FAIRY TAIL~全てを包み込む大空の軌跡~   作:綱久

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第二話でございます。
今回はツナとある女性との出会いです。


標的2 目覚めた先は

(んぅ……あれ、俺…いつの間に寝てた?)

 

 電源のスイッチがONになったかのように綱吉の意識は覚醒する。

 覚醒後自分の目の前に映るのは真っ暗……というよりも瞼を閉じているゆえに真っ暗だということに、自分は寝ていたことに気付く。

 次に気づいたのは自身の身を包み込む暖かさ。次第にこれは人間が一日の終わりに寝る際に使用される布団…もしくはベットの中にいることが分かった。

 いつの間にベッドに……というかまず何で自分は寝ていたのだろうという疑問を抱いたが、この時点でまだ意識は完全に覚めたわけではないので取り敢えず目を覚ましてから考えようと瞼を開ける――

 

 

 

「あ、目が覚めたみたいね! よかった~。君、朝から昼まで目を覚まさなかったから心配してたのよ?」

 

「………―――えっ?」

 

 思わずえっ?と声を漏らしたが仕方ないだろう。

 何せ自分の視界いっぱいに、視るからに美貌という言葉が似合う女性の笑顔が映っているのだから……しかも自身の顔と女性の顔の距離が近くて彼女の香りが漂って――

 

「ちょ……は、離れて離れて離れて下さい!!」

 

 異性に対して初心な綱吉にとってこの状況は決してポーカーフェイスでなくても耐えられるものじゃない。顔はみるみるうちに赤く熱くなっていくのが嫌にも分かるが、取り敢えず女性に離れてもらおうと声を上げるが……

 

「あら、もしかして恥ずかしがってるの? かわいい♡」

 

「か、からかわないで下さいよ!!」

 

 女性はまるで可愛い物や動物を見つけた少女のように少々うっとりとした表情を綱吉に対して浮かべており、対して綱吉は彼女のそんな表情と自分がからかわれた事に更に顔を赤くするのであった……

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

あれから数分後……

 

 

「うふふ、さっきはごめんねツナヨシ君。いきなりからかっちゃったりして」

 

「い、いえ。俺の方こそすいません……ミラさんはその、俺のことを心配して…」

 

「私は気にしてないから平気よ。でも正直に言えばあの時のツナヨシ君の表情は本当にかわいかったわよ♡」

 

「あのーミラさん? 俺も一応男なので……かわいいと言われるのはちょっと……」

 

「大丈夫よ。最近では男の娘というジャンルが――」

 

「俺は断じてそのジャンルには当て嵌りません!!」

 

 

……あれ、この二人知り合ったばかりだよね? この会話の前に簡単に自己紹介と会話を少ししただけなのに何でもうこんなに親しそうに会話してるの? 何で綱吉は男の娘に入ろうとしてるの? 

 

――なんて疑問を抱きそうになるが、この二人なら仕方がないのかもしれない。

 

 

 女性の名は『ミラジェーン・ストラウス』、通称ミラ。

 腰くらいまで伸びているふわふわとした銀色の髪にスタイルはナイスバディ、そしてそれに相応しい美貌を持つ正に美女と呼ばれるに相応しい女性だ。

 

 だがミラの魅力は美貌だけではない。それは常時絶やさない彼女の笑顔。

 彼女が見せる笑顔は太陽のような明るさと輝きと暖かさを放ち、見る者全てを癒し明るくしてくれる――ミラのその笑顔はそんな彼女の魅力の一つである。

 

 会話の最中ミラの笑顔を間近で見て綱吉は気づき理解した。

 彼女のその笑顔はまるで自分が以前まで好意を抱いていた笹川京子と全く遜色ないものであること、そして自身が持つ全てを見透かす常人を遥かに凌ぐ直感力、『超直感』から彼女の笑顔から悪意といった負の感情を一切感じない……彼女は心の底から笑顔を浮かべており、自分のことを本当に気にかけている、と。

 

