ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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ようやくむさ苦しさが解消されます。
徐々に書き溜めが無くなっていくことに不安を覚える今日この頃です。


勇者と出会う

 朝日が昇るのと大体同時に目を覚ました四人は、布団代わりにしていた布を片付け、井戸水で顔を洗って今日のことを話し合った。

「えっと・・・今日って確か女が二人くるんだっけ?」

 ほとんど半信半疑で,北上は特に誰かに向けるわけでもなく質問をとばす。

「らしいな、いつ来るかは聞いてないけど」

「可哀想に、このスーパーむさくるしい雑魚寝状態に追加されるのか・・・」

 北上は、今だ顔も知らない二人に内心で哀悼の意を示し手を合わせた。

「それは可哀想だな・・・」

 哀悼を終えて他の三人に目を向ける。

 すると、松本がうつらうつらと船をこいでいるのが目に入った。

「おいコラ起きろ松崎」

 北上は松崎の頭をひっぱたいた。

「こいつ、寝てやがったのか!」

 木野はさも楽しそうに笑うと、びくっと目を覚ました松崎におはようを告げた。

 その後小屋に戻った四人は、取りあえず今日の予定を話し合うことに決めた。

「さて、今日の予定は?」

「今日は・・・」

 と、その時だった。

 つつましくも、豪快でもない、なんとも普通のノックが部屋に響き渡った。

「はーい」

 北上は反射的に返事をすると、ドアを開いた。

 そこには、リーネと、恐らく新しく来た子であろう二人がいたが、後ろの方で控えて いるのと、リーネの体でほとんど隠れていてその姿を視認することができないが少々 残念に思えた。

「はーいみなさーん、お、きちんと起きてるみたい・・・ですね!」

 一瞬松崎に目を止めようとしたが、開いているんだか閉じているんだかわからない目 でもぎりぎりセーフと認定したようだった。

「えぇ、まぁ一応起きてます」

「うん、まぁ起きていますね、多分、あ、お邪魔しますね」

 一瞬微妙な空気ができてしまったが、リーネが家に上がったことでなんとか空気が動 いてくれた。

「えー皆さん、まだ慣れない新生活に苦戦しているとは思いますが!今日は皆さん待望 の新しいお仲間を連れてきました!みなさん仲良くしてくださいね!それでは入って きてください!」

