ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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はい、二話目です。
評価1ですがついてくれるだけでも結構嬉しいものですねw
書き溜めはガンガン投稿します。
どうぞよろしくお願いします。



神殿の邂逅

(ここは・・・どこだ・・・)

 北上は、気が付けば深い、暗いまどろみの中をゆっくりと漂っていた。

 彼には、今己がどこにいるのかは元より、自分が浮かんでいるのか、流れているのか、漂っているのかも正直わからなかった。

 どれだけ考えようと、これが意識だけなのか、それとも体がなのか、それは彼には判別できなかった。

 それを確認するためにもつむっているのであろう目を開こうともしたのだが、億劫になって止めた。

 ・・・・・・・・・どれほどこうしていたのだろうか、何分間なのか、何時間なのか、何日なのか、一瞬だったのか、それすらも曖昧になってわからなかった。

 ただ、幸福感にも似た形容しがたい感情が、北上の胸に広がっていた。

(この気分は何なのだろう・・・恐怖は感じない・・・むしろ・・・暖かくて・・・安心を感じる・・・)

 と、その瞬間だった。

 暖かい闇に、鋭い光が走る、それと同時にそのまどろみが覚めていくのを感じ取った。

(なんだ・・・?光が・・・広がっていく・・・)

  

 北上はまぶたの向こうにある光を感じて、おもむろに目を開いていった。

 まず彼の目に入ったのは、神殿のような、高く荘厳にそびえる石造りの天井だった。

(何処だここ・・・なんかのゲームで見たな・・なんだっけあの転職できるところ・・・)

 一瞬そんなことを考えたが、やはり本人も馬鹿らしいと気が付いてその考えを打ち消すと、眼球移動だけで出来る確認をすまし、頭を少し起こして己の五体が満足であることを確認し、少し安堵した。

 その後、一度手を閉じたり開いたりして異常がないことを確認すると、ゆっくりと体を起こした。

 先ほど神殿と形容したが、それは正しかったらしく、北上の寝ている所と一段下がった床から、装飾の施された石柱が等間隔に天井に向かって生えているのが確認できる。

 その奥に巨大な扉があるところを見るに、ここは神殿の奥の方なのだろうかとあたりを付けてみたものの、彼にはその手の知識は特に持ち合わせがなかったのであきらめた。

 ふと、北上が目の前の観察にふけっていた時、後ろから自分にかけられている声に気が付いた。

「起きたか!北上!」

 ゆっくりと声に振り替えると、そこにはすでに起きていた升平、木野の姿と、いまだ眠りについている松崎の姿があり、それを見た瞬間、北上は自分の中でおぼろげにあった不安が、若干なりとも薄れたのがわかった。

「おい木野、ここはどこだ?」

「・・・わからん」

「せ、せやな、すまん」

 当り前だろう、知っていたらその方が驚愕というものである。

 北上は、取りあえず一旦落ち着くためにも、現状分析を始めた。

「えっと、俺らは駅のあそこでだベって、升平を送りに駅の表に行こうとしたら意識

 が飛んで気が付いたらここにいた・・・で、あってるよな?」

「おう、それであってる。それしかわからんけど」

「そんなことよりだけど」

 北上と木野が意識の飛んだ時を思い出していきながら、現状の分析を進めている時だった、先ほどまで沈黙を保っていた升平がおもむろに口を開いた。

「とりあえずこいつを起こそうぜ」

「俺はもう起きておるぞ」

「!?」

 三人が驚いて振り返ると、そこには上半身だけ起こしてこちらを若干ニヤケ顔で眺める松崎の姿があった。

 それを確認した升平は、松崎の両肩をつかむと、

「なんで黙っていたんだ!」

 と結構強く体を揺さぶり始めた。

「ふっふっふ、ただ単純に混乱していただけだ、別に何かを知っているわけでは無い!」

「なぁんて野郎だ!」

 北上は、なんてマイペースな野郎どもだこいつらはと、このわけの判らない状況でも平常時とほとんど変わらない漫才を繰り出す二人に内心感服しながら「とりあえず」と話を切り出した。

「とりあえず動こう、ここに居続けてもらちが明かない」

「おう、そうだなとりあえず向こうのでかい扉の所まで行くか」

 升平の承諾に対して周りが無言で肯定したのを確認し、

 彼らは台座を降りて大扉にむかおうとした。

 と、その時だった。

「その必要はない!」

 突如聞こえたやたらと低い声に、四人はほとんど反射的に振り返った。

 と、そこには先ほどまで誰もいなかったはずの空間に、男が二人と女が二人立っていた。

 一人は全く隙のない立ち姿と雰囲気を身にまとった。まさに武人といった男で、白髪を後ろにまとめて三つ編みのようにしている、どこかでみた師匠風の男だった。

 また一人は、頭や関節と一部以外を黒い鎧に包み、背中には身の程の大剣・・・いや、それは剣と呼ぶにはあまりにも大きすぎた、大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた、それは正に鉄塊だった。