 勿論それだけが理由ではないのだが、綱吉はミラジェーンという女性を信用することができ、普段の自分を隠す必要はないという安心感があるのだ。

 

 

 そしてそれはミラも同じ。

 ミラから見た綱吉の印象は少し気弱で臆病そう、そして愛くるしい小動物の様(ミラ曰くここ重要)。

 でも会話する内ミラは何となくだが彼の人柄が分かった――いや、鈍い人でも気付く綱吉の態度や言動から優しさ、周りを安心させる暖かさ、そして何故か彼の近くは居心地良いと思ってしまうことに。

 

 それともうもう一つ、ミラは仕事上様々な性格や思想の人達との交流という経験から人を見る目は確かだ。そんな彼女だから、綱吉のことを悪い人だと思わずこうして接することができる。

 

 まぁ、この二人の性格を考えればこうなるのが必然なのかもしれない。

 ミラは常時笑みを浮かべてながら楽しそうにしており、綱吉も彼女の弄りに対して困惑な表情を浮かべながらも決して本気で嫌がっているわけでもないし僅かに笑っている、このままでは二人共時間の経過を忘れて更に話し込むんじゃないかと思われるほど……

 

 しかし、笑みを絶やさなかったミラの表情が微かに曇る。

 ミラとしては綱吉との会話(というか弄り)を楽しみたいところだが、彼には聞かなければならないことがある。そんなミラの気持ちを表情から察したのか、超直感で感じ取ったのか、綱吉も表情を引き締める。

 

「ツナヨシ君。別に私は君を疑っているわけでもないし、話してみても悪い人じゃないのは分かる。でも、君に聞きたいことがあるの」

 

「……はい」

 

「ツナヨシ君はどうしてうちのギルドの前で倒れて気絶してたのか分かる?」

 

「えーっと……」

 

 彼女がこの質問をする理由は分かる。

 自分がいつも通う場所に見知らぬ人が……更に気を失っていたとなれば気にするなというのは無理だ。

 綱吉も自分が決して怪しい人間ではないことを証明するために質問には答えたいが、説明しようにも自分はさっき意識を取り戻したばかりで何がどう――

 

――ズキッと頭痛が奔った。

 

 思わず頭を抱えてしまったが痛みは一瞬で収まった。

 一体何だったのかと疑問を抱く前に、綱吉が今この状況に陥った記憶が蘇ってきた……

 

 まるでタイミングを見計らったように……

 

 まるで――

 

 

――ここから絶望を味わえと言わんばかりに……

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 取りあえず綱吉は何故今このような状況になってしまった経緯は何のなのか、蘇った記憶を思い返してみる。

 友達や仲間とのいつもの非日常の学校生活を終えてリボーンと一緒に帰路を共にしていた。そんな中ランボの襲撃を受けたがリボーンがあっさり撃破。それでもランボは何とか反撃しようと10年バズーカを取り出そうとするも使わされる前にリボーンにより蹴り上げられ、急に自分の目の前に10年バズーカが――

 

「――あっ!」

 

 思い出すうちに綱吉は悟ってしまった。

 自分の意識を闇に落としたのはランボと共に飛んできた10年バズーカ。

 そして意識不明で真実は分からないが何らかのアクシデントによって10年バズーカは自分に向かって……そうなれば街道から今自分の知らない場所にいるのか納得できる……できるけど………

 

 つまり――

 

(ってことはここは10年後の世界ーーーーっ!!?)

 

 ある意味で当たってほしくない予想通りな現実に綱吉は頭を抱えてしまう。

 何故自分はまたこのバズーカを受けなければならないのか……正直自分のドジ体質を恨みたくなる。

 

 いや、よくよく考えればそう悲観することはない。

 10年バズーカでタイムトラベルを行っても5分間だけ。

 きっとその内時間が来て自分は元の時代に―――

 

 

――ちょっと待て。ミラは自分が目を覚ました時なんと言った?

 

――『君、朝から昼まで目を覚まさなかったから心配してたのよ?』――っ!!

