「おら、おかえりなさい」
「お兄ちゃんおかえり~。あれ?」
「お兄さん、後ろの方は?」
「ん? ああ悪い、紹介するよ。今回の仕事先のエジプトで会った…」
「…白銀浄ノ助だ」バァーン!!
「皆からはジョジョって呼ばれてるらしい。というかいつも名乗る時そのポーズなのな。あんたの爺さんもそうだし」
「…今度こそ普通にやろうとした…これもジョーンズの血統か」
「あはは、面白い子ね。ところで…」
「後ろに浮かんでる長髪の大男はなに?」
「ッ!? まさかこいつら…」
「ああ安心しろジョジョ。凛姉ぇも俺も、持ってなくても見えてただろ? 元となるエネルギーの使用方法、変換方法が違うだけで俺たち魔術師やシィには見えるんだよ」
「…そうだったな」
「まぁこの霊みたいなのはあとで説明するわ。それより今日の夕食には浄ノ助一行が加わるけど、庭でバーベキューとかどうだろう、母さん?」
「あら良いわね。何人いらっしゃるの?」
「……俺含めて、爺ぃとお袋、お祖母ちゃんのアリーチェFの四人だ…です」
「なら急いで準備しなくちゃね。四人とも手伝って」
「私は姉さんを呼んできますね。たぶん遠坂の屋敷にいますから」
優勝戦から早三ヶ月、興奮が冷めない中でも試験結果は発表され、私たちの同級生は全員試験をパスしていることがわかった。ただまぁ何というか、シロウはちょくちょくシリウスさん絡みで授業を休んでいたため、総合評価で平均点丁度にされていた。
この三ヶ月で目まぐるしく状況が変化した。まずルーピン先生がひっそりと辞めていき、防衛術の授業は一時的にスネイプ先生が兼任することになった。シリウスさんは向こうの世界で家事能力を鍛えられたらしく、学校の長期休暇期間は漏れ鍋で、それ以外は魔法生物飼育学の先生であるハグリッドの補佐をすること担っている。
そして今日、荷物も汽車に積み終わり、あとは出発するのを待つばかりである。コンパートメントの椅子に座りながら、つい先日ダンブルドア先生と話していたことを私は思い出していた。
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「私は、なにか役に立てたんでしょうか」
「どうしたのかね?」
校長室でシリウスさんの今後について話を聞いていた夕刻。肩に乗っていた不死鳥のフォークスの頭を撫でながら、ぽつりとつぶやいた言葉に先生が反応した。書斎は夕日に染まり、仄かなオレンジ色の空間になっている。
「ペティグリューは逃げてしましました。それに、シロウの戦いも見ていることしかできなかった。もしかしたら、何か手があったかもしれないのに」
既に起こってしまったことにケチをつけるのは間違っているだろう。でもこの数ヶ月、このことが頭から離れることはなかった。
「…可能性を求めることは間違っておらんよ」
ダンブルドア先生は私の正面に座り、真っすぐ私の目を見つめて言葉をつづった。
「じゃが、起きたことは変えることはできぬ。否、変える方法は存在するんじゃが、それによって因果に狂いが生じて複雑に絡み合う。もしかすれば、今飲んだものか紅茶ではなくコーヒーであるだけで様々な事象がこの先変わるやもしれぬ」
「些細なことでも無限の可能性を孕んでおる。今回我々がペティグリューを逃がしてしまったことは、結果的にあやつの命を助けることに繋がった。そして予言通りになるのなら、間接的にヴォルデモートの復活にもつながるじゃろう」
ダンブルドア先生は重々しく言葉を重ねる。
「望む望まぬに関係なく、人の道は繋がりによって形成されておる」
「…なんとなくわかります。少し違うかもしれませんが、二年前ヴォルデモートと向かい合ったとき、ほんのちょっとだけあいつの気持ちが流れ込んできたので」
「そうじゃな。あとはエミヤシロウとの契約も繋がりの一つと言えよう」
