錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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更新します。
それではごゆるりと。





6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅

 

 そんな濃い一年の始まりを迎えて早一ヶ月。ハロウィンが始まる前にクィディッチのシーズンが始まった。

 相変わらずウッドはその熱い性分で選手を鼓舞し、双子のウィーズリーがそれを茶化し、そしてチームがいい具合に熱くなる。これがグリフィンドール・クィディッチチームの普通である。試合メンタルが完璧となった今では、ちょっとやそっとの土砂降りではどうにもならない。

 そう。仮令雷鳴が轟き、突風が駆け抜け、槍のような雨が降ろうとも、グリフィンドールチームを止めることなどできない。私たちチームは其々の愛箒を持ち、フィールドへと向かった。

 フィールドでは雷鳴に負けない歓声が上がり、私たちと同時にハッフルパフチームが入場した。相手は全体的な強さのバランスがいい。とりわけシーカーのセドリック・ディゴリーはレベルが高く、その実力は四寮トップと噂されている。

 

 

「いいかマリー。セドリックはパワー、テクニック、全てに秀でた選手だ。正直君がいなかったらチームに入れたいと思うほどのな」

 

 

 試合前にウッドはそう語っていた。ウッドはクィディッチに関してはくどいと言いたくなるほど馬鹿正直だ。なので彼がそう言うってことはその通りなのだろう。現に今、目の前にいるセドリックは雨風に踊らされることなく、真っすぐに滞空している。対する私はその控えめな体格のせいか、風にさらわれないよう箒にしがみついている。

 

 クワッフルが投げられ、試合が始まった。

 まず私は上空高くに舞い上がりフィールド全体を一望できる位置に滞空した。風がさらに強くなるけど、箒でバランスをとって何とか耐える。その間にも試合は進み、其々三回づつシュートを決め試合は五分五分に拮抗していた。流石はウッドの認めるチーム、侮れない。

 その時、フィールドの中央地面スレスレに光るものが見えた。それは不規則に煌めき、動いている。間違いなく金のスニッチだった。

 私はその煌めきに向かい、箒を一気に加速させた。

 

 

≪おおーっと!! グリフィンドールのシーカーが動いた!! スニッチを見つけたか!!≫

 

 

 ジョーダンさんの実況がフィールドに響く。同時にセドリックも私を追随するようにマークしてきた。どうやら自分でスニッチを見つけず、私をマークする方にシフトしたらしい。経験からくる判断だろう、私はまんまと引っかかったわけだ。

 

 でも私は引かない。彼が私を利用するのなら、私がそれを上回る速さでスニッチを捕まえればいいだけのこと。私は箒をさらに加速させた。そしてセドリックを引き離す。

 スニッチも私に気が付いたみたいで、フィールド中央から離れて私たちを迂回するように上空に昇って行った。私とセドリックはすぐに方向転換し、スニッチを追った。スニッチはどんどん上昇し、私たちもそれに伴って空へと昇る。ついにはフィールドが指先ほどの大きさに見えるまで高く上った。

 

 

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 いつの間にかセドリックの姿はなくなり、私とスニッチだけになった。

 風を切る音だけが聞こえる。視界にはスニッチしか映らない。

 どれだけ飛んだのだろう。長く飛んでいるのか、それともそんなに時間がたっていないのか。まるで世界に私とスニッチしかいない感覚になる。

 

 

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 突然スニッチが方向転換し、私は空高い位置にいたままスニッチを見失ってしまった。周りは雲ばかり、自分がどこにいるのか、フィールドからどれほど離れているかがわからない。

 

 とりあえず地面に向かって飛び、視界が開ける場所に出て探そう。そう思い箒をつかみ直した時に初めて気が付いた。箒の柄が徐々に凍り付き、加えて周囲の気温も下がってきてる。顔を上げると、周りには沢山の吸魂鬼が漂い、飛行していた。

 急いでフィールドに戻るために箒の柄を下に向けたとき、一体の吸魂鬼が突進してきた。私がそれを避けると、それを合図に次々に吸魂鬼が襲い掛かってきた。凍てついた箒を必死に動かし、吸魂鬼を避けていく。しかしあまりにも数が多く、だんだんと逃げる空間がなくなってきた。