 四人は入口の扉を開けるリーネを見やり、そしてその流れでその奥から来た二人を眺 めた。

「よろしくお願いします!」

 率先して入って来たのは、白いシャツに若草色の短パンを履いている、いかにも活発 そうな感じのする女性だった。

 後ろで編まれた金髪と、いい意味で稲穂がよく似合いそうな笑顔が特徴的に見えた。

 顔立ちもよく整っており、まだ少女のような面影が残っているが、幼ささえ抜ければ 恐らくちゃんとした美人になるだろう。

「・・・よろしく」

 そして後ろから、隠れるわけでもなく、だが堂々としているわけでもない不思議な雰 囲気の女性が入ってきた。

 外見年齢は恐らく19ほどだろう。

 セミロングの黒い髪や黒を基調とした、シスターの恰好を魔女装束に改造したよう

 な、そんな服装も相まって、黒い、という印象を最初に抱かせた。

 だが全体を見たとき感じる、何よりもこの少女を際立たせているも、

 それは彼女の発する独特の雰囲気だ。

 初めて来たであろう場所であるにも関わらず、

『ここは私の住んでいる場所』という雰囲気を醸し出している。

 だが、決して傍若無人とかというわけでは無い、ただ、自然体なのだ。

 そう、自然、その言葉が一番しっくりくる。

「はい、それじゃあ自己紹介お願いしますね、まずは松崎君から!」

 四人が二人の観察を大体終えたと判断し、タイミングを見てリーネが自己紹介を促し てた。

 男四人はとりあえず簡単な自己紹介を終えると、次は女二人の番となった。

「えっと、私の名前はエリセフィーナ、エリセフィーナ・スランです!よくエリスと呼 ばれています!職業は勇者をすることになりました!どうぞよろしくお願いしま

 す!」

 エリスがまさに元気いっぱい、といった風の自己紹介を終えると、次は魔女の番であ る。

「ナフィア・フィラルです。職業は魔法使いです。よろしく」

 ナフィアは、エリスとは正反対の自己紹介を終えると、男四人を順々に眺めて小屋の 内部の観察に入ってしまった。

「え・・・と、じゃあ私はこれで!皆さん仲良く、明日から修行なので体をしっかり休 めて下さいね!では!」

(昨日から思ってたけどあの人結構投げやりだなちくしょう)

 北上はそんなどうでもいい感想を内心覚えながら、

 去っていったリーネを見送った。

 そして、小屋に短い沈黙が訪れた。

 無理もない話である。

 松崎と木野は結構な人見知で、升平はそこまで率先してはやらないだろう性格で

 エリスはそうでも無さそうに見えるが、多数に無勢、あちらからくる確率は薄く、恐 らくナフィアは論外であろう。

 内心仕方無いといった風であるが、北上はおもむろに口を開いた。

「えっと、まぁまず座ってくださいな、椅子もありませんが。」

「あぁどうも、ありがとうございます」

 とりあえず立ちっぱなしだった二人を座らせることに成功した。

 そして、まず最初に一番知らねばならない情報を聞き出すことにした。

「えっと、お二人は家事とかってどのくらいできます?」

「と、いいますと?」

「いやな、俺らこの二人しかまともに家事ができんもんで・・・」

 言いながら二人を手で示す。

「あぁ、なるほど・・・家事は一通りできますよ、料理は郷土のもので良けれ

 ば・・・」

「だってよ、良かったな松崎、木野」

「いやマジでありがたいわぁー、得意な料理とかってある?」

「えっと・・・特にはありませんけど、郷土のものでしたら自信をもってお出しできま すよ」

 エリスは、自信満々の表情で右手を胸の高さまで上げて握りこぶしをつくった。

 恐らくこれはそのまま料理の腕と見てもいいだろう。

 木野と松平は、ある程度時間がたったのと、料理という同一の趣味からか、その後は 話が弾み、なんとか打ち解けたようだった。

(さて、エリスは社交的っぽくて助かったな、問題はナフィアか・・・)

