オーバーロード ~死を司る者~   作:かみか宮

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24.遭遇

クロム達が洞窟の外に出ると、クレマンティーヌが冒険者達と戦闘をしていた。クレマンティーヌは手加減をしているので、冒険者達にはまだ死者は出ていない。

 

「あ、遅いよクロム様~」

 

「すまんすまん。また新たな仲間を作ってったからな」

 

「新しい仲間~?別にアタシがいればいいじゃん」

 

「お前だけじゃまだ足りないんだよ。俺的には転生部隊とか作りたいんだよな。で?これ一体どういう状況?」

 

冒険者達はクロムの姿を見て更に警戒を強めた。パッと見でモンスターだと分かるのはクロムだけなので警戒されるのもしょうがない事だ。

 

「何か知らないけどここに近づいたから対処したんだよ。まずかったかな?」

 

「……相手の目的が分からなきゃ手出しはするな。もうこうなったらしょうがないよな。シャルティア、ブレイン。お前達で奴らを倒せ」

 

「承知しました」

 

「御意」

 

「あ、ただしシャルティアは攻撃は魔法のみ。血の狂乱を発動しないようにな」

 

シャルティアは少し不服そうだったが、至高の御方の命令なので逆らおうとはしなかった。ブレインが斬り込み、シャルティアが後方から魔法を放つ。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 

「こ、こいつ!ブレイン・アングラスじゃないか!何でそんな奴……が?」

 

ブレインは吸血鬼になったことで身体能力が強化されており、人間からブレインの動きを見ると、ブレインが目の前に現れたと思った瞬間に自分の身体が切断されているという感じだ。更に後方から放たれるシャルティアの魔法により、陣形は崩壊。パーティーも崩壊していた。ただし、一人だけ女が生き残っていた。いや、行き残していたという方が正しい。

 

「クロム様。あの女を貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「うん?別にいいが、まずは情報だ」

 

「承知しました」

 

シャルティアは女にゆっくりと近づいていく。女はシャルティアから逃げようとするが、腰が抜けて立てない状況だった。それでも女は何か有効なアイテムは無いかと探し、やけくそでシャルティアにアイテムを投げつける。シャルティアは爪でそれらのアイテムを壊しながら近づいていたが、そのアイテムの中に液体の入った何かがあった。シャルティアは特に気にせずそれを壊す。中に入っていた液体はシャルティアの皮膚にかかる。すると、

 

「ぎゃああぁぁぁぁ!!」

 

シャルティアが悲鳴を挙げた。これにはブレインだけではなくクロムやクレマンティーヌも驚いた。シャルティアは階層守護者を任されているだけあってかなり強い。そんな彼女が液体が皮膚にかかっただけで悲鳴を挙げたのだ。この世界ではナザリックにいるNPCにダメージを与えられるアイテムなどは存在しない筈。だが、シャルティアはダメージを負っている。クロムは不思議に思い、液体の入っていた入れ物を見ると、それはユグドラシルにある治癒薬(ポーション)の入れ物だった。

 

(なるほど……俺達アンデッドにとって治癒薬(ポーション)は回復アイテムじゃないからな。まあ、ダメージと言うほどHPは減っていないんだけどな)

 

そんな事を思いながら女を見る。寧ろクロムが不思議に思ったことは何故彼女はユグドラシルの治癒薬(ポーション)を所持していたかだ。この世界ではユグドラシルの治癒薬(ポーション)よりも効果が劣る物しか存在しない筈だ。それはエ・ランテルやバハルス帝国で確認済みだ。なら何故持っている?考えられるのは、冒険者の中にプレイヤー、もしくは神人と呼ばれるプレイヤーの子孫の存在。他にも考え出すと色々候補が上がってくる。結果としては誰から貰ったかを聞き出したい。

 

「この…!」

 

「シャルティア、落ち着け」

 

「も、申し訳ありません!」

 

「何、気にすることはない。それよりも気にならないか?何故この女がユグドラシルの治癒薬(ポーション)を所持していたか」

 

「……確かに気になるでありんす。ブレイン、その女こっちに連れてきなさい」

 

「はい」

 

