錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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お待たせしました。それでは最新話参りましょう。





14. 降臨

 

 

 目の前にいるシリウス・ブラック、殺人鬼として名高い魔法使い、らしい。

 正直いうと殺人鬼にはみえないし、それよりも魔法陣に縛られているネズミのほうが気になる。

 

 

「十二年だ…」

 

 

 シリウス・ブラックは呟く。

 

 

「十二年も待った。リリーとジェームズを殺す間接的原因となった奴を。私に濡れ衣を被せた真の裏切り者を裁く瞬間を!!」

 

「だがその前に説明が必要だ。特にこの子たちや事情を知らない者達へのな」

 

「それもそうだ。しかしこいつは…」

 

 

 ブラックが不安そうにネズミを指差したけど、シロウはニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

 

「心配ない。この束縛結界はちょっとやそっとじゃ敗れんよ。仮令ダンブルドアでもな」

 

「それを聞いて安心した。さすがは衛宮士郎、か?」

 

「それ以上は言うなよ?」

 

 

 そう言えばブラックは一時凛さんたちと一緒にいたんだったね。ならシロウたちの魔術についてちょっと知っていても可笑しくはない。ブラックはドカリと床に腰を下ろすと、私たちを眺めて口を開いた。

 

 

「さて、何から聞きたい? 正直に言うが十二年も待った、今すぐにでも奴を裁きたい」

 

「殺す、と言わないだけマシか。まぁいい、まずはお前とジェームズ・ポッター、ペティグリューの関係について説明してもらおうか」

 

「構わん、リーマスもいいか?」

 

「無論だ」

 

 

 何故か呼ばれたルーピン先生と共に、ブラックは四人の関係性と今に至るまでを説明した。

 

 

 

 

 

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 彼ら四人は学生時代の親友同士だった。何をするにも四人一緒、悪戯も学問も遊びも一緒だったそうだ。ただその際スネイプ先生が父のいじめの被害にあっていたらしい。何をしてるんですか父さん。

 そして在学中に判明したルーピン先生の人狼化呪縛の秘密。他三人は少しでもルーピン先生の気持ちが楽になるようにと、未登録の「動物擬き(アニメ―ガス)」と呼ばれる、超高難易度な動物変身魔法を身に付けた。

 

 

「この叫びの屋敷が建造されたのと暴れ柳が植えられたのは私が入学したからだ」

 

 

 ルーピン先生は疲れたように語る。

 

 

「今はそこの誰かさんの手である程度修繕されているが当時は変身後、獲物となるべき人間がいなかった私が暴れ、吼えたことでいつ倒壊してもおかしくない状態だった。叫びの屋敷と呼ばれ始めた経緯は私の行動だよ」

 

「月に一度、狼男となった私はシリウスやジェームズらと共に過ごしていた。シリウスは君らも見た通り大型の黒犬、ジェームズは牡鹿、そしてペティグリューは鼠にね」

 

 

 そこで先生は一度言葉を区切った。陣の中の鼠が激しく暴れているが、縛りがびくともしない音だけがしばらく響く。

 

 

「それとスキャバーズに何の関係があるんだ」

 

 

 ロンが足の痛みに声を詰まらせながら問いただす。

 

 

「こいつの前足」

 

 

 ブラックがネズミを指差しながら応える。

 

 

「ペティグリューが死んだと思われた十二年前、奴の小指だけが残り、状況証拠だけで私が周囲のマグルたちをも殺した殺人鬼に仕立て上げられた」

 

「でも…」

 

「ペティグリューが変身したのを何度見たと思っている? 奴の変身後の特徴まで熟知している私が、見間違うと思うか? この鼠は間違いなく奴だ、私にはわかる」

 

 

 そしてブラックは私の両親が殺されるまでの経緯(いきさつ)を話し始めた。

 両親の居場所は一部のものしか知らず、シリウス・ブラックはその秘密を死んでも守る、「秘密の守り人」となる予定だった。しかしブラックは辞退し、代わりにペティグリューを推薦したため、両親もペティグリューを「秘密の守り人」にした。

 

 しかしそれこそが間違いだった。

 実はペティグリューは既にそのころにヴォルデモートと通じており、あっさりとその情報を流した。それによりヴォルデモートはすんなりと守りを突破し、両親は殺された。ブラックがその事実を知ったのは事が終わった後、何とかペティグリューを追い詰めたが逃げられてしまった。

