クロムとクレマンティーヌは二人で情報収集をする為に情報屋の元へと向かった。シュルツは今頃、帝国中にあるウィル・オ・ウィスプの回収を行っている頃だろう。
「クロム様クロム様、ここっぽいよ」
クレマンティーヌが指さす場所は、古い居酒屋のような店だった。
「だからクロームお呼べと言ってるだろうが。代わりにニグン連れてこようかな……」
「クローム様」
「様もやめなさい」
「アナタ?」
「やめなさい。もういいからさっさと中に入るぞ」
中に入ってみると、外見とは裏腹に中身は新築のように綺麗だった。
「……いらっしゃい」
店主らしき男が椅子に座っていた。煙草を銜えて客を待っていたようだ。
「聞きたいことがあるんだが……」
「情報が欲しいのか?それなら前金で銀貨5枚だ。俺は一枚たりともまけやしねぇえぞ」
「ああ、別にいいよ。エクレ」
「はいはーい。ねぇ~、アタシ聞きたいことがあるんだけど……いいかしら?」
クレマンティーヌの種族のサキュバスが得意とする魔法《
「あ、ああ!何でも聞いてくれ!」
「あのね、アタシ達神人についていろいろ知りたいんだけど……何か知らない?」
「神人の事か……それなら、やっぱり皇帝の住む城の中に文献が残ってるとか言う話を聞いたことがある」
「本当なのそれ?」
「実際のところは分からねぇ。なんてったって、皇帝の城の中になんて忍び込めねぇんだからな」
「それもそうか。ありがとねん。じゃ、また来世でお会いしましょ」
クレマンティーヌはそう言って店主の顔を貫いた。
「あーあー、何しちゃってんの……」
「えー、だってアタシ達がここに来たっていう痕跡を消さないとマズイって思ったもん。それならー、殺しちゃってもいいかなーって。本当ならもっとじっくりいたぶってから殺したかったんだけど……周りに聞こえちゃったら人が増えちゃうからね」
「だからといって殺すな。殺すにしてももっといろんなやり方があるだろう?例えば……事故に見せかけて殺すとか」
「それじゃあツマラナイもん」
「つまらないって……まあいい」
クレマンティーヌと喋っていると、店にシュルツが入ってきた。シュルツは沢山のランタンを持っていた。
「クロム様、ウィルの回収終了いたしました。一部のウィルは帝国外へと売り払われたようで回収は不可能でした」
「それでいいんだがな。これだけ帝国に残ったか……意外にも多く残ったな」
帝国では魔法の方が進んでおり、こういった道具に頼ることはないと思われたが、これは予想外だった。
「とりあえず、一つに集まってもらおうか」
ランタンの中に入っているウィル達を全員外に出す。すると、ウィル達は一つの個体となった。人型の炎になっている。この時のウィルのことをクロムはイグニス・ファトゥスと呼んでいる。
「イグニス……って言っても通じるのか?」
『はい、問題ありませんクロム様。我々は昔からその名で呼ばれることになれております故』
「おお、それなら話は早いな。何か有益な情報はあったか?」
『気になった情報が二、三個ほどありました。一つ目が、秘密結社ズーラーノーンについて、二つ目はリ・エスティーゼ王国に潜む八本指について、最後がこの帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスについてです』
「ズーラーノーン?八本指?何じゃそりゃ?」
「ズーラーノーンならアタシ知り合いいるよー」
クレマンティーヌが聞き捨てならないことを言った。
「ちょっと待てクレマンティーヌ。お前、知っていること話せって転生させる前に言ったよな?」
「言ったね」
「じゃあなぜズーラーノーンについて話さなかったんだ?」
クロムは笑顔で問うが、その顔は笑っていない。
「そんなこと言われてもー、アタシ、ズーラーノーンについては全く知らないんですよね。新参者だったし」
「何?つまりお前はズーラーノーンに所属していたのか?」
「うん。叡者の額冠を盗んだのも、ズーラーノーンにいる知り合いにプレゼントするためだし」
「ほぅ……?中々面白そうだな。よし、一度帝国を出るとしよう、そしてそのクレマンティーヌの知り合いとやらに会ってみようじゃないか」
「カジっちゃんも仲間にする気なの?」
「それはそいつの素質しだいさ。で、八本指については何か知らないか?」
「八本指については何も知らな~い」
「そうか、では話してくれ」
『最初のズーラーノーンについては、エ・ランテルという場所でそれらしき人物を見かけたという話を聞きました。しかもその人物はアンデットを製作できる者だったそうです。そして八本指、こちらはリ・エスティーゼ王国に潜む裏組織です。麻薬や奴隷を販売しているようです。そしてジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、この国の皇帝が冒険者チーム『オーバーキル』、つまりクロム様にご注目なされているようです』
