ヨーレンシアの勇者達   作:笹蒲鉾

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初めまして笹蒲鉾と申します。
初めての投稿、なかなかに不安でいっぱいですがどうか暖かい心でお願いします。
それではどうぞよろしくお願いします。



第一章~異世界拠点開拓編~
失踪事件


 

 薄明るい、色の無い霧の中を青年がただぼんやりと歩いていた。

 青年はぼんやりとした意識のまま、ぐるりと周囲を見渡した。

 周りは、薄くも濃くも無い霧が果てしなく広がり、その奥には優し気な薄明かりが

 まるで滲み出すようにあふれていた。

 地面はまるで存在しないように柔らかく、不確かな不自然さを感じたが、

 不思議と不安定さのような不安感は抱かなかった。

 足は、青年の意思とは無関係に、まるで何かに導かれるように歩を進めていった。

 やがて、一際光の強い一角へと歩を進めてゆき、そして・・やがて・・・

 ・・・・・・

「・・はっ!」

 青年は、急な意識の変化に一瞬ついていけずに、小さく驚いたような声を上げた。

 周囲を見渡すと、そこは電車の中で、どうやら帰り道の途中、

 椅子に座って揺られていたところ眠ってしまったようだった。

 彼の名前は北上将樹、少々顔が老けてはいるが、これでも二十歳である。

 一応大学生である彼は、これと言って特に熱中することもなく、バイトに行って大学の講義で

 出された課題をこなし、友人と遊びほうけるという至って普通の大学生活を送っていた。

 言わゆるアニメや小説ならこの辺りで「~が~なだけの」とか「ちょっと~なだけの」といった付属が付くもの

 だが、残念だが最近付き始めた少量の脂肪しかないのが現実だ。

(何か・・・不思議な夢を見ていた気がする・・・)

 夢の内容を思い出そうにも、彼の脳は霧がかかったようにそれを拒んでいた。

 やがて、それならそれで仕方ない、と諦めた。

 暫くは夕日に染まる電車内や、風景なんかをぼんやり見ていたが、

 北上はなんとなく肩こりを感じ、肩をすくめるようにして小さく伸びをすると、

 その時二つ隣から丁度聞こえてきた会話になんとなく耳を傾けた。

 と、言うよりも、音量が大きいため勝手に入って来た、というのが正しいのだがそこは誤差である。

 聞こえてきた内容は、こんなものだった。

「ねえ聞いた?」

「ん?何を?」

「ほら、例の失踪事件、ついに50人超えたってぇ」

「へぇ、物騒ねぇ・・・まぁ私たちには関係ないでしょ」

「それにしても多すぎじゃないかしら・・・・・」

 恐らく帰宅中の大学生と思われる女子学生のものだろう、内心北上は、

 声の大きさに少し煩わしさを感じたが、その内容への興味でそれは無くなった。

(失踪事件か・・・)

 北上は、車窓に流れる景色を眺めながらぼんやりと考えていた。

 それは3か月ほど前に遡る。

 事件発覚当初は、よくある殺人遺棄事件か、誘拐事件かと騒がれたが、

 その時の彼にしてみれば完全に他人事で、早期発見と事件解決を願うニュースキャスターと大体同じ心境だった。

 しかしそれが10人を超え、20人を、そしてついに30人を超えた頃、

 初めて現実問題になってきた時、北上にもようやく、危機感とともに、

 ちょっとした期待感のようなものが生まれ始めた。

  それは単純なもので、現状の社会に溶け込めない彼が、

 他の世界でもあってそこに行ければ必死になれる何かを見つけられるのではないか?

 というものだったのだが、正直それがただの精神的な逃避でしかないというのも理解しており、

 そんなことはあり得ない、と打ち消してきた。

 しかし、それでも一縷の希望は捨てきれる物ではなく、

 その失踪事件などの特集番組が組まれてはよく眺めていた。

 だが、現実は非常である。

 北上には特にそんなこともなく、せいぜい彼のいる都道府県から1~2人が行方不明になった程度である。

 そしてついに、彼にとって正に平穏無事に50人を突破するという大台に乗り上げることと相成ったのだ。

「お降りの方は~お忘れ物なきよう・・・」

(まぁいいや・・・)

