お待たせしました、帰国一発目です。
今回は皆さんお待ちかね、カエルと少女の初?コンタクトです。
それではごゆるりと。
新年度一発目の授業、アンブリッジの講義を受けるために私たちは防衛術の教室にいた。みんなの机の上には例の教科書が置かれており、授業が始まるまで枕にしたり、パラパラとめくったり、そもそも目を向けずに妖精術の練習をしていたりと、皆各々自由なことをやっている。かくいう私も教科書を開かず、パーバティが妖精魔法で動かしている紙の鳥を眺めていた。鳥はのびのびと羽ばたきながら教室の中を飛んでいる。その様子に自然と私の顔はほころんだ。
しかしそんなことも束の間、突如鳥は灰となって燃え尽きた。一斉に教室の前に視線を向けると、やはりそこには気持ちの悪いニタニタ笑いを浮かべた、ガマガエルによく似たアンブリッジが杖を構えて立っていた。
「生徒の皆さん、おはようございます」
これまた笑みと同じように気持ちの悪い猫撫で声を出すアンブリッジ。もはや頭の上に乗っている小さなリボンでさえも気持ち悪さを感じる。とりあえずみんな挨拶を返したが、点でばらばらだった。それに対しアンブリッジは舌を鳴らした。
「チッチッチ、いけませんね皆さん。挨拶をされたらしっかり返すように。ではもう一度、こんにちはみなさん!!」
「「「こんにちは、アンブリッジ先生」」」
教室が共鳴するようにワァンとなった。アンブリッジはそれに満足したようにうなずくと、黒板に文字を書き始めた。
「皆さんは今年で五年生、年度末にはO・W・L試験が待っています。勉強すればよい成績が取れ、怠ると悪い評価が付きます。では皆さん、早速教科書一ページを開いてください。私語はしないこと」
アンブリッジはそれだけを言うと、教卓の椅子に座り、紅茶を飲みながら私たちの観察を始めた。というか砂糖を入れ過ぎじゃないですかね、甘ったるいものを呑むと体に悪い……ああ成程、だからガマガエルみたいにブヨブヨなってるのね、納得。
みんなつまらないという表情を浮かべながら、教科書を読み進めていくが、殆どの生徒が途中で読むのに飽き、爪垢掃除をしたり、羊皮紙になにか書き始めたりしている。その中で一人、ハーマイオニーがアンブリッジを凝視して手を挙げていた。しばらくアンブリッジは無視していたけど、流石に無視しきれずに十分ほどしてハーマイオニーに目を向けた。
「ミス・グレンジャー、何かわからないことが?」
「いえ、教科書の内容は網羅しているので問題ありません」
「あら、じゃあ何が問題なの?」
アンブリッジは笑みを浮かべて、しかし目は笑わずにハーマイオニーに問いかけた。ハーマイオニーはそれに臆することなくアンブリッジを睨み返しながら口を開いた。
「この授業では魔法を使わないのでしょうか?」
ハーマイオニーの質問に対し、アンブリッジは甲高い笑い声をあげる。それによって全員の集中力が切れ、アンブリッジとハーマイオニーの応酬の観察を始めた。
「なにを以てしてこの授業で魔法を使うのです? こんな安全な場所で?」
「何者かの襲撃はなくとも、魔法生物による襲来があっても可笑しくないのでは?」
「そんなものは魔法生物飼育学の教員に任せればいいじゃない?」
「最近は色々と物騒でしょう? ならほんの少しでも防衛手段をもっているほうがいいのでは?」
「今それを学んでいるでしょう?」
アンブリッジはさも当然とでもいう様に教科書を指差し。これこそ最高の防衛手段と断じる。嘘ね、あの女は防衛手段を示しているのではなく、私たちの知識を制限して自分たちの手綱を握ろうとしているだけだ。顔を見ればわかる。
「こんな本をもってどう対処しろと? まさか敵前で開いて読み上げればいいのですか?」
我慢できなくなってつい噛みついてしまった。途端アンブリッジの顔からは表情が消え、私を凝視した。なんか妙な感覚が体を駆け巡ったが、恐らく彼女は私を威圧しようとしたのだろう。その証拠にエミヤ家と親密に関わっている者たち以外は全員冷や汗をかいている。
「……ではミス・ポッター。あなたの言う外敵とはなんですか?」
アンブリッジは静かに解きかけてきた。この場合何を言っても否定されるのが落ちだろう。でも私は我慢することが出来ず、机の下で隣に座るシロウの制止も聞かずに口を開いてしまった。
「そうですね、ヴォルデモートとか?」
言った瞬間私は後悔した。アンブリッジがしてやったり顔をしていたし、隣でシロウが小さくため息をつくのを聞いたから。
「グリフィンドール十点減点です。ミス・ポッター、次は減点では済まされませんよ?」
アンブリッジは教壇の前にゆっくりと歩を進め、生徒全体を見渡しながらニマニマ笑みを浮かべた口を開いた。
「皆さんは休み前に色々な話を聞いたと思います。なんでも『例のあの人』がよみがえったとか。いいですか皆さん、あれは全くの嘘です」
「なっ!?」
余りの言い草に言葉を失った。彼女は去年、対抗試合の観客席に顔を見せなかった。そのため、その時何が起きたかなど直接見てないし、大臣がどんな話をしていたかも知らない。でも元死喰い人の腕の刻印を確かめればわかることを、いったい何を根拠に嘘と断じているのか。
「何を根拠にそんな自信を持って言えるのですか?」