 と、そんな時だった。

「まって、私だって家事位できる・・・。」

 北上が半ば反射的に、極力自然にしたつもりで振り返ると、

 そこには、先ほどと変わらない無表情だが、対抗意識からか、視線に強い自信の色を 浮かべたナフィアがいた。

 デフォルメしたらキリッとしたあのペケの字口の国民的ウサギみたいになるだろう

 なぁ・・・。

 などとと意味のない感想を抱きながら、自身の驚愕を隠すように、できるだけ自然に 質問に移った。

「お、どんな料理とかできる?」

「家事は大抵、料理はスープ関連をよく作るわ」

「お、いいねぇ、良かったな木野、これで当番制ができるぞ」

「北上と升平以外でな」

 エリス一行はその後、他愛の無い話で盛り上がると、適当な役割分担やらを決めるこ とにした。

「えーっと、とりあえず飯は任せたぞ!」

 北上は、己の分野ではないので任せることにして傍観を決め込む、

「え?流石に北上さんもなにか簡単なもの位作れるでしょう?」

 これに関して、北上の言葉を代弁するかのように木野がつぶやいた。

「いや、残念だけどね、升平はともかく、彼は最大焼き魚くらいしかできないん

 だ・・・焼き加減ランダムでね」

「あぁ、はい、わかりました。」

 どうやら納得してくれたらしい、

「と、いうわけで、料理は北上を省いた当番制で、升平は時たま手伝いということで、 火起こしはその日料理当番じゃない人になるように当番組むか」

「そうだな、それで行こう」

「うむ」

 北上と升平は、了承の声を上げると、木野はそれを総意と受け取って続けた。

「次は、掃除とか洗濯とかか、これに関しては完全当番制で北上と升平が手伝いって風でいいか」

「そうだな、それでいいと思う」

 今の升平の同意は総意と見ていいだろう、北上は一瞬目配せをした木野にうなずいて やると、ふと、思ったことを告げた。

「そういえば農場とかどうするん?」

「あれはマニュアル読み込んで全員参加しかないだろ」

「そうだな、それが一番か」

「で、次決めるのは・・・」

 そこで木野はちらりと壁に立てかけてあった弓を見やった。

「狩りか」

 木野は視線を弓矢からこちらに向けると、にっこりとほほ笑んだ。

「北上、頼みますよ」

「あぁ!?弓だったら松崎でもいいだろうが!」

「あの・・・私も弓くらいなら扱えますけど?」

 エリスが小さく手を上げて参戦してくれた。

「いや、ふざけて言ってるわけじゃない、まずエリスは今知ったし、松崎含めて家事を やってもらわないといけない、それに対して北上は家事できないし、ほら、北上なら 多少危険があっても大丈夫だろ?」

「貴公・・・まぁいい、実際的を射てるしな、わかった、狩りは俺がやろう」

「ああ、任せたぞ」

「すまんな北上」

「まぁ、やってみたかったしいいよ」

 正直言ってしまえば北上には生き物を殺す、というのは率先してなぞ毛頭やりたいこ とではなかったが、生きるためなので割り切ることが彼にはある程度できた。

 だから引き受けたのではあるが、それでも正直気は滅入った。

 その感情を、立て掛けてある弓矢に向けて、やがて視線を戻した。

「えーっと、あとは、まぁその時考えるか」

 最終的に、狩り以外は適材適所の当番制、ということに決定した。

 その後は、自由時間としていたが、結局、北上たちの住んでいた世界の話、後にエリスたちと行くであろう世界の話をして時間が過ぎていった。

「そうですよ、町にはモンスターは基本的に入ってこないのですが、道にはやっぱり出る時はでます」

「ほー、移動手段とかってどうなの?やっぱり馬車とか?」

 升平は少し興味が強いのか、体を若干乗り出して聞いた。

「いえ、地上は魔物の方が実際力を握ってますからね、飛空艇っていう空飛ぶ鉄

 の塊です。蒸気機関で動くのですがこれがまた乗り心地がよくて快適なんです

 よ。」

「ほう、こっちでいう飛行機みたいなものか」

 北上がふむ、と唸った。

「そういえばそちらの世界の交通手段はどうなっているのですか?魔物とかがいないそうですけど」

「ん?あぁ、そうだななんと説明すればいいか・・・」

 俺は隣にいた松崎と目を合わせた。

「んー、まず一番は車かなぁ」

「車、ですか?」

「そう車、車輪のついた鉄の箱がガソリンっていう燃料を消費して高速で動く

 んだよ、で、それの中に入ってそれを操縦する・・・」

「陸上の発達は魔物がいない賜物ですねー」

 エリスはこれで終わりだったが、この話に強く食いついたのは、意外にもナフィアの方だった。

「それはどういう原理で動いてるの?」

 北上は、うろ覚えの知識でどうにか説明を試みた。

「原理か、説明すると長くなるが、まずガソリンっていう燃料があってな、これ

 をエンジンっていう車が動くための、まぁカラクリとかで言うネジ入れる心臓

 みたいなところで爆発させる」

「なるほど、それでその爆発した力を推力としてで進むのね?」

 松崎は、ずいと体を少し前に倒すと、ナフィアの考察を訂正し始めた。

「いや、それだと部品が長くもたんし何よりも危ない、エンジンで爆発といっ

 ても小さいのを何回も起こして、それでタービン・・・てわかるか?」

「えぇ、知ってるわ」

「そう、そのタービンを回してそれを動力にして車輪を回してだな」

「まって、それだと魔術がないならどうやってそのガソリンを爆発させてるの?」

「そりゃまずスターターっていう火をつける機械があってな・・・」

 ここまで行くと他の現代人も意味は分かるがついていけない、エリスなんてさっきから升平と全く別の話を始めてしまっている。

(というかなんでナフィアはついていけてるんだ?タービンとかも知ってたみたいだし、まぁ、修行なり旅が始まればいづれわかることか)

