ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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皆さまどうもです。
秋深まるどころか冬の訪れすら感じる今日この頃、皆さんどうお過ごしでしょうか。
私はサンマを掘ってます。


新しい日常の始まり

  神殿から修行の地へと移動することになった一向は、正面大扉ではなく、反対方向の 最奥にあった古めかしい木の扉の前へとたどり着いた。

 そして、先頭を歩いていたリーネがその扉を開けると、なんということでしょう、そ こは大自然あふれる大地でした。

 その、恐らく拠点に移動しているのであろう道中に、改めて全員の自己紹介を行うこ とになった。

 まず、北上らの四人からすることになり、それが滞りなく終わると、次はファン

 タジーの住人達の番となった。

「えっと、じゃあ改めましてまず私からね、名前はリーネ・ライトフィール、リーネと 呼んでください、職業は魔法剣士で、えっと、松崎君だったかな?の指導をすること になっています。」

 北上ら四人は、一瞬何のことかわからず、互いに目配せをしてまたリーネに視線を戻 した。

 そんなことは完全に初耳であった。そもそもこれから一体何をするのかすらも良くわ かっていない状態なのだ、当の松崎に関しては足以外は硬直して顔を渋くさせて明ら かに驚きの色を隠せていない。

 その様子をみて、リーネは一瞬困惑の表情を浮かべると、あぁ!っといった風に手を たたいて、隣を歩いていた黒い剣士を憎しみのこもった目でにらみつけた。

「なんで教えてくれなかったんですか!誰がどのジョブに振り分けられたか説明し忘れ てたの!」

 リーネの にらみつける こうげき!▼

「ここの説明はお前に一任してある、俺はいつもと違う手順なのかと思っただけだ」

 くろいけんしには こうかが ないみたいだ・・・ ▼

 リーネは、剣士には効果がないとみるやその矛先を斜め後ろにいた武道家に向け

 るも、「右に同じ」の一言にすべて流されてしまった。

 かくとうかには きかないようだ! ▼

 リーネはしばらく、ぐぬぬ・・・という表情をしていたが、一つため息をつくとこち らに向き直った。

 あの魔女には見向きもしない辺り、そもそもそういった対応を期待していなことが伺 えた。

「えっと、先ほど説明し忘れてしまったんですけど、実は皆さんにはすでになる職業が この世界に来た時点から決まっています。」

 それに対して、真っ先に反応を示したのは、以外にも升平だった。

「え!そうなんですか!?自分で決めれるものとばっかり・・・」

 北上は、一応・・・といった風に升平に疑問を投げかけた。

「因みに何を選ぶつもりだったんだ?」

「格闘家」

 即答である。

「おぉ!すばらしい心意気だぞ翔太よ!案ずるな、お前は格闘家となっておる!これから厳しくしごいてやるからな、覚悟せい!」

「はい!師匠!よろしくお願いします!」

(なんてこったい、あいつらもう出来上がってやがる。)

 北上が、信じられないといった面持ちで二人を眺め見ていると

 前を歩いていたリーネが、

「・・・えっと、彼、すごいね」

「はい、おっしゃりたいことは痛いほどわかります」

 北上は、どこか遠い目で答えた。

「き、気を取り直して続けますね。えっと、将樹君は大剣士ね、師事するのはローレン、私の隣のこの不愛想なのがそうですよ」

「不愛想は余計だ不愛想は」

「事実をいったまでですよ?」

「へいへい、悪ぅござんした。」

 黒い剣士は、一切反省してないことがまるわかりの返事を返すと、まだ何か言いたげ なリーネを無視して北上の方に顔を向けた。

「俺がお前の師になる、ローレン・フォングリフだ、職業は・・・まぁ見ての通りの大 剣士だ、よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 それに対して北上は軽く会釈すると、ローレンが顔を前に向けなおしたのを確認し、 顔の向きを元に戻した。

