錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「ケホッケホッ、みんな大丈夫?」

「私達は大丈夫です」

「あれ、紅葉お姉さまは?」

「え、あれ? どこに……」

「ちょっと、どいてよ!! 逃げられないじゃない!?」

「え? あっ、紅葉!!」

「両足が……まさかあの子を庇って」

「どきなさいってば!!」ドンッ!!

「うう……」

「「「「!?」」」」

「……あの女」

「助けてもらっておいてあの態度……」






17. 光と剣、裏切りと万華鏡

 

 

 

「……腐っても英霊か。黒化しても強さは変わらず、かな」

 

 

 目の前で槍を構える男を一瞥し、大きく息を吐く。父さんと刃を交えたことはあるが、あくまで鍛錬の一つだった。殺し合いも確かに慣れてるが、それでも殆どが人の範疇を出ない実力者であり、英霊に届くものは異世界または並行世界にしかいなかった。それも俺一人での相手ではなかったために、ここまでの苦戦はなかった。

 母さんたちはまだしも、父さんは俺と同じ歳のころにサーヴァントと戦ったという。黒化英霊とは強さの規模が違う。

 

 

「それにしても妙だな。先ほどから槍がぶつかるたびに力を吸い取られている気がする。……まさかな」

 

「……」

 

 

 母さんと凛姉さんの話によると、俺が対峙しているのはクランの猛犬・クーフーリン。過去現在において三本の指に入る槍兵らしい。槍の扱いは申し訳ないが、父さんよりも遥かに上だ。黒化しているとはいえこちらは凌ぐのがやっと、攻撃を加えても悉くいなされる。

 そのとき目の前の槍兵に変化があった。先ほどまでのおどろおどろしい雰囲気が薄まり、黒っぽい軽鎧も群青色になり、顔の仮面も外れ、血よりも紅い(あかい)双眼がこちらを見つめた。

 

 

「……ほう。中々いい槍の腕じゃねえか」

 

 

 突如口を開いた槍兵。父さんから話は聞いていたが、まさか俺の魔力を吸い取って理性を持つまで現界するとは。

 

 

「しかしお前さん、誰かに似ている気がするんだが」

 

「……もしかして衛宮士郎か?」

 

「そうそう!! あの坊主に似ているんだ!! にしちゃあ、あの白い髪の嬢ちゃんにも似ている気がするが、まさか二人の子供か?」

 

 

 恐らく白い髪の嬢ちゃんとは母さんのことだろう。周りは俺たちのぶつかり合いで()()破壊されており、俺たちがいる迷路中央部は半径十五メートルほど開けているが、流石に観客席まで声は聞こえないだろう。それに空では凛姉さんがドンパチやってるため、更に声は聞こえづらいだろう。

 

 

「二人は俺の親だ」

 

「は? マジで、あの坊主の子供かよ?」

 

 

 俺の言葉を聞いて驚く槍兵。というか、座に戻ったら記憶は記録になって父さん達のことは忘れるはずだが。これもまた、イレギュラーゆえということか。

 

 

「あの坊主はどこまで足掻いても二流止まりなんだが。まさかその息子に槍の才があるとはねぇ。うちの騎士団でもいいとこ行けるだろうよ」

 

「それは光栄ですね」

 

「まぁお喋りもここまでだ。お前さんの魔力のおかげで自我まで持ったとはいえ、時間が限られてる。第二ラウンドと洒落込もうか!!」

 

「……ッ!! クソッ、さっきよりも強く!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着弾地点にいた生徒は、咄嗟に庇った紅葉のおかげで無事だった。ただ流石の紅葉も稀代の魔女の魔力弾は堪えたらしく、足を負傷して歩けなくなっている。あの女子生徒、自分のせいで紅葉が負傷したってのにあの子を押しのけるなんて。キャスターを片付けたら覚悟なさい、私たちの愛娘を傷つけた報いを受けてもらうわ。

 

 

「にしても妙ね。闘う度に向こうやり方が冴えていく。まるで段々聖杯戦争の頃に戻るみたいね」

 

「フフッ、知りたい?」

 

「!? あんた……やっぱり」

 

「貴方の考えてる通りよ、拳法のできるお嬢さん」

 

 

 これはまずい。

 士郎とは違い、私と剣吾は魔力量が数倍近くある。加えて私とは宝石剣で無限の魔力、剣吾は礼装で無限に近い魔力を使えるから、その分残留する魔力も多い。それを向こうに吸収されれば、一時的に完全にサーヴァントになることも可能なはず。

 

 

「私のこと、なんでか覚えてるようね」

 

