ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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遅れて大変申し訳ない、やっとこさ書けました・・・。
といっても上編ですが・・・
全くかけなかったのに気が付いたら憑りつかれたみたく書いてました。
不思議なものですね。


川辺へ・・・(上)

朝日も昇り、洗顔や水浴びといった朝の習慣を終え、なんてことも無い軽い朝食をとった後、一向は消化が終わるか終わらないか程のころに昨日の雑談通りに川へ向かう準備をしていた。

「弁当とかいるかな?」

「昼までには帰って来るでしょうし、恐らくは要らないでしょう」

「そうか・・」

ボケへの突っ込みを期待していた松崎は、木野の冷静な言葉に少し期待はずれそうな微妙な声を上げると、

「まぁ、それで他にもってくものはあるかな?」

「そうだな、粘土は取りあえず沢になってないとそうそう見つからんかも知れんし、

 今回は位置の目星さえ掴めればいいでしょう、わかれば俺が個人で取りに行けば

 いいしな」

「そりゃそーか、じゃあ手持ちは軽めでよさそうかな」

「恐らくね、あ、升平そこの鉈とって、鉈」

「ほい」

北上は木野に答えると、鉈を手に持った升平に一つ例を言ってそれを腰につけた木製の鞘に差し込んだ、それを見た松崎は、

「北上、竹って鉈だと切るの辛くない?鋸たしかあっただろ」

「竹も目星でじゅーぶん、鉈は護身用だよ、まぁ焼け石に水な気もするがな」

「せやな、まぁ何かあったら逃げるが一番だしな」

そして他愛の無い会話をしながら時間は過ぎ、出発の時へ、

「それじゃあ行ってきますねぇー」

「十分、気を付けてください、行ってらっしゃい」

エリスに木野が返事するのを見ながら出発した編成は、エリス・松崎・升平・北上だった。

木野が残ったのは、帰宅時の昼飯の準備のためだ、とナフィアは言わずもがなというやつである。

木野は、エリス達を見送った後、さて、と一息つくと昼食の準備へと取り掛かったのだった。

 

小屋を出発した四人は、10分と経たぬうちに川辺へと到着した。

川は、北上が鹿の内臓を処理したところとは若干違っていて、堆積した砂が浜辺のようになっており、そこを挟むようにして岩が幾つも散乱している状態だった。

「さて、川に到着したぞ!」

「川だぁぁぁぁ!!」

松崎と升平は、先頭を歩いていた北上を追い越すと、一目散に川辺へとかけていった。

「つめたぁぁぁい!!」

「ヒャッハー!水だぁ!!」

北上は川の上流の方を眺めて雲がないことを確認すると、しゃがんで川の水で遊んでいる升平の尻に蹴りを入れながら、

「どーする?」

「まず必要そうな泥見つかったしなぁ、沢は探さないでいいでしょう」

松崎は器用にも背負った弓矢を地面につかないように、手についた泥を川の水で洗いながら答えた。

これはなぜかというと、川に到着する目前に沢があり、そこの土を見たところ水分をある程度吸った、土器を作るなら取りあえず問題なさそうな泥を発見したからである。

その真横で升平が川に石を投げ込みながら、

「取りあえず二手でいいんじゃない?上流と下流で別れればいいじゃない」

「まぁそれでもいいか、どーわかれるよ?」

「俺松崎と下流いってくるわ」

升平は、砂に何かを書いていた松崎の肩をがっしり掴むと答えた。

「いや、お前らは上流で頼むわ」

「なんでや?」

「下ったら昇らなかんやん?で下りスタートだと行き過ぎて戻りずらくなるのよ、

 経験談だから間違い無い」

それを聞いた升平は、若干不満な顔になった。

正直、地元が割と田舎で、丘を駆け回っていた升平からすれば舐められているように感じたからだ、しかし、升平よりほんの少し山に慣れているだけの北上からすれば、その認識こそが危険だった。

