錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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「それで、なんで私たちを呼び出したのでしょう?」

「返答次第ではこの場でボロボロにするわよ、坊や?」

「君らも多少は問題視すべき事態が起こっている。それと私を坊やと呼ぶな」

「いいからもったいぶらずに言えって。これだからキザ野郎は」

「お前も挑発するでない。エミヤシロウ、続きを頼もう」

「ああ、実は先ほど召喚されたのだが…」

「それだけ?」

「それが正規の召喚ではなかった。少なくとも、元守護者であった私が看過できないレベルの異物によるものだった」

「ああ、そういうことか。どうりで俺様の分身の力が増えているわけだ」

「まさか、聖杯に関係することが?」

「そこまでは分からん。だが我らが一度、とある並行世界に呼び出された時よりも不味いものだ」

「あの世界か。再び狂化し、剰え幼き主に刃を向けた」

「ああー、俺もおめーもバゼットにやられたっけ」

「私は確か、イリヤスフィールともう一人の黒髪の少女に。確か二人とも自我のあるステッキを持っていました」

「あのときよりも不味いものが…」

「……!?」

「どうやら…」

「次はあんたみたいだねぇ。クククッ、さぁどうする、正義の味方さん」






18. Quidditch Final

 

 

 

 試合開始のホイッスルと共に、私は上空に舞い上がった。正直こちらが五十点リードするまで私はスニッチを捕まえることが出来ないので、マルフォイを妨害する以外やることがない。また、箒のスペックが圧倒的に私が勝っているため、向こうが少しでも動けば、回り込んで進路妨害が出来る。

 

 

『グリフィンドールの得点で、現在三十対十とグリフィンドールがリード!! さぁ現在クアッフルはスリザリンチームに—―いや、グリフィンドール――いや!!――スリザリンが取り返し――いや!!!! グリフィンドールが奪い返しました!! クワッフルは現在アリシア選手の手に。そのままゴールに直進してます。いけっアリシア、シュートだ―――あいつめ、わざとやりやがった!!』

 

 

 ゴールに進むアリシアさんをスリザリンが妨害した。妨害するのは問題ではない。論点はその方法である。あろうことかキャプテンであり、チェイサーでもあるマーカス・フリントが、アリシアさんの髪の毛を鷲掴みにして箒から落そうとした。果てはその行為に対し、

 

 

「わりーわりー。クワッフルと間違えたわ、ハハハ」

 

 

 と反省ゼロのこの発言。スリザリン以外の観客席からはブーイングが起こった。ホイッスルが鳴り、アリシアさんがペナルティシュートを決めると、再び試合は流れ出した。現在グリフィンドールが三十点リード中、あと二十点。

 

 

『さぁ気を取り直して、現在グリフィンドールの攻撃、アンジェリーナ選手がクワッフルを持っています。そのまま行けっ。ああ、駄目だ。フリントがボールを奪いました。フリント、グリフィンドールのゴール目掛けて飛びます。――やったー!! 信じられねぇぜ、ウッドがゴールを守りました!!』

 

 

 嬉しそうな声音の実況が響き渡る。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!

  てめえらがウッドの守備を破ろうなんざ十年早ぇんだよぉ!! 顔を洗って出直してきやがれ……すみません先生。ちゃんと、ちゃんと実況しますので許してください!!』

 

 

 ウッドさんがゴールを守ったことにより、スリザリン以外の観客席から歓声が上がった。というか本当に嫌われてますねぇ、スリザリンって。ボールはそのままケイティ選手が取り、スリザリンゴールへと向かっていった。

 

 ヒューッ

 

 突如風切り音が聞こえ、何かが私の耳元をかすめていった。どうやらスリザリンのビーターが私を潰そうとし、行動を起こしたらしい。私を挟み込むようにもう一人のビーターもブラッジャーを打ち込み、私は前後をブラッジャーで挟まれた状態になった。

 

 

『ああっと、グリフィンドールのシーカーがブラッジャーに…!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況に気づいた双子がこっちに来るが、すでに間に合わない距離にブラッジャーはある。スリザリンからは歓声が、他からは悲鳴が聞こえた。しかしだ。

 

 

「――potentiam magicam(魔力)、――circulation(循環)、――Corpus confirmandas(この身を強化せよ)

 

 

 言葉に魔力を乗せ、言霊を小声で紡ぐ。瞬間全身をめぐるエネルギー。同時にブラッジャーが背中と直撃した。

 

 

『ああーッ!? ブラッジャーが二つとも直撃してしまいました!! 大丈夫……ええええ!?』

 

 

 ジョーダンさんの驚きの声と共に四方の観客席、果ては両チームの一部を除いた選手から驚きの悲鳴が上がる。フレッドとジョージはむしろやっぱりという顔をしていた。

 私がしたのは単純。懐に入れた杖を媒体にしてシロウ達の使う魔術の真似事をしたのだ。理論はフレッドとジョージが確立していたので、あとは自分に適性のあるものを探るだけだった。結果、私は身体能力強化に向いていたみたいで、今回は単純に体を硬化させてブラッジャーの打撃を防いだのだ。

