ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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読んで字のごとく説明回となります。
登場人物にいたしましては、そもそも発端が身内ネタ小説だったので、そこをどうかご理解いただけると幸いです。
あと、終盤もしかしたら一部の方を不愉快にさせてしまうかもしれない表現があります。
それに関して前もって謝罪申し上げます。

どうぞよろしくお願いします。



説明会

「うあぁぁ・・・寒・・・痛てぇ・・・」

朝の冷え込みで目覚めた北上は、映画に出てくるゾンビの様な声をあげると、うーんと伸びをした。

初日は踏み固められた土の上、昨日は同じく木でつぶされて固まった土の上で寝ていたためか、体の節々が悲鳴を上げているのがわかった。

更に昨日の基礎強化での全身筋肉痛も相まって、少し動くにも非常に辛かった。

北上は枕にしていた太めの木をもとの位置に立て掛けると、自分にかけていた毛布を隣でいまだに寝息を立てている升平にかけ、立ち上がって軽くストレッチした。

眠気は、そもそも日が落ちてすぐ寝るうえ、この寒さなので特に感じない。

寒さ、といっても朝特有のすがすがしい空気が満ちているので、逆にこれが心地よくも感じる。

北上がストレッチに精を出している時、後ろで気配を感じて、腰を捻る体操と同時に後ろを振り向いた。

「おはよう・・・」

半ば濁点交じりの挨拶とともに起きた升平は、腰に手を当てて伸びをしながら風呂に入った時のような唸りをあげた。

「おう、おはよう。よく眠れたか?」

「んなわきゃねぇだろ」

升平は半ば笑いを交えた声で否定すると、井戸のほうへと歩き始めた。

北上もそれを追う形で井戸にたどり着いた。

見れば、井戸は昨日使ったままで、特に周囲も濡れていないため、まだ小屋の仲間は起きていないことが分かる。

(まぁ、そんな考察はどうでもいいか)

あくびを一つすると、北上は井戸の桶を引き上げた。

桶の水はとても澄んでいて、まるでこの大気のように冷たかった。

ちなみにこの井戸水を汗を流したり料理に使用したりと様々な用途に使っている。

それを手ですくって顔にぶちまける。

冷水は一瞬で北上の軽く残った眠気を吹き飛ばした。

「ふぅ・・・升平、ほれ」

「ん」

北上は、升平が顔を洗っている間に、なんとなく空を仰ぎ見た。

少し白んでいる空の、明るい方へと次第に目を向けていくと、丁度朝日が目に入った。

山々の間から姿を現した朝日は、なるほど確かに、世界に太陽信仰があふれている事が納得できるほど神々しく輝いていた。

しばらくその光景に見入っていたが、小屋の方からした気配で、北上はその感慨を打ち切った。

木のしなるような音とともに扉が開き、出てきた一向の先頭にいたエリスは、こちらの姿を視認すると、どことなく顔を曇らせた。

「おはようございます。北上さん、升平さん」

「あぁ、おはよう」

「おう、おはよう」

「昨夜は本当に申し訳ありませんでした・・・なんとお詫びすればよいか・・・。」

「まぁ、気にするな」

「おう、気にするな」

「すいません・・・」

申し訳なさそうに深々と頭を下げたエリスは、少し頭を傾けると、上目づかいにこちらを見据えた。

(・・・なるほどこれは・・・。

 いわゆる美少女というものの上目づかい、ただそれだけのプロセスが、これほどの破

 壊力を生むものだったとは・・・。

 生きているうちに見ることはないだろうと思っていたが、まさかこれを拝むことがで

 きるとは・・・これは、素晴らしい!)