 そう思考を打ち切った後北上は、昨日思いついたことを実行に移すため、

 松崎に一声かけて小屋を後にした。

 小屋を出た彼が向かった先は、小屋の真後ろに設置されている倉庫だった。

 倉庫の中に入ると、戸棚から必要なものを探し出して持ち出した。

「え・・・と、とりあえず木槌と、板・・・はまぁいいか」

 彼がいまやろうとしていること、それは、倉庫の入口の矯正だった。

 といっても応急処置で、近いうちに完全に作り直すくらいの勢いで手直しをしなくてはならなかった。

 取りあえずスライド式の扉を動かしてみる、開けっ放しだった扉を閉め始めて気づいたのは、動き出しは割とスムーズだが、途中から鈍くなっていき、ついには動かなくなる、ということだった。

 つまりこれは、右にスライドさせて開くこの扉の、向かって左側が下に落ちてしまっている、ということを意味していた。

 幸い、この倉庫、角材と角材を組み合わせただけの簡素な造りなので、応急処置も単純な、楽なもので済む、北上は、木槌を握ると、扉の、枠の左側に向かって思いっきり下から叩き込んだ。

 木槌は、コーン、といい音を響かせて、木枠をたたいた。

 取りあえず扉を動かしてみた。

 しかし、扉は、依然として何かに突っかかるようにして止まってしまう。

(・・・まぁ、さすがに一発目でどうにかしようとは思ってないよ)

 全力で叩けば、一発でも少しは効果がでそうな物だが、思いっきり叩くと木枠か木槌が悪くなってしまう、だから本気で打ち込むことはできない、なのである程度の力加減で、何度も打ち込む必要があった。

 北上は、その後根気よく何度も木槌を響かせていった。

 そして、心どことなく木枠の位置がずれた気がした時、ある程度力を入れて扉を動かしてみた。

 すると、全部、とはいかなかったが、最初とはくらべものにならないほど扉はスムーズに動いてくれた。

(お、これならもう少しだな)

 先ほどの作業をもう数回行い、そして再度、扉を動かしてみた。

 すると、なんともスムーズに扉が動いてくれた。

 北上は、一人満足げに鼻を鳴らすと、倉庫から薄い木の板を数枚取り出した。

 そして、扉の木枠の左上側の接合部を覗き込んだ、そこには彼の思惑通り、木の板が一枚入りそうな隙間ができており、後はここに厚さの丁度良さそうな板を挟み込めば応急処置は完了である。

「そぉい!」

 板を押し込むと、扉を何往復かさせて、やがて満足して倉庫を後にした。

  

 作業を終えた北上は井戸で水を汲んで、それを飲みながら、ぼんやりと空を見上げた。

 日はすでに真上を過ぎ去り、陽光は夕日のそれへと移り変わっていた。

 現在、季節が元々いた世界と同一ならば三月、それで現在太陽は真上から西に割とずれた位置にある。

(だいたい・・・四時ちょっとってところかね)

