オーバーロード ~死を司る者~   作:かみか宮

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23.蹂躙

ンフィーレアを救出し、尚且つズーラーノーンの幹部を倒した冒険者モモンの噂はすぐ二広まり、モモンはオリハルコン級の冒険者となった。

 

「いやー、流石ですなーギルド長」

 

「……クロムさん。この前言ってたこと忘れてませんよね?」

 

「忘れた」

 

ドヤ顔で答えるクロムを殴りたくなる衝動をぐっと抑えて話を続ける。

 

「ナザリックに戻り次第、クロムさんにはペナルティを受けてもらうつもりでしたが……クロムさんにはナザリックには戻らずに武技を使える者の確保に向かって欲しいんです」

 

「武技ならクレマンティーヌも使えるぞ」

 

「ええ。ですが、彼女は自分の戦闘スタイルに合わせた武技しか取得していません。なので他の武技についても知っておきたいのです」

 

「なるほどね~……了解だ。あ、シャルティア連れてっていい?多分大体の奴らが暇を持て余してると思うんだよなー」

 

「敢えて聞きますけど、シャルティアを選んだ理由は?」

 

「誰かに見られたとしても外見は人間にしか見えないから」

 

「なるほど。分かりました」

 

こうしてクロムはアインズの命令で武技を使える者の確保に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロムはシュルツをバハルス帝国に待機させ、代わりにシャルティアを連れてきた。クレマンティーヌにも同行してもらっている。彼女には相手がどういった効果がある武技を使っているか見極めてもらうためだ。アインズの言っていた通り、武技には様々な種類があるようでクレマンティーヌもそれなりに武技を習得しているが、それでも少ないぐらいだ。

それにオリジナルの武技を作る者もいるらしい。リ・エスティーゼ王国にいるガゼフ・ストロノーフもその一人だ。彼の武技は真似しようと思っても、容易くできるわけではない。寧ろ習得できる者はいないだろうと噂されている。アインズとしては、魔力消費のない武技はぜひとも習得しておきたいらしい。他にも、ナザリックにいるNPC達にも武技の習得が可能ならばより強くなれるだろうと考えたからだ。その意見にはクロムも賛成なので、断らなかった。というよりも、武技を使う者とはクレマンティーヌとしか戦ったことがないので、他の奴はどのような武技を使うか楽しみで仕方ないのだ。

 

「クロム様、どうやらあそこに武技を使える者がいるそうでありんす」

 

「そうか」

 

クロム達は少し高い位置から洞窟を見る。洞窟の入り口には見張りが二人立っていた。現在あの洞窟には『死を撒く剣団』という連中がいるらしい。その連中は野盗の傭兵団なので一人や二人、もしくは全員が死んだところで困る人はいない。アインズからはなるべく面倒事にならないように犯罪者、もしくは消えても大丈夫な奴を確保せよとのことだった。

 

「さて、見張りが二人だけか……シャルティア」

 

「はい!」

 

「あの二人をここから倒せるか?」

 

「もちろんでありんす!少々お待ちを……」

 

シャルティアは地面に落ちている石を拾い、振りかぶり……野球のピッチャーのように見張りに向かって石を投げた。石は物凄い速度で飛んで行き、見張りの頭を吹き飛ばした。

 

「おー。ナイスコントロール」

 

「ありがとうございます。ではもう一人も」

 

シャルティアはもう一度石を投げて、もう一人の見張りの頭も吹き飛ばした。これで見張りはいなくなったが、シャルティアの投げた石は見張りの頭に命中しただけではなく、轟音を立てて地面に着弾しているので、中から傭兵達が様子を見に来ていた。

 

「それじゃあ行くぞ」

 

「はい」

 

「まっかせて~」

 

三人は飛び降り、洞窟を目指す。一番最初に洞窟に到達したのはシャルティアだった。今までの鬱憤を晴らすかのようにシャルティアは容赦なく傭兵達を殺す。

 

「あっはっはっはっはっは!」

 

「シャルティアー、武技使える奴まで一緒に殺すなよー」

 

「大丈夫ですクロム様。こいつらは下っ端ですから」

 

「それもそうだな」

 