 

 彼女の言葉を信じるなら、5分なんてとっくの昔に経っている……これらのことから自分の記憶で判断できるのは……

 

(もしかして正一君……またあの装置を起動させてるのかな……?)

 

 思い当たるのは――かつての友人を止めるため、人類の危機を救うため、そしてある男を唯一倒せる希望のため、自分や仲間達を10年後の世界へ呼び込んだ男が開発し起動させた『白くて丸い装置』。

 

 かつてその装置によって5分で帰れるはずの10年バズーカの効力を妨げられていた。しかしそれはある男達の計画のためで起動させ、今はもう解いてあるはずだ。

 

 …もしかして、また10年後の世界で何かが起こっているのかではないか?

 だからこそ、またも白くて丸い装置を起動さたのでは?

 以前同じ現象を身をもって味わったためだからこそ判断できる。

 

 一瞬この状況に混乱しかけたが、一つの一つの疑問を解いていくうちに自分が置かれている状況を理解する綱吉。というか、今まで経験した出来事だからこそこの状況で普段は慌てる綱吉も何とか冷静でいられる。

 

 取り敢えず、まずはこの時代にいる仲間に会いに行こうと決心する綱吉。

 そうすればこの現象が何なのかを分かるかもしれない。

 ボンゴレが本拠地としているイタリア、自分の10代目ファミリーの主な仲間がいる日本、そのどちらかに訪れれば……

 

 だが自分が今どこにいるのかは分からない。

 ミラの名前、そして自己紹介の際『家族名が最初に来るなんて珍しいわね』と珍しがっていたことからここは日本ではないと理解できる。

 

 なればまずここが一体どこなのかミラに聞くことにした綱吉。

 聞き終えた後は何とか仲間達へと連絡が取れないか試みる。

 幸い10年バズーカで撃たれた自分がこの場所にいるのは、10年後の自分がここにいたという証明でもある。

 

 この時代の自分は正式にボンゴレ10代目となっている(もの凄く不本意だが)。なれば自分はボンゴレファミリーにとって最重要人物……つまり護衛や部下が当然付いてきている。その人達を探し出して自分に起こった現象を説明すれば、この時代の仲間達の元へ連れて行ってもらえるはずだ。

 

 ……マフィアのボスにならないと言いながら、今は……いや、前からずっとボンゴレに頼る――そんな自分に嫌気がさしてくるが、仕方がない。

 

 現時点でおいて自分が元の時代に帰られる方法はこれしかないからだ。

 それでも、可能性があるのなら綱吉はこの方法を取る。

 ……だって綱吉の帰るべき並盛の仲間や友達、家族がいる場所こそが、綱吉の居場所なんだから。

 

 

「えぇと……実は俺、ある人達を探し続けている内に迷ってしまって……で、資金もなくなってフラフラと彷徨って――で気づいたらここに……」

 

「まぁ……そうだったの……」

 

 ある意味で間違ってもおらず、ある意味で嘘の言葉を告げる綱吉にミラは表情を曇らせる。それに少し罪悪感を感じるが本当のことを話しても、人が良いミラでも信じてもらえるわけはないし、何よりも関係ない彼女を自分の事情に巻き込まわけにはいかない。

 

「あの…ここがどこなのか教えてもらえませんか? 俺にはさっぱりで……」

 

 ミラからすればこの言葉は見知らぬ土地に迷い込んだんだと感じた。

 だからこそ、綱吉にここの場所を親切心から、彼を安心させようと口を開き告げる。

 

 

だが、そんな彼女の思いやりがこもったその言葉は――

 

 

――綱吉の藁にも縋る様な唯一の方法を――

 

 

 

「――ここはフィオーレ王国のマグノリアにある魔導士ギルドの『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』よ」

 

 

 

――ひび割れ、崩壊へと進ませていくことになる。

 

 

 

「フィ……フィオーレ王国? マグノリア? ま、魔導士ギルド……?」

 

 自分が全く知らない用語を綱吉は震えながら口にする。

 