 北上はそんなことを思いながらしばらくぼんやりとした後、特に重いわけでもない腰をあげて小屋へと帰還した。

「ただいまー」

「うーい、おかえりー、どうだった?」

 出迎えた松崎は、いまだ続いていたのであろうナフィアとの議論を一旦止めると、手を後ろについて頭だけをこちらに向けた。

「おう、まぁ扉の枠が重量で傾いて、多分それで扉がつっかえてたから、とりあえず枠の接合部にいい感じに隙間作って板差し込んどいた。」

「お、さすがですねぇ」

「ふふふ・・・どやぁ・・・」

 北上は、扉の前で靴を脱いで、会話の輪に混ざった。

「お疲れ様です、水でも飲まれますか?」

「ん、いや大丈夫、さっき井戸で飲んできました。」

「そうですか、・・・北上さんって、家事できないのに大工はできるんですね」

「ん、まぁ趣味の程度のしょぼいのだがな、日曜大工の腕も松崎の方が上だろ

 うな」

「え、そうなんですか?」

 それを聞いて、エリスは若干目を丸くして驚いた。

「すごいですね松崎さん、何でもできるんですね・・・」

「おう、あいつは大抵なんでもできるぞ、掃除洗濯料理大工仕事それに近々

 魔法と剣術が加わるというね」

「・・・完全に万能超人ですね」

「そうだ、そしてしかも特に器用貧乏というわけでもない」

「へぇー、すごいですね・・・。」

「ちょっとまてお前ら」

 ここまできてようやく松崎は、俺たちの会話に突っ込んだ。

「いいか、俺はそんなに万能じゃありません」

「馬鹿いえ、全部事実だろうが、おう?」

「そうでもないよ」

 と、その時だった。

 厨房から、そういえば姿が見えなかった木野が顔を出した。

「そろそろ晩飯の準備するから、誰か料理手伝ってくれるか?」

「俺行くわ」

 松崎は立ち上がると、すたすたと厨房へと入っていった。

「あぁは言ってるけどあいつはやっぱり天才だよ」

「そういうものでしょうね、魔法剣士みたいなデュアルスキルは器用じゃないとなれませんし」

 む、聞きなれない単語が出てきたが、多分二つのジョブ合わせたジョブのことだろうな

「あ、っていうことは木野さんも天才肌で器用なんですかね?」

「いや、あいつはそんなじゃねぇっす」

 升平は、少し笑いのこもった声で否定した。

 同じように北上は少し考え込むと、答えた。

「あいつは・・・いうなれば器用貧乏だ、なんかできるけどなんか足らない」

「そうそれが木野君クオリティだ!」

「・・・なるほど」

 三人が友人を出汁に笑い話をしていた時、ふと、後ろから負のオーラを感じた気がして振り返った。

 そこには、どこかなんとなく不満そうなナフィアがいた。

「・・・どうした?」

「・・・私、まだ話終わってなかった。」

「あぁ・・・すまない」

 恐らく松崎との討論のことを指しているのだろう。

 升平は興味がわき、その内容を聞いてみたくなった。

「いったい、何の話をしてたんだ?」

「魔術を要さない蒸気機関の運用」

「そうか・・・ごめん」

 升平にはまるで意味が分からなかったようである。

 ナフィアは若干むくれっ面・・・に見えないことも無い顔になると、それ以降は特にしゃべらず、

 残り3人は、料理が完成するまで適当に話をして時間を潰していた。

  

