錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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お待たせしました。それで対赤い龍戦、結末です。





7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.

 

 天馬に跨り、空を駆ける。それを追うように龍は飛び、こちらに向かって火炎を放ってくる。

 現状をはっきり述べると、こちらが圧倒的不利だった。一応乗馬の経験はあっても、天馬に乗ったことはない。せいぜいがライダーが乗っといたのを記憶している程度である。

 現在オレは片手に虎徹を握り、上空で龍と向かい合っている。遥か下方の地上では、多くの観客がこちらを見上げているのがわかる。そして龍は緑の双眼をこちらに向け、その瞳を怒りに燃やしていた。

 さて、どうしたものか。天馬は攻撃を避ける以外はオレの意向に従ってくれている。だがこの子にもスタミナはあるだろう。もうかれこれ十分近くはアクロバティックな飛行を続けている。ライダーの子ならば大丈夫だろうが、この子はそうはいかないだろう。

 

 

ーーどうやらここでは無理だな

 

 

 突如龍が口を開いた。そして龍は翼を羽ばたかせると、一直線にこちらに突進してきた。突然の行動に天馬は反応できず、オレはその大きな右手に掴まれた。天馬は嘶き、その場から離脱する。そしてオレは、そのままどこかへと連れていかれた。

 

 暫く身動きが取れないままもがいていると、突如空中に放り出された。しかしそれほど高い高度ではなかったようで、オレは湖畔のぬかるみの上に着地することになった。龍はそのすぐ近くの湖に着水した。

 どうも様子がおかしい。先ほどまでは敵意を露わにしていたのに、今は幾分か落ち着いている。とはいえ、その双眼には未だ怒りがにじみ出ているが。

 

 

ーー貴様、先ほどからヒトの目を気にしていたな?

 

 

 龍が問いかけてくる。その目は虚偽を許さぬと語っていた。

 

 

「……ああ。貴方は分かるだろうが、俺の魔術はこの世界では特異すぎる。あまり見せるものではない」

 

ーーならば質問に答えなかったのは何故だ。

 

「簡単なことだ。『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は仮令俺の世界の魔術師でなくとも、喉から手が出るほど欲しいものだ」

 

ーー知られるわけにはいかなかったと。

 

 

 幾分か龍は溜飲を下げたようだ。だがオレは一瞬たりとも気が抜けなかった。気が抜けた瞬間パクリ、なんてのは話にならない。

 

 

ーーならば再度問おう。何故貴様がその鞘を持っている。いや、持っているだけでなく加護を受けているな?

 

「……彼女に返却しようとしたが、断られてな」

 

ーーいつか眠りから覚めるその時まで?

 

「その通りだ」

 

 

 そこで互いに沈黙する。聞こえてくるのは湖から響く小波の音だけ。風に揺れる木々の枝からは、残り僅かな枯葉が舞い落ちる。

 

 

ーー理解した、貴様に鞘は預けよう。だが心せよ。その鞘を悪しきことに使った暁には、我自ら鉄槌を振るう。

 

「……誓おう」

 

 

 何よりそのようなことに使えば、彼女を侮辱することに他ならないから。互いに制約を交わす。

 

 

ーーさて、続けよう。貴様も次は本気で来い。ここならば、誰も来ないだろう。

 

「その必要はあるのか?」

 

ーー何を今更。何のために我がわざわざこのような遊びごとに付き合ったというのだ?

 

「……? ……!! まさかッ!?」

 

ーー元よりそのつもりよ!! その鞘を持つに値するか、我にその力を示せ!!