 その震えは恐怖からくるもの……

 だがそれは死の恐怖からくる物でもないし、暴力による肉体的恐怖からくる物でもないし、恐ろしい物を見た恐怖からくるものでもない……

 

 これは――未知の恐怖……今の自分が知らない何かの知識を知ることで、自分に絶望が襲ってくるんじゃないかという……そんな恐怖が綱吉を襲ってくる。

 

 最近綱吉は家庭教師のリボーンから『ボンゴレのボスたるもの、世界にどんな国があるのかくらい理解しろ』――とのことから世界地理の勉強を無理やりさせられてきた。

 リボーンのスパルタによるものか、綱吉の根性によるものなのかは分からないが、完璧ではないものもある程度の国名や場所が分かるようになった。

 

 だがその中で、フィオーレ王国なんて国名はなかったはずだ。

 

 勿論まだ自分が覚えていない国名だったり、一度覚えた名前を忘れてしまった可能性はある。でも自分の中にある超直感が告げている……そんな可能性は全くない――と。

 

「ツナヨシ君? どうしたの、顔が少し青いわよ」

 

「な、何でもありませんよ!! 本当に何でも!!」

 

 綱吉の様子がおかしいことに気付いたミラは心配の声をかけるが綱吉は自身の感情を悟らせないために声を上げて否定する。

 流石のミラもそんな彼を不審に思っているだろうが、そんなことよりも…綱吉は彼女に聞きたいことがある。

 

 先程彼女は地名以外にも魔導士ギルドという単語を口にした。

 魔導士とは『魔法』を使う者であることぐらい綱吉にだって分かるし驚きはしない。

 自分がいた場所では魔法と全く遜色ない異能と変わらない力を持つ者なんてたくさん存在していたし、かく言う自分もその中に入ってしまっている。聞きたいのは魔導士ギルドとはどういう場所で、世間ではどのように映っているのかだ。

 

 その答えで自分の置かれた運命が分かる……そんな直感が鳴り響いているのだから。

 

「すいません……魔導士ギルドって…一体何ですか?」

 

「魔導士ギルドを知らない……? そ、そんなことよりもツナヨシ君様子がおか――」

 

「――お願いです!! 今すぐ教えて下さい!!」 

 

 綱吉の鬼気迫る表情と気弱そうな彼が出すとは思えない大声にミラは驚きで肩を震わせた。そしてそんな彼に思わず、ミラは彼に聞かれた質問に答えだす……

 

 

 ミラ曰く、魔導士ギルドとは『魔法』を使う魔導士が一つの場所に集う組織であること。メンバーには各ギルドの紋章を入れており、ギルドに依頼される仕事で収入を得るということ。魔導士ギルドは世界中にたくさん存在しており、この場所もその内の一つであること……

 

 この他にもミラは説明してくるが、そんな中で綱吉の脳裏にある男達の言葉が蘇る……

 

 

『パラレルワールドとは、世界はどんどん枝分かれしていって、いろんなパターンの世界が存在する考えだな』

 

『「もしも」の考えで分岐するパラレルワールドには色々なパターンの世界が考えられる……軍事技術の発達した世界、古代文明の発掘に成功した世界、医療科学の発達した世界……』

 

『パラレルワールドとは現実と並行して存在している独立した別の世界だ……どんな人間も他のパラレルワールドのことを知る術もないし交わったり関わったりすることはない』

 

 

「………ぁ」

 

 

 綱吉は分かってしまった。

 

 自分が置かれた状況を。

 

 ここが一体どこなのかということを。

 

 だがそれは、綱吉にとってどれだけ絶望的であるか……

 

 

 

 ここは『魔法』が発達し、魔法を中心とした――自分の世界と全く関わりのない、そして全く干渉できない―――平行世界(パラレルワールド)なのだと……




今回はツナによる状況判断のお話でした。
……ツナにとっては知りたくない事実だったんでしょうけど……

戦闘描写をお待ちのかたは二話後なのでどうかお待ちを!

感想、指摘などありましたらよろしくお願いします!


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