北上は、ちらりと升平のほうをうかがう。

やはり升平も鼻の下を伸ばして、ばれないように覗いている。

「本当にすいません・・・今日中になんとか対策を講じましょう!」

エリスは一転して元気よく頭を起こすと、ぐっとガッツポーズをしてその決意をより固めたのだった。

その後、全員顔を洗った後、俺たちは軽めの朝食をすますと、師匠たちの到着を待っている間に寝床の相談をすることとなった。

「それで・・・寝るとこどうします?」

木野は、そんなことを言いながら食後の野菜スティックをぽりぽりと齧った。

「そうだなぁ・・・材木置き場の木組んで作るか?」

「んなT○KY○みたいな真似ができるかよ・・・」

松崎の提案に北上は若干のボケを交えて返した。

「あの・・・T○KY○ってなんですか?職人さんですか?」

「あぁ・・・似たようなものかな・・・?吟遊詩人と踊り子と漁師と農家と建築家と大工と料理人等のスキルをもった五人組のことだよ」

「え・・・なんですかそれ、最初と途中がなんにもあってないんですけども・・・」

「まぁ、そういう集団なんよ」

「そ、そうなんですか・・・」

「そうなんよー」

「で、それはともかく、どうすんですか?」

木野は北上とエリスの、出口の見えない会話を断ち切ると、野菜スティックを食べ終えた。

それを見て、という訳でもないが、北上は顎に手を当てながら、

「まぁ・・・いざとなったら簡易テントでもつくるで、今はそれで我慢だな」

「簡易テント?」

升平が寝っ転がりながら質問した。

「そう、枝とか組んで作るやつ」

「お前、それできるなら昨日やれよ」

「材料がねぇよ、山入って取りにいかないと」

笑いながら突っ込む升平に答えた。

「ともかくだ、今日説明会とやらが終わったら山に入ってくるよ」

「その必要はないぞ?」

その時、この場には場違いな低音ボイスが突如として響いた。

「え?師匠、なぜです?」

「うむ、それは今日戻ってくるときにわかる」

「なるほど、じゃあそれまで楽しみにして・・・」

「ちょ、ちょっと!?」

その時、升平とライの会話を木野が急に断ち切ると、勢いよく立ち上がった。

「どうした?」

「そうじゃどうしたのだ?」

「どうしたんだ?」

「そうですよ、どうしたんですか?」

「いやどうしたって・・なんでそんなすでに順応してんだ・・・」

木野は、まるで頭痛でも患ったかのように頭を抱えると、半分はわざとであるが大きくため息をついた。

だが、それとは対照的に、先ほど声を出さなかった松崎含む、他の面々は寧ろその態度に首をかしげている始末である。

升平と北上に関してはライと目を合わせると、やれやれ、といった具合に肩をすくめていた。

と、その瞬間だった。

「はぁーい!皆さん!今日も今日とて私です!」

バァン!と扉を思いっきり開いて登場したリーネは、小屋を一瞥すると、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに話を切り出した。

「っはい!それでは皆さん、今日は説明会です。その会場に移動しますのでついてきてくださいねー」

「「はーい」」

エリスたちは学生のような返事をすると、リーネを筆頭にぞろぞろと小屋を後にした。

「あ、言い忘れてました。今回の説明会にはもう一組の勇者パーティーも参加しますんでよろしくお願いしますね。」

リーネは、会場に向かう道すがら、実際そうなのだろうが、今思い出したという風に話した。

「そうなんですか?まぁ、大丈夫だと思いますよ」

「一部、皆さんのよく知る方たちのはずなので心配ないと思います。」

よく知る人物・・・はて?

北上が脳内で人物を照合していると、そういえば、とリーネが切り出した。

「あ、木野さん、一つ折り入って話があるんですが・・・」

「はい、なんでしょうか?」

「えぇ、単刀直入にお聞きしますけど、木野さん、ジョブ変える気ありません?」

「ジョブを、ですか・・・?」

「えぇ、錬銃士、別名グラスガンナーっていう最近開拓されてきた特殊なジョブなんですけど、剣士とか魔術師とかっていう花形と違って知名度事態は低いんですけど、実際なかなかに強力なジョブですよ」

「銃士ってことは・・・銃ですか?」

「えぇ、武器は基本銃になりますね、ただ、このジョブの特徴はですね、弾丸によって属性、特性、効果を変えることができることなんですよ、炎や氷の弾丸を撃ち込んだり、敵のステータスを下げたり、味方の能力上昇したりと用途は多岐にわたっています。

ただ、弾丸の作り方が錬金術によるものなので、必然的に錬金術を学んでいただくことになる上材料も手に入れなきゃならない。

養育にしても銃の手入れ等の専門知識をいろいろ覚えなきゃいけないという手間がかかってしまうのがネックなんですね、だからいまだにあなた方が赴く世界ではてんで普及しないどころかこれ剣と魔法か弓でもあればよくね?といった風に完全に不遇武器と化してしまっています・・・。

ただ、しかぁし!錬金術を収めることは後に必ず大きな助けになるはずですし未開拓ゆえどのような可能性が眠っているか未知数!必ずや後悔はないはずです!どうでしょうか!?」