ブレインは女の元まで行って、まるで荷物のように担ぎシャルティアの元まで運んできた。女は恐怖に支配されている。

 

「目を見ろ!」

 

シャルティアが無理やり女の目線を自分に向けさせる。すると、女の瞳に薄い膜のようなものがかかる。シャルティアのスキル《魅了の魔眼》の効果によって女は友好的な顔になっている。

 

「このポーションはどうした。誰から、何処で手に入れた!」

 

女はシャルティアの質問に対して、嘘偽りなく答える。

 

「そのポーションは宿屋で黒い鎧を身につけた人から頂きました」

 

「黒い鎧だと?それって……まさかアインズか?」

 

「あ、アインズ様!?じゃ、じゃあこの女がポーションを持っていたのはアインズ様が何かお考えだったということ!?そ……そんな」

 

「いや、待て。深く考えすぎるなシャルティア。確かにアインズは考えながら行動する奴だが、この女にポーションを持たせて何かあると思うか?俺は無いと思うな」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「あるとしても、多分コイツはそれを終わらせているだろうしな」

 

「そうだといいんでありんすが……」

 

「シャルティア様、この女どうしますか?」

 

ブレインがシャルティアに尋ねる。女は未だに魅了状態で、動こうとしない。

 

「そうね、それは私のデザートとしてナザリックに持ち帰るわ。貴方が持ちなさい」

 

「御意」

 

「あ、ちょっと待てシャルティア。もう一つ聞いておきたいことがある。他の仲間の有無だ。もし、他の仲間がいたら俺達の事が冒険者に広まることになるからな」

 

「承知しました。他に仲間はいるんでありんすか?」

 

シャルティアが訪ねる。

 

「はい。私達はチームを二分していました。私はこちらに偵察に、もう一つのチームは後方で待機しています」

 

「へぇ……で、ここには何人で来たんでありんすか?」

 

「七人です」

 

「何?七人だと?」

 

クロムは辺りを見渡すが、冒険者の死体は五つ。六人目は目の前の女。では、最後の一人は何処へ?

 

「くそ!平和ボケしてたのか俺は!シャルティア、今すぐ眷属を出せ!」

 

「は、はい!眷属よ!」

 

シャルティアの影が蠢き、複数の狼が現れた。レベル七の吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)

 

「行け!森の中にいる人間を食い殺しなさい!」

 

狼たちは凄まじい勢いで森の中に入って行った。この世界の人間相手ならレベル七でも十分強敵となるだろう。

 

「クロム様~。結局どうするの?アタシ達も追う?」

 

「……ちょっと待て」

 

クロムは自分の失態をかなり気にしていた。感知担当として、逃走していたことに気づいていなかったということがかなりの精神的ダメージを与えてくる。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。クロムは常時発動スキル《魂感知》を更に集中して使う。集中することで更に効果範囲を拡大することが出来る。

森の中から魂の反応を感知した。一人ではなく結構な団体だ。これは後方で待機していたもう一つのチームと合流したと考えるのが妥当だろう。そんな時だった。

 

「ば、馬鹿な……」

 

シャルティアが驚愕の表情になっていた。

 

「どうしたシャルティア」

 

「く、クロム様。吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)が……全て倒されました」

 

「何だとッ!?」

 

この世界の人間はレベルで言えば強くてもレベル五までだ。そんな連中が複数の吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)に勝てるわけがない。

 

「チッ!何が起こっているか分からないが、全員俺に続け!シャルティア、狼達の消失した地点は分かるな?」

 

「はい!」

 

「ならそこまでナビを頼む」

 

クロム達は女を放り投げ、森の中へと入って行った。全員が身体能力が強化されているので森の中をぐんぐん進んで行く。そして森の中をしばらく進むと、

 

「そこです!そこで消失を確認しました!」

 

シャルティアが指さす場所に行くと、そこには先程見た冒険者達よりも豪華な装備の団体がいた。

 

「これは……チッ。マズったな。こいつらはさっきの連中とは無関係みたいだ」

 

「ど、どうしますクロム様」

 

「……撤退だ。と、言いたいが、そう簡単には逃がしてくれないだろ」

 