「まぁ、お前の言いたいこともわかるが、悪いが今は頼むわ、昔聞いたんだけどな、

 山は慣れてなければ注意し過ぎて正解で、慣れてきたら一層注意するもん、じゃな

 けりゃ最悪死ぬものだってさ、頼むわ、川で死んだ人も部位欠損した人も結構い

 るし、そんなことは見たくも無い」

それを聞いた升平は、北上の目を見てどこか生半可では無いものを感じ取り、純粋にこちらを心配していた北上の真意を知って己を反省した。

「いやまぁ、そういうつもりは無かったけど、まぁわかった」

結果、そう言いながら少しばつが悪そうに靴で砂に穴を掘った後、いつもの顔で真っ直ぐ北上を見据えた。

「ありがと、まぁ正直考えすぎな気もするけど、やっぱり気を付けるに越したことは

 無いんよ」

「まぁ心配してもらえるのはありがたいけどさ、気負い過ぎだお前は」

「すまんな、性分ってやつだ」

二人は暫く笑いあっていたが、升平がさて、と話を区切って本題へと戻した。

「さてと、話も纏まった所でそろそろ出発と行きましょうや」

「そうしようか」

升平と北上の付けた決着であったが、周囲二人の反論が特に無さそうな当たりこのまま可決ということだろう、軽い挨拶だけで登って行った二人を眺めながら、残った北上とエリスの二人は、さてと、と言って気分を入れ替えた。

「それでは私たちも出発しましょうか」

「そうしましょうか」

そうして二人は、上流へと出発した二人の姿が岩陰に隠れたのを見送ってから出発したのだった。

 

「いやぁ綺麗な川ですね」

「泳ぐか?」

「間違いなく死にますね」

上流に向かって歩を進めていた二人は、岩の上を飛び移るようにして移動しながら、

目標物である竹を探していた。

しかし、

「おい松崎!なんか骨あったぞ骨!」

そもそもノリで動いている二人を一緒にした時点でまともな探索が行われるはずも無く、二人は寄り道に寄り道を重ねる始末だった。

「なんの骨だ?これ・・・歯を見るに草食だけど・・・犬歯あるし雑食かな?」

松崎が謎の頭骨を拾い上げて答えた。

「狸とか?」

「そうそう、そういうの・・・・」

暫く眺めていた松崎は、おもむろに升平へ骨の顔を向けると、南国の鳥とカラスの鳴き声を混ぜ合わせたような奇声を上げながら、顎を開閉させて遊んでいた。

升平はその顎を片手で抑えて動かないようにすると、松崎こと骨は、顎を振動させてくぐもったような鳴き声を上げた。

「さて、そろそろ行きましょうか」

「そやね・・・うわっ!草むらだこれ!」

「だったら突き進めばいいだろ!」

「ヒョエ!?」

二人はしな垂れた枝を持ち上げて強引に進み、そんなこんなで二人は順調に歩を進めていった。

 

 

一方所変わって、下流へと進んでいる二人組はというと、

「さて、どう行きましょうか?」

「そーさねぇ・・」

最初の、砂利や小さめの岩が堆積していたエリアを抜けて、身の丈を越えるほどの大きい岩が混在してきた辺りで、一旦足を止めていた。

「ここから降りれそうだが・・・」

「そこだと戻れませんしその先がありませんよ」

慎重になった結果、なかなか先に進めずにいた。

それもそのはずで、上流組は、言ってしまえば昇れれば降りれるのだ、崖登りでもしない限りそこまで大きな段差は超えない上、坂道を上る都合上そこまで無茶ができないだろう、一方下りはというと、この土地自体の地形的な問題もあるのだろうが、下りだから通れても昇りは無理、というようなルートが割と多く、登って戻ることを頭に入れたうえで、なおかつその先もある程度見えるのが手伝って、慎重にならざる得ないという状態だった。

「飛び越えるのは危ないしなぁ・・・万が一浮石だったら積むぞ」

「上に積まれるの間違いでは・・・」

「それ以上はいけない、それに行けたとしても戻れんしなあれじゃ」

「そうですねぇ・・・」

そして暫く吟味を重ねた結果、浅瀬のあった所まで引き返して対岸に渡って降りる、という案が決定された。

そしてその戻り道中、北上は小さなため息と共に口を開いた。

「やっぱりあいつら二人じゃなくて俺とエリス分散させた方が良かったかなぁ・・・」

北上は、あの二人がアウトドア派で、なおかつ自分より身体能力が上であることもわかっていながら、それでもあの二人が気になっていた。

「北上さん、心配しすぎじゃありませんか?彼らなら大丈夫ですよ」

「慢心だめ、絶対は俺の合言葉でな、どうも性分でな、心配しすぎなのは承知なんだ

 けどねぇ・・」

「北上さんは心配性ですねぇ・・あ、この石動くので気を付けて、それに、私から言

 わせてもらうと北上さんだってそう大差ないですよ?」

北上は、石を少し揺らして確かめると、それを越えながら答えた。

「そりゃそうよ、そこで生きてきた訳でもないしな、でも、俺の知り合いからは山は

 とにかく怖がれ、用心しろ、臆病になり切れって教わってるんでな、俺は君に言わ

 れた通り良く知らんし、だからこの言葉を実践しようと思ってるのよ」

「それは素晴らしいんですけどねぇ・・そちらは精霊や神様の手助け受けれないみた

 いですし、なら甘いのは私でしょうか・・・あ、あそこ渡れそうですよ」

「そうでもないさ」

言いながら北上はエリスの指し示す方を眺め見る、そこは他の箇所に比べて流れこそあるが狭く、そういった流れが幾つもあり、恐らくこの下の場所で合流しているのだろうことが伺えた。