「気を取り直して次に、というよりも最後の一人ですね、梶助君ですね、あなたは呪術 剣士です」

「呪術剣士・・・ですか?」

 木野は少し顔をしかめると、反射的に、といった感じで聞き返した。

 他の現代人三人も正直恐らく木野と同じ心境だろう、魔法剣士や格闘家、大剣士も

 ゲームでも割と見かける職業だ、だが呪術剣士なんていうのは聞いたことも

 なかった。

 当人らの困惑を見抜いたのか、リーネが顔に微笑のような苦笑のような笑みを浮かべ ながら口を開いた。

「あぁ・・・えっと、本来呪術師と剣士は別物なんですけど、木野さんは剣士と呪術師 の才能がほとんど同程度にあったので、呪術剣士というジョブにさせていただきまし た。稀にあるのですよこういうこと」

「は、はぁ」

「あ、そんな気を落とさないでください!別に最終ステータスが伸び悩むとか、器用貧 乏で強い技とか呪術とか覚えない、とかそういうのではないんで!ほら!私とか松崎 君とかだって魔法剣士ですし!」

「い、いえ、そういうわけではなんです」

 リーネの決死のフォローに若干押されながら、木野はなんとか言葉を差し込む隙間を 見つけ出し、

「ただ、呪術師ってどういうことする職業なのかなぁ、と思っただけです」

 と、フォローへのフォローを繰り出した。

「あぁ、そのことですね、それは師事を担当するイーリアさんに聞いてください」

 そういって、最後尾を歩いていた魔女を手で示した。

「イーリアよ、よろしく、呪術の説明は追ってする。安心して」

「あ、はい、よろしくお願いします。」

 そうこうしながら自己紹介を終えて、暫く雑談しながら歩いていたところ、

 先頭を歩いていたリーネが何かに気が付いたかのように息を漏らし、

 前方を指で指示した。

「あ、見えてきましたよ、あれがこれから皆さんが寝食を共にする拠点です」

 彼らの目の前に、農場等の必要な施設があるだけの、簡素とまではいかないものの決 して普通までとも言い難い、煙突付の小さな家にたどり着いた。

 恐らく西洋、イメージというか偏見でいえば北欧だろうか、の古い木造建築を思わせ るこの建物は、四人にどことなく、なにか懐かしさにも似た感情を思い起こさせた。

 実際、どの施設も一目で使いこまれていると判る、というのもその感情に一役かって いるだろう。

「はいはい、入口で立ってないで中に入ってくださいな」

 四人が、建物の観察にせいを出していたとき、やはり進行役なのだろうリーネにせか されて、建物の中へと歩を進めた。

 中はやはり外見からの想像通り必要最低限の、いうなれば質素な造りになっており、 だが、この質素さが、逆に木造の温かみが感じられる。

 北上ら四人は、いわゆるリビングになるであろう場所に集められると、

「はい、皆さんには、修行の時以外はここで寝食をともにしていただきます!」

 正直、予想していたのでそこまで大きな衝撃も無いが、四人は少し頬をひきつらせ

 た。

 そして、リーネ以下師匠たちは、そんなこと気に留めることなく話をつづけた。

「おぉ、今回はそこまでこたえんかったのぉ」

 と実に愉快、といった風にほくそ笑むライをよそに、リーネは続けた。

「必要なものはそろっていますし、餓死することはあり得ないと思いますが、どうやら 皆さんもほかの方々と同じようにこの手のことにはご縁がなかった様子なので、そち らに簡単なマニュアルがありますから後で目を通しておくといいですよ?」