「おーいできたぞーそっち準備してくれぇー」

「あ、運ぶの手伝いますよー」

 エリスは立ち上がって厨房へと駆けていった。

 外はすでに日が落ちかけており、いつのまにやら大分話し込んでしまていたようだった。

 開いた中央に木野と松崎、あとエリスが手伝って食事を並べていった。

「今日の料理は餡かけ野菜餃子と蒸かしたジャガイモとなっております」

 木野がどこぞのウェイトレスのように料理を手で示して説明するのが終わったタイミングで、北上が話しかける。

「餡かけって・・・片栗粉あったのか・・・」

「あぁ、それっぽいのがあったから試してみたら以外にもできてな、あと小麦もあっ

 たから肉なし餃子なんていうものを作ってみた。」

「ほー、肉なしねぇ・・・でも肉のない餃子なんて本当においしいのです

 かねぇ・・・」

 北上は至極わざとらしく餡かけ餃子を眺める。

「はい、こちら片栗粉をベースに、ネギとキャベツなどを混ぜ込んだ餡を餃子の皮でくるんだものでございます」

 それを木野はわざわざうやうやしく料理の詳細を説明した。

「ふーむ、なるほど確かにすばらしいアイデア食品ですなぁ、しかし、餃子なのに醤油がないのは寂しいですねぇ・・・」

 それを聞いた瞬間、その言葉をまっていた、と言わんばかりに指を鳴らした。

「はい、そこでこの餡かけの出番というわけでございます

 どうぞお食べになってください、きっと満足なさるはずです」

「なるほど・・・ではいただきます」

 餡かけ野菜餃子を口に運んだ、そして、

「・・・シェフを呼べ!」

「はいここに」

「いい仕事してますねぇ~」

「ありがとうございます」

 北上と木野は固い握手を交わしたのだった。

 その後、すでに食べ始めていた升平を除いて、この劇を見ていた他の者たちが食べ始めた。

「これおいしいですね、餡かけっていうんですか?」

「そうですね片栗粉を水で溶かして、まぁなんかしらの調味料を入れた奴がこれにな

 ります」

 松崎が、なぜか敬語で話した。

「へー、うちの故郷には無かった味です!ナフィアちゃんはどう?」

「まぁまぁね」

 そうは言っているが、すでに皿には餡かけ餃子はなくなっているところを見るに、割と高評価であると判断できる。

「そう?」

「えぇ、でも、うちの故郷にも無かったし新鮮ではあるわ」

「ふーん、そっちの世界特有の料理いただけるのはなんだか感動しますね!」

「そういってもらえると作った側としてはうれしいな」

 言うなり、木野は松崎と顔を合わせて、してやったり顔でうなづきあった。

 そうこうしているうちに食事は終わり、食器をかたずけた後のゆっくりした時間が訪れた。

  

「そういえば明日っから修行だっけ?」

 松崎は誰と指名するわけでもなく疑問を飛ばした。

「そうだなぁ、明日が楽しみだ!」

「ですね!」

 少し気がめいる北上に対して、エリスと升平は楽しそうにうなずき合った。

 その前向きさは彼にとって少しうらやましく感じた。

「どんなことやるんだろうな」

 食器をかたずけた松崎はうーんと伸びをしながら部屋に戻ると、会話に参加した。

「それは明日になってみんとわからんなぁ・・・」

 升平は、どこか月並みのことをいうと、大きく欠伸をした。

「升平はいつか手からビームだするんだろ?」

「そのつもりだぜ!俺は師匠のような漢になって見せる!」

「間違ってほにゃはめ波とか会得しないようにな」

「あと手のひらから衝撃波とかな」

 北上と松崎の茶々入れに、升平はそれもいいな!と返してきた。

(どうしてこいつはこんなにポジティブシンキングなんだろうか・・・)

 北上はやはり内心うらやましくてため息をはいた。

「まぁともかく、そろそろ寝るか、明日から厳しそうだし」

「そうだな、寝よう!」

 その号令と共に、一向は、明日に備えて就寝の体制に入った。

 だが、ここで一つ問題が起きた。

「・・・これ、寝れるか?」

「・・・ちょっと厳しいですね」

 そう、男四人で丁度いいくらいだったリビングに、華奢とはいえ二人も追加されたのだ、

 だが、女二人を男四人のすし詰めに加えるわけにもいかず、ちょっとした緊急会議の後、北上と松崎は、その寝つきの良さと、なんだかどこでも寝れそうという理由から、今日は物置で寝ることとなった。

「すまんな松崎、北上」

 本当に申し訳なさそうにする升平に、二人は少し笑みを浮かべて返した

「いいよ別に、まぁ、俺たちはどこででも寝れるしな」

「ふふふ、俺は眠ければどこででも寝れる!」

「本当にすまんな、明日からは男どもで順に回していく予定だから」

 北上は、一言きにすんな、と伝えると、松崎と共に物置へと向かった。

 物置は、わりと床に物が転がっているわけでは無く、二人分のスペースはしっかりあり、何気に小窓もあるという、寝るだけならわりと優良物件で、二人はそんな話をした後、割合すんなりと眠りについたのだった。

 


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