 青年は電車のアナウンスが響く中、そんな悲観に暮れた思考を打ち切ると、目的の駅へと降り立った。

  取りあえず今は現実を見ねばならない、今の目的は駅の近くにあるゲームセンターへたどり着くことである。

 おそらく、北上と待ち合わせている友人3人はすでに到着している頃だろう。

 ちらりと腕時計で時間を確認すると、彼は若干早歩きで大通りを急ぐ、そして大体5分ほどで目的のゲームセンターへと到着した。

 建物に入ると、その玄関口にあるエレベーターに侵入し、8階のボタンを押して壁にぼぅ・・・っと、もたれ掛っていた。

 やがて、扉が開くと、その隙間の開口具合と比例するようにゲームセンター特有の騒々しさが彼の耳を襲った。

 最初のころは耳をふさぎたくて仕方がなかったが、今はもうどうでもいいと思えるほど慣れた。

 北上は、エレベーターから降りると、目的のゲーム台の前へと歩いて行った。

 因みにそのゲームとは、名前をスーパーロボットvsリアルロボといい、某白い悪魔から、空飛ぶ鉄の巨人、

 ほかにもラジコン操作の鋼鉄ロボ、某可変型ヒロイン搭載機や某最低野郎など、様々なロボットが共演しており、

 ゲーム崩壊が何度もささやかれたが、毎回酷いレベルでバランスが取れるという奇跡を起こしている。

 それでも大分昔から続編を出し続けている息の長いゲームだ。

 北上がその台へ近づくと、やはり、というべきか、見知った顔を3つ確認した。

 それとほぼ同時に、台が空くのを待っていた友人の一人がこっちに向かって小さく手を振り上げた。

「よう、またせたな、松崎と升平はまたタイマンやってるのか、何戦目だ?」

「やぁ、これで4戦目、松崎が勝ち越してる」

 この今話をしている奴は木野梶助(きの・かじすけ)、

 特徴は、特に無い、特筆すべきものがどうしてもみあたら無い。

 彼の持ち機体は、某アイドル育成可変機体作品の物がメインで、

 三パターンからある変形、人型形態の格闘性能、戦闘機形態の機動性能、どちらでも言えるが、

 高性能なミサイルによる射撃性能と、かなり相手にすると厄介なシリーズである。

 さて、そうこうしている内に会話が一区切りし、北上は周りを見渡す。

 12台ある内、乱入されないのは4つ、その内二つは空いていた。

「台は空いてるけど、二人プレイでもするか?」

「いや、金無いでやめとくよ」

「そうか・・・」

 木野は、小さく残念そうな声を上げると、目線をゲームの画面へと戻した。

(まぁ、こいつらのタイマンでも眺めているか・・・)

 デエエエエェェェェン!!!