「は、はいじゃあお願いします」

途中からあからさまに熱の入ったリーネの演説に押されて、木野は若干体を引かせながらそれを了承した。

それを聞いたリーネは、手をポンっとあわせると顔を輝かせて、いつものように饒舌に話し始めた。

「いやぁー有難うございますぅ!いやぁ、ぶっちゃけですね、木野さん魔術面はナフィアちゃん共々イーリアに兼用で、剣は松崎さん共々私が、って思っていたんですけどね、それだと本当に中途半端魔法剣士が出来上がってしまうだけですし、何より弟子側二人に支障をきたしてしまう恐れがあったんですよ・・・。」

「は、はぁ」

「はい、でそこで考え付いたのがこれでした!これなら師匠がそもそも違うから支障をきたさない上に元々のコンセプトからも外れない、更にキャラも立つ!」

輝かしい顔でぐっとガッツポーズを決めているリーネを見ながら、木野はつぶやいた。

「キャ、キャラですか・・・?」

「そうです、序盤こそ役立ちますけど、中盤、終盤に関しては酷いものですよ、強い魔物にはもはや弱体どころか毒等のステータス異常はききませんし、仲間も大概になってますから強化もなんか地味に・・・唯一出来る魔術の茨や鎖による足止めも、一瞬で砕かれてリバウンド何て言うのも目に見えてますからねぇ・・・」

「これはひどい」

聞いていただけだったはずの北上が、思わず口に出してしまったレベルで酷い、だが、これが間違いだった。

「そぉーうなんですよぉ!他の皆さんの職業はまだ色々伸びしろもありますし見せ場だってあることでしょう、しかし呪術剣士に至っては・・・」

話の矛先になった北上は、会場に到着するまで永遠とリーネの長話を聞く羽目になった・・・。

「でですねぇ、その時のイーリアちゃんの顔がもうすさまじいのなんのでしてね」

「あぁ、普段無表情ですからねぇ」

「そうなんですよ!それがまさかあんなことに・・・」

「おい、長話はそこら辺にしろ、もう見えてきたぞ」

「あぁ、本当ですね、残念ですが今日はこの辺にしておきましょう・・・

 はい、あれが今回の会場です。」

かれこれ20分近く永遠と自分ペースでしゃべり続けたリーネは若干名残惜しそうに話を区切ると、目の間に見えてきた建物を指差した。

そこには、少し開けた土地に少し大き目の家が建っていた。

北欧っぽいというか建物が西洋くさいのはデフォルトらしいな。

小屋の倍ぐらいある二階建ての建物に入った北上たちは、入ってすぐの広めの部屋へと通された。

中は小屋と同じく限りなく質素で人数分の椅子が乱雑に並べられていた。

だが、一つどうしても気になるものがあった。

「なんでホワイトボードがあるねん・・・」

北上は一人この異質な白板に突っ込みを入れた。

「場違いすぎるだろこれ」

それに呼応するようにもらした松崎も顔には苦笑が浮かんでいる。

全員が白板に向かって右側に座り終えたときだった。

入口のほうが何やら騒がしくなったことに気が付いた。

「やっと着きましたか、遠くないですか?これ」

「ほんとそれな、ちょっと遠すぎんよぉ」

「このぐらいで音を上げるとか・・・」

「はいはい文句言わない、そこ、向かって右のところが」

最初は知らない者の、最後のはリーネのものだろうが、途中二人の声には聞き覚えがあった。

先頭を切って部屋に入ってきたのは見知らぬ青年だった。

長いぼさぼさの黒髪と、いまだ幼さの抜けきらない顔が印象的な青年だった。

青年は、エリス達を見ると、パッと顔を輝かせた。

「あ!他の勇者の方たちですよね!?お初にお目にかかります!

 僕はクローデン・フィースレン、勇者をやらせていただく身です!気軽にクロード

 と呼んでください!」

「あぁ!こちらこそよろしくお願いします!私はエリセフィーナ・スランです!気軽に

 エリスと呼んでください!」

エリスは、クロードと名乗った青年の自己紹介を律儀に返すと、二人、固い握手を交わした。

そして、その後から着いてくるように四人の人影が姿を現した。

一人は女で、その他の男三人には見覚えがあった。

「お前ら!」

「北上じゃねぇか!お前やっぱりこっちにいたのか」

まず話しかけてきたのは、細身の男だった。

大学の友人で、名前は蒼松悟(あおまつ さとる)

