錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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連投します。
それではごゆるりと。





3. 汽車の中で

 摩訶不思議な儀式をした翌日、私とシロウ夫妻、ハーマイオニーにウィーズリー一家はダイアゴン横町に出かけた。シロウは学用品をすでに揃えているらしいが、私たちはまだなので着いてきてもらった。ついでに言えば、ロンの杖は去年折れちゃったため、(確か決闘クラブでのシロウの魔法の余波で)シロウが新しくロンに買っていた。

 そういえばふと思ったのが、ダイアゴン横町の雰囲気が暗い。もっと言えば、そこかしこの壁にブラックの指名手配書が張られている。みな狂暴そうな雰囲気を写したものにしてるけど、どうなんだろう? 魔法省の人たちは、この人の言うことに耳を傾けたのかなぁ?

 

 

「GRRRRR…」

 

「どうしたの?」

 

「ウォン!!」

 

 

 側を歩いていた黒犬が唸り声をあげたので気になった。でも犬はただただ唸るばかりなので、私はどうもできることはない。まぁ誰かに襲いかからないだけマシかな。

 そのまま私とロン、ハーマイオニーはペットショップに向かった。なんでも最近ロンのネズミ、スキャバーズの様子がおかしいらしい。ごはんも余り食さないようだから、一度診てもらうとのことだ。

 

 

「あの、すみません。うちのネズミなんですけど、最近調子が悪いみたいで」

 

「ほう? どれくらい生きているのかね?」

 

「あー、正確には分からないですけど、十年くらい」

 

 

 え? 十年って、相当長生きじゃない?

 

 

「ふーむ、ただの老衰か。それともストレスが原因か。念のためこの『ネズミ栄養ドリンク』を渡しておきましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ロンは代金の3シックルを支払い、私たちは店を後にした。ついでに言えば、ハーマイオニーがクルックシャンクスという名前の猫を購入していた。

 猫…でいいのかなぁ? なんだか異種混合種っぽい気がするけど、まぁいいか。

 

 まぁそれから先、九月一日までの約一ヶ月は漏れ鍋で過ごし、私たちはその間宿題をしたり、横町にウィンドウショッピングをしたりして過ごした。イリヤさんたちは長期休みが終わる一週間前に元の世界に帰った。私はその前にシロウとの契約について大まかな説明を受け、あとはシロウから聞くことになった。真っ黒な犬だけど、あの子はいったんイリヤさんたちが預かり、二月ほどしたらシロウに返されるみたい。犬は一瞬シロウにニヤリと顔を向け、シロウはまた引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろとあったが、現在は列車の中。

 ハーマイオニーの猫は何故か飼い主ではなくマリーに懐き、無論ハーマイオニーを飼い主として認めているみたいだが、マリーの膝の上でお昼寝中である。そしてオレたちのコンパートメントには、恐らく新任の教師であろう人がおり、マントを被って寝ていた。『R・J・ルーピン』という名前らしい。

 オレたちはその人を起こさないように今後のことについて話をしていた。例えば今年から取る選択科目とかの。

 しかしどうも先ほどから冷える。季節は晩夏とはいえ、日本ほどではないが暑さは残る時期である。それこそ長袖に腕を通したくなるほど冷え込むことはない。

 マリーたちも様子がおかしいことに気が付き始めたとき、列車が大きく揺れて停車した。

 

 

「おかしいわ。ホグワーツに着くには早すぎる」

 

「それに変に冷え込んでるね」

 

 

 マリーとハーマイオニーが言葉を発したそのとき、列車の照明が落ちた。外は雷鳴が轟く豪雨。一体何が起こった?

 

 

「何か動いてる、窓の外にいる…」

 

 

 ロンが窓に張り付き、外を眺めている。が、俺はそれよりも凍てついていく窓ガラスが気になった。よからぬものが近づいているとしか把握できない。

 

 

「シロウ…」

 

「お前たち、その場から離れるな。息潜めていろ」

 

 

 俺は三人に忠告し、懐から黒鍵を一本取り出した。

 再度列車が大きく揺れ、冷気の塊のようなものが近づいてくる。そして数刻もしないうちに、俺たちのコンパートメントの前に一つの人影が立った。

 黒く頭が天井に着くほどの影は手を動かさずに扉を開く。途端に一際強い冷気が俺たちを襲う。そして黒い影は顔に当たる部位をぐるりと部屋を見渡す。

 

 

「あ……あああああああっあっぁぁぁああぁああっぁあぁああああぁぁああ!?!?」

 

「ッ!? マリー、どうした!!」

 

「ああああ……あああ…」

 

「!? グゥッ―――」

 

 

 突然頭におかしなビジョンが流れる。

――――目の前に積み重なる幾多もの死体(ヒト)(ヒト)(ヒト)。そこかしこから聞こえる阿鼻叫喚の救いを求める声。血のように染まる空に浮かぶ黒い太陽。

 まさかこれは……俺の最初の記憶……

 

 

――――士郎、逃げるんだ!!