 という回想が頭に流れるような大剣を背負った短髪の男だ。どう見ても某黒い剣士である。

 3人目はこれ正しく魔女といった出で立ちで床まで付きそうなローブをまとい、頭には幅広のとんがり帽子をかぶっているため、外見は今一判らない。

 四人目は、急所や手足といった部分のみを鎧で包み、腰に剣を差した女性で、整った顔立ちや、後ろで纏めた長髪のせいで、よくゲームで出てくる女騎士といった印象を受ける。

 惜しむらくは黒髪であるというところぐらいだろうか、これが金髪だったら完全にまさにそれ状態だったのだが・・・。

 四人が丁度この得体のしれないファンタジーの住人の観察を終えた丁度その時、先ほど自分たちに声をかけたであろう初老の男が口を開いた。

「ふぅむ、今回は男のみか、毎回割と男女混合なのだがのぉ」

「まぁ、でも勇者こそ選出されませんでしたが、なかなかに職業のバリエーションが豊富ですよ?」

 初老の男の残念そうなつぶやきに答えた女騎士は、四人を順々にみやると、またその男に向き直った。

「そうだがな?やっぱりこう花がないのはつらいものがだな」

「おいおっさん、そろそろこいつらに説明かなにかしてやらんと、全員硬直したままになってるぞ?」

 黒い剣士に言われて四人の顔を眺め見た。

 北上たちの状態はまさに黒い剣士が言った通りまさに全身硬直状態であり、現状が何一つとして理解できていない、というのが全身からにじみ出ていた。

 それを見た初老の男は、顔を上に向けて豪快に大口を開けると、正に愉快といった風に笑い始めた。

「ハッハッハ!すまんすまん、ワザとではないからどうか許せ!」

「この馬鹿はほっといて話を始めます。」

 この女騎士、進行役だろうかだとしたら大変だろうな、と北上はなんとなく思いながら、一瞬だけ升平と初老の男を流し見てすぐに視線を目の前の四人組へと戻した。

「えっと、まずはいきなりこんな場所に飛ばされて、と思ったらこんなことになって御免なさいね、私の名前はリーネ・ライトフィール、リーネって呼んでください。」

 リーネと名乗った女性は、軽くお辞儀をすると話をつづけた。

「まずはこの場所の説明なのだけれども、ここはタクオン神殿という場所です。

 役割としては、異世界の住人を受け入れて、それを私たちの世界へ送り出す、という役割の建物です。」

「っていうことはつまり・・・」

 これまで沈黙をたもっていた木野が、おもむろに口を開いた。

 喋った、というより考えていたことが漏れた、といった風だったが、松崎のようにほとんどフリーズ状態になっていないだけ十分といえる。

 なお、升平はというと、わからんもんはわからん、と一瞬で判断し、今はこの目の前の初老の老人が心の師匠たるアニメのキャラとそっくりであることに感動している。

 なにはともあれ、この馬鹿をよそにリーネと名乗った女騎士の話は続いた。

「ええ、多分あなた方が思っている通り、ここはあなたがたがいた世界ではありません。まぁ、あなた方の言う異世界というやつです」

 そんなばかな、それが、最初に思考した内容だった。

 あまりにも唐突過ぎて状況の整理が追い付かない、確かに原因不明の失踪事件は起きていたし、わからない話ではない。

 だがまさか、自分が当事者になるとは・・・。

 北上は一瞬頭を押さえそうになりながら、

「なぜ・・・?」

 という言葉が、口からこぼれ出した。

「おお!まっとうに返答するとは、なかなかのコミュニケーション力だぞお前たち!」

「はい茶化さないの、それはねあなた方にこの世界を救う勇者の補助を頼みたくて呼んだのよ」

 なんというか、スケールの大きいような小さいような、判別しづらい話が飛んできたものである。

「補助・・・ですか?」

 北上が入れた返事にリーネは、えぇ、と相槌を打つと、話をつづけた。

「そう、いわゆるあれよ、えーっと、そう!酒場で仲間になるやつよ!それになってほしいのよ」

「おい、それ以上はいけない」

「えぇ、ごめん」

 さらっと聞こえた危険そうな単語は黒い剣士がたしなめてくれたからなんとかスルーした。

 一行は、無言でリーネの言葉の続きを待った。

「えっと、続けますねそもそものことの発端なのですが、

 それについては近いうちにしっかりとわかる状況でお教えしますので、今はこ

 らえて頂けると幸いです」

(・・実際、この状況でそれは少し放り投げすぎじゃなかろうか?

 何かしらの説明しなにかしら納得することでこの錯乱状態の緩和がなされる可能性

 もあるだろうに・・、まぁ、この人としては、この精神錯乱状態で、話の十分の一

 でも理解できるとは思えなかったのだろうな)

 木野は、内心で少しイラつきながら、質問を返した。

「えっと、大体わかりましたが、何故僕たちなんでしょうか?」

「それは、わからないの、誰を呼び込むのかは女神様次第ですから、選別の基準

 とかはさっぱり・・・」

「そう、ですか」

 ふむ、特別なにかあるというわけでは無いのだろうか、まぁ、今考えることではないか。

 と、そんなことを北上が考えていた時、リーネが神妙な顔つきになって口を開いた。

「・・・説明不足も承知、不安も承知で聞きますが勇者と一緒に世界を救ってくださいますか?」

 これについては正直答えは全員決まっていた。

 俺たちは目を合わせるとうなずき、再び向き直り、答えを発した。

「「はい!」」

 という北上と松崎の、

「わかりました」

 という木野の、

「おう!」

 という升平の、

 不揃いな承諾の後、

「合わせろよ!」

 という北上のツッコミが神殿に響き渡ったのだった。

 


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