錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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では予告通り、ボガードデビューです。
それではごゆるりと。

それにしても、どなたか挿絵書いてくださる方いませんかね。絵がついたらもう少し色がつくと思うんですよね。ですが何分私は絵が下手でして。
詳しくは活動報告で。




4. 「地獄」の再現と占い

 吸魂鬼騒動があった次の日から授業は始まった。俺たち三年の最初の授業は必須の「闇の魔術に対する防衛術」、予想通りルーピンが教授を受け持っていた。

 で、だ。

 去年とおなじ教室に入ると、部屋の中央にはガタガタ揺れる衣装ダンスがあった。

 

 

「やぁグリフィンドール三年生のみんな、初めまして。私はこの授業を受け持つことになったリーマス・ルーピンだ」

 

 

 顔に薄い引っ掻いたような複数の傷跡を残すルーピンの登場により、ざわついていた室内は静まった。ルーピンはそのまま衣装ダンスの前に立ち、みんなを見回すように俺たちに顔を向けた。

 

 

「みんなはこの衣装ダンスが気になっているようだね。この衣装ダンスには『真似妖怪(ボガード)』が入っている」

 

 

 ボガードとは、対象の最も恐れている存在、事象に変化する魔法生物。心の弱いものはそれによって精神を患うことになるらしいが、さてどうだろうな。

 そして今日はその撃退方法を練習するってことか。

 

 

「呪文は『馬鹿馬鹿しい(リディクラス)』だ。これによってボガードを退治できる。でも注意して、この呪文は自分の頭の中で何か面白おかしいものイメージしないといけない」

 

 

 面白おかしいものか。となるとボガードは相手の恐怖対象は詠むことが出来ても、愉悦対象は見破れぬと。

 

 

「じゃあみんな、準備はいいかい? まずはネビルからだね」

 

 

 ルーピンに呼ばれたネビルが前に出て、そのあとに続くように皆が並んだ。俺はシェーマスの後、マリーの前か。しかし、俺の怖いものは……

 一人考え事に耽っていると衣装ダンスが開き、中からセブルスが出てきた。成程、ネビルが怖いのはセブルスだったか。まぁ確かに、あいつは生徒の恐怖の対象でもあるからな。

 

 

「り、り、リディクラス!!」

 

 

 ネビルが恐る恐る唱えた呪文は効力を出し、スネイプの衣装は何とも婆臭い魔女の服装になっていた。生徒たちはそれを見て忍び笑いを漏らし、冷静なルーピンでさえも笑いを堪えられていない。

 

 

「さぁ次行って!! どんどん行こう!!」

 

 

 室内にあった蓄音機からは感じのいいジャズが流れ、指示通り次々に生徒がボガードと対峙していく。ネビルの次のロンでは巨大な蜘蛛に変化し、呪文によって足をなくした。パーバティーは巨大なコブラに変化し、呪文により巨大なビックリ箱に変化した。シェーマスでは『嘆き妖怪(バンシー)』に変化し、呪文によってその声をガラガラに嗄らした。

 そしてついに俺の順番がきた。

 しかし俺が前に立っても、一向に形が定まらない。それどころか先ほどから次々に形を変えている。

 

 

「混乱してきたぞ!! もうすぐだ!!」

 

 

 ルーピンがそう言うと同時にボガードが変化したクマがこちらに双眼を向けた。同時に部屋の中には真っ赤な炎、(ニク)の焼ける匂い、数では数えられないほどの悲鳴、天井を覆う黒く赤い雲。そして……

 

 

「聖…杯…」

 

 

 部屋の中央に立つは、泥をこぼす黒い太陽を掲げた真っ黒な聖杯。

 

 ―― 助けてくれぇ!?

 ―― いやだ、死にたくない!!

 ―― お…か…さん…

 ―― 火が…火がぁ!?

 ―― あおあぁぁああ……

 ―― 熱い…熱いよう…

 

 紛れもなく、俺の原初。ご丁寧に焼ける人間も、聖杯も、煙も瓦礫も、そして一人歩く俺も再現してやがる。

 

 

「まだ見せるか、俺にこの光景を忘れるなと。助けを求める人々を見捨てたことを忘れるなと。『座』に行っても未来永劫忘れるなと、そう言いたいのか」

 

 

 意識せず、自然と口から言葉が出てきた。

 

 

「なに…これ…」

 

「うっぷ…」

 

「いや…いやぁ…」

 

 

 早くこの状況をどうにかせねば、これは他の生徒には悪影響過ぎる。

 

 

「こっちだぁ!!」

 

 

 突如俺の前にルーピンが躍り出た。とたん、ボガードは地獄から満月へと変化した。とりあえずこの状況は脱した。何人かの生徒は気絶しているか。当然だろう、むしろ吐くにとどまっているほうがおかしい。

 マリーは……平気なのか?