 そしてほどなくして、ついに一体の吸魂鬼に接近を許してしまった。私の背後に近づき大きく息を吸う吸魂鬼、同時に私から抜けていく何か。自分から幸福が失われていくような感覚に襲われ、次いで女性の悲鳴が聞こえた。

 

 意識が遠のく、全身から力が抜ける。そして次に私を襲うのは浮遊感。私が落下していると自覚したのは、眼下にフィールドが映り込んできた時だった。

 悲鳴が聞こえる、どんどんフィールドが大きくなる。ああ、私はこのまま死ぬのかな。これほどの高さから落下したらひとたまりもないだろう。

 他人事のようにそう思っていると、不意に浮遊感がなくなった。それどころか何か暖かいものに包まれ、とても安心感に満たされた。

 意識を手放す最後に私の視界に移ったのは、地面に向けて落下するいくつもの炎の塊だった。

 

 

 

 

 

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 目が覚めた。最初に感じたのは柔らかいというもの、そして白い。一度瞬きをすると、視界がはっきりとしてきた。周りを見渡すと、私が寝かされているのは医務室のベッドの一つだった。そしてベッドの周りにはグリフィンドールチームとロン、ハーマイオニー、シロウがいた。ベッドにはハネジローもいた。

 ハネジローは長期休みの間、ハグリッドに預けていた。

 

 

「マリー、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。何があったの?」

 

 

 私はハネジローを膝に乗せながら聞くと、途端みんながシロウに目を向けた。当の本人は一つため息をつくと、口を開いた。

 

 

「試合は君が気絶している間に終わった。グリフィンドールの負けという形でな」

 

「そう…」

 

「吸魂鬼は人間の(プラス)の感情を餌とする。あの時の試合場は奴らにとってまたとない御馳走だらけだった。そして君が襲われ、箒から落ちてきた」

 

 

 シロウが簡潔に説明するのを聞く。彼の説明は要点だけが纏められ、結果だけが報告された。

 

 

「…そう。そんなことが」

 

「それからだが…」

 

「ん?」

 

「君の箒だが、あれは君が落下した後に暴れ柳に衝突した」

 

 

 暴れ柳? 柳ってことは植物だろうけど、『暴れ』とはいったい名だろう。

 

 

「暴れ柳は森と湖の中間近くに生えている魔法植物でな。自己防衛のために枝を腕のように振るい、その名の通り暴れだす。人ならば良くて打撲、骨折もするだろう」

 

「そんな植物があるの…」

 

 

 正直骨折をするほどの威力なら、相当な衝撃を伴うだろう。そしていくら空飛ぶ箒とはいえ、そんな植物に衝突したとなると。

 

 

「察しの通りだ。君の箒は…」

 

 

 シロウがそういうと同時に、ロンが抱えている包みが開かれた。その中には、無残にもバラバラにされた私の相棒、『ニンバス2000』の残骸があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリーは疲れもあるだろうし、今日はこのまま入院させることになった。マリー以外のメンバーは寮に戻り、俺は校長室に向かった。

 校長室の前にはマグゴナガルがおり、二人して室内に向かった。だが、校長室には既に先客がいた。

 

 

「しかし困るよアルバス。吸魂鬼は警備のために配置しているんだ、どかすことはできん」

 

「コーネリウス、君は生徒たちに我慢せよと? 此度のマリーのような事態が起こるかもしれんのじゃぞ?」

 

「それに関してはこちらから厳重に指導している。今年一年だけだ」

 

 

 どうやら魔法大臣が来ているらしい。だが関係ない。

 俺は無言のまま校長室の扉を開いた。すると室内にいた二人の視線が俺に集まった。

 

 

「おおシロウ、来てもらってすまんのぅ」

 

「アルバス? この東洋人は誰だ?」

 

 

 魔法大臣とは初対面、一応礼儀なので挨拶をしておこう。仮令この男が俺を見下しているとしてもだ。

 

 

「お初にお目にかかる、シロウ・E・エミヤという」

 

「そうか。私はコーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ。よろしく頼むよ」

 

「因みに試合場の吸魂鬼を一掃したのは彼じゃ」

 

「何だと!?」

 

 

 ダンブルドアの余計な一言により、ファッジは目を引ん剝くようにして驚いた。ダンブルドアの隣に移動していたマグゴナガルは平然としていたが。

 と、ファッジが掴みかからん勢いで俺に迫ってきた。

 

 

「なんてことをしてくれたんだ!! ブラックを捕まえるための吸魂鬼を!!」

 

「その吸魂鬼が原因で、マリーが死にかけたんだが?」

 

「だが!!」

 

 

 この男、自分が何を言っているのかわかっているのか?

