錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「よう、正義の味方」

「どうした?」

「いやなに、どうも嫌な予感がしてな」

「不本意だが私もだ」

「杞憂だといいがねぇ」





15. 第三の課題

 

 

 

「……クラウチの息子が?」

 

「そうじゃ」

 

 

 現在夕刻の校長室、オレは「憂いの篩(ペンシーブ)」を通してダンブルドアの記憶を見ていた。その記憶の中ではカルカロフが元死喰い人として尋問を受けており、最後にクラウチの息子と思われる男が拘束される状況で記憶が切れた。

 クラウチの息子は死喰い人として活動しており、ヴォルデモートが失脚した後も色々行動していたらしい。その中でも有名なのは、ネビルの両親を磔の呪文によって拷問し、廃人にしたことだという。それにより奴はアズカバンに収監され、そのまま獄中死したという話だ。

 

 

「……一つ確認するが」

 

「何じゃ?」

 

「その死んだ息子の遺体はちゃんと検死したのか? いくら魔法が発達して他人そっくりに化けられるとはいえ、死後何年も経過していたら効力も切れているはず。本当にそれは息子の死体だったのか?」

 

「……検死はしてなんだ」

 

「そうか。ならこの先は外法の者、魔術師(オレたち)の領分だな」

 

 

 そう判断するとオレは凛とイリヤに連絡を取り、ダンブルドアから聞いた墓を調べてもらった。結果、埋葬されていた遺体は朽ちて骨になっていたが、明らかに骨盤の形などが女性のそれだったそうだ。

 確定だ、クラウチの息子は何らかのタイミングで身代わりと入れ替わっていた。そして身代わりを引き受けるのは、よほど奴と親しい人間か奴を大切に思っている奴に限る。まぁ「服従の呪文」なんて代物があるだけに、この推測は正しいとは限らないが。

 

 

「ダンブルドア。奴は面会を受けたことはあるか?」

 

「流石にそこまではわしにもわからぬ。バーティのしもべ妖精、ウィンキーに聞けばわかるじゃろうが、今は荒れておる。一応ホグワーツの厨房に雇い直しておるが、酒に溺れている状況じゃ」

 

「肝心の情報源は使えずか。ダンブルドア、最悪逃げ出したクラウチの息子が何かやっているかもしれんぞ」

 

「承知しておる。わしも出来得る限り早く調べよう」

 

 

 やれやれ、最終課題の直前だというのに嫌な話ばかり出てくる。

 

 

 

 それから数日後、ホグワーツにいる全生徒と教員は試練の会場にいた。代表選手はそれぞれ迷路の入り口に立ち、開始の号砲を待っている。

 

 

「紳士淑女の皆さん、あと五分ほどで最終課題を開始します。現在の得点状況をお知らせしましょう!!」

 

 

 会場にバグマンの声が響き渡る。正直オレ自身は順位など興味がないので、バグマンの話はあまり聞いていない。まぁ奴によればディゴリーが単独トップ、次いで俺が二位でボーバトンの二人が下位二つだとか。

 そういえばボーバトンで思い出したが、デラクール、姉のほうがビル・ウィーズリーに一目惚れしたみたいだったな。彼を見る目が熱っぽかった。モリーさんが微妙そうな顔していたが、まぁロンと違って魅了は効いていないだろうから大丈夫だろう。それにデラクールもビルの前ではできるだけヴィーラの力を抑えているらしいしな。というより彼女の祖母がヴィーラ、まぁ男を魅了する西洋の妖なんだが、であることを知ったときは驚いた。

 

 

「ではこれより第三の課題、最終試練を始めます!!」

 

 

 バグマンの号令と号砲と共に試練が始まった。どうやら順位降順で迷路に入るらしく、オレはディゴリーの一分後に入るようだ。

 

 

「パパ―!! 頑張ってー!!」

 

「シロウ―!! 負けたら承知しないわよー!!」

 

 

 観客席から響く、イリヤとシィの声。グリフィンドール寮ではあの後も度々シィがオレを父親呼びしたため、実は俺が子持ちだったことが知れ渡ってしまっている。記憶操作すればいいのだが余りに高頻度でやると精神に異常をきたしかねないし、あまりにもの大人数だったために凛たちとの協議の末、もうグリフィンドール生は諦めるということに決まった。

 

 

「では次にシロウ・エミヤ選手、開始してください!!」

 

 

 バグマンの声に従い、オレは迷路に入る。一応外周を教員たちが見回りしており、有事の際は火花で合図すれば救出されるらしい。まぁ余程のおかしな魔法生物じゃない限り、オレは大丈夫だと思うが。

