ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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相も変わらずくっだらないことしてます。
一応これは皮鞣し全編っていうことになります、ご了承ください。


鞣しに苦戦

「さて、どーしましょう」

「どーしましょうねぇ」

小屋の正面まで移動した升平と松崎は二人、北崎の獲って来た獲物を下ろして軽く路頭に迷っていた。

理由は狩猟系の知識は北崎に半ば一任されていたためである。

松崎はそもそもの知識である程度予想は出来たが、下手なことをしたくないというのが彼の本音だった。

「取りあえず中の木野でも連れてくるか」

「そやね」

升平の提案に頷いた松崎は、小屋の扉を開けて玄関から木野を呼び出した。

道具の整理をしていた木野は、その作業を一時中断すると、要件を聞いて必要と判断したのであろう、例の狩猟の手引きと割と大型のナイフを手にして松崎たちと合流した。

小屋からでてその獲物を見た木野は、小さく感嘆の声を上げた。

「よく獲ったねこんなの、正直最初だし失敗すると思ってたのに」

「正直俺もそう思ってたわ」

「でこれ何て動物なんだ?鹿みたいだけど角羊だし」

三人は獲物の感想をしばらく言っていたが、木野のさて、という言葉と共に次へ進むことにした。

「なかなか立派なの獲ってきたね、それに処理までしっかりしてあるしこれなら後は

 皮を剥いでブロック分けするだけだね」

鹿の状態を確認した木野は、そういうと手引書を玄関扉の前に置いた。

「そうだな、取りあえず皮剥いじゃうか」

松崎は木野からナイフを受け取ると、内臓を抜いた際の切断面から起用に皮を剥いでいった。

剥す作業は、升平が持ち上げて残り二人で剥してゆくという分担で行われ、初めて故苦戦すると思っていたのだが、三人がかりというのもあってか、皮はまるでジャケットのように脱げてゆき、予想以上の簡単さで皮を剥ぐ作業を完遂した。

「よし、終わったな」

作業終了まで鹿の体を支えていた升平は、さすがに疲れたのかゆっくりと鹿の体を地面に下ろした。

「おう、升平お疲れ」

「お疲れさま、さてと、ここまで来たらあとはブロック分けだね、ここは任せて

 欲しいと言いたいけど・・割と力がいる作業なので升平さん、また手伝って下さい」

その言葉に升平は悲壮な顔をしたが、渋々といった感じに手伝うことにした。

 