細身といってもやせ細っているわけではなく、どちらかというと余分な脂肪が無い、というのが正しいだろう。

昔から剣道を習い、今でも剣を振るっているせいか実際、身体能力は割と高い。

性格はとても明るく、友人連中のムードメーカー的な存在だった奴だ。

「なんだお前らも来てたのか!」

「来てましたよぉー北上さぁん」

この、若干独特の喋りをよくする巨体は、

樹広孝介この男も北上が通っていた大学の知り合いで、彼だけは升平たちとも面識があった。

昔柔道を習っていたせいか体格が良く、身長180という巨体の持ち主、だが、巨体総じて総身に知恵働かず、の理に反して、大学の身内で最も頭がいいと北上は感じていた。

「よう北上、久しぶりやね」

その後ろから、長身というわけではないがまたも体格のいい男が現れた。

名前を幾智博隆(いくち ひろたか)といい、大学内では北上と蒼松の仕切りないボケに対する突っ込み約に回っていた。

特に何かを習っていたわけではない

「あぁ、久しぶりだな!お前らジョブは何になったん?」

「おう、俺なんかモノノフとかいうのになったわ」

「なんじゃそれ」

「ようは侍」

「なんだいつものお前じゃないか、でお前らは?」

「俺は格闘家だよ」

「嘘つけお前は砲撃」

「蒼松さん、それは言わないお約束」

「どゆこと?」

北上は、怪訝な顔で聞き返した。

樹広は、とてもいい笑顔でにっこりほほ笑むと、

「基本格闘だけどビーム撃つ」

そう言い放った。

「どゆこと!?」

北上達は一瞬耳を疑った。

「ま、まぁいいや・・・で幾智は?」

「俺は・・・なんか技工士とかいう訳わからんのになった」

「なんじゃそら」

「さぁ・・・機械技師っぽいけど武器はハンマーとかモンキーレンチ」

その瞬間北上は、こみ上げる笑いをこらえることができなかった。

「お前らのパーティ個性強すぎだろそれ」

腹を抱えて笑いながら、北上は向うのパーティーを指差した。

「気持ちはわかる、でそっちはどうなん?」

蒼松がもらい笑いとも言うような感じで笑いながら尋ねた。

「うん?こっちは勇者と魔法剣士と魔法使いと格闘家と大剣士と錬銃使いだよ」

「なんかしっかりファンタジーしてんなそっち・・・」

「俺は逆にそっちがファンタジーしてるよ、いろんな意味で」

「はいはーい、ちゅうもーく」

その時、聞きなれた明るい声が部屋に響き渡った。

「えー、久方ぶりの友人、新しい出会い、積もるお話も色々とあることでしょうが!今は後回しでお願いいたします!」

入口から現れたリーネは、手をたたいて急かすと、部屋の上座にある白板の前に立った。

勇者見習いたちはそれぞれ話しを打ち切ると、近場の椅子に座って聞く体制を整えた。

「準備はよろしいみたいですね、それでは今回集まっていただいた理由をご説明いた

 します。それは、これからあなた方が行く世界の説明、そしてあなた方の役割の説

 明を行います。」

「はいセンセー」

北上の隣に座っていた蒼松が手を挙げた

「はい!なんでしょう蒼松君!」

「役割って魔王を倒すことじゃないんですか?」

「いい質問ですねー、そのことについてものちのちご説明いたしますのでご安心くだ

 さい!」

「わかりましたー」

「では、話を続けさしていただきます!」

そういうと、リーネは白板の下に備えてあった様々な色のペンを取り出すと、黒の細ペンでなにやらとてつもなく歪な、殆ど台形に近いひし形を書き出した。

「はい!これがあなた方が赴く大陸、その名もヨーレンシア大陸です!縦全長は大体松崎君たちの故郷やクロード君の大陸と同じ、エリスちゃんやナフィアちゃん、あとフィーリスちゃんの大陸からしたら半分くらいの高さですね、横幅は大体似たようなものです。」