 リーネが示した方に目を向けると、確かにそこには棚の中に5~6冊ほどの、厚くも 薄くもない本が並んでいるのが見えた。

「うん、まぁ皆さんこうやって最初はすごく困惑するのですが、最後には平然とこなせ るようになってここを去っていきますし、まぁ、何とかなると思いますよ!」

 リーネの至極曖昧な判押しに戸惑いながら、北上は薄い本に一瞬目を移して、また視 線を戻した。

「とりあえず、修行は三日後からだから、今日はゆっくり体を休めて下さい。

 あ、あと明日二人、勇者と魔術師の子が増えるからよろしくお願いしますね。」

「喜べ!二人とも女子だぞ!」

「あ、はい、わかりました」

 正直、四人にはありがたい話だった。

 それは生活の問題で、なにか料理でもいいのでスキルを持った者が来てくれれば御の 字である。

 と、その時北上はあることに気が付いてふと聞き返した。

「えっと、明日来る人って・・・女の方なんですか?」

「えぇ、そうですよ?男でも良かったんですが、このままだとあまりにも男臭かったの で女の方にさせていただきました」

 リーネ達は、輝く笑顔でそのことを述べると、

『後の準備がありますので、今日はこのぐらいで、質問は後にそれぞれの担当師にお願 いしますね、それでは!』といって去っていってしまった。

 事務的な人かと思っていたがそうでもなかったようだ。

 だが、正直今はそんなことはどうでもよかった。

「で、どうするこれから」

 北上は、言おうとしていた言葉を発した木野に目を向けると、升平が

「まぁ座ろうぜ」

 椅子というものが見当たらないので、恐らくこれが正解なのであろう。

 升平を除く三人はそれにならって部屋の真ん中で座り込むと、とりあえず今後の方針 を話し合うことにした。

 松崎は、とりあえず、といった風に話を切り出した。

「どうするよ?」

「えーっと・・・今何時だ?」

「待ってろ今確認す・・・!?携帯が・・・無ぇ・・・」

 木野の質問に答えようとして気づいたらしい松崎を筆頭に、四人は急いで他の持ち物 の確認を始めた。

 結果、財布携帯含めすべての持ち物がなくなっているという事態が判明した。

「ここにきた時に自動で持ってかれたって言うのが自然か」

「だろうな」

 北上と松崎が持ち物について吟味していた時だった、松崎の隣で持ち物の確認をして いた升平が何やら奇怪な唸り声を上げていることにきがついた。

「うぁぁぁああぁぁああああ・・・」

「ど、どうした。この世の終わりみてぇな声なんぞあげて」

「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・煙草が、煙草が無くなっちまった!」

「諦めろ」

「チクショウ!」

 升平の漫才に周りの空気がいつもの物に戻りつつあると感じた北上は、とりあえず話 を進めることにした。

「さて、いい感じにほぐれた所でどうするよ?」

「そうだなぁ・・・とりあえず役割分担だな」

「それだな」

 木野の意見に賛同した松平の声は、全員の総意とみて恐らく間違いなかった。

 そして、ここに至って重要な問題があったのを思い出し、北上は恐る恐るといった風 に口を開いた。

「おい、木野と松崎はいいとして・・・俺と升平は、ただの脳筋だぞ?」

「てへっ!」

「てへじゃねぇよ!」

「とりあえず家事とか料理とかは俺と松崎がやるとして、まぁ北上たちは力仕事とか肉 体労働系を頼むよ」

「了解した」

 北上と升平の漫才を軽くスルーし、木野はを提示をだした。

 その後、暫定的とはいえ役割を決めた四人は、とりあえずここにどのような施設があ るか見て回ることに決定した。

「とりあえず二手に分かれるか、俺は松崎と」

「待て、落ち着け」

 突然北上は、木野の言葉を遮った。

 そして木野が無言で話を促したのを確認すると、北上は少々大げさに手振りを加え

 て、

「いいか木野、お前は一つ大きな間違いをしている」

「な、なんだ」

「それはつまり、探索は俺、お前のチームと升平と升平のチームが行うってことだよ

 な?」

「あぁ、そうなるな」

「おまえ・・・松崎と升平タッグでまともな探索が行われるとだな・・・」

「もういい・・・すまない」

「わかりゃいい、俺は松崎とにするよ」

「あぁ、それが一番いいか」

 班別けを終えた北上たちは、室内:木野・升平ペア 室外:松崎・北上ペアで散策す ることになった。

「よし、それじゃ行くか」

 そしてその班分けのもと、四人はこの小屋の探索を開始した。

 とりあえず外に出た二人は、まず必要なものを確認することにする。

「えっと、何が必要かや?」

「ん?あぁ、とりあえず食い物?」

「あぁ、それなら・・・」

 北上と松崎は、小屋を出て左にある半分ほど開拓された畑を見やった、そこには、

 多分キャベツ思われる野菜や、なにやら見たことのない多分食えるものであろう野菜 が、青々と育っていた。

 これなら恐らく当分は持つだろう、

 畑を観察しながら、松崎はボソリとつぶやく、

「これなら飯はどうにかなるか・・・?」

「まぁしばらくはな、農業の仕方も学ぶことになりそうだなこりゃ」

「まぁ、楽しそうだし問題ないな」

「せやな」

 二人は畑をしばらく観察すると、その場を後にした。

 そして、小屋の裏側に回った時、気になるものを発見した。

 この小屋の裏に隣接、というよりも増設されて風に存在している、一回り小さい小屋 を見つけたのだ。

 まず、先ほどから小屋と呼んでいるこの拠点なのだが、実は小屋というにはそんなに 小さくもない、ちょっとした一軒家くらいはあるのだが、便宜上小屋と呼んでいるだ けだったりもする。