 

 

「…以上がことのあらましだ」

 

 

 ブラックが語り終えると、再び屋敷は静寂に包まれた。

 暫くしてシロウが口を開いた。

 

 

「ここにいる者達の殆どが、彼の説明に疑問を抱いていることだろう。その疑問を解消するためにも、この鼠を調べるのだ。わかるな、ロン?」

 

「……うん」

 

「大丈夫、仮にこの鼠がただの鼠ならば、傷一つつかないから安心しろ」

 

 

 シロウの言葉に渋々頷くロン。隣にいるハーマイオニーも黙ってことの成り行きを見守っている。

 みなの視線が集まる中、シロウは懐から歪な短剣を取り出した。その短剣は一年半ほど前、ドビーの妨害術式を解除した短剣だった。ついでに真っ赤な布、「マグダラの聖骸布」も取り出した。

 

 

「では行くぞ、マリーはこの鼠が変化したら『我に触れぬ(ノリメ・タンゲレ)』と唱えてくれ」

 

「ええ、分かった」

 

「それじゃあ、『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』!!」

 

 

 シロウが言霊と共に鼠に短けんを触れさせると、パキンッと何かが砕ける音がした。それと共に、陣の中央には一人の小柄な男が蹲っていた。

 

 

「『我に触れぬ(ノリメ・タンゲレ)』!!」

 

 

 私が一声叫ぶと、赤い布は自然と男に巻き付き、その動きを封じた。流石は対男性用全体拘束具、女である私が扱うことによって、拘束力も強くなっている。

 

 

「さて大臣、これで証明されたな。ブラックは冤罪だった」

 

「…そのようだな」

 

「あとはこいつを連行するだけ。そうすれば晴れてブラックは自由の身となり、大臣は辞任するが、潔い魔法使いの鏡となる」

 

 

 渋い顔をしながらも頷くファッジ大臣。蹲っている男、ペティグリューは命乞いを繰り返しているが、周りは効く耳を持たない。

 

 

「マリー…マリー……君は両親の生き写しだ……彼らなら…私が殺されることを望まないだろう……情けを掛けてくれるだろう」

 

 

 気安く私の名前を呼ぶペティグリュー、しかし私はそこまで人間はできていない。

 

 

「それはあくまでも私の両親ならばの話よ。私はそこまで慈悲深くない、情けを持たない。あなたの罪を数えなさい」

 

 

 それだけを告げ、私はロンの治療に向かった。シロウや凛さんたちから教わって簡単な治癒魔法なら使えるため、今よりかはマシな状態まで治療できる。

 私がロンの治療に専念している間にペティグリューの処遇が決まったらしく、フクロウ便が魔法省に送られた。そしてペティグリューを拘束したまま屋敷を離れ、使いの者がくるまでホグワーツで拘留することになった。

 屋敷からホグワーツへと向かう最中、ペティグリューはずっと命乞いをしていた。しかし私たちはそれを無視し黙って通路を歩き続けた。彼がこそこそと何かをしているとも知らず。

 

 

 

 

 

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 夜の帳が下りた頃に柳の洞から全員出た後、暫く休憩することとなった。理由としては大臣が使いの者の迎えに行く間、ペティグリューが逃げないように見張っているためである。

 現在ペティグリューにはルーピン先生とスネイプ先生が杖を向けて牽制している。空は分厚い雲に覆われ、薄気味悪い雰囲気を醸し出していた。

 休憩の間、ブラックさんは懐かし気にホグワーツの城を眺めていたので、私は近づいた。

 

 

「…懐かしいですか、ブラックさん?」

 

「そうだね、彼らと過ごした学生時代を思い出していた」

 

「まだ老け込むには早いのでは? シロウとさほど変わらないでしょう?」

 

「クククッ、違いない」

 

 

 悪戯気に笑うブラックの姿は、とても十二年収監されていたとは思えないほど若々しかった。

 

 

「しかし、もっと砕けた口調でもいいんだぞ? 誰かに聞いたかもしれんが、私は君の名づけ親だしな」

 

「初耳ですね。でもごめんなさい、まだあまり長く接してきた訳ではないので、暫く抜けないかもしれません」

 

「いずれ抜けるのなら気にしないよ。その時は好きなように呼ぶといい」

 

