錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「ワームテール、朗報だぞ」

「な、何でしょうかご主人様」

「お前とは別の忠実なしもべからだ。例の物が手に入ったそうだ」

「そ、それは、真でございますか、ご主人様?」

「実行の日は最後の課題の日だ。邪魔者を一掃する」




13. 束の間の安寧と末路

 

 

『この世全ての悪』との同化を果たした翌日、魔術と固有結界は特に異常なく使用できることが確認できた。しかし一つ問題が確認できた。それは魔力を通す度に模様が広がり、今や首から下は殆ど模様が張り巡らされ、ウネウネ動いている。そして頭髪だが、以前とは逆に一部黒くなっている状態になった。

 ハッキリ言おう。魔術に身を置く身としても、これは異常であるとわかる。言ってみれば、オレが元の体から投影によって頭髪と肌の色が変化したのと似ている。通常ではありえないことなのだ。

 そして肌は服で隠れるとしても、髪はそうはいかない。そして無害な染髪薬など魔法界にはなく、殆どは悪戯商品の類しかない。結果オレは人生で二度目の、自身の外見変化による注目を浴びることになってしまった。加えて剣吾経由で凛達にも同化の件が伝わり、正一時間宝石の前で正座をするという事態にも陥った。

 まぁそれはいい。魔力の絶対量も上がっているし、弊害が外見変化に留まっているのだ、寧ろこの程度で済んで僥倖だと言えるだろう。それに他校は兎も角、この学校の生徒は直ぐに慣れてくれたため、然したる問題ではなかった。

 

 日にちは過ぎ、今日は聖バレンタインデー。この日はノルウェーもフランスも共通らしく、食堂では寮や学校は関係なく皆が座り、賑やかに食事を摂り、懇意にしている相手に贈り物をしていたりしている。

 オレはいつも通り鍛錬をした後、着替えたりマリーたちへの贈り物やキッチンで朝食の準備をしていたりと、いつもより食堂に行く時間が遅れてしまった。だが正直遅れて正解だっただろう。食堂たる大広間からは次々に生徒が退室しており、皆それぞれ贈り物や持ち帰る食事などを腕いっぱいに抱えている。

 少し大広間を覗くと、もう中には静かに食事をしている人間しか残っていない。静かに食事をしたいオレとしては願ったり叶ったりだ。

 席に着き、手短の料理を皿に取る。と言っても、今朝の朝食のメニューはオレが決めたため、しもべ妖精たちと作っても味は分かる。予想通りの味に満足し、フォークを進める。

 鍛錬を終えた剣吾も隣に座ったとき、俺たちの許に数人の学生が寄ってきた。全部で六人、四人はボーバトンの生徒で二人がホグワーツ、というよりマリーとジニーだ。

 

 

「おはよう。まだここにいたのかね?」

 

「うん、二人を待ってたの。はいどうぞ」

 

「あの、どうぞ」

 

 

 ジニーとマリーが差し出したのは小さな箱。仄かに香る匂いから判断するに、恐らく中に入っているのはウイスキー・ボンボン。オレは教えてないから、キッチンの妖精かモリーさんに教わったのだろう。特に手を加えない基本的なレシピみたいだが、中々上手くできているようだ。

 

 

「ありがとう、おいしくいただくよ」

 

「マリーさんもジニーもありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「は、はい」

 

 

 二人に俺たち親子からのブラウニー(チョコケーキの一種)を渡すと、二人の背後からボーバトンの生徒が出てきた。今更気づいたが、この四人はマルタン姉妹とデラクール姉妹だった。特にマルタンとデラクール妹が何やらモジモジしているが。

 

 

「あ、あの!! これどうぞ!!」

 

「わ、ワタヒも、ど、どうぞ……『あうぅ、かんじゃいました』」

 

 

 マルタン姉妹はオレに、デラクール妹は剣吾に包みを差し出した。ふむ、剣吾は分かるが、オレは彼女に何か気に入られるようなことをしただろうか? 精々説教まがいのことや、彼女の緊張を解いたりした程度だぞ。妹の方は単にお礼という面が強く、姉のように恥ずかしがる様子はない。

 

 

「ありがとう、いただこう」

 

「俺たちからもどうぞ」

 

 

 彼女たちにもブラウニーを渡す。先ほどまでモジモジしていたデラクールの妹、ガブリエルという名らしい、も菓子の魅力には勝てないのだろう。マルタンの妹と共に大喜びしている。

 と、そろそろ授業が始まるな。

 

 

「さて、授業に向かうとしようか。剣吾、育ち盛りで沢山食べるのは分かるが、遅刻したらわかっているな?」

 

「ッ!? 了解です、サー!?」

 

「誰が隊長だ、誰が。敬礼するな」

 

 

 軽くデコピンをかまし、自分の授業に向かう。たしか一限は占い学だったか、また死にネタの占いでもするのだろうな、トレローニーはその話が好きだしな。

 

 

 昼食時、普通はフクロウ便などは朝食の内に届くのだが、昼にも何通か届くことがある。オレや剣吾、マリーには余程のことがない限り便りが届くことはない。例えば剃刀(かみそり)や毒薬の入った便箋とか。

 

 

「これは……剃刀か。そしてこれは……毒薬。これも毒薬……毒薬……剃刀……無……毒薬……剃刀。何ともまぁバリエーション豊かなファンレターだ。嬉しくてお返しがしたいほどのな」

 

 

 そう、先ほどからこのような封筒が多数オレに届いている。理由は分からないが、殆どが学校外部からの便り、時折混じる校内生からの便りは単なる嫉妬の文面なので除外。問題は校外からの手紙である。この手の手紙の対処は慣れているので、手早く開封していく。

 

 

「すごいなこれ。いつの間にこんなファンが出来たのか?」

 

「さてなぁ。だが嬉しくて送り返したいぐらいだよ」

 

「倍返しか?」

 

「四倍返しだ」

 

「「アッハッハッハ!!」」

 

 

 息子と二人で手紙を開封しながら声高々に笑う。するとスリザリン席の一部で身じろぎする気配がする。成程、マルフォイ一味が黒だな。まぁおおかたインタビューか何かであることないこと並び立て、それを信じた読者がこのような便りを送ったと。まぁ、書いたのは恐らくあの女。

 

 

「そういや新聞にこんながあったぞ?」

 

「む?」

 

 

 剣吾が持ってきた新聞を受け取り、目を通す。他の生徒も興味を示したのか、俺の周りに集まってきた。オレは気にせず新聞を読んでいたが、果たして件の記事はすぐに見つかった。

 

 

接近、これがエミヤシロウの信実!!