 だが、この一回り小さい方は、正しく小屋という感じで、なんというか本当にこじん まりとしている、外見も、とってつけたといい難い程度に頑丈そうな屋根と壁や手作 り感満載とも言えない程度の割と大きめのスライド式の扉といい、良く言えば雰囲気 のいい、悪く言えば質素なつくりだった。

「これは・・・倉庫かな?」

 北崎の迷走しかけた思考を止めたのは、松崎のこれ以上ないほど的確な分析だった。

「おう、そうだな、鍵もかかってないし、入ってみるか」

「おう」

 北上は、倉庫の扉の溝に手をかけ、扉を開こうとした、が、

「よっこら・・・ん、ぐっ!ふんぬぅぅうう!!!」

 倉庫の扉はどれだけ力を込めようと、少しずつ動いてはいるが、なにやら大分立て付 けが悪いらしく、なかなか思うように開いてはくれなかった。

 北崎は手を放して数回手のひらを振ると、少し開いた隙間に手をかけ、体重も利用し てなんとか扉を開ききった。

「はぁ・・・ふぅ・・・開いたぞ!」

「おう、お疲れ」

 そして、愉快そうなほほえみを浮かべる松崎と共に小屋へと侵入した。

 中は、間違いなく倉庫で、クワやスキ、鎌などといった農業用の道具から、金づちな どの工具一式まで、わりと幅広く入っており、長時間放置されていたであろうと思わ れるが、保存状態はよく、多分手入れなどしなくてもそのまま使用できるだろう。

「お、いろいろあるな」

「おう、のこぎりとか鎌とかも特に錆びついてないし」

「そうだな・・・・・よし、そろそろ行くか」

 ひとしきり見た二人は備品の状態確認を終えると、倉庫を後にした。

 因みに扉は開けっ放しである。

 倉庫から出た北上は、ふと何かに気が付いたように足を止めた。

「奥から川の音がするな」

「まぁ今はいいだろう」

 それに賛同した北上は、ふと松崎の視線をたどった。

 そこには小屋の屋根から伸びる煙突があり、そこから導き出される答えは一つだっ

 た。

 北上は己の考察を元に口を開く、

「あとは・・・火か?」

「まぁ、薪だろうなぁ」

「まさか電気が通っている訳もないだろうしな」

 しばらくしてこの考察は、ある施設の発見によって確実の物となった。

 それを見つけたのは、小屋を中心に周囲を回っていた時だった、

「おい、あれって」

「あぁ、やっぱりそうだったか・・・」

 そこにあったのは、森を背景にして、絵にかいたような薪小屋と、切株がセットで存 在していたのだ。

(・・・ここに来た時遠目から見てうすうす感づいてはいたが、やはり薪か)

 松崎はそんなことを考えながら苦笑して、

 とりあえず二人、薪小屋に近づくことにした。

 薪小屋、といってもかなり簡素な造りで、扉もなく屋根と奥の壁があるだけで左右と 正面は木の柱と補強の柵だけという代物だ、雨が来たらどうするんだこれ・・・。

「在庫は大分あるな、これならしばらくは薪の補充はいらねぇか」

「そうだな、だけどこれその内横に壁つけないとな」

 松崎は両手を前ならえ、のように軽く突き出すと、軽くため息を吐き出した。

 ひとしきりこの薪小屋を眺めた二人は松崎の「行くか」という声で至極のんびりと探 索を開始した。

 ・・・・・・・・

 日も落ちかけ、探索があらかた終了し、小屋の正面へと移動する道すがら、報告の内 容を確認しながら俺たちは小屋へと帰還した。

 

「うーいただいまー」

 中では、すでに探索を終了した二人が、壁にもたれかかりながら、いつの間に汲んだ のか、木製のコップに井戸の水を入れて飲みながら最初にリーネが言っていたマニュ アルを読みふけっていた。

「おうお帰り、どうだった?」

 升平にせかされて、二人は先ほどまとめた内容を説明し始めた。

「あぁ、出て右手に井戸と結構大きめの畑、んでその奥になんか鶏小屋があった、で左 手に薪関連の施設があったぜ、それとその奥から川の音がすっから規模はわからんが あるはず、見には行ってない。

 ・・薪小屋はあったがかまどとかはちと見当たらなかったな、煙突があったから中

 か?」

「あぁ、かまどなら奥のキッチンっぽい所にあった、それにそこに暖炉あるからそれの じゃね?

