「で、カジッちゃんはどうだったクロム様?」
「こんの馬鹿が!勝手な行動はするなと言っただろ!!」
クレマンティーヌは地下から出ると、クロムから怒鳴られた。
「だ、だってカジッちゃんの素質を見せようと思って……」
「あのね、クレマンティーヌ。クロム様の視界に入った者は対策をしていない限りステータスが丸見えなの。つまり」
「つまり、あんなことしなくても分かってたってこと?」
「その通りだ。まったく……まあ、あの程度なら別に転生させることもないと確信したがな」
「え?」
「何を驚く。今ナザリックには私が転生させた者がいる。そちらの方ステータス的にも優秀だ。確かにアンデッドの作成はいい。だが、アンデッドの作成位私にもアインズにもできる。だからあまり必要としないんだ」
「なるほど……でもさ、
「……クレマンティーヌ。私がそんな弱いアンデッドを必要としていると思っているのか?」
「よ、弱い?何言ってんの?
「ハハハ……
そう言ってクロムは拳を突き出す。
「私のレベルなら素手でもかなりのダメージが入る。それにな、
「
「ああ、俺も召喚しようと思えばできるが……めんど、ここで出すと厄介なことになるから召喚はしない。それになクレマンティーヌ。
「……ああー、これじゃあカジッちゃんはあんまり活躍できないね」
「そうなるな。だが、あの宝珠……なかなか興味深い。あれだけは頂くとする。さて、長居は無用だ。引き上げるぞ」
「はッ!」
「了解~」
ズーラーノーンのカジットこと、カジッちゃんは死ぬことが決定した瞬間だった。
朝、色々な後始末をしてから目的地へと目指し歩くモモン達。一日目よりもモンスターは出ることはなく、ンフィーレアが採取したい薬草がある森の近くにある村までやって来た。ただし、モモンはその村に見覚えがあった。そう、その村とはつい最近クロムと訪れたカルネ村だった。
(……あの惨劇からまだそんなに日も経っていないというのに……凄いな。柵ができている)
柵はカルネ村を囲むように配置されている。これなら多少は時間稼ぎをできるだろう。そう思いながら歩いていると、ルクルットが歩みを止めた。
「おいおい……何で村にゴブリンがいるんだよ!」
ルクルットがそう言った瞬間、全員が戦闘態勢になったが、それよりも先にゴブリンに周囲を囲まれていた。剣を持っている者、弓矢を構えている者、狼に跨る者、杖を持つ者、様々なゴブリンがいた。その中の一人、いや、一匹が前に出てきた。
「お兄さん方、武器を下ろしてもらえませんかね?できれば穏便にすませれば好都合なんですがね」
だが、ゴブリンの言うことだ。誰も武器を下げようとはしない。モモンとナーベは構えてすらいないが、いつでも剣を抜ける状態だった。
「まあ、ゴブリンの言うことですからね。信用されないのは仕方がないことですが……一番後ろの鎧の旦那。あんたとだけは戦いたくはねぇな。やばいニオイがプンプンする」
「ほぉ?直感で危険を察知するとはなかなか優秀なゴブリンじゃないか」
「見たところ、この中で一番権力があると見た。なんで旦那からも言ってもらえませんかね?武器を下げるようにって」
「わかった。ぺテルさん、武器を下げてくれ」
「で、ですが!」
「大丈夫。いざとなれば私が皆を守ります」
「……わかりました。皆、武器を下ろすんだ」
チームのリーダーの命令で武器を下ろすルクルット達。荷台の上で不安そうにモモンを見るンフィーレア。そんな時だった。
「どうしたのゴブリンさん」
「あ、姐さん」
「え」
ゴブリンの背後から一人の少女が現れたのだ。そして少女が現れたと同時にンフィーレアは大声をだした。
「エンリ!」
「あ!ンフィーレア!」
「「「「え?」」」」
漆黒の剣のメンバーの声が重なった。ナーベはどうでもいいと言わんばかりの無表情。モモンは一応心当たりがあったのでさほど驚きはなかった。
その後は何事もなく村に入ることが出来た。村の中にいたゴブリン達についてはモモンがよく知っている。実はカルネ村を訪れる前に、エンリとその妹を助けていたのだ。二人はスレイン法国が偽装した兵士に追いかけられていた。そこに《
ゴブリン将軍の角笛を吹くと、微妙な数のゴブリンがその角笛を吹いた者の配下になるのだ。恐らく、この村にいるゴブリンはその角笛を使用して現れたゴブリンなのだろう。そう予測した。依頼人のンフィーレアはすぐには森に入らず、準備を整えてから入るとのことだ。そこでモモンは村が見渡せる位置で村を見ていた。
「モモンさ―――――ん。この後はどういたしますか?」
「私達は依頼人であるンフィーレアを守るだけだ。だがな、ナーベよ。実はエ・ランテルを出る前に面白い話を聞いたのだ」
「面白い話……ですか?」
「ああ、何やら私達がこれから入る森には森の賢王なる魔獣がいるらしい。そんな魔獣を退治できれば……私達の名声が高まるとは思わないか?」
「流石はモモンさ―――――ん」
「……あのな、ナーベ。いい加減モモンさんと呼べるようになれ。もしくはモモンと呼び捨てにしろ」
「そんなことできません!至高の御方を仮の名と言えども呼び捨てにすることなどできません!」
「……もういい。お前の好きにしろ」
そして、しばらくするとニニャが呼びにやって来た。
「モモンさん。そろそろ出発するらしいです」
「わかりました。では行きましょう」
ンフィーレアの元に戻ると、採取した薬草を入れる為の籠を背負っている。