「何だと?」
色々と収穫はあったが、驚いたのは最後の情報だった。皇帝がクロム達に注目していると言ったのだ。
「……皇帝に注目されるのは悪いことではないんだがな……正直に言ってまだ目をつけられたくないな。よし、帝国に戻ってきたらワーカーとして本格的に行動することにしよう。ワーカーなら注目されることはないだろう」
「では、これからエ・ランテルに向かうのですか?」
「ああ、早い方がいいだろうしな。それに……アインズを驚かしてやりたいしな!」
「いいねいいね!アタシまだそのアインズって人に会ったことないんだよね。早く会ってみたい!」
「クレマンティーヌ!アインズ様を呼び捨てにするなど許されることではありません!あの御方はナザリック地下大墳墓の絶対支配者、我々の王です!」
「えー?でもアタシにとっての王はクロム様なわけなんだけど?」
「それは私も同じ気持ちです。クロム様はアインズ様と共にナザリック地下大墳墓を支えておられたのです。だからこそ、私はクロム様もアインズ様もナザリックの王で相応しいと考えています」
「あー、そう言う堅苦しい話は後でいいから。イグニス、この店を燃やせ。で、俺は……お、あったあった」
そう言ってクロムが取り出したのは指輪だった。ただし、その指輪は普通の指輪ではないということは一目瞭然だった。
その指輪は真鍮と鉄でできており、黄金に輝いている。しかし、真鍮は聖なる光のようなものが出ているのに対し、鉄は禍々しいオーラのようなものが出ていた。これこそ
ユグドラシルが盛んだった頃、この
そのあまりにもの壊れ性能っぷりにクロムも使用することが少なくなっていたが、ナザリックが大規模な連合に襲われた時には、一階層ずつに9人を配置して連合を泣かせたという思い出もある。ちなみにナザリックにあるレメゲトン72の悪魔を模して作ったゴーレムは、るし☆ふぁーがクロムに対抗して作った物だ。まあ、途中で製作に飽きたと言って放り出していたが、クロムが責任を持って完成させた。
「いでよ、ソロモン王が従えた悪魔、《バティン》」
クロムが装備する指輪から光が出て、その光が召喚陣を創り出した。そしてその召喚陣から現れたのは青ざめたウマに乗りヘビの尾を持つ屈強な男だった。
「……お久しぶりです。我が主」
「バティン、頼みがあるんだが……」
「何なりと」
「そうか、では俺達をエ・ランテルという場所まで送ってくれ」
「承知しました」
ソロモン王が従えたと言われる悪魔の内の一人、序列18番の地獄の大侯爵《バティン》。ルシファーの側近であり、薬草や宝石の効能を知り、人を国から国へと移動させる力を持つ。要するに瞬間移動が得意な悪魔だ。
「エ・ランテルの場所は分かるか?」
「ええ、部下の視界を経由して居場所は把握しました」
「流石だ。俺にも感知させずに部下を出していたとはな」
バティンは地獄の大侯爵、そしてルシファーの側近であると同時に30もの悪魔の軍団を率いている。そのうちの一体を使って居場所を把握したのだろう。
「それでは参ります」
「よし、お前ら俺にしがみつけ。イグニスはこっちの大きめのランタンに入れ」
「「はいッ!!」」
『承知しました』
クロムにしがみつくシュルツとクレマンティーヌ。クロムの手に持つランタンの中に入るイグニス。
「転送にはさほど時間はかかりません。体感時間としては、一秒ほどです」
「短いな。流石としか言いようがないな」
「お褒めにあずかり光栄です。それでは目を閉じてください。目を開けているとどうなるか私にもわかりませんので」
全員が目を瞑ると、一瞬だけ変な感覚がした。
「到着しました。ここがエ・ランテルです」
「ええっ!?もう着いたの!?」
「おお……本当に一秒ぐらいだったな」
クロム達が今いる場所は何処かの路地裏。街中へ行くと、そこは帝国ではなかった。道行く人に「ここはエ・ランテルなのか?」と尋ねてみる、
「何言ってんだアンタ?エ・ランテルに決まってるだろ。おかしなことを聞く奴だな……」
と言って歩いて行った。
「お、おお……!よくやったバティン!これは移動時間短縮になるぞ!もしかすると
「
「…いいぞ!いいぞ!これは素晴らしい発見だ!」
この時のクロムの顔は無邪気な子供のような顔だった。
「クロム様、落ち着いてください。では、私はこれで失礼します」
「うむ、助かったぞ」
バティンはそう言った後、粒子のように消え去った。
「クロム様、さきにどちらへ向かうのですか?アインズ様の元ですか?それともゥレマンティーヌの知り合いの元ですか?」
「そうだな………やっぱりアインズのとこだろ!!」
こうして、クロム一行はアインズを驚かしに……もとい、会いに行くのだった。