「ここなら渡れそうだね、行きましょうか」

「はい、行きましょうか」

こうして二人は話を一旦区切ると、対岸までなんとか渡り切り、また川下りを再開する頃にはまた、別の話で盛り上がっていった。

「ところで北上さん、なんで川辺探索なんですか?その竹って川岸にしかはえないん

 です?」

「いんや?別にどこにでもあるよ、繁殖力馬鹿みたいに凄いし、要は目星の問題よ、

 山で見つけるとまた探すの大変やん?川なら再度見つけれると思ってさ」

北上は大きな岩に蹴りを入れながら答えた。

エリスはそれに納得すると、北上に続くようにその蹴りを入れられた岩の横を通りすぎた。

「まぁでもそう簡単に見つかるとは思わんが・・・あ?」

そう北上が言う途中、彼の目にあるものが飛びこんだ、

それは、幾つも群生し、節くれだった幹を天まで伸ばした緑色、

「ありましたね・・・」

「あったな・・・」

二人は暫し佇んだ後、目標に向かって速足で到着する。

「いやぁ・・・フラグの力って恐ろしいな」

「やりましたね北上さん!ここならそう遠くないし質も量も十分でしょう!」

「いや・・恐らく一時間くらいはかかってるぞ・・まぁいいや」

そんなことを言いながら、竹に触れる。

手に瑞々しい感触が伝わってくるのを確認すると、そこまで太くない物を大きくしならせてみる。

竹は確かな抵抗をしながら、弓なりに曲がる一方で、かなり強く曲げても一向に折れる気配を見せなかった。

「よぉーしよし、これならいいぞ!」

幾分かテンション高めな北上は、腰の鉈に手をかけながら興奮した面持ちでエリスの方を見やる。

そこでふと、我に返った。

やっと見つけた竹をよそに、エリスは来た道の、森の方へ注意深く、鋭い眼差しを向けていた。

「どうした」

「・・・私にはわかりません、貴方の世界には魔物は居ないと言いましたが、危険な

 獣とかは居たのですか?」

エリスは目線はそのままに早口でいった。

「いた、外国だと虎とかだがまだ救いはある、家の国で最も出会いたくないのは間違

 いなく熊だ」

北上もエリスを見習って、素早く木々の方向へ視線を滑らせる。

そうして、見つけてしまった。

「それは・・・どんな外見でした?」

「あぁ・・・ぁ」

二人が見つけた黒い大型の獣は、今まさに川へと足を踏み入れて、まさに示し合わせたように二人の方を向いた。

「最悪だ・・・」

北上は思わず口に出してしまった。

恐らく、彼のいた日本という国において、蜂を省いたもっとも出会いたくない動物ナンバー1は間違いなくこの生物だろう、その生物は全身を黒い毛で覆い、その下に強靭な筋肉を纏い、人間なぞ比較にすらならない太い骨が走る大型の獣、熊だ。

それがいま、二人の6~7mほど前で四足歩行から二足になると手を広げ、低い唸りどころか声を荒げながら威嚇している。

川の騒音が反応を鈍らせたか、ここまで接近に気がつけなかったのはもはや悪夢である。

正直言って、勝てる見込みはゼロに等しい、北上の持っている鉈ではあの毛を貫けるかも正直怪しく、狙うなら脳天狙いの脳震盪だが、相手は2m近くある大型、北上の平均身長ジャストの背丈ではまず狙えない、

(退路は断たれてる、下流に走るのは危険が過ぎる、この竹の密度なら逃げ切れる!)

恐怖と驚愕に思考停止に落ちらなかったのは行幸だろう、そう判断したのは一瞬の事、北上はエリスの前へ庇うように構えると、作戦を提案する。

「竹林に逃げるぞ、勝てる訳が」

「私が魔術で火を放ちますその隙に攻撃できますか?」

「無理だ、通らん危険すぎるそれなら火を放って怯んだ時に逃げれる」

「大丈夫です、信じてください、私はこうやって魔物とかも討伐してきました」

「無理だ」

「行けます!」

「・・・・・・」

北上は週巡していたが、やがて同意の声を上げた。

正直賛同はしたものの、その自信は何処から来るのだろうか、そう北上は早鐘を打つ心臓とは裏腹に、内心冷ややかに否定した。

まず、エリスの起こせる火力が不明という点、ここが不透明過ぎた。

北上が前に聞いたところ彼女たちの魔術はその土地の精霊の力を借りて世界をその要望通りにする力、らしい、彼は完全に門外漢なので詳しくはわからないが、ここは川、ならば威力が減るだろうことは確実に思えた。