 そう北上が思ったのと、戦闘終了を告げる音が聞こえたのはほとんど同時だった。

「よっしゃ!勝った!!」

 そう喜びを発散させている男の名は升平翔太、

 空手をやっているおかげで体は引き締まっており、そのせいか、たまに不良に絡まれるらしい、

 基本的にテンションが高く、意味不明な言動をとったり髪の毛は金髪混じりの茶髪に染めていたりするが、何気に至って常識人だ。

 だが重度の変態である。

 持ち機体・・・と言っていいのだろうか、は某東方先生(生身)である。

 ビーム一発食らうと一発で死ぬ代わりに、回避力、機動力共に作品最高レベルで、真の使い手の動きはほとんど瞬間移動だとか、

 因みに実弾マシンガン系は全て無効化するか、距離が近いと銃口に返品してダメージを与えるという最強のマシンガンキラーでもある。

「これで互角だぜ!」

「・・・・」

 そしてその隣、無言で敗北を噛み締めている男が松崎高治(まつざき・こうじ)別に無口というわけでは無いのだが、今は大人しい。

 外見は天パの、いわゆるイケメンで、性格も人当たりがよくかなり接しやすいが、結構な人見知りである。

 持ち機体はある機体に追加装甲を施した黒い機体で、兵装は体当たり、マシンガン、ビームマシンガンとロマンを掻き立てる機体だ。

 だが最大の特徴は瞬間移動と、時間制限バリア、そして最大のロマンである装甲全パージの右リバーブロー、

 通称・抜き打ちで、これで決められるとなぜか全く悔しくないという不思議なロマン武装だ。

 因みに、前述の生身参戦した師匠と戦うと、高速移動vs瞬間移動という面白い構図が見れる。

「おう北上、来てたか!」

「おう、相性良いのに負け越すなよ」

「てへっ」

 北上の言葉を升平はおどけて受け流した。

「っし、北上も来たところで、タイマンやらないか」

「いいだろ・・・受けてたとう」

 隣の台を目で示された北上は、松崎が座っていなかった方に腰掛けると、台に百円を投入し、ゲームを起動した。

 北上の持ち機体はというと、武装は基本的にビーム系で、

 射撃は手からビーム連射、チャージでエネルギー弾、ホーミングレーザーと結構充実しており、

 格闘も通常格闘のほかに投げる方向を指定できる投げもあり近距離でも悪くない、

 さらに瞬間移動も搭載しており、これで一気に相手に詰め寄れるなど、大分とんでもない性能をしている。

 だが一番の特徴はこの機体に搭載されている戦闘支援ユニット、いわゆる喋るAIの存在で、

 元ネタのゲームのプレイヤーと、この機体使いをことごとくAI音声好きという新しい属性を追加させた恐ろしい存在だ。

 さて、機体とステージを選択し、戦闘開始のロードが終わる。

「よっしゃいくぜ!」

「よし、こいや!」

 俺は隣から聞こえた気合いの入った声にこたえると、戦闘を開始した。

 

 

 正直、結果は北上の敗北で、三回勝負の内、一対二で升平に軍配が上がった。

「まぁーた負けた」

「そんな君も使えばいいじゃない、師匠」

「それは無理」

 升平は、視線を外しながら、そうか、と呟いて、また残念そうに煙草を口にくわえた。

 ここは駅隣の細い駐車場で、電車待ちの人がよく煙草を吸っているのを見かける。

 北上少年たちは、大体最後はここにたむろって話をするのが毎回の流れとなっている。

 そして、一つの会話が区切りを迎えた時だった。

 煙草の火を消しながら、木野がそういえば、と口を開いた。

「あの失踪者、昨日でついに50人だって?」

「え!そうなの?知らんかったわぁ」

 升平は、応答しながら胸ポケットから煙草を取り出した。

「知らなかったのかお前、ニュースぐらい見なさい」

 木野は冗談っぽくたしなめると、升平に続くように胸ポケットから煙草を取り出した。

「テレビは最近アニメすら見てないしなぁ・・・火いる?」

「ああ」

 升平は右手に持ったライターを龍治の煙草に近づけると、火を灯した。

 それを龍治が受け取り、煙草に着火したのを確認すると、煙をゆっくりと吐き出した。

「しっかし、あれだなぁ・・・表立ってきた時はついに異世界にでも行けるかと騒いだものだったが・・・」

 北上は飲み物に手を伸ばしながらぼやくように呟いた。

「そうなんだけどね、まぁ現実こんなものでしょう」

 北上のボヤキに呼応するように木野が頭を抱えてうめき声をあげた。

「まぁ、僕はどっちでもいいですけどね」

 松崎はそういうと、

「まぁ実際、本当に失踪者ってどこ行ったんだろうな・・・」

 と若干深刻な風に呟いた。

「さぁ・・・でもここにいるよりはいいと思うけどな」

 木野は、煙草のせいもあるのか、若干落ちつた風に言うと、やはり静かに煙を吐き出した。

「わっからんぞぉー?行った先がここみたいな平和な世界じゃなくてもっと、行った瞬間殺されるような修羅の国みたいな所かもしれんぜ?」

「それでもここにいるよかマシだろ絶対」

「どうだろうな」

 北上の茶化しに反論しながら木野は煙草を地面にこすりつけた。

「そうだなぁ、このままはやだねぇ、もっとファンタジーな世界に生まれたかったものだよ・・・よし、そろそろ電車の時間かね」

「せやな」

 升平の承諾の声と同時に全員が、「よっこらせっ」といった具合に立ち上がった。

 と、その時だった。

 それはまさに突然だった。

 まるで突然貧血に襲われたように足が急に支える力を失い、

 視界は暗転して地面に倒れこもうとしているのを感じながら、突如として四人は意識を失ったのだった。




この拙い文章を最後まで読んでいただき有難うございます・・感謝です。
しかし、一章に別けとかをしたいのですが一体どうやるのでしょうか・・・後でしっかり調べておくとしましょう。
それでは、もし気が向いたらで構いませんので、
よろしければまた、お会いしましょう。

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