フィーリスとは恐らくむこうの魔術師だろう、北上の唯一知らない名だから間違いあるまい、

「で、中央にフォリス湖、でそれを取り囲むように大森林」

そういいながら、リーネは中央少々右に大体大陸から5分の1程あろう面積がある湖を青ペンで描き、それを取り囲むように緑ペンで丸を描いた。

この時点で大陸の5分の3がつぶされている。

人間の居住空間はほとんど無いのか、それとも上手い事共存しているのか・・・。

森林の円をよく見ると、北側がやけに削れているのがわかる。

東西は大部分が森林で、南は間をとったくらいだろうか、北が削れているのは気候の問題だろうかな?北上はなんとなくそんな考察をすると、リーネに視線を戻した。

「で、ここがこんな感じで山脈で・・・」

そんな感じでしばらくすると、地質学者顔負けの地図が出来上がった。

北上達は、その出来に舌を巻いて眺めると、その地形を頭に叩き込んだ。

東から北にかけて起伏の激しい山脈地帯がだいぶ多い、対して西は平坦な地形が多く、その代わりか、森林の浸食が一等激しい、南は起伏も森林も何というか間をとった感で、一番丁度いいという表現がしっくりきた。

中央の巨大な湖や、山脈から流れる川がまるで脈のように波打っている、なにもそこまで書かんでもよかなかろうか?

「はい!これがあなた方が向かう、ヨーレンシア大陸大体の地形ですね、で、この大陸には大体13個ほどの大きな街があり・・・それを繋ぐように大動脈となる道が続いています。これら道のそれぞれの名称は今はいいでしょう。」

そういいながら、リーネは次々と地図を更新していった。

南北に3つずつ、東西2つずつ小さな丸を打つと、それを繋ぐように地形に沿った大分蛇行した線を引いた。

「まぁ大体こんな感じですねー、町の説明は追って致します。

 これで取りあえず今日の地形とかの説明は終わりですかね」

それを聞いて、北上は改めて出来上がった地図を眺めた。

海岸線の凹凸、森林の状況、土地の起伏、道の配置、どれをとってもこちらの世界の公式地図のような、そんなレベルの地図がホワイトボードに出来上がっていた。

(あんた職業間違えてないか?)

「ここまでで何か質問のある方いますかー?」

「僕らってどこがスタートになるんですかね?」

北上は手を挙げて質問した。

「それはですねー、この最南端の町、ヴィーレというところに降りて頂きます。

 詳しい地形特徴なんかは自分の目でご確認ください!」

リーネは、最南端の丸をペンで指しながら、満面の笑みで答えた。

「ありがとうございます」

「はい、で、次はですね何故あなた達が送り込まれるか、というお話です!」

リーネは、ペンをもとの場所に戻すと、教壇に両手を勢いよく叩き付けた。

「それ結構重要なはなしじゃないですかぁー」

蒼松が笑いながら突っ込んだ。

「そうですねー、重要といったら重要なんですけども、結局は己で探すことになるので、そこまで重要ではないですかねぇ」

「そうなんですか、ありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして・・・さて、話を戻しましょうか、あなた方の使命、とでもいうのでしょうか、なんですけども、その前にまずこの世界とでも言いましょうか、この世界の成り立ちを説明いたしましょうか、まずこの世界にはいわゆる神というものが明確に存在しています。

名をイルシア、この星を造り、今なお見守ってらっしゃる女神です。

この世界は途中まで、そちらで言う中世初期、エリスさんたちで言う騎世中期ほどの文明レベルでした。

鉄やミスリル、マナといったものから固有鉱石である緋鉱石という魔力を放出する石すらありました。

ですが、人々はそれらの使い道をなかなか発掘できずにいました。

そこで、こらえ性のない女神が発動したのが、他のすでに技術の発達した世界から人員を貰うという、いわば移民政策ともいえるものでした」

「なんかその政策、成功する気配が微塵もないんですが・・・」

蒼松が口をはさんだ。

「そこはこれからのお楽しみですよ?