「『例のあの人』は十四年前に消え去った。それは周知の事実でしょう? 死者がよみがえることなどありえないのです」
「誰がいつ死んだと言いました? ヴォルデモートは消えただけで死んだとは言われていない。この十数年活動を控えていた、またはできなかったともいえるでしょう?」
「罰則ですポッター!!」
アンブリッジは喜々としてそう宣告した。このアマ、初めからそれが狙いだったんだね。
「ダンブルドア教授や他の幾人かの魔法使いたちも主張していますが、いいですか皆さん。これは真っ赤な嘘です!! あの魔法使いが蘇ることなど決してあり得ない!!」
「じゃあ元死喰い人の刻印はどう説明するのですか!! 彼らの刻印がはっきりと浮かび上がっていることがヴォルデモート復活の何よりもの証拠でしょう!!」
「黙りなさい!!」
私の主張に対して、アンブリッジは悲鳴にも近い声で命令してきた。余りにもの近々声に耳が少し痛くなり、私は口を閉ざした。対するアンブリッジも肩で息をしていたが、一度あの特徴的な咳払いをすると、にんまりとまた口元に笑みを浮かべた。
「ミス・ポッター。放課後私の事務所に来るように、そこで罰則を与えます」
その言葉を最後にアンブリッジは言葉を切り、教壇の椅子に戻ってまた甘ったるそうな紅茶を口にした。その後はどの授業もやる気が起きず、普段やらないような失敗をしたりして周りに迷惑をかけたりしてしまった。それこそ、普段スリザリン生以外心配しないスネイプ先生にまで心配されるほどに。
そして放課後、重たい足を動かしながら私はアンブリッジの部屋に向かっていた。この四年間、色々な事情で通い詰めた防衛術の教員部屋だけど、これほど行きたくないと思ったのは初めてだった。
ノックして扉を開くと、そこにはこれでもかというほどにピンク色がちりばめられ、そのピンクの壁にはこれまた覆いつくすかのように、猫の絵の描かれた皿が沢山飾られていた。
「来ましたねポッター。さぁ掛けて、何か飲み物はいる?」
「いりません。お茶を飲みに来たわけではないので」
ハッキリと断ると、面白くないとでもいう様にアンブリッジは鼻を鳴らし、私の目の前に羊皮紙と羽ペンを置いた。しかし一番肝心なインク便が見当たらない。
「先生、インクはどこですか?」
「あら、それは特別な羽ペンでね。インクは必要のない代物なの」
はて、そんな羽ペンは売られていただろうか? 疑問に思いつつも、私は羽ペンを握った。
「では書き取り罰則です。書く文章は、『私は嘘をついてはいけない』」
「どれくらい書くんですか?」
「身に染み込むまで」
何やらきな臭い言葉を最後に、アンブリッジはティータイムに戻った、仕方がなく私は羊皮紙に言われた文章を書きこむ。
書き始めると、鮮やかな赤い色で羊皮紙に文字が書き込まれ始めた。でもおかしい。この色は見たことあるし、何やら鉄臭いにおいもする。まさかと思うが、このインクは血ではないだろうか?
そう考えていると、何やら右手の甲に痛みが走り始めた。一文字一文字、一角一角書き込むたびに痛みは激しくなり、手の甲に文字が刻まれ始めた。『
「……そういうことね」
「何か?」
「……いえ、何も」
アンブリッジが何か聞いてきたが適当に応え、書き取りに戻る。決まりだね。この書き取りインクは私の血、身に染み込むとは体に刻み付けるということ。明らかな越権行為と違反行為に怒りが湧く。しかしここで爆発させればこの女の思うつぼ、私は堪えて書き取りを続けた。
手の甲から血が滴り落ちる程まで書きなぐっていると、アンブリッジがこちらの様子を確かめに来た。但し書き取りの量ではなく、私の手への刻まれ具合を。
「チッチッチ、まだまだ染み込みが足りないようね」
これで染み込みが足りないとか、この女は本当に何がしたいのだろうか? あまりもの馬鹿馬鹿しさに呆れつつも、帰ることを許されたので私は足早に部屋を去った。満足そうにクツクツ笑う声を聴きながら。
寮に還るといち早くシロウが近寄り、私の右手の治療を始めた。血は止まるも、私の右手には生々しい『私は嘘をついてはいけない』の文字が浮かび上がっている。それを見たシロウは一気に無表情になる。別に私に怒気を向けられたわけではないのに、アンブリッジとは違って私も冷や汗が止まらなくなる。間違いなくシロウが発しているのは殺気、少しでも動こうものなら切り裂かれそうな、そんな感じがする。
「……これはあの女が?」
「うん。書き取りって言って」
「了解した」
シロウは無表情のまま立ち上がり、談話室を出ていった。シロウが去った後室内の空気は弛緩し、談話室にいたみんなが肩で息をついた。
「初めてシロウが怒っているところに出くわした」
「息子さんも奥さんもああなら、一家の大黒柱たる彼も例外じゃないと」
「「あれ、剣吾と模擬戦したとき以上の圧迫感だぞ?」」
皆口々にシロウについて話し出す。殺し合いなどしたことがない私たちでも、先程のシロウの圧力が殺気だとわかる。本物の戦闘者と偽物の御山の大将の違いをはっきり実感した一時だった。
はい、ここまでです。実はこの話、十時間もあるフライトの中で書き溜めていた者なんです。暇でしたので。
さて、次回からガマガエルはどうなるのか、早く蛇に食べられないかなー(棒読み)
では皆さん、またいずれかの小説で。