オーバーロード ~死を司る者~   作:かみか宮

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09.剥奪

アインズは夜遅くにクロムとの連絡を取っていた。

 

「そちらの方は順調ですかクロムさん」

 

『……』

 

「クロムさん?」

 

『……Zzz』

 

「って、寝てる!?アンデッドなのに!?ちょ、クロムさん起きてください!クロムさん!」

 

『……ん。ああ、すまんすまん。今の肉体じゃ睡眠も食事も必要だからさ』

 

「……また冗談ですか?」

 

実はアインズはクロムが生きた人間の肉体を使って冒険者をしていることは知らない。というよりもクロムが教えていないのだ。

 

『まあ、そんな話は後にして……俺の方は順調だ。新しい仲間も増えたしな』

 

「新しい仲間?まさか一般人を仲間に……」

 

『んな訳ないだろ?転生させたんだよ。結構腕が立つ奴でな、中々有能だ』

 

「へぇー、あのクロムさんが褒めるなんて。なかなかの手練れだったんですか?」

 

『ああ、ユグドラシルでは見たことのない武器を使っていたし、魔法みたいなのも使用していたな。実際は魔法ではなかったけどな』

 

「……それは実に興味深いですね。それって僕達にも使えるんですかね?」

 

『さあな。だが、十中八九使える筈だ。これで更に強くなれるぞ。ナザリックの僕達にも習得可能ならかなりの収穫だ』

 

「そうですね。こちらは明日から本格的に動くことにしています。そちらは?」

 

『もうとっくのとうに銅から銀までランクアップ。マジ余裕だったわ。所詮はユグドラシルのモンスターと差異はないからな。手こずらないし、優秀な部下が二人もいるから楽が出来るという訳さ』

 

「……クロムさん達はもう銀ですか……。一応ですけど、当面の目標はモモンの名を広めることです。なので、アダマンタイト級の冒険者になることを目指しています」

 

『アダマンタイト級ね……まあ、いざとなれば俺が協力するから』

 

「ええ、頼りにしてますよ」

 

『それじゃあ明日も依頼があるからよ。もう切るぞ』

 

「あ、はい。お疲れ様でした」

 

こうしてクロムとの会話は終了したが、アインズは思う。

 

「きっと僕一人だけがこの世界に来ていたら……きっと今のような状況にはなっていなかっただろうな……。ユグドラシル時代からクロムさんには皆お世話になりっぱなしだったな」

 

まだ至高の41人全員が揃っていた頃ことを思い出す。顔を合わせるとすぐに喧嘩を始めるたっち・みーさんとウルベドさん。そんな二人を仲裁していたのがクロムさんだった。二人ともクロムさんに対しては頭が上がらないようだった。ペペロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんはクロムさんの目の前では絶対に喧嘩しないように心掛けていたし……クロムさんはいわばアインズ・ウール・ゴウンのお母さんのような立ち位置だった。

 

「やっぱりギルド長はクロムさんの方が相応しいよな……」

 

そう思いながらベッドに腰掛け、明日はどうするか考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バハルス帝国ではある冒険者チームが話題になっていた。その冒険者チームは冒険者になったばかりの日に銅から銀にまでランクを上げたのだ。そのチームの名は『オーバーキル』だ。

帝国の民達は凄いと思った。冒険者達も凄いと思ったが、それ以上に思ったことがある。そのチームは三人で構成されているのだが、男が一人と女が二人。しかもどちらも美人なのだ。正直言って、羨ましくないという男はいないだろう。それは帝国を統べる現皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスも同じだ。彼の妾は美人が多い。しかし、オーバーキルの女性はそれ以上に美しい。どこかの令嬢かと思ったが、それなら何故冒険者という危険な職業をしているのかが不思議だった。

 

「爺、あの冒険者チーム。どう思う?爺と勝負して勝てると思うか?」

 

「どうもこうもありませんな。ハッキリ申しますと、この爺の相手になりません。それほどまでに魔法詠唱者(マジック・キャスター)の有無が戦況を左右するということです。あのチームは魔法詠唱者(マジック・キャスター)がおりません。例え武技を習得していたとしても、遠距離からの攻撃には対応できはずがありません。それに空へ飛べば奴等にはどうすることもできません」

 

「なるほどな。では、帝国騎士が相手ならどうだ?どちらが勝つと思う?」

 

「当然ながら帝国騎士でしょうな。彼らには魔法を付与させた武器や鎧を装備させておりますので」

 

「爺はあのチームは大したことないと見る訳か」

 

「はい。あんなチームは他にもごろごろと居ります故」

 