 さて、最初は魔術の発達した世界からの移民でした。

 俗にいう魔術時代といわれる時代です。

 この際にマナの活用、魔術がもたらされました。

 それによって文明は大きく躍進し、移民元以上の発展を見せました。

 しかし、当初より発達していた二国の間で大きな戦争が起きました。

 戦争終盤、劣勢にあった方の王国が決選兵器を起動しました。ですがその威力はそ

 の王国の予想をはるかに超えており、それにより大陸全土が焼き払われるという事

 態に陥りました。

 続いて次の時代、かつての魔術の残滓と、かろうじて残った人類の時代です。

 女神はここでも移民を行います。」

はて、移民を行ったことで滅亡しかけたのにまた移民か、復興の人手か、それとも少なくなりすぎた人員の補充か・・・。

どちらもだろうな、と北上は適当にあたりをつけて、話に耳を傾けなおした。

「次に移民したのは、科学の進歩した。いわば化学文明でした。

 いわゆる化学時代の幕開けです。

 この時代により、炭鉱業の発展や、船や農業などが発達し、なにより重要なのが、

 緋鉱石の発掘です。

 この発掘によりこの文明は急速に発達を遂げました。

 車が陸を、飛行艇が空を、動力船が海を行き、ついには宇宙へ、というところで、

 まぁ何というますか、時代は繰り返すというますか・・・。」

 リーネはそこで一旦話を区切ると、つづけた。

「はい、大方の方が予想している通りと思いますが、技術の独占を目論んだ共和国

 が帝国と王国に宣戦布告、最後はまたしても最終兵器の誤作動で幕を下ろしま

 した。そこまではよかった・・とはいいがたいのですが、

 そうして残った連合国は、この疲弊しきった大地に、生命の元ともいえる大規模

 なマナの散布を行おうと考えました。

 そして次の時代、魔術の残滓と化学の残骸にしがみついて生きていた時代です。

 この時代に、私たちは送り込まれました」

この時、リーネに一瞬、ほんの一瞬影が差した気がした。

「私たちの世界は、科学と魔術がほどよく発達した文明でした。

 まぁ、丁度よかったんでしょうね、時代とあってましたし」

 リーネは自嘲気味にフッと息をつくと、いつもの調子に戻った。

「私が受けた説明は以下の通りでした。いえ、正確には一言、といったほうが正しい

 でしょう、文明の火を灯せ、この一言・・・。

 私たちはその言葉に忠実に、必死に従いました。その結果、魔術と化学ハイブリッ

 トである文明は、かつてないほどの繁栄を極めました。

 そしてある時、悲劇が起きました。

 中央都市グランレーネ、その中核ともいえる大緋鉱中枢炉心が崩壊、それに伴い

 起こった爆発によって、大陸は炎と爆風に襲われました。」

リーネの声は震えていた。

それは怒りによるものか、悲しみによるものか、否、そのどちらもだろうな、その真意はリーネの表情からありありと見て取れた。

その数瞬後、何事もなかった、とはいかないが元の表情を取り戻したリーネはつづけた。

「その後、炉心に充満していた生命エネルギーたるマナの濃度が爆発的に上昇したこ

 とにより、グランレーネがあった場所を中心に木々等が異常発達しました。

 ま、前時代の連合国残党にしてやられたわけですよ・・取りあえずそれは今はいい

 でしょう。

 そして年月が経ち、爆心の中央に水がたまり、現在の湖となり、今の形に落ち着

 いた、というわけです。」

なるほど、しかし今回俺たちが送り込まれる理由がわからん、中規模ながらも都市がいくつかできているレベルの発展度合ということは、被害から立ち直って次に行きつこうとしているタイミングだろうし・・・。

