錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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こんにちは、ほぼ一週間ぶりですね。
それでは更新します。





2. 闇の印と校長のお知らせ

 

 

 響き渡る悲鳴、鳴り響く轟音、燃え盛る炎、肌を焼く熱気。

 視界に、聴覚に、触覚に働きかけるものすべてが、今の状況を異常だと訴える。

 

 

「…紅葉!! 華憐!!」

 

「はい!!」

 

「ここにいます、お兄さん」

 

 

 剣吾くんが呼ぶと、私たちの後方から紅葉さんと華憐ちゃんが出てきた。確か彼女たちはシロウたちのテントにいたはず。

 

 

「皆を連れて森に入れ。一人も漏らすな。そして遮断結界と防御結界をそれぞれ張れ。シルフェリア!!」

 

「なに、お兄ちゃん?」

 

 

 指揮を執る剣吾君は、次にシィちゃんに声をかけた。まさか4歳の子供にも何かさせるのだろうか。彼女はまだ魔術の類は教わってないと聞いてるけど。

 

 

「お姉ちゃん二人が張った結界に力を入れるんだ。目に力を入れるように、指先から。わかるな?」

 

「あい!! わかるよ」

 

「お姉ちゃんが大丈夫と言ったら力を入れるのはやめていい。二人とも、頼んだぞ」

 

「わかったわ」

 

「はい。浄ノ助さん、どうか兄をお願いします」

 

 

 恐らく剣吾君はシロウたちと一緒に、事態の鎮静化に向かうのだろう。そして浄ノ助さんもそれに同行する。実戦経験の少ない、もしくは皆無な紅葉さんたちは、私たちの護衛にまわってくれているのだろう。

 私たちは剣吾君の指示に従い、森の入口により、紅葉さんたちの張った結界に入った。剣吾君は外装を変え、浄ノ助さんは長髪の大男を出しながら騒ぎの中心に向かっていった。紅葉さんによると、シロウたちは逃げ遅れた人たち、マグル魔法族問わずに救出に向かってるらしい。主犯の鎮圧は剣吾君達に一任したそうだ。

 

 

「な、なんだ貴様ら!?」

 

「俺に質問をするな」

 

「いい加減、うっとおしいぜお前らぁ!!」

 

 

 杖を構える間もなく次々にのされていく、今回の騒動の元凶である黒ずくめの集団。彼らに捕まっていたマグルたちも無事救助され、二人によって捕縛された。燃え移っていく炎はシロウとリンさんによって鎮火され、怪我人はサクラさんとイリヤさんによって治療されていく。

 と、そこにアーサーさんが近寄ってきた。

 

 

「みんな、もう大丈夫だ。結界から出てきていい」

 

 

 おじさんの一言に紅葉さんたちは結界を解除し、シロウさんのもとに寄った。

 剣吾君と浄ノ助さんによって捕縛された魔法使いは、一人を残して全員気絶させられていた。ついでにいうとその一人以外、全員顔が腫れあがっていた。

 

 

「『闇の印よ(モースモードル)』!!」

 

 

 突如後方から響いた声。振り向くと森の中から緑の閃光が打ちあがり、空で弾けた。

 空で弾けた光は緑に発行する靄となり、徐々に形作り、果たしてそれは一つの巨大な髑髏となった。口の部分からは一匹の長い蛇が鎌首を挙げ、胴体を幾重にも巻きながら顔を出した。

 あちらこちらで悲鳴が上がる。まるで再び恐ろしいものでも見たかのごとく、爆発的な悲鳴が上がる。同時に周囲で軽い爆発音、まるで試験管にためた水素に引火させたような音が響き、私たちの周囲が取り囲まれた。

 

 

「!? ◆▼●▼●◆!!」

 

「『麻痺せよ(ステュービファイ)』!!」

 

 

 真っ先に気づいた紅葉さんが結界を張り、恐らくルーン文字による、突如現れた魔法使いによる攻撃を逸らした。しかし魔法使いたちは執拗に攻撃呪文を放ってくる。

 と、急に攻撃が止み、代わりに気絶しそうになるほどの重圧がこの場を襲った。

 

