》を終えると外に出た。遥遠くの場所で魂が消えているのが感じる。これも死神の力の一つ、《魂感知》。魂を持つ生物にしか反応しないが、感知できる距離がとんでもない位に広いので、ユグドラシル時代ではPKを仕掛ける際は感知担当だった。

 

(この距離ならすぐ行けるかな?)

 

クロムは持ち前の脚力で次々と魂が消えてゆく場所へと向かった。時間にして3分。クロムはカルネ村とはまた別の村を発見したのだが……村人たちは既に何者かの手によって虐殺されていた。村は焼かれ、死体が集められていた。

魂が遠く離れてゆくのを感知するが、今はこの村の調査を先に行うことにした。村の住人は全員が剣で斬られていた。相手は剣を持っていたということがこの傷からわかる。他にも情報を集めたかったところだが、太陽が昇って来ていたので大慌てでカルネ村へと戻った。

村に戻ると、既に畑で仕事をしている農民たちがいた。農民たちはクロムを見ると、頭を下げる。クロムも頭を下げる。きっとこの光景をナザリックに住むNPC達が見ていたならば……一体どうなることやら……と考えていると、クラフトが剣を振っているのを見かけた。どうやら鍛錬は欠かさないようだ。クロムはそんなクラフトを見て、昔の自分を思い出す。ユグドラシルを始めた頃のクロムは、接近戦を主体とするアンデットだった。だから剣には思い入れがあると言えば、ある。しかし、死神になった今ではどちらかというとデスサイズの方が思い入れがある。

クロムはクラフトに近づく。クラフトも自分に近づくクロムに気づき、手を振ってきた。

 

「朝から鍛錬ですか」

 

「はい。ちょっとでも強くなれるように鍛錬は欠かさないようにしてるんです」

 

「それはいいことです。努力は努力した分だけ結果を残してくれますよ」

 

「はい!」

 

クラフトは素振りを再開させる。クロムはそんなクラフトを見ている。だが実際はクラフトのことなどクロムは見ていない。現在、彼は別のことに集中していた。こちらへ向かって近づいてくる大量の魂を感知したからだ。《魂感知》の欠点は、魂を持つ生物なら何でも感知してしまうことだ。だからこそ、こちらへと接近してくる大量の魂が人間の者か、それとも動物の者か、はたまたモンスターのものかまでは全く分からなかった。

 

(動物が一番望ましいんだがなー……可能性としては人間の確率が高いな)

 

その根拠は、クロムが発見した焼けた村だ。知性を持つモンスターならば、焼いたりすることなどは可能だが、夜中はどちらかというと知能を持たないアンデット系モンスターが徘徊する時間だ。知性を持ったモンスターという線はかなり低い。

なら答えは簡単だ。人間が斬り、火を放ったのだ。そして連中は次にこの村に目をつけたと考えるべきなのか……何が目的なのかが分からないのが痛いが、迎撃の準備だけはしておく。

しばらくすると、馬の蹄が地面をかける音が聞こえてきた。そして……村に悲鳴が響きわたる。村人の一人が騎士の恰好をしたものに殺されたのだ。村人は悲鳴を挙げながら、バラバラに散っていく。そんな中、一人だけ騎士に向かう男がいた。その男、いや少年は今までクロムの目の前で素振りをしていたクラフトだった。

 

「やめろー!」

 

「何だこのガキは?」

 

クラフトが力を込めて剣を振り下ろすが、騎士の鎧に阻まれ、その刀身は肉体には当たらなかった。剣が弾かれたことによって、しりもちをつくクラフト。そんなクラフトに対して騎士は剣を振り上げる。クラフトを本気で殺す気なのだ。クロムはエルードを助けようとするが、村人達に正体がバレないようにしなければいけない。だからこそ本気を出すなど論外だったため、間に合わなかった。剣はエルードの腹を貫く。クラフトの口から血が飛び出す。剣に貫かれている腹部からも血が大量に流れている。

 

「く、クロー……ムさん。村を……皆を……まも…て」

 

そう言ったクラフトの身体は動きを止めた。クロムの眼にはハッキリと見えている。エルードの魂が天に昇って行くのが。

 

「お前ら!よくも……よくもクラフトを!」

 

「落ち着いてエルード!僕らが行ったところで無駄死にするだけだよ!」

 

「放せダダン!例え無理だろうが何だろうが、俺はあいつの仇を討つ!」

 

エルードはダダンの拘束を無理やり解き、騎士に向かって突撃するが、弓兵によって頭を射抜かれた。近くにいたダダンも頭を射抜かれ、次の標的はお前だと言わんばかりに騎士が近づいてきている。クロムは近づいてきた騎士の頭を掴む。

 

「ぐッ!こいつも無駄な悪あがきを!」

 

「……」

 

クロムは何も答えない。その代わりに騎士の頭を掴む手の力を徐々に強めていく。騎士が被るヘルムは、まるで悲鳴のような音をたててその形状を変えてゆく。クロムが手を離すと、騎士の頭は握りつぶされており、赤い液体が地面を彩る。

 

「……ったくよ。俺の目の前でやっちゃいけねぇことをおめぇらはやっちまったわけだ。つまりこういう事だろ?全員死にたいってことでいいんだよな?」

 

クロムはデスサイズを取り出し、顔につけていたマスクを外す。クロムの顔を見た騎士たちは「アンデットだと!?」驚いていたが、クロムにはどうでもいいことだった。そう、今ここで死ぬ者たちに自身の正体がバレたところで何の問題はないからだ。

 

「さて……魂を狩る者としてお前ら全員の魂、いただく」

 

そう言ってクロムは鎌を構えるのだった。




クロムさんは子供好きです。
彼の前で子供を虐めた人は、良くて骨折、悪くて半殺しです。

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