そこまで言うと、先生は紅茶を一口煽った。肩にいたフォークスは止まり木に戻り、今は寝ている。
「……私は」
暫く互いに黙ってカップを傾けていたところ、私から口を開いた。
「私は、まだ十三年しか生きていないのもありますが、人間が出来ていません。ペティグリューは私の両親なら進んで助けるといいました。ですが、私は彼を見捨てました」
「両親は両親であって君は君じゃ、思い悩むことはない。子は何かしらの形で親を受け継ぐ。君の場合、視認できるものでいえば髪色と虹彩の色。精神面も然りじゃ。君の
先生の問いかけに私は静かに頷く。
「自らの愛しきものが死ぬとき、その者が
優しく微笑みながら、しかしその目には悲しみを浮かべながらダンブルドア先生は言葉を紡ぎ終えた。
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先日話していたこと思い返している間に、どうやら私は眠ってしまっていたらしい。汽車は既に出発しており、現在ちょうど中間地点に差し掛かるころだった。
室内を見渡すと、シロウ以外の面子はみんな眠っていた。シロウはシロウで、大きな宝石を通して誰かと話している。あの宝石の虹色に輝いている感じからして、たぶんイリヤさんたちと話しているのだろう。柔らかい表情をしているから、たぶん深刻な話ではないだろう。私は軽く食事をとって再び眠りについた。
◆
「そうか、今度は家族全員で来るのか」
『ええ、紅葉も華憐も楽しみにしてたわよ。あと綾子の娘さんと蒔寺さんの娘さんも同行するわ。あと剣吾の友達も一人』
「隠蔽とかは大丈夫なのか?」
『ああ、今や冬木は協会公認の魔術・一般混合地として成り立ってるわ。だから世間でいう非人道的なもの以外は受け入れられてるわよ』
「そうか。なら安心だな」
俺がいない数年の間にそのようなことになっていたとは、冬木だけなら過ごしやすいだろうな。
「ああそういえば、剣吾に留学の誘いが出てるぞ」
『もしかしてあんたの在籍している学校?』
「ああ、ダンブルドアが来年度一年間どうかとさ。まぁ、何やら外部の学校と連携してイベントごとをやるらしい。俺一人での護衛だと厳しいかもしれないから、保険として呼びたいそうだ」
『まぁ、そこらへんは本人に任せましょう。何ならエミヤ家全員で一年お邪魔しようかしら?』
「またイリヤが全面賛同しそうな話だな。そこらは君らに任せる」
『ええ。じゃあ来週ね。黒化英霊の話もその時しましょう』
「ああ、また」
来週来るということは、ちょうどクィディッチ・ワールドカップ三日前にこちらに来るのだろう。どうやらウィーズリー一家と共にハーマイオニーやマリーも見に行くらしい。その時は俺たちもいく予定になってるため、恐らく現地集合になるだろう。
宝石をしまいながら。自身の内面に意識を向ける。すると手元に一枚のカードが出てきた。
あの日以来カードの暴走は起こっていない。アンリ・マユが言うには、俺が奴を撃破したことである種の封印状態になっているらしい。だが一応持ち主は俺となっているが、専用の道具がないとカードの本当の使い方ができないそうだ。
頭にふと
今年も濃い一年だった。一人取り逃がすという失態をやらかしたが、当初の目的であるブラックの釈放というミッションは果たした。来年は色々と面倒が起こりそうな予感がするが、対処にあたるのが俺一人でないだけ随分とマシである。
さてそろそろキングス・クロス駅に着く。お姫様たちを起こすとするか。
――何故だ。
――何故あの
――これは、確かめねばなるまい。この島国に
はい、ここまでです。
一年かけて三巻まで完結させました。今までは間にほかの更新を挟んでましたが、今後はこちらの完結に主軸を置き、閑話として他を更新する形をとります。
今後ともよろしくお願いいたします。
では今回はこの辺で、感想お待ちしております。