 

 

「簡易のラインと契約越しに…何度か見たから」

 

「…既に見ていたのか」

 

「うん…その先も、この世界(ココ)に来るまでの経緯も…」

 

「そうか…」

 

 

 とりあえず気絶した人、体調を崩した人を医務室に運び込み、俺はルーピンに呼び出された。大方、ボガードの件だろう。

 

 

「…なんで呼び出されたかわかるね?」

 

「…ボガードの件だろう?」

 

「ああ、あれ一体なんだ?」

 

「……詳しく語る気はない」

 

「しかし、それじゃあ『だが…』…?」

 

「簡単に答えよう。あれは俺の過去、俺の最初の記憶、俺の原初だ」

 

「なん…だって…?」

 

 

 俺はそれから簡単に、俺が並行世界の住人であることや聖杯戦争、守護者や英霊などのことを除いてルーピンに説明した。最初は半信半疑だったルーピンも、次第に真剣味を帯びた表情になった。しかしまぁ、好奇心旺盛なのは判るが、扉の外で盗み聞きしているのは分かっているぞ、シェーマスにロン、ディーンにマリー、ハーマイオニーよ。

 

 

「とりあえず、今回はここまでだ。詳しいことはまた後日、ついでにある件についても話そうと思う。だが、盗み聞きされている状況ではな」

 

 

 俺は立ち上がると同時に後方の扉を開いた。そして雪崩れこむ同級生たち。唯一マリーだけは立っていたが。

 

 

「気づかないと思っていたか? どうせ最初から聞いていたのだろう?」

 

「あ、あはは…」

 

「…ごめん」

 

 

 謝られてもな、いずれは明かすことになるものだしな。

 

 

「今更だ。それより済まなかったな、あのようなものを見せて…」

 

「いや…まぁ…」

 

「……」

 

 

 とりあえず移動しよう確か次は占い学だったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室を移動すると、少し鼻がおかしくなりそうな香の匂いがささった。そして二人一つの机には紅茶が準備されていた。

 

 

「いらっしゃい、ようこそ私の授業へ」

 

 

 それにしても、この先生は好きになれないな。

 トレローニー先生はしばらく授業の説明をし、今日の講義は簡単な茶の葉占いをすることになった。しかし、紅茶の入れ方がなっていない。お湯の熱、ポットに入れるタイミング、その他もろもろが甘すぎる、ってシロウなら言いそうだ。

 そして残った茶葉の形を占う作業をペアで行うことになった。でも正直全然できない。私にはただの茶葉の塊にしか見えない。シロウも同じみたいだ。

 そうこうしているうちに、私とシロウの座っている席にトレローニー先生が近づいてきた。

 

 

「そちらのお二人はどうですか?」

 

「? まだですね」

 

「でしたら、私が見て差し上げま…は、はぁあ!?」

 

 

 シロウのカップを見た瞬間、先生は悲鳴を上げてカップを取り落とし、カップを割った。いったい何を見たのだろう。

 

 

「あ、あなた……そんな…」

 

「……」

 

「もしやあなたは……『世界』の…」

 

「そこまでだ」

 

 

 トレローニー先生の言葉を遮ったシロウ。その声には有無を言わせない力があった。その発言にはグリフィンドール生はおろか、合同授業を受けていたハッフルパフ生も沈黙していた。それほどにまで聞かれたくないことなのかな。「世界」って、いったい何のこと?

 

 

「占いは当たりもするし、外れもする。不確かであり、確かでもある分野だ。ぞんざいに扱う気は無いが、俺は信じない」

 

 

 シロウはそう告げると有無を言わさず荷物をまとめだした。そして鞄を背にかけると一言、

 

 

「授業には出る。知り合いがルーン占いをするものでな。信じてないだけで興味はある」

 

 

 そう告げて教室を後にした。その後の教室はいたたまれない空気が支配したため、私も荷物をまとめて教室を後にした。なんだか今日は午前だけでいろいろと濃いなぁ。

 

 

 




はい、ここまでです。
というわけで、士郎の無意識下の恐怖は最初の地獄でした。
ハリポタの次回は魔法生物飼育学ですね。

それではまた。次の投稿は……まだどっちにするか決めてません。ですが今週中に更新しますのでご安心を。



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