 問題は選手同士の衝突だ。流石に殺傷力の高い魔法は使われることはないだろうが、正直ダームストラングの生徒が要注意だ。気づかれていなかったが、奴ら二人の目が濁っていた。まるで魔術や魔法による干渉を受けた、操り人形のような印象を受けた。まさか、「服従の呪文」にかけられているのだろうか。

 

 

「嫌ぁあああ!?」

 

「ッ!!」

 

 

 突如オレの耳に悲鳴が聞こえた。声の大きさからしてすぐ近くと判断し、オレは最短ルートでその場に向かった。そこで目にしたのは、ダームストラングの二人に杖を向けられ、地面で倒れ伏しているボーバトンの二人。状況を見るに、先に襲われたのはデラクールだろう。そして偶然居合わせたマルタンが庇ったところやられたか。

 

 

「? 誰だ!!」

 

「『苦しめ(クルーシオ)』!!」

 

 

 先にアドルフが気づき、反応したクラムが俺に「磔の呪文」を使ってきた。他の魔法使いのように苦痛でもがきはしないが、いくらオレでも痛みは感じる。少しだけ怯んだが、まずはクラムに駆け寄り、腹に一つ打ち込んだ。それによりクラムは気絶して地に付すが、アドルフがいつの間にか迷路の奥に消えていた。

 まぁいいだろう、どのみち使い魔もつけているのですぐに追いつく。それよりこの三人だ。念のためにクラムに解析を掛けるが、やはり何かしらの魔法がかけられていた。そしてそのクラムは意識を取り戻しかけている。

 

 

「……少し痛いが、我慢しろよ?」

 

 

 奴の肩に手を当て、そこからオレの魔力を流し込んで淀みを正す。一瞬体が跳ね上がったが、クラムの体からは淀みが取れ、外部からの魔法干渉もなくなった。これでいいだろう。

 

 

「『救出せよ(ペリキュラム)』」

 

 

 上空に花火を打ち上げると、すぐさまマグゴナガルとスプラウト、セブルスが箒で来た。状況を説明を終えた後、オレは直ぐにアドルフ追跡に向かった。奴のことだ、誰かに操られたまま今度はディゴリーを襲うだろう。

 迷路を進んで早十五分、アドルフがディゴリーを襲おうとしているときに鎮圧に成功した。奴もやはり魔法の干渉を受けているみたいだったため、クラムと同じ要領で淀みを廃し、救援に処理を任せた。

 

 

「……これで残るはオレ達だけになったが、どうする?」

 

「ホグワーツが勝つことは決定してるけど、この課題は勝たせてもらうよ」

 

「好きにするがいいさ。オレは特別勝ちにこだわっていないからな」

 

 

 そう言ってオレ達は別々の方向に進んでいった。奴はどうもオレに張り合っているみたいだが、何か奴の気に障ることをしただろうか? まぁいずれにせよ、此度の優勝はどうやらオレみたいだ。別れて数分した後には、水色に輝く優勝杯が鎮座するエリアに来た。

 念のために解析をかけると、何やら優勝杯が変質しているのが分かった。どうやらこの優勝杯、何者かによって移動キー(ポート・キー)に還られていた。ディゴリーが先に来ていなくて良かったというべきか。

 さて、これが発動した際どうなるかはわかららない。だが確実に今回の黒幕の許に、ヴォルデモートの許に送られるだろう。

 

 

「鬼が出るか蛇が出るか、試されてやろう」

 

 

 一つ息をつき、オレは優勝杯を握った。

 途端に襲い掛かるのは浮遊感とへその裏を引っ張られる感触、そして優勝杯があったエリアから放出される、()()の膨大なエーテルの乱気流だった。ついでにキーを介して感じる感覚、どうやら転移先にもエーテルの乱気流が発生しているらしい。

 そう、まるでサーヴァントを召喚するときのように。

 すまない、みんな。どうやら面倒ごとを押し付け、ついでにオレも無傷で戻ることは難しそうだ。

 

 

 

 

 

 

「剣吾、戦闘準備しなさい」

 

「了解」

 

「サクラ、モミジ。私たちは避難誘導よ」

 

「はい。華憐ちゃんとシィちゃんはウィーズリーさんたちと逃げててね」

 

「剣吾、心しなさい。これから闘う相手は生半可な覚悟じゃ死ぬわよ?」

 

「そんなにか?」

 

「ええ、私でも士郎の援護がなけりゃ相手をするのはきつい。でも今回は各個撃破でいくからね」

 

「……」

 

「しっかりしなさい。あれは分身体、最初から本気で行けば貴方なら負けないわ。なんたって私とシロウの息子で、私たちエミヤの長男だもの」

 

 

 

 






えー、リアルが忙しくてなかなか更新できませんでした。
再来週以降は一ヶ月ほど安定して投稿できると思うので、もう少々お待ちください。
それではまた。



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