 

 

 ッ!? 誰だッ!?

 

 

――――あなただけでも逃げなさい!! 早く!!

 

 

 誰かの声、俺に逃げろと催促する声だけが響く。いったいこれは何なんだ!?

 頭を振り、意識をはっきりとさせる。目の前には深く息を吸い込み、何か目に見えぬものを吸い取っている黒い影。

 

 

「くッ!! こいつが原因なら!! 貫けッ『火葬式典』!!」

 

 

 鉄甲作用を込めた黒鍵を影に投げつける。それと背後から白銀色に輝く何かが駆け抜けるのが同時だった。気づけば影はいなくなり、代わりに穴の開いた車両と気絶するマリーだけだった。

 

 

「……それで、今の魔法はあんただな?」

 

「そうだけど、私の魔法が当たる前に君のが当たったみたいだね。それに……」

 

 

 そこで先ほどまで寝ていた男、ルーピンは穴の外に目を向ける。釣られて穴の外に目を向けると、遥か下方で激しく燃え上がる黒い物体があった。

 

 

「信じがたいけど、君は吸魂鬼(ディメンター)に直接干渉できるんだね。(あまつさ)え仕留めるとは」

 

「というと?」

 

「現段階で魔法では、奴らを追い払うことしかできない。私がしようとしたのはそれだよ」

 

 

 静かにルーピンは語りながら、杖を一振りして列車の壁を修復する。同時に照明が点灯し、列車が再び動き出した。そこで初めて俺は皆の顔を見た。

 ハーマイオニーとジニーはとても怖かったのだろう。目を真っ赤にさせ、ロンにしがみついている。当のロンも青い顔をしている。気絶していたマリーも意識が戻ってきたらしい。身じろぎをし、上体を起こした。

 

 

「マリー、大丈夫か?」

 

「なんだか…とても寒い」

 

「これを羽織ってろ」

 

 

 俺はなんの変哲のない布を投影し、マリーを包んだ。その際彼女の手に触れたが、冷たく冷えていた。

 

 

 

 その後、吸魂鬼の被害を受けた後の対処としてチョコレートをルーピンからもらい、気まずい雰囲気の中到着を待った。

 二時間ほどして学校に到着した。が、

 

 

「ポッター!! エミヤ!! 至急私に着いてきなさい」

 

 

 マグゴナガルに呼ばれ、渋々医務室に行くことになった。

 

 

「まずミス・ポッター。吸魂鬼の被害にあわれたそうですね」

 

「…はい」

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい。あの場にいたものは全員、ルーピン先生からチョコレートをいただきました」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

 

 その後、マリーはポンフリーとダンブルドアからも軽い診察を受け、マグゴナガルとポンフリーと共に大広間へと向かった。で、俺はというとだ。

 

 

「ブラックについてだが、ある程度の情報が揃った」

 

「というと?」

 

「ああ。奴のことだが、冤罪の可能性が極めて高い」

 

「そうじゃったか…」

 

 

 校長室に移動した俺は、ブラックについてダンブルドアに報告した。俺の報告に顔を曇らせるダンブルドア。薄々感づいていたのだろう。

 

 

「だが、肝心のペティグリューとやらが見つかるか。またはそれに準ずる証拠を提示しなければならんだろう」

 

「ふむぅ……じゃが」

 

「―――問題があるとすれば、あの大臣だろう。奴は権力に溺れてしまっているな。十分な証拠を提示しても、わが身可愛さのために情報をもみ消し兼ねん」

 

「そうじゃな……」

 

 

 一番の強敵は、権力に溺れた政治家だな。

 

 

「とりあえず、今は妻たちと俺の世界に行ってもらってる。しばらくは吸魂鬼に見つかる心配もない」

 

「そうか。なら一先ずは安心じゃな」

 

「まぁここで話していても仕方がない。あんたも締めの挨拶とかあるだろう? そろそろ戻ったほうがいいのでは?」

 

「そうじゃな。では戻るとしようかのう。君も明日から学生として励むようにの。あと吸魂鬼は出来るだけ殺さないでおくれ。あれも不本意じゃが、魔法省の依頼でのう」

 

「奴らが何もしなければ……な」

 

「正当防衛なら仕方がないのう。……正当防衛ならのう」

 

 

 ダンブルドアは最後に意味深なことを言いながら事務所を後にした。なるほど正当防衛ならいいのだな。ならこの先奴らが何かすれば、容赦をすることはないだろう。

 

 

 

 






ここまでです。
皆さんシロウが吸魂鬼を瞬殺することを期待していたみたいですが、すみませんでした。気絶することは流石になかったですが、みんなにはないトラウマを体験していたと考えていたため、このような形にしました。
さて、次回は「真似妖怪ボガード」がデビューします。

それではまた次回。



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