 

 

『な、なな、何ということでしょう!? グリフィンドールのシーカーはブラッジャーを食らってもピンピンしています!! 誰がこんなことを予想したのでしょうか!? 少なくとも自分は予想外でした!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が鳴り響く。両チームともに唖然としている中、いち早く復活したグリフィンドールチームが更に点数を加算したと同時に三度試合は流れ出した。

 まぁ確かにブラッジャー食らってピンピンしているのはおかしいかも知れない。それはわかる。けど、それ言ったらウッドさんはどうなんだろう? 最近は腹に受けてもピンピンしてらっしゃるけど。

 

 まぁそれは兎も角、ようやく五十点差が付いたので、ようやく私も動くことが出来る。いつもの高度に箒を持っていき、フィールドを一望するようにスニッチを探す。今日は快晴であるため、スニッチは動けばわずかに反射し、その煌めきを確認することが出来る。

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 マルフォイは自分で探すことをせず、私をマークすることにしたらしいが、流石に箒の差は理解しているらしい。私よりも低い高度で私を見張っている。更に言えば、私にはブラッジャーは意味がないと思われたようで、スリザリンはチェイサーを潰すことに専念している。しかし双子がそれを阻んでいるので、妨害を成功させることが出来ない。おかげで私はスニッチ探しに専念できる。

 

 互いに点数を取り合いながら十分が経過したけど、未だスニッチは現れる気配がない。グリフィンドールはリードをキープしたままである。私は全体を見渡す方向から、部分分けした範囲を探す方針に切り替えた。

 そして見つけた。グリフィンドールのゴールポスト足元に飛ぶスニッチを。マルフォイはまだ気づいていない。でも直接的に向かえば向こうも気づくだろう。ならスニッチから視線のみを離さず、ジグザグに動いてマルフォイを翻弄させる。

 案の定マルフォイはこちらの策に引っかかり、私が次にどこに行くのか予想できず、オロオロとうろつくばかり。少しは自分でスニッチを探せばいいと思うのだけれど。それじゃあマルフォイ、驚くのはまだ早いわよ。特訓の成果、とくとその目に焼き付けなさいな♪

 

 

『グリフィンドールのシーカーが動き始めました!! しかしついこの前までの試合まで見せなかったトリッキーな動き!! いつの間にか身に付けたのでしょうか? ファイア・ボルトのスピードも加わって何がなんだかわかりません!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が響くが、私とマルフォイはそれどころではなかった。私はスニッチとマルフォイの双方を気にしなければならず、マルフォイは私の動きを先読みしなければならない。

 そこに再び歓声が上がった。どうやらグリフィンドールが点数を増やしたらしい。マルフォイが一瞬私から気を逸らした。私から目を離した。

 

 

――ここだ!!

 

 

 直感に従って一気に加速してトップスピードに入る。恐らくマルフォイには真っ赤な風が吹いたように見えただろう。マルフォイが私に気づき、実況や観客が私に目を向けたときには、すでに私の手にスニッチはあった。

 

 試合場が爆発した。

 

 気が付けば私は揉みくちゃにされていた。女性選手からは抱きしめられ、男性選手からは背中を叩かれ、観客選手問わず声を嗄らして叫びながらフィールドで各々歓喜を表現していた。皆が嬉し涙を流し、飛び跳ね、真っ赤な旗を振った。

 フレッドに肩車され、フィールドの中央に運ばれる。そこには号泣するウッドさんと大きな優勝杯を抱える校長先生がいた。しゃくりあげながらウッドが渡した優勝杯を天に掲げて思う。これほど興奮したのは、これほど嬉しかったのは初めてではないかと。そしてこれは夢じゃないかと少しだけ不安になる。

 

 人だかりを見渡しながら、ふと選手入場口に目を向ける。聖骸布のマフラーはしてなかったけど、そこにはクリスマスの時に見た全身真っ黒けな服を着たシロウがいた。その手には大きなクリスタルが抱えられている。

 その表情は非常に柔らかく、優しげなものだった。少し伸びた髪から覗く鋼色の双眼は、敵と相対したときのような鷹のようなものではなく、まるで暖炉の炎のように暖かいものだった。そこでようやく、これが夢でないという実感が出来た。今この時は、私も自分の気持ちに素直に身を委ねよう。

 

 

 





大ッッッッッ変申し訳ありませんでした。
一ヶ月も更新できず、お気に入りにしてくださった方々をお待たせしてしまいました。
次回はエピローグです。そして次に召喚されるのは誰でしょうか。

今後も完結まで時間がかかると思いますが、よろしくお願いします。


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