錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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更新です。
それではごゆるりと。





8. 忍びの地図

 

 

 

「…久しぶりだな、小僧」

 

「また顔を合わすとは、想像もしてなかった」

 

「それはこちらの台詞だ」

 

「前置きはこのくらいでいいだろう、要件はなんだ? お前がわざわざ俺に関わってくるなんて余程のことだろう」

 

「察しがいいな、なら本題に入ろう。気をつけろ」

 

「どういうことだ?」

 

「そのままだ。アルトリアが言っていたが、何やら不穏な動きがそちらで起こっている」

 

「…それは今年の話か?」

 

「いや、彼女によれば、向こう3年は大きな動きはないらしい。だが本来そちらの世界では途絶えたはずの魔術師の系譜が、そちらの“闇の帝王”とやらと何やら企んでいるみたいだ」

 

「ヴォルデモートとか。流石に場所まではわからないだろうが、事前に準備できるだけ有難いものだな」

 

「彼女に感謝しておけ」

 

「ああ、本当に助かる」

 

「…こうして干渉できるのも今回限りだ」

 

彼の大英雄(ヘラクレス)も同じことを言っていたな」

 

「少なくとも、あの聖杯戦争で招ばれた者たちは、確実に一度は干渉できる。お前が解体する際、少し泥を浴びてしまったからな」

 

「爺さんのようにならないだけマシか」

 

「それに関してはお前の中にいるやつに聞け。いずれ一つの存在としてお前から出てくるが、人格は我らの影響を受けている。周りへの被害は殆ど考えなくていいだろう、お前以外へのな」

 

「まぁ、なんとかするさ。じゃあな、今度顔を合わせるのは座であることを願うだけだ」

 

「ぬかせ、小僧め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 11月も中旬になり、雨に混じってチラチラと降っていた雪も今では積もるほどになっていた。

 そんな時期のとある週末、三年生以上の生徒はホグワーツ近郊に栄える村、ホグズミードに遊びに行けることになっていた。しかしこれには保護者の許可が必要になっており、私はいろいろあったために叔父さん達から許可を貰い忘れていた。よって私は留守番となってしまい、ホグズミード行は来年までのお預けとなっている。

 救いとなるかどうかはわからないけど、シロウも留守番となっているため、寂しさは少し和らいでいる。なんでも士郎は頼りが届く前に漏れ鍋に移っていたため、許可の貰いようが無かったらしい。でもシロウの実力なら、わざわざフィッグさんに許可貰わなくても大丈夫な気がする。

 

 まぁそんな感じで、現在私は散歩がてら外で妖精魔法と変身術の練習をしている。反復練習は大事だよ? ハネジローはバックビークのところに遊びに行っているし、シロウは大事な用事でルーピン先生のところにいるし、だから現在私は一人、のはずだったんだけど。

 

 

「…何してるの、フレッド、ジョージ?」

 

「なぁに、ちょいと君にプレゼントをね」

 

「糞爆弾じゃあないでしょうね?」

 

「安心しな、あれは有料だ」

 

 

 お金払えば買えてしまうのか。いや、私は買わないわよ?

 

 

「ならどうしたの?」

 

「ここじゃなんだから着いてきてくれ」

 

「これは誰かに見られるわけには、特に教師陣とシロウに見られちゃダメだ」

 

 

 双子に催促され、私たちは瘤のついた魔女の像の裏に移動した。三人で影に入るとフレッドが杖を、ジョージが古く大きな羊皮紙を幾重にも折りたたんだ物を取り出した。

 

 

「それなに?」

 

「俺たちの秘策さ」

 

「“忍びの地図”って言うんだ」

 

「『我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり』」

 

 

 フレッドが羊皮紙を杖先で叩くと、そこを中心として黒いシミが羊皮紙に広がった。シミはやがて流麗な曲線を描き始め、最終的には大きな地図となった。

 

 

「これって…」

 

「察しの通り、ホグワーツの地図だ」

 

「しかも誰がどこにいるかまでわかる」

 

「俺たちはこれに何度も世話になった」

 

 

 聞けば彼らが一年の頃、フィルチさんに捕まった際に掻っ払ったそうな。大胆なことをするものね、この二人は。

 

 

「俺たちはもう覚えたからな」

 

「もう必要ないから、君にこれを進呈しようと思う」

 

「これはホグズミードに通じている抜け道も記載されている」

 

「でも暴れ柳のルートは使わないほうがいい」

 

「一番はこの像の瘤から通じる道だな」

 

 

 双子は交互に口を開き、まるで捲したてるように説明をする。

 

 

「あと使った後は必ず地図をしまってくれ」

 

「『いたずら完了』」

 

「これで元の羊皮紙の束に戻るから、忘れずに使う都度やってくれ」

 

「「じゃないと誰かに見られちまう」」

 

 

 双子がそう締めくくると同時に地図はみるみる折り畳まれ、元の羊皮紙の束に戻った。成る程、彼らはこれを使ってフィルチさんから逃げていたのか。

 

 

「じゃっそういうことで」

 

「楽しんでくれ」

 

 

 そういうと二人は足早に去っていった。手元の束に目を移す。本当は使ってはいけないのだろう。でも使いたい感情もたしかにある。それに、先ほどの様子をみるかぎり、リドルの日記のような危険性はないようだ。

 私は今回試しに使い、それからシロウに相談することに決めた。そうと決まれば早速行動だ。

 私は寮に透明マントを取りに行き、また像の裏に戻ってきた。そして誰もいないことを確認し、地図に表示された呪文を唱え、魔女の瘤に生じた亀裂から通路に入った。

 

 

 

 

 