 

 

「ブラックを捕まえるうえでマリーを守るといったのは誰だ? 大臣、私の記憶では貴方のはずだが」

 

「それは…そうだ。私はそう言った。だが!! ブラックを早く捕まえればいい話だろう!?」

 

「……」

 

 

 チッ、話にならん。

 俺はダンブルドアに目配せをした。彼は俺の視線に一つ頷き、息をついた。それは彼の了承を示す答え、この場は俺の一任となった。

 未だ喚き散らすファッジに顔を向ける。

 

 

「――大体だ!! 君のような東洋の小僧風情が私に意見するなど、身の程をわきまえ…」

 

「そこまでにしておけよ、権力に飲み込まれた愚か者が」

 

 

 刻印を発動させ、守護者形態になる。この世界では齢十三だが、体はそうもいかないらしい。俺の肉体は全盛期だった二十代前半まで成長している。即ち、今の俺は『守護者エミヤ』と殆ど遜色ない外見である。

 

 

「黙って聞いておけば、結局はわが身可愛さゆえの行動か?」

 

「ひ、ヒィッ!? いつの間に!?」

 

「子供らの安全よりも、自らの手柄が重要か? 挙句の果てに人種差別、この国の未来が心配だ」

 

「貴様、言わせておけば!!」

 

「そこまでです」

 

 

 棚の上の帽子から渋い声が響いた。組み分け帽子、確か俺の素性のすべてをみていたな。

 

 

「エミヤ殿、今回は引いてくだされ。ダンブルドアもそれでいいか?」

 

「構わん」

 

「わかった。済まなかったな」

 

 

 事情を把握している帽子が言うなら仕方あるまい。俺は一礼し、服装を戻して校長室をあとにした。

 

 

「と、最後に一つ忠告だ。

人は誰しも世界を滅ぼす要因となる危険性を秘めている。大臣、貴方の判断が人類を脅かすことになるならば、世界は貴方に目をつけるだろう。

精々阿頼耶識の気に触らないよう気をつけることだ。でなければ守護者によって、貴方の存在が抹消されることになるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウが出て行ったあと、いくらか溜飲が下がったコーネリウスに顔を向ける。

 

 

「大臣、一旦冷静になることを勧めます」

 

「それに、彼が本気になればわしですら一瞬で殺されるじゃろうな」

 

「アルバスが? 悪い冗談はやめてくれ」

 

「いや、冗談ではない。彼は恐らく、今の魔法族とマグルを含めて最強じゃろう」

 

「それこそ戯言だ!! そんなことがあってたまるか!!」

 

 

 昔はこのような男ではなかったのじゃがのぅ。

 

 

「コーネリウス、目に映るものが全てというわけではないのじゃぞ? 人一人が出来ることなどたかが知れとる、仮令(シロウ)であってもな」

 

「…ふん、私には生意気な小僧にしか見えんな」

 

「コーネリウス」

 

「あんたがそう言うなら、今度試してやる。私の選んだ先鋭たちの相手をしてもらう。拒否権はない」

 

 

 ファッジはそういうと足音荒く部屋から出て行った。悲しきかな、人は己の身に余る力を手に入れると歪んでしまう。シロウのような者は極めて珍しい。

 否、彼もまたその力ゆえに、何かしらの代償があったのだろう。

 いつの世も、力に振り回される者はいるのじゃな。

 

 

 




はい、ここまでです。
なんだかグダグダですみません。ハリポタ、次回は守護霊呪文の練習、忍びの地図入手に入ります。
恐らく次は「孤高の牡牛」を更新すると思います。
ではこのへんで。

感想お待ちしております。



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