 

「貴様ら、俺たちの子供に手を挙げるとは……死にたいのか」

 

「殴ッ血KILLのと捻ジ切ルの、どっちがいい?」

 

「クスクスわらってゴーゴーですね。ええ、くぅくぅおなかがすきました」

 

「あはははは。死ぬ?」

 

「ハードボイルドじゃないな。男の風上にもおけない」

 

 

 重圧の発生源は衛宮一家。自分たちに向けられているわけじゃないのに、息苦しくなる。二年前のロックハート時の比じゃない、周囲が凍り付くほどの重圧である。

 

 

「わ、わたしは…」

 

 

 魔法使いの中の一人が口を開いた。

 

 

「私は魔法省の役人のバーティ・クラウチだ。この近辺から闇の印が打ち上げられたことを確認し、部下と共に駆けつけたのだ!!」

 

「駆けつけた、な…」

 

 

 クラウチ氏の言葉を聞くや否や、ゴミでも見るような視線でクラウチ氏を眺めるエミヤ夫人たち。シロウと剣吾君は、そもそも目に感情がこもってなかった。言ってみれば、いつでも人を殺せる目、殺しをすることに躊躇がない眼をしていた。

 

 

「それにしては随分と遅い登場だな。既に鎮圧された後に駆けつけるとは、いやはや、魔法省は随分とドッシリと構えているのだな」

 

「ドッシリと構えすぎて、重い腰が上がらなければ意味がないけど」

 

 

 シロウと剣吾君による口撃を受けるクラウチ氏。その顔は真っ赤に染まり、怒りに爆発しそうになっていた。

 

 

「…見る限りあなたは犯罪者を捕まえる機関に所属するみたいだが」

 

「犯罪者の捕縛よりも、あの空の文様のほうが大切なのか? 犯罪者を捕まえることも大事だが、市民の安全を優先すべきではないのかね?」

 

「……」

 

 

 何もしゃべらないクラウチ氏。今この状況は、圧倒的に魔法省の人たちに不利である。

 

 

「まぁ貴様らが犯人を最優先するというなら、勝手に追えばいい。どうせ空間転移でもして追い付けんだろう」

 

「その代わり、こいつらを尋問するのはこちらにすべて任せてもらう。手を出すことは許さないからな」

 

「……君たちは何者かね?」

 

 

 沈黙を守っていたクラウチ氏が出せた言葉。それはシロウたちが何者かを尋ねる言葉だけだった。

 

 

 

 

 

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 

 

 

 

 ワールドカップの騒動から数週間後、私たちは新学期を迎えるためにホグワーツにいた。

 既に新入生の組み分けも終わり、食事も終盤にかかっていた。デザートを腹に入れ、夏の間の近況を話し、校長先生の締めの言葉を待った。

 ついでに言うと、今年は剣吾君が留学という形でグリフィンドールにいる。自己紹介ではイリヤさんの苗字を名乗り、シロウの親戚という形で今年を過ごすらしい。ただ自己紹介の時、思わずシロウをお父さんと呼びそうになったのはご愛敬かな。

 

 

「…さて、皆大いに食べ、大いに話したじゃろう。ここからはわしの話に耳を傾けてもらおうかのう」

 

 

 デザートが下げられた後、ダンブルドア先生が立ち上がった。

 

 

「ではまず、新任の教員を紹介しよう。アラスター・ムーディ先生じゃ、『闇の魔術に対する防衛術』を担当なさる」

 

 

 片方に妙な形の義眼を入れた初老の先生が立ち上がり、会釈をした後に自前の酒瓶から何やら飲んでいた。その顔は古傷で歪み、立ち方は片足に重心がかかるようになっており、義眼はギョロギョロとせわしなく動いていた。

 

 

「そして次にじゃが、今年は寮対抗クィディッチの試合は取りやめじゃ」

 

「うそだろ?」

 

 

 ジョージがぼやく。

 

 

「理由は今年、我らがホグワーツ魔法魔術学校で十月より、一年を通して行われるイベントのためじゃ。このイベントは非常に大きなイベントでの。準備期間等に莫大な時間がかかるんじゃよ」