「ええ。あなただけでなく、いろんな世界のあなたの記録があるから。それほどまでに本体の私はあなたが印象深いのかもね」

 

「へぇ、それは光栄ね。でも甘いわよ、あんたが知ってるのは子供の頃の私。あの時と違って、今では魔術でもあんたとタメ張れるわ」

 

「あらあら、怖い怖い」

 

 

 ころころと楽し気に笑うキャスター。なまじ素の顔がすごい美人なだけに、笑い顔もまた綺麗だ。

 

 

「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか。下の子も、ランサーとまた始めたみたいですし」

 

 

 そう言ったキャスターは杖を構え、外套の下に幾つもの魔術陣を張り巡らした。流石は高速神言、魔法使いになった今でもこれだけは習得できない。この戦闘、彼女の大規模魔術にどう対処し、接近戦に持ち込むかが重要ね。近接戦闘になればこちらに分があるのは、聖杯戦争の時に実証済みである。

 

 

「じゃあ私も見せましょうか。二代目『万華鏡』の戦い方ってのをね!!」

 

 

 その言葉と共に私は極光の斬撃を、キャスターは無数の魔力弾を出し、それらは空中でぶつかり合って大きな爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらそらそらぁ!! 休んでる暇はないぜ!!」

 

「く、うおっ!!」

 

 

 紅の槍から放たれる無数の刺突を、こちらは鋼の槍で何度も捌く。既に投影された槍は5本を超え、今丁度六本目を投影した。伝説の槍とただの金属の槍じゃあ性能の差はたかが知れている。それに加え、技量の差も一目瞭然である。寧ろここまで食らいついていることに、自分でも驚きである。

 

 

「まだまだ粗削りだが、父親とは違って槍の才があるようだな。だが俺についてこれてんのは、単に(ひとえに)その投影があるからだ。戦場だと死んでるぜ」

 

「ああ、今それを痛感してる」

 

 

 互いに軽口を叩きながら俺は大きく息をつく。あまり長い時間戦っていないのに、こちらの疲労は溜まるばかり、対してランサーは飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さない。これが一流戦士という奴か。確か伝説では、大人数の一部隊を一人で足止めしたとか。

 

 

「っと、どうやら時間の様だ」

 

 

 その声に反応するとの成程、確かに体から魔力が気化し始めている。どうやら黒化時とは違い、完全に現界したことで制限が付いたのか。憶測の域を出ないが、もう彼らは座に還るのだろう。

 

 

「いいもん見せてもらえた。現代じゃあ坊主ぐらいしか俺たちに張り合える奴はいないと思ったが、坊主の子供とはいえ、中々だったぜ」

 

「そいつは……光栄だな」

 

「〆だ。俺の技を特別に見せてやる」

 

 

 そう言ったランサーは槍を構え直し、刃先を下に向けた。途端、槍が周囲から貪欲に魔力を食らい始めた。一度見たことがある。父さんが仕事先で一度だけ見せてくれた宝具の真名解放、それによく似ている。そしてランサー、クー・フーリンとくればその宝具はゲイ・ボルグだろう。

 

 

「安心しな、真名解放はしない。聖杯戦争中じゃねえし、お前を殺すのは惜しいからな。だが……」

 

 ――避けねえと死ぬぞ

 

 

 その言葉と共に、彼の槍は一際紅く光り、一際濃密な魔力を纏う。俺も無意識に短槍を投影し、右手に構えた。左手には先ほどまで持っていた長槍を持ち、ランサーに向ける。彼はそれを見て、獣のように獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「そら、いくぜ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 速い。高速を超え、神速に届くのかという突きが俺を襲った。全身をくまなく強化してもぼやけてしか見えない、神速の突き。

 左に握る槍で(きた)る刺突の軌道を逸らす。しかしやはりこちらの力と速さが足りず、逸らすのが刹那遅れた。その結果、俺の体の真中を貫く槍は逸れ、俺の右わき腹を抉り穿った。激痛を伴いながらも体を無理やり動かし、右手の短槍を突き出した。

 突き出された槍の刃は逸らされたり防がれることもなく、偶然か必然か、ランサーの心臓を確実に穿った。

 

 

「……まさか二槍使いとはな」

 

 

 全身から先ほどの比ではない魔力を霧散させながらランサーは呟く。その声は悔しさではなく、嬉しさのようなものがにじみ出ていた。

 

 

「喜べ、槍に関してお前は確実に坊主よりも強くなる。鍛錬を怠るなよ」

 

「……ああ」

 

「さてと、このカードはお前が持ってな。いつかお前の助けになるだろうよ」

 

 