って、あぁ、逆にそのタイミングだから送るのか。

と北上は一人で自己完結していると、リーネがようやく今回の講義の中核を話し始めた。

「今現在この大陸では、過去の失敗を受けて二つの思想が対立しています。

一つは大きな技術の革新を捨て、自然的に技術の覚醒をまつ、いわゆる穏健派、技術の普及を完全に捨てて魔族などと共に自然と共に生きる者たちもこの中に含まれます。」

なるほど、あるいみこれは当然の思想といえた。

これまでの災害は、過度な技術革新がもたらした物に他ならない、ならばこれらの思想が生まれるのは至極当然な流れである。

「そしてもう片方が、技術革新による災害を、徹底した管理によって防ごうといった。

いわば革新派と呼ばれる方々です。」

こちらもある意味は当然の思想だった。これがあったからこそ三度も技術革新があった。しかし・・・災害を引き起こす元凶的な思想でもある。

北上は、本能的に、こいつらは根強いな、と、そんなことを思った。

「いままで、移民は新たな技術の普及、もしくは基本大災害が起こった復旧の足掛かり

的な意味合いが大きくありました。

ですが今回はどちらの例にも漏れた状態です。

正直な話、今回の移民の意味はいまいち判別が着き辛いんです。強いて言えばかき回せ的な意味合いでもあるかもしれませんが・・・。」

「どちらかにつけってそういう単純な話ではないですよね・・・これは」

エリスが、ぼやくように発言した。

「そうですね、もしあなた方が旅の中でそれが良いと思ったら片方についてくださってもかまいません、正直な話あなた方が何かを起こすこと自体が女神の目的ですからね」

「そういうものなんですか」

「そういうものです」

リーネは小さく頷いて、頭を上げるころにはいつもの調子に戻っていた。

「はい!これで大体今日の講義はおしまいです!皆さん暗くなる前に家に帰ってくださいねー!それでは皆さんまたお会いしましょう!」

そういって、風のように去っていったリーネを見送って、俺たちは小屋を後にした。

「さて、僕たちは小屋に帰ります。なにしろ遠いもので・・・」

クロードは笑いながら頭を掻くと、たははといった感じに笑った。

「そうなんですか、お気をつけてくださいね?もうすぐ暗くなってきますし」

「あぁ大丈夫ですよ、夜目は効く方なんで、それに松明ありますし、では」

そういうと、クロード一行は自分の拠点へと向かっていった。

「さて、私たちも行きましょうか」

「おう」

升平のものであろう返事を総意として、俺たちは小屋へと歩を進めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

小屋にたどり着いた一行は、強烈な違和感に襲われていた。

(外見は、間違いない、俺たちがここ数日お世話になり、これから約二年お世話になる

 小屋だ、だが、何かがおかしい、なんだ・・・?)

北上達はしばらく頭を悩ませて、足を踏み出せずにいた。

「そうだ!わかった!」

エリスが急に声を上げた。

「大きさが変わってる!心なしか大きくなってない?」

確かに・・・言われてみれば、確かに大きくなっている。

「ほんまやん、よく気が付いたな」

北上たちはとりあえず中に入ってみた。

月明かりを頼りに、エリスが燭台に火を灯すと、やはりなんとなく広くなっているのがわかった。

「たった半日でこれだけの工事を・・・いったい何者が・・・」

「うぅーむ、たったの半日で工事を完工し、なおかつ使用感すらも与えてしまう・・・いったい何者なのだ・・・」

「いや、あなたでしょ」

松崎はその声の主に突っ込みを入れた。

「ふふふ、ばれてしまっては仕方あるまい・・・そうだ!これはわしの仕業じゃぁ!」

「俺もいるよ」

 ライが渾身のいい顔を決めた後、小屋の後ろから大量の廃材を両肩に担いで歩いてきたローレンは、ライの目の前に抱えていた廃材をゆっくりと下ろした。

「ふぅ、廃材運ぶのすっぽかしてなに遊んでんだお前は・・・」

「師弟のコミュニケーションに決まっておろう、お主こそ置いておけばよかったのに律儀な奴だ」

「うるせぇ、おいお前ら、今日どうせ座学だけだったしこれ材木置き場に運んどけ」

「あ、ハイ」

突然話を振られて面食らったエリスたちは、ぎこちない返事になってしまったことを少し意識しながら答えた。

「よし、ではなお前たち!ちゃんと自主練と飯は忘れないようにな!」

「まだ夜朝は冷えるからな、ちゃんと毛布かけて寝ろよ」

「はい、師匠方お気を付けて!」

エリスに見送られ、去って行った師匠方を見送った後、北上はあらためておいて行かれた廃材を見やった。

大きさは大体ローレンより高いくらい、太さは北上の胴回りぐらいは有るだろうか、それを2本太めの紐で纏めたものが二つ、合計四本の太い角材だった。

「・・・これを運ぶのか」

木野がぼそっと呟いたのが耳に入ったが、大した問題ではない。

「取りあえず2~3人で持てばいけるでしょう」

北上たちはエリス先導の元廃材を材木置き場に運んだ後、飯の準備に入った松崎とエリス以外のメンバーは、小屋でようやく一息ついた。

「見た目に反して・・・見た目通りか、に重すぎるだろあの廃材」

「まぁ、見た目通りだったな」

「楽勝!」

「僕はお前らみたいな脳筋じゃないんで・・・」

北上と升平の答えにため息をつきながら、木野は一つため息をついた。

「なぁに、どうせこの後君も修業で脳筋に!」

「ならん!」

しばらくは筋肉について談笑していたが、その後は運ばれてきた料理と、その配膳に追われた。

そして食事の配膳が終わり、各々半ば出来上がりつつある定位置に座った。

「はい、今日の晩御飯です!」

前に置かれた晩飯は、焼き直した干し肉、野菜のサラダ、蒸かした芋の三点、

(なんだか、段々日ごとに質素になっている気配があるなぁ・・・)