 外は鳥小屋と少し行ったところにやたら広いグラウンドがあったかな」

 北上は木野の返答に、あぁなるほどと答えるて、

「大体外の左側はそんな感じだった」

 と、話を締めくくった。

「ん、中は本当に見たままだった、奥にキッチンでそこにある箪笥に布が何枚かって感 じ、小物は木製の食器と一通りの調味料、あとしばらく分の食糧もあった、あと

 は・・・北上と松崎って弓道部だったよな?洋弓ならそこに掛けといたけど弓が一つ と矢が数本あったよ、あと、釣竿とかはなかったから作るしかないかと」

「ん、洋弓か・・・どうだろうなぁ」

 二人は、部屋の壁にかけられた弦の張ってない弓を眺めた。

 長さ的に洋弓か、確かに北上と松崎は高校時代弓道部に所属していた。

 しかし、かかっているのは洋弓で、微塵も触ったことがないのが現状である。

 北上はそれを見ながら

(まぁ慣れるしかないか)

 と、一つ決心のようなものを固めた。

「まぁ、報告はそんなところかな、詳しい役割分担は明日その追加の二人が来てからで いいか」

「そうだな、欲を言えば家事ができればいいけどな」

「松崎、それフラグやぁ・・・」

 ・・・北上と龍治は、無言で松崎を見つめた。

 まぁ、松崎の一言が実現しないことを祈るばかりである。

 情報交換を終えた四人は、とりあえず日が落ちる前に晩飯づくりに取り掛かることに 決定した。

 そしてここで、思わぬ障害が現れた。

 火をつける担当になった北上は、とりあえず火打ち石を二つ持って竈の前に立った。

 やり方は非常に単純で、火打ち石同士を打ち付けて、そこから出た火花を木綿などの 火口と言われる可燃性の高い物に火をつける。そしてその着火した木綿から、引火性 の高い松などの木に移してそれを種火とする。

 というものを採用した。

 本当は火花の温度が石同士だと低いため、鉄板とかがほしかったのだが、見当たらな かったため断念した。

「・・・昔暇つぶしに調べたのが役立つときが来るとはな」

 だが、趣味の一環として知識はあったのだが、いかんせん実践なんぞしたことがある はずもなく、苦戦は必須と思われる。

 とりあえず、見様見真似に石を打ち合わせてみた。

 カィンッ!

 石は子気味いい音を出してなんともいえない量の火花を生み出した。

(ぬん・・・これなら多分・・・いけるだろう)

 北上は木綿を地面に置くと、戦いは始まった。

「ふん!」

 カィンッ! Miss!

 カィンッ! Miss!

 カィンッ! Miss!

 カィンッ! Miss!

「なんか何回も聞こえてきたけど、大丈夫か?」

「あぁ」

(・・・打ち付ける角度が悪いのだろうか・・・それとも火の粉かける角度・・・?そ れとも・・・)

「何か手伝おうか?よくキャンプとか行くから少しは・・」

「わかった、大丈夫だ」

「・・・わかった」

 木野の声が聞こえた気がするが一切気にも留めず、考察を再開する。

(そもそも降りかかる火の粉の量が少ないのだろうか・・・や

 はり・・・・・・)

  

 その後、約30分は格闘しただろう、ある程度だせる火の粉の量が確実に増えてきた と自覚できるくらいになった時だった。

「フンスッ!」

 ・・・鉄を含んだ火打石は、強力な摩擦で無数の微細な鉄粉となる。

 粉末状と化した鉄は、一瞬で酸化し燃え尽きる。だが、そこで燃え尽きることを良し としない、諦めの悪い火の子が、木をほぐして作られた木綿へと降りかかり、ついに その身を炎とする権利をえる。