 そう言い残してランサーは完全に座に還り、俺の手元には金色のカードが残された。さて、脇腹の応急処置を終わらせて母さんの所に行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく鬱陶しいわね……!! Es last frei.(解放)Eilesalve(斬撃)――!!」

 

「なら、これはどう?」

 

 

 私の放つ斬撃を、次々と炎やら氷やら水やら光やらで押し返すキャスター。周りに発散される魔力も使っているため、本来の威力よりも高くなっているのだろう。

 

 

「コリュキオン!!」

 

「ええい!! Eins,(接続)zwei,(解放)RandVerschwinden(大斬撃)――!!」

 

 

 高速神言による連続した魔術攻撃を、こちらは大きな一撃で相殺する。時折宝石魔術による牽制を入れながら攻撃するが、未だに接近戦に持ち込めてない。流石はメディア、彼女以上に魔術に長けてる人は、マーリンなどを除いて恐らく手で数えれる程度しかいないだろう。

 

 

「あら、これで終わり?」

 

「まさか?」

 

 

 こちらを挑発してくるキャスター。上出来じゃない、あとどれだけ現界してられるか知らないけど、こちらの本気も見せてあげようかしら。

 こちらの気配を察したのだろう。メディアも杖を握り直し、魔力を迸らせる。その時、彼女から魔力が気化していくのが見受けられた。成程、捨て身の一撃というわけね。

 

 

「来なさいお嬢さん。あの頃からどれだけ強くなったか、確かめてあげる」

 

 

 その言葉と共に、彼女の前に特大の魔術陣がいくつも重なり合った。あれは直撃すればヤバいわね。

 

 

「なら目をかっぽじってよーく見てなさい。これが第二魔法よ!!」

 

 

 その言葉と共に、私も宝石剣に魔力を込める。すると剣は万華鏡のごとく輝き、夜空は虹色の輝きに染まった。今まで生きてきた中で、ここまで本気を出したのは一度だけ。死徒の姫君、アルトルージュとドンパチやりあったときだけである。まぁあの時はまだまだ未熟で、運よく士郎が彼女に気に入られて生き残れたんだけどね。

 

 

「喰らいなさい、マキア――」

 

Eins,(接続)zwei,(蓄積)drei(解放)――」

 

 

 たがいの最終攻撃魔術により、周囲に魔力の胎動が起こる。このままでは空間に歪が生じるのではと思わされるほどの力が、両者には蓄えられている。そしてそれを今、一息に開放する。

 

 

「ヘカティック・グライアー!!」

 

「Paradigm Cylinder!! 溶かし切れ!! 七色(にじ)の極光!!」

 

 

 キャスターの魔術陣からは極太のビームが、同様に私も斬撃を放った箇所からビームをだした。しかしこちらは刃、相手は物量作戦。私の攻撃はキャスターの攻撃を切り裂きながら進んでいく。しかしその斬撃もキャスターに届く前に途切れるだろう。キャスターは勝利を確信した表情を浮かべた。

 だが忘れていないだろうか? 第二魔法は並行世界の運用、即ち無限にある並行世界から魔力を貰うことも可能なのである。

 だから。

 

 

「もういっちょ!!」

 

「なんですって!?」

 

「ダメ押しにもう一回!!」

 

 

 追加で放たれた斬撃を防ぐ術はキャスターになく、彼女は私の攻撃に切り裂かれた。しかし彼女の表情は満足そうに微笑んでいた。まったく、拍子抜けなのよ、普通倒されて微笑みなんて浮かべる? ランサーじゃあるまいし。

 キャスターが消えた後は、一枚の金のカードが残された。これが前士郎が言っていたやつね。こりゃ本当に危険な代物だ。予想が正しいなら、聖杯戦争の七クラス全てのカードがあるでしょうね。アーチャーにキャスター、それにランサーの三枚がきた。不安なのは最優のセイバーと最悪のバーサーカーがまだ来ていないこと。それと予想が正しければ、各黒化英霊は第五次の者が呼び出されている。

 

 

「士郎、気張んなさいよ。残ってるのは恐らく、どれも今まで以上に手強いわ」

 

 

 とりあえず、一旦魔力を回復させて士郎を探しましょう。

 

 

 

 







試験もレポートもTOEICもいったん落ち着いたので更新しました。
いやはや久しぶりに書いたので全然わからない、自分がどう書いていたか過去話を見てもわからないという状態ですね。
とりあえず今回はここまでです。
来月はひと月、十月一日まで留学でカナダに行くので、その間は更新を停止します。それまではできるだけ進めて四巻終了、出来れば五巻入るまで行くようにします。

ではまた。



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