「まさか……」
「三人だな。しかも一人は……」
「行けると思うか?」
「分からんな」
それは唐突に起こった。
私たちは観客席でシロウの競技状況を見守っていたんだけど、迷路の中央で一度大きく光が瞬いたとたん、シロウたち
隣に座るイリアさんたちは状況を察したらしく、すぐに行動を始めていた。そしてシロウだけど、ライン越しに感じられたのは、彼が何かによって遥か遠方に転移させられたことだけだった。
「剣吾、槍を構えなさい!! 来るわよ!!」
リンさんの声が響くと同時に、目の前の迷路の入り口でなにかが勢いよく落下し、砂塵が舞った。その轟音と衝撃に私たちは凍り付き、イリアさんたちは結界を張っていた。
砂塵が晴れた先には血よりも
「先手必勝!!」
「一番、二番!!」
剣吾君が槍を構えて男に突進し、リンさんが袖口から出した宝石を女性に投げつける。槍同士の鍔迫り合いの影響で地面がひび割れ、上空ではリンさんの宝石魔術が火を噴く。そのまま剣吾君と男は迷路を破壊しながら衝突を繰り返し、リンさんはいつの間にか開発した飛行魔術で女性と空中戦をやっている。
「何なのよあれ?」
「課題はどうなってるんだ?」
周りからぽつぽつと声が聞こえ始め、目の前の二つの戦闘の異様さに目が引かれる。そこに来賓を結界内に連れてきたダンブルドア先生が、サクラさんたちと一緒に避難誘導を始めた。私やウィーズリー一家、ハーマイオニーはこれが私たちの常識外の戦闘であることは分かっているため、すぐにこの避難誘導に従うことが出来た。
「誰か、早く撃ち落として!!」
「なんなのかわからないけど、魔法なら大丈夫だろ!!」
「ッ!? 攻撃してはいかん!! ワシの指示に従って退避するんじゃ!!」
でもやっぱり馬鹿な人はいるもので。無知は恐ろしいということを痛感してしまう。スリザリン生数名にそれより少ないレイブンクロー生が男と女性に向かって無作為に魔法を放った。ダンブルドア先生や他の先生が必死に制止するも、パニックになった生徒は聞く耳を持たない。グリフィンドール生はシロウの異質さを知っていたため、今回のことも比較的に冷静に対応し、先生方の指示に従っている。
「っ!? ■■■―――■――!!」
「あもっ!? ちょっと誰よ、こんな邪魔な魔法使ってくる馬鹿は!!」
案の定彼らの放った魔法は邪魔以外何物でもなく、女性の放つ無数の魔力弾やリンさんの虹色の短剣から放たれる光の斬撃にかき消されている。レイブンクロー生はそれで悟ったのだろう、みんな攻撃をやめ、スリザリン生もただ一人を残して全員攻撃を辞めた。
残った最後の一人、パンジー・パーキンソンは止まらずに攻撃をしてしまった。
「―――■■――■ー!!」
「しまった!?」
その魔法に反応した女性は一段と空高いところに舞い上がり、空一面に無数の魔法陣を形成した。一発一発の威力は少なくとも私たちの魔法よりも高く、変な効果がない分純粋な魔力エネルギーであり、肉体への危険性も高い。流石の凛さんも全てを薙ぎ払うことは叶わず、けっこうな数の弾が私たちに降り注いだ。
ダンブルドアをも軽く超す実力者のサクラさんにイリヤさんの二人掛かりの結界でも、この量の魔力弾を完全防御することは難しかったらしい。いくつか結界を破り、避難中の私たちに弾が降り注ぐ。間一髪で先生たちによる「盾の魔法」で防がれたけど、衝撃でみんな吹き飛んだ。。
そしてそこに追い打ち掛けるように、先ほどまで性懲りもなく魔法を放ったパーキンソンに魔力弾が数個殺到した。全員が、ダンブルドアも多少怯んでおり、彼女を護る魔法が間に合わない。