 

 柔らかく微笑んでいるブラックさんを見ていると、突然悪寒が背中を襲った。ブラックさんもそれは同じだったらしく、二人同時に柳のほうに振り返った。

 そして目に入った。

 

 雲の切れ間からのぞく満月。

 唸り声をあげ、全身を痙攣させながら変化していくルーピン先生。

 スネイプ先生とシロウとダンブルドア先生を吹き飛ばし、宙に浮かんでいる高濃度の魔力を纏ったカードのようなもの。

 拘束を解かれたことでハーマイオニーとロンを昏倒させて逃走するペティグリュー。

 

 上手くいっていたことが全て覆り、午前中に聞いたトレローニ―先生の予言通りのことが起ころうとしていた。

 隣にいたブラックさんは瞬時に犬へと変わり、ルーピン先生の方向へと突進していった。向かう先には地面に転がるマグダラの聖骸布、恐らくあれで拘束して先生を無力化するのだろう。

 

 私はそれを確認した後カードに意識を向けた。

 カードは宙に浮いたまま黒い光を纏い、どす黒い魔力はその濃度を増していく。黒い輝きが眩しいほど強くなった後、台風の風なんてそよ風に感じるほどの突風に襲われた。それにより、倒れている倒れていないにかかわらず、私たちは一様に吹き飛ばされた。

 

 

「イテテ…何だ?」

 

「この…濃密な魔力は…」

 

「何なのだ…今のは…」

 

 

 拘束を完了したブラックさんやスネイプ先生、ダンブルドア先生が各々反応を示す中、狼男になったルーピン先生は本能的な恐怖を感じて蹲っており、シロウは目をこれでもかと見開き、冷や汗を流して歯を食いしばっていた。

 先ほどまでカードがあった場所に目を向ける。そこには直径十メートルほどのクレーターが形成され、中心には人影があった。

 その人影は真っ黒な魔力を身に纏い、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がって私たちに顔を向けた。

 

――その人影は雪のように真っ白な髪をしていた。

――頭に付けているのは目を覆うように巻いてある真っ赤な布。

――上半身は裸で両腕には頭と同じ真っ赤な布が巻き付けられていた。

――足は裸足で黒いピッチリとしたレギンスを履いており、腰にも地面まで垂れるほどの真っ赤な布が巻かれていた。

 

 

「……コロ…ス……エミヤ……シロウ………」

 

 

 人影がつぶやく。標的はシロウらしい。

 

 

「不完全とはいえ、貴様がそこまで身を堕とすとは……皆下がってろ。こいつは俺が相手する」

 

「どうするつもりだ、エミヤ!! 奴は何者だ!!」

 

 

 シロウの言葉に怒鳴るブラックさん。スネイプ先生もダンブルドア先生も杖を構えている。その間にも人影はこちらにゆっくりと近づいてきている。

 

 

「奴は不完全に強制召喚された英霊、加えて汚染されて理性をなくしている」

 

「コ…ロ……ス」

 

「この世界の魔法では全く効果がない。だから早く逃げろ、奴は物量攻撃が十八番だ。だからすぐにみんなこの場を離れろ」

 

 

 シロウは説明しながら服装を真っ赤な外套に変え、白黒の双剣を構えた。人影は気にすることなく、ゆっくりと距離を縮めてくる。

 

 

「随分とあの英霊についてくわしいの」

 

「嫌でも詳しいさ、何せあれは……」

 

 

 ロンとハーマイオニーを抱え、ルーピン先生を拘束しているブラックさんとスネイプ先生と共に離れる準備をしているダンブルドア先生が問いかける。私も逃げる準備をし、彼らのそばに行く。

 その間にもシロウと人影のさは縮まり、一定距離で止まった。そして互いにぶつかり合うために、全く同じ双剣を構えた二人が身を屈める。ここにきてようやく人影の正体が分かった。わかってしまった。

 

 

「エミヤ……シロウ………!!」

 

「あれは俺の、衛宮士郎の別の可能性なのだからな!!」

 

 

 英雄である二人がぶつかったとき、空間が爆発が発生した。

 

 

 






はい、というわけで現れたのはプリヤの黒化アーチャーでした。
次回はマリーのパトローナスと英霊戦決着です。

それではこのへんで。感想お待ちしております。

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