 

「これはとても由緒ある伝統的なイベントじゃ。過去に夥しい量の死者が出たことにより、ここしばらくは中止されとった。じゃが今年いよいよもって復活することになり、我らがホグワーツで行われることになった。三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)が」

 

「御冗談でしょう!?」

 

 

 今度はフレッドが驚きの声を上げる。正直対抗試合(以下TWT)のことは露ほども知らないため、フレッド含めた生徒たちが騒ぐ理由がわからない。それほどにまで大きなイベントなのだろうか。

 

 

「今回はダームストラング、ボーバトンの二校を招くことになっておる。両校は今月中旬に本項に到着する予定じゃから、失礼にならんように。そして参加者は17歳以上のみとさせてもらう。それは数々の種目が危険なものであり、必要な措置であると考えたからこそである。ああそれと、ミスター・アインツベルンも参加不可能じゃ」

 

 

 校長先生がその後軽くTWTについて説明すると、今夜は解散になった。寮に帰る途中、生徒たちは対抗戦のことに夢中になり、話し込んでいた。

 

 

「17歳以上だけが参戦なんて、不公平だよな」

 

「どんな競技があるんだろう?」

 

「少しぐらいスリルがないと面白くないよ、あーあ、僕もでたいなあ」

 

 

 みんな思い思いの言葉を口にしている。でも忘れていないだろうか、過去に沢山の死者が出たという話を。私はそんな戦闘狂じゃないから出たいとは思わない。そして死を伴う競技なら、率先して観戦したいかというと首を横に振る。

 

 

「…なぁマリーさん、父さん。この世界の学生ってこうまでも危機管理能力がないのか?」

 

「…諦めろ、剣吾。むしろマリーだけでも()()()なのが救いだ」

 

「はぁ…母さん達が今度きたときが怖い」

 

「言うな。特に凛とイリヤはぶちキレるのご想像に難くない」

 

「救いがあるとすれば、母さんたちが今度来るのは来年の6月」

 

「そしてお前が出場しないことだ」

 

 

 私のすぐ隣にいるエミヤ親子。彼らは呆れ5割、絶望4割、怒り1割で会話をしていた。まぁでも、彼らの言うことはもっともだし、いくらか私にも当てはまる事柄もあるため、反論できない。

 私たちは魔法と言うものに絶大な信頼を置きすぎている。それは紛れもない事実であり、私たち魔法族の短所でもある。私たちが杖を振ったり、呪文を唱えている間に、現代のマグルは銃を持って指先を動かすだけで十分な殺傷をすることが出来る。魔法は万能じゃないのに、なんでもできると思いがちである。

 

 

「…そういえば、父さんは参加しないのか? 一応3〇歳だろ?」

 

「ん? ああそのことだが…」

 

 

 シロウは一旦そこで言葉を切り、上空から襲撃しようとしたポルターガイストのピーブスを撃退した後、再び列に戻って口を開いた。

 

 

「で、俺が参加するかだったかな?」

 

「ああ」

 

 

 シロウの言葉を、周囲の人はいつの間にか聞き耳を立てていた。と言っても、シロウと剣吾君について、ある程度事情を知っている人たちしか聞いていないけど。

 

 

「ああ。対抗試合だが、依頼で()()()()()()()()()()()()()()。まったく、迷惑極まりないな」

 

「…この世界においても大変だな」

 

 

 肩を落とすシロウと、その肩に手を置いて慰める剣吾くん。哀愁漂う二つの背中を見ると、やはり二人は親子なんだなぁと感じる。髪形や雰囲気など、異なる部分は多々存在する、が、理屈では説明できない部分で親子と感じさせる。

 

 なんか頭の中に「幸運E」という言葉が響いたけど無視しておこう。

 

 

 





今回はここまでです。
剣吾君が参戦、そしてワールドカップの騒動は衛宮一家+αにより鎮圧されました。これより先ホグワーツ側は剣吾君が、他二校を裏からシロウが対外敵サポートをする形になります。
さて、次回は二校がホグワーツに来ます。それでは皆さんまた次回。



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