 

 

 言葉と共に、龍は特大の火球を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど時間が経っただろうか。

 ドラゴンとシロウが闘技場から去って、結構な時間が経過した。審査員たちも試合をこのまま続行するかどうか迷っている。そもそもいくらなんでもシロウとはいえ、伝説に名を残す赤い龍相手は分が悪い。どんな人でもオーバーキルになると思う。

 シロウたちがいなくなってから30分は経過した。もう審査員もあきらめているみたいだ。私や剣吾君の席は審査員席に近いため、ダンブルドア先生たちの会話が聞こえてくる。

 

 

「観客席の皆、残念な知らせじゃ。シロウ・エミヤの試練じゃが、此度失格と……」

 

 その必要はない

 

 

 ダンブルドア先生の言葉に被せるように響いた声。それは先ほど飛び去ったはずの赤い龍だった。その右手は何かを握りしめている。

 着地すると同時に右手から降りてきたのは、全身が傷だらけになって、ユニフォームを赤黒く、所々緑に染めたシロウだった。火傷も所々負っており、一刻も早く治療が必要な状態である。対する龍の方も、全身にくまなく傷を負い、夥しい量の緑色の血を流していた。恐らく肌や布についている緑の部分は、この龍の血なのだろう。

 当のシロウはゆっくりとと歩きつつも、しっかりとした足取りで金の卵の許に向かっていく。その光景に、誰一人言葉を発しなかった。固唾を吞んで見守る中、シロウはついに卵の許に辿り着き、それを掲げた。しかし誰も反応しない。皆が皆、シロウの今の状態に大きくショックを受けていたのだった。

 ふと気づくと、一つの拍手が聞こえてきた。そちらに目を向けると、ダンブルドア先生が大きく拍手をしていた。そして後に続くようにマグゴナガル先生、スネイプ先生と次々にホグワーツの教師陣が拍手を始めた。そしてポツリポツリと始まった観客の拍手も次第に盛り上がり、シロウが退場するころには口笛やら魔法の爆発音やらが拍手と共に鳴り響いていた。

 そして肝心の龍はというと、シロウが退場したのちに大きな咆哮を上げながら飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても驚いた。まさか奴め、固有結界の使い手だったとはな。あの龍殺しの能力を持った剣を雨のように降らせてきた時は、流石に肝が冷えた。

 長らく生きてきたが、あれほどの使い手を見たのは初めてだ。奴が龍殺しの剣を複数所持、使用していたのも頷ける。しかし疑問であるのは、どのようにしてあそこまでの数の宝具を記憶したというのだろうか。

 奴の魔術、固有結界は、一度視認した刀剣類を記録して貯蔵するという。この現代において、現存している宝具は、余程丁重に保存されたり、「全て遠き理想郷」のように外界の影響をものでないと、まず残っていない。

 しかし奴の記憶していた宝具の大半は、明らかに現存していないもの、恐らくだが原典だろうものの贋作が多数存在していた。宝具の原点となると、英雄王が所持していたということしか推測できないが、まさか奴は彼の英雄王と会い見えたとでもいうのだろうか?

 いずれにしても、奴の技量はあの娘には及ばぬものの、そこらの英霊とやり合うだけの腕は持っている。いずれは奴に問いたださねばならないな。

 それにしても、今回は傷を負いすぎた。これほどの大傷を負ったのはいつぶりだろうか。それに此度ほどの心躍る闘いも久しいことこの上ない。まぁ奴も尋常ではない負傷をし、我の血も浴びてしまったがな。

 彼の龍殺しの英霊(ジークフリート)のような呪いを受けることはないが、何かしらの影響は出るだろう。幸か不幸か、血を浴びたのは背中だ。まぁ我の血であるから悪いようにはならんだろう。

 せいぜい我を楽しませてくれよ、英雄となる可能性を持つものよ。願わくば、貴様が抱える者に食いつぶされないことを。

 

 

 

 





はい、ここまでです。
士郎ですが、軍配は終始龍のほうに上がっていました。流石に英霊候補と言えど、ジークさんやアルトリアには敵わないですから。
FGOでは槍ニキよりも強いでsけど無視で。

さて、次回からはクリスマスダンスパーティ編です。
それでは今回はこの辺で。



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