二つ目に己自身の実力だった。

仮にエリスが思った以上の火力を発揮して、熊が怯んで仰け反ったとしよう、そして生まれたチャンスを物にできるだろうか、暴れる熊の、脳天を狙えるだろうか、自分の一撃は確実に獲物の頭を砕けるだろうか、様々な疑念が瞬時に北上の脳裏を掠めていく、

そこで北上は、エリスにある物を渡すことにした。

「エリス、君にこれを」

鉈を構えて互いの膠着状態を解かぬように注意深くゆっくりと、エリスにある物を渡した。

エリスはそれを受け取ると、納得した。

それは火打石だった。

精霊の力を借りる魔術に置いて、重要なのは世界と一体になっているという錯覚、思い込み、そしてその魔術を確実に遂行できるという思想、いわばイメージだった。

故に、大地を使うなら足で地を踏み鳴らしたり、水を使うなら水を撫でたり、ある者は舞うようにして威力を上げる者もいるらしいが今は別の話である。

そんな中北上がエリスに渡した火打石は、現在彼らが用意できる火の魔術における触媒には、まさにもってこいといえるものだった。

火打石を受け取ったエリスは、熊を凝視した。

魔術を行使するにおいて、状況をイメージすることに置いて目線が通るということは絶対の意味がある。

ようはイメージしやすいからである。

「行きます」

火打石を打ち鳴らし火花を起こして、エリスは厳かに告げた。

「地底に眠る血よ、その熱き血潮の精よ・・・」

火打石の鋭い音と共に、今まで低く唸りを上げていた熊が、大きく吠えて接近する

その速度は凄まじく、恐らく一瞬でこの程度の速度は踏破されるだろう、

「炎となりてわが敵を焼き払え!!」

だが、それよりも速く、軌跡すら無く、北上の眼前で熊は突如として燃え上がった。

その威力は凄まじく、熊の背中から後頭部あたりを激しく燃やし、熊は大きく腕をばたつかせて苦しそうに悶えながら暴れている。

今だ、今だ、今だ、今がチャンスだ、今を逃すな、さもなくば手負いの獣は確実に俺を殺すだろう、動け、足を動かして、腕を振り上げて、奴の脳天に叩き込め、

北上は動けなかった。

激しくもがくあの両腕にぶつかっただけでも致命傷足りえる、それなら今ここで、この間に逃走をはかるべきで・・・

「今です!北上さん!!」

「!!」

エリスの叫びは、恐怖で地面に縫い付けられていた北上の足を急き立てた。

「うぉぉぉおおおおおああああああああああああああああ!!!!!」

血の通わぬ足で大地を蹴り上げると、もがき狂う熊へと渾身の一撃を撃ち込んだ、

熊の頭を捕えた一撃は、確かな感触を北上の腕に伝えた。

確かな、敗北の感触だった。

緊張で力が籠らなかったのか、筋肉の硬直か、そもそも力が足らなかったのか、空しきかなその一撃は熊の脳へとは届かなかった。

怒りに満ちた目と視線があった瞬間、

北上の高揚から早鐘を打っていた心臓は、恐怖と絶望によるものへと変わっていった。

頭に鈍器で殴られたようなぐらつきが起こる、胸が締め付けられるように苦しい、足が崩れ落ちそうになる、腕は恐怖に震え、逃げるような余裕も、ましてや二撃目を入れるような余裕も、一切なく、ただ、体感的にゆっくりと振り上げられた右腕を見る事しか出来なかった。

「北上さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

エリスの叫びと共に振り下ろされた右腕は、左腕ごと北上の脇腹を抉り、そのまま数メートル先の岩へと吹き飛ばした。

左腕とわき腹に鈍く、重い、車にでも轢かれたような衝撃が襲う、吹き飛ばされながら北上は、思った。

(やっぱ無理か、そりゃそうか、無理に決まってるわな、こんなもん、苦しいな、

 痛みは無いのはそういうものなんだろうな、あぁ・・・死ぬのかな俺・・・まだ、

 飛んでるのか?遅いな、もしかしてもう着地はして・・・)

北上の背中と後頭部に耐えがたい衝撃が襲うのは同時だった。

 




熊に勝てる訳ないんだよなぁ・・・
次の話は頑張って近い内に・・・できたらいいなぁ

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