「それでは森の中に入りますが、この森には森の賢王と呼ばれている魔獣がいます。その魔獣はこちらからテリトリーに入らない限り無害ですので、ボクからあまり離れないようにしてください」
「わかりました」
「ンフィーレアさん。私達は先に森に入ってもいいですか?」
「え?別に大丈夫ですけど……あまり奥まで行ってしまうと賢王のテリトリーに入ってしまうので、そこは注意しておいてください」
「わかりました。では、お先に」
そう言って森に入って行くモモンとナーベ。そんな二人の背中を見ながらルクルットが呟く。
「もし魔獣が出て、モモンと戦ったらどっちが勝つんだろうな……」
その時、全員の心の中ではモモンが勝つだろうと確信を持っていた。
「この辺りで十分だろう」
「しかし、その森の賢王なる魔獣をどうやって捜しだすのですか?」
「その為にアタシが呼ばれたんだよね♪」
「ッ!」
声がした方にナーベラルが手を向ける。そこには……第六階層守護者のアウラが木に座っていた。
「アウラ様!……驚かさないでください」
「ごめんね~」
「それでアウラよ、森の賢王をおびき出すことは可能か?」
「できますよ。多分アイツの事だと思います」
「よし、では頼むぞ」
「はい!お任せください!」
そう言ってアウラは木に飛び移りながら森の奥へと消えて行った。
「森の賢王……フフフ、どんな魔獣なんだろうな。話によると、鵺だと思うのだがな」
「鵺ですか?ですが、鵺程度ならモモンさ―――んやクロム様の相手にはならないのでは?」
「こちらの世界でのモンスターの強さはユグドラシルとは違うらしいからな。私達にとって弱いモンスターでもこちらからすれば強いのだろう」
しばらくすると、森が騒がしくなった。
「どうやら誘導に成功したようだな。一度合流するとしよう」
「はい」
来た道を戻ると、薬草を採取しているンフィーレア達がいた。
「モモンさん!」
「やべぇぞ。こっちに向かって走って来てやがる」
「皆さんは逃げてください。私が何とかします」
「モモンさん……わかりました。ンフィーレアさん、ここはモモンさんに任せて我々は行きましょう」
「で、ですが」
「大丈夫です。森の賢王が相手でも私は死にませんから」
「……はい。あ、で、でも森の賢王だったとしても決して殺さないでください!」
「わかりました」
ンフィーレア達は森から出て行った。こうして森の中にいるのはモモンとナーベの二人だけになった。
「さて、ご対面といこうじゃないか」
少しずつこちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。足音からかなりの重量があると思われる。森の賢王という名前で呼ばれているので油断はできない。その為、最初から剣を抜いておく。そして森の賢王が先制攻撃を仕掛けて来た。
「くっ!」
蛇のような何かが飛んできたので剣で弾く。初撃は防ぐことが出来た。
『ほぅ?それがしの攻撃を弾くとは見事でござる』
「ござる?」
『今逃走するのであれば、先の見事な防御に免じ、見逃してやってもよいでござるよ』
「フッ、笑止。そちらが姿を見せないのは臆病だからなのか?それとも自身が無いのか?それとも……フフッ、恥ずかしがり屋なのか?」
『言うではござらんか。よいでござる。では、それがしの威容に瞠目し、畏怖するがよい』
地響きと共に巨大な魔獣が現れた。その魔獣には見覚えがあった。
「お、お前は!?」
『フフフ、わかるでござるよ。そのヘルムの下から驚愕と恐れが伝わってくるでござるよ。どうでござるか?降参するでござるか?』
「一つ……聞きたいんだが、お前の種族名………ジャンガリアンハムスターと言わないか?」
「なんと、もしやそなたそれがしの種族を知っているでござるか?」
「う、うん。知っているというか、かつての仲間が飼っていた」
「おぉ……」
「なんと!もし、同族がいるのなら教えて欲しいでござる。子孫を残さなければ生物として失格でござるが故に」
「うん、サイズ的に無理だ。諦めろ」
「……そうでござるか。残念でござる」
「まあ、何と言うかドンマイ。何かいいことがある筈だ」
「ありがとうでござる。それはさておき、さあ!命の奪い合いをするでござる!」
「………はぁ、森の賢王なんて名前だから期待していたのだが」
「何をしているでござるか。早く構えるでござる!」
「ハズレだ。完全にハズレだ」
「何をしているでござるか?まさかとは思うが、未だ勝敗分からぬうちに降伏とはありえんでござろう?さあ、それがしと本気で戦うでござるよ!命の奪い合いでござるよ!」
「……もう、やめだ」
モモンが剣を賢王に向ける。
「スキル、《絶望のオーラ》レベルⅠ」
すると、モモンから負のオーラが放たれる。本来ならレベルⅣまであるが、レベルⅣを使用すると、確実に殺してしまうので使わない。
「ふああぁぁぁぁぁぁッ!!」
賢王の毛が恐怖で逆立つ。そして森の賢王は倒れた。
「この魔獣はいかがしましょうか?」
「そうだな……」
本当にどうしようと悩んでいると、
「ソイツ殺しちゃうんですか?なら皮を剥ぎたいんですけど」
「そ、そんなぁ……殺すのだけは勘弁してほしいでござるぅぅぅぅぅ!」
そして結局、
「皆さん、安心してください。この魔獣は私の支配下にあります」
「殿の配下として頑張るでござるよ」
配下(ペット)になりましたとさ。
森の賢王ことハムスケゲットだぜ!