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 通路を数十分ほど歩いた先、ようやく見えた出口から出ると、そこは何かの建物の倉庫裏だった。急ぎ透明マントを被り、建物の表へと出ると、どうやら“三本の箒”というパブの裏から出たらしいことがわかった。ついでに言えば、入り口から中に入る複数の教師陣兼魔法大臣兼何故か混じるシロウを見かけたため、私はマントを被ったままその集団について行った。

 集団は奥の部屋に案内され、各々注文した飲み物を一口煽るとマグゴナガル先生を始めとして話し始めた。若干一名、シロウに敵意を込めた視線を送っているけど。

 

 

「それにしても、今年でもう12年ですか」

 

「あの二人が亡くなってそんなに月日が経ってしまったのですね」

 

 

 恐らく、私の両親が殺されたことの話だろう。

 

 

「今も忘れちゃいねぇ。マリーを守るようにして死んでいたあの二人の姿を」

 

「本当に惨たらしいことだ」

 

 

 ハグリッドは涙ぐんだような声を出し、フリットウィック先生はその甲高い声には合わない重みを含んだ言葉を発した。10年経った今でも、私の両親の死は悲しまれているのか。

 

 

「確かブラックの裏切りで居場所が暴露したと、そしてあいつはマリーも狙っているという」

 

「大臣、少し待っていただきたい」

 

「何だね?」

 

 

 大臣が発した言葉に、マグゴナガル先生が待ったをかけた。一体なんだろう? ブラックに関しては冤罪という話が濃いらしいけど。

 

 

「ブラックについてですけど、私とセブルスで独自に調査しました。少しでもポッターを守るためにと」

 

「ほう、それで?」

 

「おかしなことがわかったのです。当時の状況と調査結果に矛盾が生じた。ブラックが冤罪である可能性が浮上してきたのです」

 

「バカな⁉︎ それはありえない‼︎」

 

「ですが現に生じているのです。これを」

 

 

 そう言ってスネイプ先生は羊皮紙の束を取り出し、大臣に手渡した。流石の大臣も目を通さないわけにもいかなかったらしく、嫌々ながら読み始めた。始めは胡散臭げだったその顔は、やがて驚愕に染められた。

 

 

「バカな…信じられん」

 

「ですが事実です。目を背けないでください」

 

「だがこれが事実だったとして、私にどうしろと?」

 

「まだ公表しなくていいです。証拠が足りない今では、彼が冤罪であるか有罪であるかはわかりません」

 

「今は頭の隅に置いておいてください」

 

 

 話は終わったらしく、皆はまた各々の飲み物を飲み始めた。どうでもいいけどシロウ、あなたなんでここに混じってるの?

 

 

「そういえば、大臣は何故エミヤ君を呼んだのです?」

 

 

 ビールらしきものを飲んでいたルーピン先生が、ファッジに質問した。

 

 

「ああ、ダンブルドアが自分よりも彼が強いというのでな。試すことにしたのだ」

 

「…本当に迷惑な話だ」

 

 

 明らかにシロウを見下したような発言をするファッジと、非常にげんなりとした表情のシロウ。二人の温度差は激しかった。

 

 

「「「「「大臣、やめておきなさい」」」」」

 

 

 しかしそれに一斉に反論、いや制止をかける教師陣。その表情はシロウではなく、大臣を心配していることが見て取れた。

 

 

「大丈夫だよ、彼は学生だ。無茶なことはしない」

 

「……」

 

(((((いや、大臣が恥かくだけだから。やっぱバカだろこの人)))))

 

 

 何だろう。教師陣の考えていることが手に取るようにわかってしまう。

 全員が勘定を済ませると、後から入ってきた大臣の選んだ先鋭らしき人たち七人を伴って村の郊外に移動した。何故かその中にいたガマガエルのような女性を見て、私は薄ら寒いものを感じた。

 郊外へときた一行は適度に広がり、先鋭たちは既に真っ赤な外套を纏うシロウを囲むように並んでいた。

 

 

「…大臣。本気でやっていいのだな?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

「…どうなっても知らんぞ」

 

(((((はい、先鋭たち終わった。キングズリー以外は終わった)))))

 

 

 うん、大臣も先鋭たちもバカだね。ただ、キングズリーって呼ばれた人だけは違うみたいだけど。あの人はどうやら力量の差を把握しているのか、戦うそぶりを見せていない。

 

 

「準備はいいね? では始め‼︎」

 

「『麻痺せよ(ステュービファイ)』‼︎」

 

 

 開始と同時に放たれた6筋の赤い閃光。それらは狙い違わずシロウに殺到して……直前で霧散した。

 

 

「バカな⁉︎」

 

「クソッ‼︎」

 

 

 さらに何度も攻撃の魔法を飛ばしたけど、シロウには一つも当たらなかった。背後から飛ばされた閃光ものを同様に霧散し、一切の効果を出してなかった。

 

 

「……終わりか? なら今度は()の番だ」

 

 

 シロウから言葉が紡がれた次の瞬間、瞬き一度の間に七人中キングズリー以外全員地に倒れ伏し、気絶していた。そしてシロウは悠然とキングズリーの前に佇んでいた。

 

 

「あなたはどうする?」

 

「止めておくよ。私じゃ到底かなわないから」

 

「そうか」

 

 

 キングズリーが降伏を宣言した時、魔法大臣の負けが決定した。ファッジは信じられないとでも言うように口をポカンと開き、両膝をついていた。

 

 

「……だから止めたのだ」

 

 

 ボソリと呟いたスネイプ先生の言葉が印象的だった。

 

 

 




はい、ここまでです。
ガマガエルさんをフライングで出演させました。まぁあまり原作の流れに支障はないのでご安心を。
次回もハリポタを更新します。

それではこの辺で、感想お待ちしております。

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