暫くして、ブロック別けの作業が半分ほど終了した時、先ほどまで何やら言い争いをしていた北上とエリスがようやく合流した。

「おう、すまなかったな、ここまでやらせちまって」

「いやその前段階全部やってもらったみたいだし、おあいこでしょ」

そういった松崎は、作業を眺めているだけで特に何をしているようには見えなかった。

「お前皮剥ぐ以外何もしてねぇじゃねぇか!」

「・・・はっ!?」

そういわれた松崎は、さも今気が付いたかのよに、大げさに驚いた。

これで無罪放免になるのは松崎の人徳のなせる技であろう。

そんななか、松崎はそういえば、と切り出して鹿の皮を北上に差し出した。

「これどうしようか?」

「あぁ・・皮かぁ・・・」

松崎と北上が二人して眉をひそめていた時、作業中の木野が口を開いた。

「皮って、取りあえずなめせばいいんじゃないの?」

それに対して、北上は皮をぼんやりと眺めながら答えた。

「原料がなぁ・・・蒸留器でもあれば作れるんだが・・・」

「でも油があるくらいだしどこかにあるんじゃないの?」

「最悪それはなんかの木の実絞って作った可燃性の液体、なんて落ちも

 無きにしも非ず」

「そうだなぁ・・世界が違うと地味に不便だな・・・噛みまくるか?」

「汚ねぇ上に顎死ぬぞ」

「じゃあ・・・・・・・・」

こうなってくるとこの手の知識に長けた北上松崎二人の世界で、男二人はついていこうとも思わなかった。

「最悪・・・手がないわけでは無いが・・・」

ふと北上が重く口を開いた。

「なんだっけ?」

松崎には心当たりがないらしく、小首をかしげた。

「あぁ、脳漿だ」

「ノウショウ?」

「脳みそ」

「あぁ、脳漿か・・・」

それを聞いた松崎は、少し顔をしかめると、ふと鹿の頭を見やった。

それと同時にブロック分けをしていた二人の手が止まった。

「一応、分量はその動物の物を使えば足りるらしい・・・」

北上も鹿の頭を見ながらぼそりと呟いた。

「だけどなぁ・・寄生虫とか衛生面がやばくないか?それになんかなぁ・・・」

「うん、衛生面はまぁ最悪死ぬ、それになんかこれ以上するのは・・

 エゴなのはわかってるがね、どうもねぇ」

「まぁ、無しだな」

「まぁ、そうなるな」

二人してまた頭を悩ませていた時、ふと松崎が、

「そういえばエリスのとこはどうやってたの?」

「私のところですか?えっと・・・そもそも鞣すってなんですか?」

「え」

北上と松崎は、あまりにも意外な答えに揃ってエリスの方を見やった。

「え、なんですかその反応、いくら私といえどさすがに傷つきますよ?」

「いや、すまんそこまで文化が違うもんかとな」

北上が取りあえずといった風にフォローを入れた後、なめしの説明を始めた。

鞣しとは、平たく言えば防腐処理である。

皮の主に内側に、油や樹脂といった何らかの液体によるコーティングを行い、腐敗を防ぐというのが主な目的で、基本的にそれ以上の効果は無い、だがこの物資が基本的に不足している状況だと、それだけでもとてつもなく大きな意味を持っているのは言うまでもない。

一応それ以外にも柔らかさを保つのにもひと役かってくれたりもする。

説明を聞いたエリスは、納得したように一つ声を漏らすと、

「なるほどわかりました、似たようなことはこちらでもしていたのですが、

 そういうのは基本的に男の役割だったもので・・・父なら知ってると思うのですが

 私は知らないですねぇ・・・」

「そっかぁ・・・ありがと」

松崎は残念そうな声を上げると、半ば癖のように礼をいった。

「いえいえ、お役に立てなくて申し訳ない」

「さて、これで八方ふさがりか・・皮は今は表面加工するくらしかないか」

北上は残念そうに皮を眺めた。

「表面処理?」

松崎は効きなれなかったのか聞き返す。

「あぁ、この、まぁ肉ついてる層とこの下の薄皮みたいな層をナイフとかで

 そぎ落とすんよ、まぁせめてもの防腐処理だな」

「へぇ・・そこまで詳しくは知らんかったなぁ、まぁ確かに腐りそうだしな、表面」

そこで、作業が終了した升平と木野が、腰を数回叩きながら立ち上がり、

「まぁ、その辺俺やっとこうか?これでも理髪師だったから剃るのなら慣れてるぞ?」

升平が、顔剃りのジェスチャーをしながら提案した。

「あー、いいや、どうせだし俺やるわ、彫刻とか良くやったし、容量は変わらんやろ」

北上はそう答えると、手に皮を持ったまま、また小屋の後ろ側へと消えていった。

「いっちゃいましたね」

エリスが北上の背中を見守りながらぽつりとつぶやいた。

「まぁ、あいつがやるっつってんだしやらすのが一番でしょ」

「そういうものですかねぇ・・」

「そういうもんよ」

そういうと升平は、ブロック分けされた肉を幾つか抱えながら木野の指示を仰いで保管場所を決めると、そのまま彼もまた、松崎と共に小屋の中へと消えていった。

「さて、と、そろそろ夕食の準備に取り掛からないといけませんね」

木野は、残った分の肉を抱えて、エリスに声をかける

「まぁ、彼らは付き合い濃いですから、何かお互いわかってるんでしょう」

「そうなんですか、なら、安心ですね」

それを聞いた木野は、若干呆れたように一つ苦笑すると、

「・・・エリスさんはもーすこし人を疑った方がいいと思いますよ」

「なぜです?」

それに対してエリスは、まるでさも当然、といった面持ちで聞き返した。

「簡単に納得しすぎですよ」

「だって、私より升平さんの方が北上さんを理解していて、木野さんの方が升平さん

 を理解しているでしょう?なら、そういうことでしょう」

「・・・なるほど確かに」

「ね?さぁて晩御飯つくっちゃいますよぉー!あ、前もその前も木野さんだったので

 今日は松崎さんとやりますので休んでてくださいねー」

「あ、今日僕休みですか、わかりました」

そういうとエリスは、意気込んだ様子で腕まくりをするような動作をしながら、すたすたと小屋の中へ消えていった。

一人、取り残される形となった木野は、暫く落ちてゆく夕日を眺めた後、特にやることも無いので、他の住人と同じように小屋へと入っていったのだった。

 