クロムは敢えて武器を使わず、拳だけで傭兵を殺していた。それを見て恐怖して逃げる者、仲間に伝えに行くものの二手に分かれた。クロムが指を鳴らすと、逃げ出した者はクレマンティーヌが仕留めていく。仲間に伝えに行った者達は殺さずにわざと行かせた。これで向こうは自分達の中で一番強い者を前線に送る筈と考えたからだ。洞窟の中を進んでいるとたまに傭兵が弓やボウガンなどで攻撃してくるが、シャルティアが全て爪で撃ち落としている。今の状況には蹂躙という言葉がピッタリだなと思いながら進んでいた。そろそろかなと思いながら進んでいると、

 

「やれやれ……こんな少女とアンデッドにここまで攻め込まれるとはな」

 

明らかに今までの連中とは装備の違った男が現れた。今まで出てきた傭兵達は普通の剣を使っていたが、今目の前にいる男の腰にぶら下がっている物は刀だった。

 

「お前が一番強いのか?」

 

「この傭兵団の中では俺が一番強いな。そしてお前達はここで俺に倒されるんだよ」

 

男は居合のような構えをとった。

 

「……居合か?ドゥルガーも居合を使うけどどっちの方が強いと思うシャルティア」

 

「それはドゥルガーだと思うでありんす。わたしも彼と戦えば片腕は斬り落とされますからね」

 

「そうか。じゃあシャルティアに任せるわ」

 

「承知しました。それでは、蹂躙を開始するでありんす」

 

シャルティアはゆっくりと男に近づいていく。男は動かない。一歩、また一歩と男とシャルティアの距離がだんだん縮まっていく。シャルティアがまた一歩、踏み出そうとした瞬間、男が動いた。刀を抜き、シャルティアの首を斬り落とそうとしたのだ。だが、男の刀はシャルティアによって止められていた。

しかもシャルティアは刀を正面からではなく、後ろから掴んで止めているのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「……」

 

「ふぅ……この程度で一番強いんでありんすか……ガッカリでありんす」

 

「な、なんだと……ま、まだだ!」

 

男は刀を振り回す。シャルティアは後ろにジャンプして、元の位置に戻った。

 

「おんし、武技は使えないんでありんすか?」

 

「ッ!……そうか、使えないように見えるか」

 

「ふーん?つまりさっきの攻撃の時武技を使っていたという訳か。面白いね。いつ発動したんだ?気になるなー。お前、名前は?」

 

男は警戒しつつもクロムの質問に答える。

 

「ブレイン。ブレイン・アングラウスだ。そしてさっきの武技は俺が編み出した俺だけの武技だ。そうやすやすと教える訳にはいかないんでね」

 

男、ブレインは刀を構えなおす。クロムはブレインという名前に聞き覚えがあった。

 

「ブレイン?……ブレインか。確かリ・エスティーゼ王国に使える戦士長ガゼフ・ストロノーフに敗れたんじゃなかったか?」

 

「……嫌な事を思い出させるな」

 

「ああ、やっぱりあのブレインか。なら話は早いな。ブレイン、ガゼフ・ストロノーフに勝ちたいとは思わないか?」

 

クロムの質問にブレインはハッキリと答える。

 

「勝ちたいさ。だからこそ、俺はどんな相手でも倒してきたし、再戦の為にこの武器と武技を生み出したんだ」

 

「だがな、俺の見たところお前はガゼフに劣っているんだよ」

 

「デタラメを言うな!俺は強くなった!もうあの頃の俺ではない!」

 

「言っておくが、俺は相手の強さを把握することが出来るんだよ。まあ、簡単に言えばお前とガゼフとじゃレベルの差があるということだ。それに新しい武技を生み出したのはお前だけとは限らんじゃないか。あの戦士長が日々の鍛練を怠ると思うか?」

 

「……」

 

ブレインは答えない。何故ならクロムの言っていることは間違っていないからだ。レベル差と言うのはよく分からなかったが、ガゼフが新たな武技を生み出している可能性があるのは否定できない。一番最初に戦った時のガゼフの切り札は《四光連斬》だった。もし、それ以上に強い武技を使用できるようになっていたら?ブレインには不安が生まれてきた。