向こうは既に臨戦態勢だ。こちらもいつでも攻撃は出来る状態だが、後方にいるクレマンティーヌの様子が明らかにおかしい。

 

「クレマンティーヌ、どうした?」

 

「く、クロム様……これ、早く逃げた方がいい」

 

クロムはそのセリフに驚いた。クレマンティーヌは転生させてきた者の中で一番戦闘狂なのだが、そのクレマンティーヌが逃げると言い出したのだ。

 

「こいつらは……漆黒聖典」

 

「漆黒聖典……?それって確かお前がいた……」

 

「そう。スレイン法国最強の部隊。あれに勝てるのは魔神位」

 

「……シャルティア。転移門(ゲート)の準備をしておけ。ブレイン、お前はあまり前には出るな。俺が前衛、ブレインは中衛、シャルティアとクレマンティーヌが後衛だ。シャルティアは俺が合図したらすぐに転移門(ゲート)を使え」

 

「わかりました」

 

「……御意」

 

「りょ、了解」

 

クロムは二本の鎌を持って、漆黒聖典と対峙する。漆黒聖典の連中もクロムの強さが分かっているのか、迂闊な行動は全くしない。だが、後方に控えている老婆が気になる。クロムはステータスを見れるので大体の強さは分かっている。シャルティアよりは強くはないが、ブレインやクレマンティーヌよりは強い。だからこそ前衛にはクロム一人しかいない。

シャルティアに戦わせようと思えば前衛が二人になるが、それだと撤退する際に余計な時間を使うことになる。だからこそ後衛にした。しかし、クロムが見る限り、あの老婆は他の連中と大きなレベルの差がある。だとすると、何か特別な力があると考えるべきだろう。

 

「さて、どうしたんだ?そちらから攻めてこないのか?」

 

「……」

 

漆黒聖典の連中は口を開こうとしない。だが、一人の男が口を開いた。

 

「――――使え」

 

それが何を意味したのかはすぐにわかった。クロムでさえ背筋にゾワリときた。老婆の着ている服、あれは危険な物だとすぐに理解した。

 

「シャルティア!使え!」

 

「はい!転移門(ゲート)!」

 

シャルティアの魔法によって空中に黒い穴ができた。

 

「クロム様!お早く!」

 

ブレインとクレマンティーヌが転移門(ゲート)の中に入り、残るはクロムとシャルティアの二人だけだった。クロムは何とかして老婆にダメージを与えようとするが、他の連中が邪魔をする。

 

「クソッタレが!」

 

「こいつ死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に似ているが全くの別物だ!」

 

「当たり前だろ?死神だぞ!」

 

クロムは二本の鎌をブーメランの要領で投げる。鎌はまるで生きてるかのような動きを見せる。そして背後から攻撃を与えようとするが、槍を持った男に防がれる。

 

「……もう少しマシな武器使うべきだったか?まあ、いい。逃げるとするか」

 

クロムは転移門(ゲート)に向けて駆け出す。それと同時に向こうの老婆が何かの準備が完了したようだった。

あれはヤバイ。クロムはとっさの判断で骸骨(スケルトン)を召喚する。骸骨(スケルトン)と言っても、亜種の紅骸骨戦士(レッド・スケルトン・ウォリアー)だ。クロムが転移門(ゲート)に飛び込み、身代わりとなった紅骸骨戦士(レッド・スケルトン・ウォリアー)はどうなったかは分からない。ただ、一つだけ言えることがあった。

 

「……まさかな」

 

「どうしたんですかクロム様」

 

「……これは俺もアインズも予想していなかったな。なんせここはユグドラシルじゃないんだからという認識だったんだからな」

 

「クロム様……?」

 

「シャルティア、至急アインズに伝言(メッセージ)で連絡を取れ。世界級(ワールド)アイテムを持つ人間と遭遇したと伝えろ」

 

そう、あの老婆が来ていたのはユグドラシルにある壊れ性能と言われている世界級(ワールド)アイテムだったのだ。

 

 

 

 

 




うぇーい。漆黒聖典は出したかったので出せてよかったよ。
今度はアインズとクロム、各階層守護者がこの世界の世界級アイテムについて話すことにしよう

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