そして暫く時は経ち、作業も大体ひと段落ついた頃合い、皮の肉剥ぎ作業も終了し、後は夕飯を食べて寝るだけ、となった北上がふと口を開いた。

「腹が減った」

「そういや昨日今日お前まともに食ってないのか」

升平は寝転がったまま北上の方を眺め見た。

「おう、ようやくまともな飯にありつけるぜ」

「まぁ、お前が獲って来たし、今日は期待してもいいんじゃない?」

「そう願おう」

そして帰宅時をふと回想した時、北上の脳裏にふと疑問が浮かんだ、

「そういやお前ら、俺が帰って来た時なにしてたん?あの木材」

「あぁ、あれか?漁の道具作ってたんよ」

「ほぉー」

寝転がっていた升平は、起き上がりながら答えた。

「漁か、してどんな?」

「いやそれがね、作ろうと思ったら焼け残ってた網が予想以上に小さくてな」

「あれま」

升平の話を聞いたところ、エリスの故郷にあった漁の道具と、自分たちの世界にあった道具の知識を試行錯誤して作ろうとしたものの、予想以上の道具不足で失敗した。

ということらしい、

「なるほどねー・・・竹とか無いかねぇ」

「竹?」

「竹網でも作るんですか?」

「そー、竹は何かと便利だからさ、明日川辺探してみるかな」

北上は軽く伸びをしながら、話に参加した木野へ返答をした。

と、その時だった。

「はぁい!ごはんができましたよぉぉ!!」

ようやく待ちにまった夕食の号令が鳴り響いた。

それを手順良く床へと並べて、ようやく夕食の時間へと相成った。

並べられた料理を見た北上達は、思わず感嘆の声を上げた。

まず、部位こそわからないが、肉をスライスして、割かし備蓄のある香辛料を使用したいわゆる焼肉、緑が美しいサラダ、あいも変わらず名称がわからないスープ、ラインナップは一切変わらないこの料理だが、今回は肉の量が違う、そして何よりも干し肉とかを戻したものでは無く、鮮度が最高の状態であることが、恐らく見栄えの改善に大きくかかわっているのだろう。

「おぁー今日は豪華だな」

升平は北上の方をちらりと眺め見た。

「ふふふ、今日は北上さんのおかげで豪華ですからね、皆さん沢山食べてくださいな」

「そうだぞお前ら心して食え」

北上はそういいながら、己の仕留めた獲物が、しっかりと糧になるのを感じて内心で頷いた。

「それじゃ、いただきましょうかね」

手を合わせて頭を軽く下げる、その動作が今日はとてつもなく重かった。

しかし、何時までもそんな調子という訳にも行かない、合わせた手を解くのと同時に神妙な顔からいつもの顔に戻すと、北上はまたいつも通り、食事にありついたのだった。

 

そして就寝と相成った夜、松崎が口を開く

「なぁ、明日川見に行こうぜ」

「いいんじゃない?」

升平は寝転がった姿勢から起き上がって胡坐になりながら答えた。

それに応えるように北上が、

「もし行くなら竹みたいなのあったら取っときたいな」

「あの、たけってなんですか?」

「ん?あぁ、えっと・・・長い一本の中身スカスカな背骨みたいな木だよ」

北上の説明を聞いて暫く唸っていたエリスは、暫くして納得した顔になると、

「あぁ!わかりましたベンドゥの事ですね!確かにあれなら加工もしやすいですしあ

 れば便利ですね」

「ベンドゥ・・?まぁ多分それ、それで粘土があれば完璧なんだけどね」

「竹と粘土?何する気だ?」

升平が首をかしげる、

「そりゃお前、土器つくるんだよ」

「土器ぃ?なら別に竹なんて要らなくね?」

「一応いらないが、あった方がなんか楽な気がせん?」

「まぁ・・・そこら辺は任せるが、つまり明日は竹と粘土を探せばいいんか?」

「そこら辺は詳しくは明日かな」

升平はそれに軽く頷くと、さて、と会話を区切った。

「取りあえず明日の予定はこれでオッケーなや」

「そうですね、それじゃあそろそろ寝ましょうか」

そうしたエリスの声もあって、一向は睡眠へと向かっていった。

ただ一人すでに眠っていた松崎を除いて・・・

「それでは、お休みなさい」

「お休みぃ・・・」

「お休み」

エリスに続いて升平が、それを北上が返し、皆、その意識を手放した。

 


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