 そう、ついに木綿へと火花が引火したのだ、だが、まだ終わりではない。

 権利を得た種火は、追い風あって初めてその身を火へと変えるのだ。

 北上は、狂喜乱舞しそうな心を押さえて種火を得た木綿を注意深く拾い上げると、種 火を包み込むようにして、その中心に、ゆっくりと深く息を送り込む、イメージはふ いごだ、そして種火はついにその身を火へと変えた。

「熱っ!あっちゃちゃ!」

 俺は半ば焦りながらも、その火をあらかじめ竈にセットしておいた組み木へと投下、

 木の位置を火にあたるように調整しながら、北上は四つん這いになって下から上にな るような様にして組み木に風を送り込む、そして、ついにその時は来た。

 火は、炎となった。

「・・・!」

 組んだ木の内数本に、火が引火したのを確認した瞬間、竈の前で立ち上がって一人盛 大なガッツポーズをすると、また炎に向き直った。

 火がついてしまえばこっちのものである。

 昔学校の野外学習の火の番をした時、友人とどれだけ火を大きくできるか遊んで大変 なことになったこともあるし、それ以外にも縁あって何度かやっている。

 しばらく火の調整をして安定したことを確認すると、三人の待つリビングへと向かっ た。

「うぉーい、おわったぞぉー」

「お疲れ様、水いるか?」

「おう、もらおう」

 松崎からコップを受け取ると、一気に飲みほした。

「ふぅ、火はつけた、料理は任せたぞ」

「任せろ、いこう松崎」

 木野はどこか楽しそうに親指を立て、松崎と共に厨房へと消えていった。

 因みに北上は料理なんてものはほとんどできない、最大せいぜい卵かけごはんが精  いっぱいだろう。

 升平は全くわからないが口を出さないあたり恐らく駄目なのだろう。

 それに引き換え、松崎と木野は、家で料理当番を任されていた都合上、料理がうまい らしい。

(さて、お手並み拝見といこうか。

 とりあえず、待ってる間マニュアルでも読んでるか・・・。)

 北上は、棚にずらりと並んだ薄い本の表紙を眺めた。

 そこにあったのは、古めかしい羊皮紙の表紙に農業の基礎~応用・・道具手入れのス スメ・・料理の基本・・楽しい裁縫・・・などの、無駄にバリエーションの本たち

 だった。

 北上が本のバリエーションに若干引いていた時、気になる題名を見つけた。

『狩猟の手引き』

(・・・惹かれるな)

 その本を手に取ると、座り込んで壁にもたれかかって、先ほど持ってきた狩猟の手引 きを開いた。

  

『狩猟の手引き・弓編

 まずは、この本を手に取っていただき誠にありがとうございます。

 この本の最終目的と致しましては、読者の方々を、正しい弓の扱い方も知らない素人 から、森や山に住む野生の獣のように息をひそめ、必殺のもとに獲物を屠る、プロの 狩人まで成長していただくことです。

 さて、くだらない前置きはこれくらいにして、さっそく本編へとはいってしまいま

 しょう。

 まずは、弓の材料にする木材ですが、これは強度と柔軟性を兼ね備えたフューレとい う材木が最も一般的です、幸いこの周囲にも多く自生している種類の木なので、材料 に困る危険性はないでしょう、特徴としましては・・・。』

 ・・・その後、本に没頭していた彼を引きもどしたのは、鼻孔に入ったスープの匂い でよびさまされた、極度の空腹だった。

(腹が減った・・・。)

 北上は読んでいた本を脇に置くと、うーんと伸びをして本を戻すために立ち上がっ

 た。

 本を棚に戻した後、北上の動きに気づき目が合ってしまった升平の隣に座った。

「よう、腹減ったな」

「おう、松崎はともかく龍治は大丈夫だろうか」

「まぁ・・・大丈夫だろう」

「・・・・」

「・・・・」

「そういえば何読んでたんだ?」

「火起こしに挑戦とかいう本」

「・・・そうか」

「・・・・・」

「・・・・・」

 二人は、特に話すわけでもなく、ただぼんやりと時間を過ごしていた。

 その光景は、落ちかけた太陽を照明として穏やかな雰囲気を見せる木造の建築と、厨 房から漂うどこか懐かしい雰囲気のするスープの匂いと見事にマッチしていて、二人 は、どこか充実した心持で、部屋の窓から入り込む夕日の赤い日差しをただぼんやり と眺めていた。