自分で作った武技、《領域》内では彼は最強だと自負している。そして神速で剣を振りぬく《神閃》。この二つの武技を合わせた武技、《虎落笛》は今まで誰にも破られたことはなかったが、目の前の少女に正面からではなく、刀の後ろから止められたことでさらに不安になっていた。

 

「さあ、お前が力を望むなら私は力を提供しよう。その代わり、私に忠誠を誓え。……いや、正しくはアインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓うのだ」

 

「力……」

 

「お前は力が欲しくないのか?お前のライバルであるガゼフを倒したいとは思わないのか?」

 

「俺は……俺は……力が欲しい!!」

 

「……よかろう。ただし、お前にはこれからやってもらうことがある」

 

「やってもらうこと?」

 

「ああ、お前が本当に忠誠を誓ったかを確かめる為の儀式みたいなものだ」

 

「……何をすればいい」

 

「なに、簡単なことだ。今この洞窟内にいる傭兵達を一人も残さず殺せ。ちゃんと殺すことが出来れば力を与えよう」

 

クロムはそう言う。ブレインのステータスを見る限り、普通の人間が勝てる相手ではないことは分かっている。だからこそブレインと戦わせるのだ。自分達と同じ人間に殺されるのと、自分達よりも強いモンスターに殺されるのとでは大きな違いがある。だからこそブレインに殺させるのだ。ブレインは何も言わない。仲間を殺すことは出来ないと言った瞬間、クロムは容赦なくブレインを殺すと決めていた。クロムはブレインの返答を待つ。ブレインはこちらを見て、

 

「わかった。アイツらを全員殺せば力をくれるんだな?」

 

「その通りだ」

 

「……すぐに終わらせてくる」

 

そう言ってブレインは洞窟の奥に戻って行った。

 

「クロム様、今の男を転生させるのですか?」

 

「ああ、そのつもりだぞ。だがどの種族に転生させるか迷っているんだよな………そうだ。シャルティア、お前アイツを眷属にしないか?」

 

「え?あの男をでありんすか?」

 

「ああ。色々と役に立つと思うぞ。まあ、戦闘面では俺達の方が圧倒的だがな」

 

「そのとおりでありんすね!」

 

クロムとシャルティアは笑いながブレインが戻るのを待った。洞窟の奥からは悲鳴や怒声が聞こえてきたが、しばらくすると何も聞こえなくなった。そして何事もなかったかのようにブレインが戻って来た。

 

「殺してきたぞ。約束だ、俺に力をくれ」

 

「わかった。お前に力を与えよう。シャルティア」

 

シャルティアはブレインの背後に回り込み、首に噛みついた。

 

「ぐッ!な、何を!?」

 

「お前にはシャルティアの眷属になってもらう。つまりは吸血鬼になってもらうのさ」

 

「だ、騙したな!」

 

「騙してなどいない。私は確かに力を与えると言った。だからこそブレイン、キミに人ならざる者の力を与えるのさ」

 

「ぐあああぁァァァァ!!」

 

ブレインはシャルティアに血を飲まれ、眷属となった。

 

「生まれ変わった気分はどうだ?」

 

「最悪だ!……だが、忠誠は誓っている。それに……人間の時よりも強いような気がする」

 

「当然でありんす。吸血鬼はさまざまな特殊効果を持っているんでありんすよ?吸血鬼になっても弱かったら私が直々に殺してあげるでありんすよ」

 

「あとお前の主は俺とアインズ・ウール・ゴウンという我々の王だ。それとシャルティアだ。基本はシャルティアと共に行動してもらうからな」

 

「承知した」

 

「さて、武技を使える者の確保は終わったから帰るか」

 

「そうありんすね。どうします?《転移門(ゲート)》を使ってすぐにナザリックに帰還するでありんすか?」

 

「いや、外にクレマンティーヌが待機しているからいったん外に出るとしよう」

 

こうしてブレインを新たな仲間にし、クレマンティーヌと合流する為に洞窟の外へと向かうクロム達だった。




ブレイン吸血鬼化しました!
吸血鬼以外の種族でもよかったんですが、あえてWEB版と同じ吸血鬼にしました!

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