爺こと帝国最強の魔法詠唱者(マジック・キャスター)、フールーダ・パラダイン。年齢は200歳以上と言われている。魔法で寿命を延ばして今まで生きているらしい。

 

「だが、あのチームには他のチームには無い力を感じるような気がする」

 

「それは気のせいでしょう。率直に申しますと、ワーカーの連中の方が強いと思われます」

 

ワーカー、それは冒険者の不文律とギルドの統制を嫌って冒険者ギルドに属しない脱退組の総称である。ワーカーの中にはオリハルコン級の力を持つ者もいる。聞いた話ではワーカーチームの中にドラゴン狩りに成功したチームがいるらしい。

そういった情報をふまえてフールーダは言うのだろう。

 

「まあよい。それでは爺、それに皆。今後の帝国についての話し合いを始めよう」

 

ジルクニフがそう言うと、部屋にいた全員の表情が引き締まる。バハルス帝国現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。即位に際し、また機を見るたびに国内の貴族に対する血の粛清を行ったことから「鮮血帝」と呼ばれる男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、クロム達『オーバーキル』はモンスターをひたすら狩るというもはや作業を行っていた。

 

「クロム様ー。いつまでこいつら殺し続けるんですかー?」

 

「こら今はクロムじゃなくてクロームだ。文句ばっかり言うんじゃありません。これもお金を稼ぐ為なんだから」

 

「そうだぞエクレ。嫌なら帰ってもいいから」

 

「……はっ、アタシよりもモンスターを倒せてないくせに何言ってんだか」

 

「じゃあまずお前からぶち殺してやろうか?」

 

「やってみろよ犬コロが」

 

「やめなさい。喧嘩するなら二人ともナザリックで待機させるぞ?そして代わりにドゥルガーとニグンを連れてくることにするぞ?」

 

「「ひゃっはー!モンスターは何処じゃぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

二人はモンスターを求めて森の中に突入していった。二人のレベルならやられることもないので放置しておいた。

 

 

 

 

 

そして数時間後……

 

いつまでたっても二人は森の中から戻ってこなかったが、クロムは気にせずに狩り続けていると、怪我をしている少年を見つけた。

 

「おい坊主。どうしたんだその傷は?」

 

「つ、つまずいて……」

 

「あー、なるほどな。転んじゃった訳か。痛いよな?よーし、ちょっと待ってな。今お兄さんが治してあげるからな」

 

クロムはアンデッドだからポーションを飲むと逆にダメージを受ける。魂を食べてHPを回復させることも可能だが、もう一つ回復の手段がある。それが《生命吸収(ライフ・アブソープション)》。その名の通り生命を吸収するスキルだ。クロムは吸収した生命力をそのまま他者へと譲渡することが可能だ。まあ、簡単に言えば、死神版の治癒(ヒール)だ。《生命吸収(ライフ・アブソープション)》を使って地面に生えている雑草から生命力をもらい、少年を治す。

少年を治していると神官のような恰好をした男が近づいてきた。

 

「おいそこのお前」

 

「あ?俺か?」

 

「お前しかおらんだろ。その治療は金をもらってしているのか?」

 

「んなわけねーだろ。子供から金とる奴がいるか。バカなのか?」

 

「馬鹿はお前だ。治癒をかけたりするのは金をもらわなければしてはいけない決まりなのだ。しかもお前は冒険者。お前は冒険者の資格を剥奪されることになるだろう」

 

「意味わかんねぇ。何で子供を助けて冒険者の資格を剥奪されなきゃなんねーんだよ」

 

「それにしてもお前は本当に運が悪かったな」

 

男はクロムの質問を無視して喋る。こいつムカつくから殺そうかなーと思っていると、男の隣にいた男がこちらへ近づいてきて冒険者の証である銀のプレートを奪った。

 

「おい、お前返せよ」

 

「悪いが、それは出来ん。私はバハルス帝国の冒険者組合長だ」

 

「だから?」

 

「貴様は禁止事項を行った。だから冒険者の資格を剥奪する」

 

そう言って男はプレートを持って帝国へと向かって行った。

 

「ははっ。冒険者の資格がなければ依頼も受けられない。残念だったな。まあ、どうしても仕事をしたいのならワーカーにでもなればいい。実際、私の同僚が神殿の意向に従えないと言ってワーカーになった者もいるからな」

 

そう言って去って行った。こうしてクロムは無職になってしまったが、クロムは無職になってしまったことよりも、子供を助けて冒険者の資格を剥奪されたことに怒っていた。




こうしてクロムさんは無職になりました。
さて、クロムさんは真面目に働くのか、それともワーカーになるのか!?
次回に期待!

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