 異例として選ばれた各校二人目の代表選手の話は、大いに注目を集めている。中でもより注視されているのが、ホグワーツ二人目の選手であるエミヤシロウだろう。彼は名前の通り、ブリテンではなく日本出身である。しかし彼の容姿は、日本人のそれとはかけ離れている。今回彼の日本人らしからぬ容姿と過去、彼の本当の姿にに関して、スキーター女史は多くの声を得ることに成功した。

 彼は以前ホグワーツに来る前はマグルの戦地を転々としていたらしい。マグルの殺害方法は古くから非常に残酷であることを、我々は過去に学んで知っている。そのマグルが絡む戦場にいたのでは、精神状態は普通ではないことは明白だ。

 その影響からか、彼の動きは魔法使いらしくない。魔法使いから見て明らかに邪道である、ジャパニーズカンフーなどを駆使し、魔法はほとんど使わないという徹底ぶり。明らかに魔法族の恥さらしである戦法ほ平然と使い、先の第一の課題をクリアした。

 

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 ホグワーツの優秀な生徒の一人であるドラコ・マルフォイは語る。

 

「戦争していた人間が、あんな普通の感性を持ってるかい? ありえないね。どうせ魔法族というのも嘘で、"穢れた血"のマグルなのだろうさ。

 僕なんて彼に脅されたことがあるよ。彼の杖、みんなと違ってナイフの様だろ? あの刃の部分を突き付けられたよ。たぶん彼の親戚という奴も同類だね。あんな精神異常者達を学校に入れるなて、ホグワーツも堕ちたものだ」

 

 エミヤシロウの使う杖は正確には「アゾット剣」と呼ばれる物で、過去の著名な錬金術師が用いていたものである。彼が見栄で使っているのか、はたまたそれしか適合しないほど異質だったのか。

 何れにしても、この記事のためにインタビューをしたスキーター女史も、失礼のないように本人に聞き込みをしたにも関わらず、エミヤシロウ本人に応対されなかったどころか、殺害警告までされたという。このことから、彼は他人を傷つけることに何も罪悪感のない、サイコパス人間であることが窺える。

 アルバス・ダンブルドアは生徒の選考基準を見直すべきだろう。彼のような存在が、生徒の安全を脅かす一因となるのもそう遠くないのかもしれない。

 筆者と聞き込みをしたスキーター女史としては、生徒たちの安全のために早急にホグワーツから去るべきだと考える。』

 

 

 成程な。

 真実が入っているが、奴にとって都合がよくなるように捻じ曲げて伝えられ、更にあの女によって脚色されたようだ。殺害警告などしていないし、寧ろ失礼だったのはスキーター本人だ。そして記事では触れてないが、マルフォイの言葉の中に、息子を貶める発言もある。

 殺しに何も感じないのは大間違いだ。寧ろ手にかけなければならないことを悔やんでいるし、人を殺した後は気分がものすごく悪い。サバイバーズギルドの気があるのは自覚しているため、出来るだけ行動も抑えるようにもしている。

 あの女、懲りてなかったみたいだ。忠告したのだがな。

 

 

「まぁ俺がルーンを刻んでるから、居場所は直ぐにわかる。今からいくか、父さん?」

 

「まぁオレも手は打ってる。今は縄についているだろうよ」

 

「流石は父さん。策は無欠にして盤石ってか?」

 

「伊達に四十路ではないということだ。そら、号外が来たみたいだぞ?」

 

 

 話している間に、各生徒に無料の号外新聞が次々と配られていく。内容はリータ・スキーターの記事詐称と法律違反による逮捕の内容だった。

 何故これほど早く逮捕されたのかというと、事前に信用できる闇払い、キングズリー・シャックルボルトとパイプを作り、彼を経由してあの女の情報を流していたのだ。そしてオレの忠告を無視した結果、あの女の今までの罪が一気に露呈し、オレと剣吾のつけたマーキングが反応し、逮捕まで辿り着いたのだ。

 号外を読み、騒然となる大広間。その中でオレと息子、ウィーズリー兄妹とハーマイオニーは、平和に昼食を済ませることが出来た。

 完全に余談だが、スキーターは何人かの教師の間ではずっと忌避されていたらしく、今回の逮捕騒動で喜んでいる者もいた。そして何故かマルタンがオレの許に来て、自分は信じていたと力みながら言っていたのは疑問だった。

 

 

 





「……おっ?」

「どうした?」

「いやぁ、まさかそうするとはねぇ。しかもやり遂げたときた」

「だから何がだ?」

「いやなに、仮にも俺は悪の権化だろ? 分身とはいえ、あれは呪いの塊だ。あのエミヤシロウ、そのオレの分身と完全に同化しやがった」

「何だと!?」

「しかも負の変化は外見だけで、あとは正に働くときたもんだ。流石に今回は素直に脱帽だよ」

「……あの愚か者が。一歩間違えれば死よりも酷だというのに」



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