私たちの目の前で、パーキンソンのいた場所が爆発を起こした。同時に私は何者かに抱えられ、そのまま視界がブラックアウトした。
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気が付くと墓地にいた。
傍らにはオレが掴んだ優勝杯が転がっている。周りを見渡しても墓石ばかりで、人の気配など何もない。墓場の遠くにはとても大きい屋敷がそびえ立っている。
「……話に聞いたマリーの夢に似ている」
そう、夏休みや今年のカリキュラム中、度々マリーが見ていた夢と景色が似ている。念のためにアゾット剣を引き抜き、魔術回路も開いておく。案の定危惧したように、近くの小屋から人影が出てきた。
「……やはり貴様か、ペティグリュー。そしてヴォルデモート」
「初めましてだな、異端の魔法使い」
小屋から出てきたのは去年取り逃がしたペティグリューと、その腕に抱えられているヴォルデモートだった。ヴォルデモートは未だ完全ではないらしく、動かせるのは首から上だけらしい。
「動けないのなら好機」
有無を言わせず、奴らに肉薄して仕留めようとした、が、横合いから長刀でアゾット剣が阻まれてしまった。この長刀、大太刀よりも更に長い鍔なしの刀。本来いるはずのない男、そして本来召喚されないはずの亡霊。
「……どうりで、気配がないはずだ。貴様らはよりによってこれに手を出していたのか」
「お前という存在に対抗するためさ」
成程、確かにそれは正解だ。現に俺は奴らに手を出すことが出来ず、アサシン佐々木小次郎の成り損ない相手に、休む間もなく剣を振るっている。自我もなく、不完全な召喚であの時よりも劣化しているとはいえ、天賦の才たるその剣技の冴えはすさまじい。
その時鞭のような音が二回鳴り響き、墓地の中で一際大きい墓石の前に、一人の少女が現れた。見間違えようのない、凛達の近くにいさせたマリーが、何故かヴォルデモートのいるこの場に転送させられていた。
「マリー、何故ここに!?」
「シロウ!?」
一度距離を取ったときにマリーに問いかけたが、彼女も混乱しているのか、答えが要領を得ない。そうこうしている間に再び小次郎がこちらに切りかかってきたため、こちらもそちらの対処に意識を割く。流石に劣化しているとはいえ、奴は稀代の剣豪と違わぬ剣技の持ち主、一瞬たりとも気を抜けばこちらが死ぬ。
正直言えば早くこいつを倒して核を取り出し、マリーと共に脱出したい。それにこちらがアサシンを相手している間、ホグワーツでは凛たちが向こうのシャドウサーヴァントの相手をしているだろうそちらの加勢もしたいところなのだ。
「アアアアアアアアアアッッ!?!?」
「闇の帝王よ甦れ、再びこの世界に!!」
突如響くマリーの悲鳴と紡がれる呪詛。そしていつの間にやら置かれた大鍋から溢れる膨大な魔力。どうやらヴォルデモートの復活を阻止できなかったらしい。
「ッ!? 容赦なしかね、貴様は!!」
「■■!!」
「ちぃッ、貴様の相手をする暇はないというのに!!」
物干し竿を振り回し、一撃必死の斬撃を放つアサシン。こちらも何本もの剣を砕かれ、幾度となく投影を繰り返す。こんな剣豪から、アーチャーはどうやって生還したというのだ。劣化しているというのに、本当に厳しい。
こちらがもたもたしている間も事態は動いていく。死喰い人の腕に刻印された闇の印により、現状娑婆にいる死喰い人が召集される。全員が揃うと同時にヴォルデモートの冷たい高笑いが響き渡る。
「――秘■……」
「ッ!? まず……」
「――燕返し!!」
四巻クライマックス。次回はそれぞれの視点を中心に描写していきます。
それにしても、原作が濃いだけにまとめるのが難しい。