「いえ、ね!?手を抜いてってるっていう訳ではないんですよ!ただ、備蓄が少しずつ減ってきていていまして・・・。」

その気配を察してか、エリスがなんとか取り繕うとする

「そりゃ仕方ない」

「そうだなぁ・・・その問題があったか」

升平に同調しながら、北上は蒸かした芋を口に入れた。

意外とこれでも固くもなければ崩れない程度の丁度よい深志具合といい、絶妙な塩による味付け等といい、別段食えないこともない、特に最近は舌が質素になって来た上に空腹も手伝って、大抵おいしく頂けるいいのだが、

「はい、野菜は畑のがいい具合ですからいいんですけど、問題は肉なんですよ・・・。」

「そうだな、肉は畑から栽培するわけにはいかないしな、捕らないと」

北上は冗談を飛ばしながら内心ため息をついていた。

これは遠まわしに、「おい、狩りに行けよ」言っているようなものだからだ。

「まぁ、今は仕方ないでしょ、生活でいっぱいいっぱいだし狩りに行けるようなまとまった休息もないしな」

升平が、水を飲みながら言った。

エリスはそれに「そうですねぇ」と呼応すると、

「まぁ切り詰めればまだ一か月くらいは備蓄はありますし、まだあせるような時間じゃありませんね」

と、半ば自分を納得させるようにひとり頷いた。

それで、この話は終わり、あとは他愛の無い話を交わして就寝の時間となった。

そこで、「そういえば」、と松崎が口を開いた。

「もう外で寝る必要ないんだったな」

「あぁ、そういやそうだったか、でもこれ狭いことにはなんも変わらんぞ」

そういって俺は周囲を見渡した。

確かに、前の小屋よりかは広くなった。

しかしそれも本当に少し、慣れたものなら違和感を覚える程度の差異しかない、

「これで寝てもこりゃ本気で寿司詰めになるぞ?」

「すし詰めってなんです?」

「ぎゅうぎゅうの満タンってこと」

「あぁ、ならそれでいいじゃないですか、その方が絶対面白いですよ」

「面白いってお前・・・」

そういってエリスのほうを振り向くと、そこには心底楽しんでいるのがわかる、なんというか邪念の無い笑顔を向けるエリスがいた。

「む、むぅ、そうじゃな・・・まぁ皆がいいならそれでよいが」

周りを見渡すが、特に異論はなさそうである。

「決まりですね、というわけでみんなですし詰めです!」

そうして、だれの文句もつけようも無く、そのまま燭台の火は落とされた。

「で、どうやって寝るかだが・・・」

北上を含めた男どもは、なんとなく女二人と隣接しないように、地味に、さりげなく他人より後ろへ行く、理由は簡単、いってしまえば所詮は若造集団、皆初心なのである。

それになんとなく気が付いたのか、寝間着になったエリスが叫んだ。

「何しているんですか皆さん!そんなに私の隣で寝たくないんですか!?ショックです!非常にショックです!今なら私とナフィアちゃんとの間に挟まって寝れるんですよ!?チャンスでえすよチャンス!それでも男ですか!」

「人を安売りの道具みたいに扱わないで、皆思春期引きずっているんでしょう?まぁ、

 所詮は童て」

「駄目!ナフィアちゃんだめ!それ以上は言ってはいけないわ!」

「俺は童貞じゃねぇ!」

「駄目っていったじゃないですかぁーー!」

升平衝撃のカミングアウト、といっても周知の事実だが、にではなく単語に反応しているあたり、エリスも相当に初心なのだということを気が付いたが、ナフィアからしたらどうでもいいことだったようだ、

「ふふふ・・・まぁともかく、くじ引きでもなんでも早く決めなさいよ」

そう言いながら横になると、一人いち早くも就寝体制に入ってしまった。

その後、箸で行われたくじ引きの配置が決まり、北上は角の隅で隣が松崎で、正直口ではああはいってもエリスやナフィアの隣じゃなくて残念だったのは言うまでも無い。

「それじゃ寝ましょかね、お休みー」

「うーい、お休みー」

「はい、お休みなさい」

「・・・・・・」

「おい、ナフィアはともかく松崎もう寝てるぞ」

「さすが松崎さんやで」

「一種の才能なんじゃないですかね?」

そんな風に松崎の感想を口にしてしばらく笑った後、無言をはじまりとして改めて、全員寝る体制に入った。

そんな中北上は、一人感慨にふけっていた。

なにしろこちらに来てから全員と寝たことがなかったためか、それが無性にうれしかった。

それを一つを鼻で息を鳴らす風に失笑こぼし、その後するりと眠りに落ちていった。


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