 と、その時だった。

「ご飯ができましたーそっちで準備しておいくれー」

 松崎の声が響いた。

「あいよー」

「んぁー、飯かぁー」

 どうやら飯ができたらしい、二人はどっこらせっと立ち上がると、

 準備、もなにも机も何もないからどうしようもないのだが、を始めた。

 日が落ち、唯一の照明が消えて、燭台の火のみとなった部屋は、また違った温かみを 帯びていた。

 火から出る光は原始的ゆえにか、心に直接響く何かを感じさせた。

 準備を完了し、腹を空かした北上らを待っていたのは、程よく煮溶かされた野菜と戻 された干し肉のスープと、緑色なサラダだった。

 おれはこのスープに覚えがあった。

「・・・ポトフか」

 その瞬間、木野の目が輝いたのがわかった。

「よくわかりましたねぇ、とりあえず調味料にコンソメ的な味のする調味料があった

 から作ってみました、あとこれもキャベツ・・・に似てる野菜のサラダ、残さず

 食べてください」

「おかんか!」

「まぁ、味付けしたのは僕ですけどね!」

 しっかり自己主張を忘れない松崎に礼を言って、

「まぁそんなことより食おうぜ!」

 升平はすでに木製のスプーンを手に持って今か今かと待っていた。

「まぁじゃあいただきますか」

「せやね、いただきます」

 木野の号令に続いて、ぽつぽつと食べ始めた北上たちはポトフの意外な美味しさに少 し感動しながら皿を空にすると、サラダのキャベツに似たものに手を出した。

 北上は若干尻込みしながらも、口にキャベツもどきを放りこんだ、

(ふぅむ・・・これはこれで・・・うまい・・・?)

 このキャベツもどきは、キャベツとは味が割と似ているが、独特の苦みが若干あり、 それが割とうまかったりする。

(しまった、さっきの肉と一緒に食えばよかった・・・。)

 そして若干の後悔と共に全ての皿を空にした。

「ごちそうさま」

「はいおそまつさま」

 食い終わった四人は、後ろに手をついて体重をかけた。

 その満足感を感じながら、北上は松崎と木野を見据えて、

「お前らが料理とかできて助かったよ、俺だけだったら確実に干し肉とサラダ

 のみが永遠に続くところだった。」

「あぁ・・・うん、想像できますね」

「ごちそうさま、みんな食べ終わったなら食器かたずけちゃうか」

「む、任せたぞ」

「任せた」

 北上と升平は、厨房まで食器を運ぶところまではやったが、その後は完全に丸投げ

 だった。

 完全に主婦と夫の構図と言えなくもない。

 その後、燭台の油がもったいないのと特にやることが無いという理由で火を消して、 さっさと寝ることになった四人は、雑魚寝の状態で今日の、そして明日からのことを 話し合っていた。

「・・・なんか大変なことになったな」

 升平は窓から月と星を眺めてつぶやいた。

 その呟きに答えたのは松崎だった。

「そうだな、これからどうなるんだろうな」

 松崎は一つ息を吐くと続けた。

「そうなぁ・・・まぁでも変な職業にならなくてよかったよな、俺は大剣士、升平は格 闘家、お前なんて魔法剣士だしさ、木野は・・・まぁうんあれだけど」

「あれって言わないでくださいよ、まぁ気持ちはわかりますけど、僕の身にもなって

 ください」

「木野、起きてたのか」

「僕は不眠症ですので」

「そうか、すまない」

「ごぅぅぅぅ・・・」

 それと升平の寝息といびきのあいの子のようなものが聞こえたのは、ほぼ同時だっ

 た。

「こいつは・・・流石だな、なぁ松崎」

「・・・すぅー・・・・・」

「なんてこった」

 そういえば松崎も大分寝付きがいいんだった。

「そういえばこいつ昔俺は眠ければ自転車こぎながらでも寝れるとか豪語してたな」

「こいつら・・・さすがです」

 二人は若干あきれながらも少し笑い、

「さて、俺らも寝るか、明日のことは明日になればわかるだろう」

「・・・そうだな、寝ましょうか」

 こうして四人は若干の不安を胸に抱きながらも、やがて深い眠りへと落ちていっ

 た・・・。

 

 


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